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■Disrotted / Su19b Split

アメリカはシカゴの陰鬱ドゥームバンドDisrottedと日本は神奈川のブラッケンドパワーヴァイオレンスSu19bが遭逢してしまった闇黒スプリットがObliteration Recordsからドロップ。全4曲なのに合計43分にも及ぶ幽々たる作品になってしまっている。しかもDisrottedに至っては29分にも及ぶ超大作1曲のみの提供と来てしまっている。完全に狂っている。
先攻Disrottedは前述の通り、29分にも及ぶ漆黒ドゥーム「Infernal Despair」の1曲のみの提供。29分というロングセットな楽曲の中で渦巻く重苦しさは常人には耐え難い苦痛なのかもしれない。
展開も少なくひたすらにリフの反復と地の底から響くようなボーカル、亀よりも遅いんじゃないかって遅さで強烈に押し潰すビート。ドローンやノイズ要素もかなり色濃く、歪みすぎた黒檀のノイズが延々と続く中盤のパートは体感時間の感覚も歪んでしまうこと請け合い。
終盤になるとノイズもよりハーシュノイズに近いものになり、陰鬱さとか暗黒さというより完全に拷問の領域に達してしまっているし、アウトロのドローンなノイズにやっと一つの美しさを見出せる。
最早ストイックなんて範疇じゃ無いし、気が触れているとしか思えないけど、29分にも及ぶドゥーム地獄を超えた先の解放感はとんでも無い。同時に神秘的で荘厳な空気も身に纏い、輪郭が全く掴めない音であるからこそ、その窒息感すら快楽になってしまうだろう。超遅重の空気の果てには新しい悟りの世界が待っている。
後攻のSu19bは3曲を提供。合計13分となっているが、こちらも烏木の音が渦巻く地獄変だ。
今年リリースされた1stアルバム「World Is Doomed To Violence」にてブラッケンドパワーヴァイオレンスを確立し、激速と激遅の原始的なドス黒さと神秘的世界を見せつけたけど、それがより深く踏み込んだ場所へと到達した。
7分に及ぶ「The Sun Burns Black」でもよりメロディが喚起される音が増えており、ギターの音自体は相変わらず歪みに歪みまくっているけど、不思議とフューネラルな空気を感じさせ、Disrottedとはまた違う重力を生み出す。しかし唐突に入り込む激速ヴァイオレンスパートから再び激遅無慈悲獄殺パートを経て、最後にまさかのクリーントーンの奈落で締めくくられてしまっている
無音パートで息を飲ませ、激遅終わるかと思わせて最後の数秒の激速ブラストで終わりという1分弱の理不尽「Shortage of Oxygen」、Su19b節を炸裂させながらより黒く研ぎ上げられた「No One Is Immortal」とバンドの新機軸を見せつつも結局は不条理に不条理を重ねた混沌に行き着く。他のバンドには絶対に無い極致の世界をSu19bは持っているのだ。
極端であらゆる方量や限界といった要素を無視しまくっている泥梨でインフェルノな漆黒スプリット。終末感とか世界の終わりなんて言葉がチンケに聞こえる位に理不尽に極限だけを叩きつける。
DisrottedもSu19bも共に他の有象無象を全く寄せ付けない魅力に溢れ、洗練やメジャー感とは無縁のまま深さだけを追い求めている。改めて言うが完全に気が触れているスプリットだ。
■Altar of Complaints / SeeK / Stubborn Father / Thetan 4way split 12inch

日本・大阪とアメリカ・テネシー州ナッシュビルの日米バトルロイヤル4wayスプリット!!大阪のSeekとSTUBBORN FATHER、テネシーのAltar of ComplaintsとThetanが正面衝突する激音スプリットがMeatcube、Kakusan Records、3LAからの3レーベル合同リリース。
このスプリットはテネシーと大阪という国境を超えたスプリットであり、4バンドの音楽性は一見するとバラバラではあるが、ローカルから新たなる激情・カオティックを鳴らす孤高のバンドが集結した実に大きな意味を持つスプリットだ。日本国内でのリリースは勿論俺たちの3LAから。アリチェン感のあるジャケットもナイス。
Altar of ComplaintsはCease Upon The Capitol,、Dolcim,、Dawn、 Karoshiといったテネシーを代表するバンドのメンバーが現在進行形で動かしているバンドであり、今作では3曲提供。
激情系ハードコアmeetsシューゲイザーな音楽性はCease Upon The Capitolから変わらないし、今作に収録されている楽曲もナード感全開な繊細な美メロが響き渡っているが、それらの音楽性の融合にオリジナリティを求めるのでは無く、その先にある純粋な衝動を追求している。
特に「Tuffcoupleoctopus」はシューゲイズ要素を削ぎ落とした楽曲だからこそのアグレッシブなフレーズが交錯する名曲となっており、かつてのUS激情の空気感を漂わせつつも、懐古主義で終わらないフロンティア精神に溢れている。
SeeKは「革命と緩和」の1曲のみの収録であり、今作では唯一の長尺曲。
一昨年リリースしたEP「崇高な手」にてツインベースによる激重低音と怒号が渦巻くアングリーでありながら美しくもある孤高の世界を描いていたが、「革命と緩和」はその方向性をより突き詰めている。
「朽ちていく中で」ではポストメタルな音楽性を披露していたが、その要素を現在のSeeKの強靭なサウンドに持ち込んでいるからこその美重音が炸裂。
楽曲が進んでいくにつれて奈落感が増し、激昂する音と叫びが悲痛に訴えてくるSeeKの真骨頂がそこにある。
STUBBORN FATHERはMeatcubeからリリースされたディスコグラフィーに収録されなかった「未定」と「創造の山」の2曲を現編成で再レコーディングし提供。
Trikoronaとのスプリットでは行き先不明な衝動がアグレッシブかつ予測不能に乱打されるエモヴァイオレンスサウンドを展開し、時流に流されないブレない精神を見せつけていたが、過去の楽曲でもその不屈の精神は健在。
初期衝動の一番純粋な部分だけを形を変えて繰り出す「未定」もそうだけど、エモヴァイオレンスよりもストレートなハードコアサウンドが爆発する「創造の山」は未だにSTUBBORNのアンセムであるし、ザクザクと刻まれるギターリフやパンキッシュなビートの馬力と共に創造を解放する高揚と慟哭!!この得体の知れないマグマの様なドロドロとした熱さこそSTUBBORNの魅力だ。
メロディッククラストSanctionsのメンバーによって結成されたThetanはショートカットな全6曲を提供。今作の中ではかなり異質な存在感を放つ。
音楽性はクラストやグラインドといった要素がかなり色濃く、ノイジーな音を初期衝動オンリーで突き抜けさせるスタイル。メロディアスさよりも音のパワーに全力を尽くした脳筋スタイルでありながらも、Trikoronaなんかにも通じる不条理なパワーヴァイオレンス感もあり、ハウリング音が渦巻く中で、巨根なビートでガンガン突きまくる男臭さが堪らない!!
4バンドのベクトルはそれぞれ違うけど、ローカルに根付き、より深く潜っていく様な音をそれぞれ提供している。
それぞれのバンドが激音で共鳴し、流行りに流されないブレの無さを持つ。その精神こそが本当のハードコアパンクであると僕は勝手に思っている。
今作は3LAにて購入可能。日本での流通枚数はあまり多くないらしいのでお求めはお早めに!!
■Opium Morals/Seven Sisters Of Sleep
カルフォルニアが生んだ超極悪スラッジバンドSeven Sister Of Sleep(以下SSOS)の2013年にリリースされた2ndである今作は最早スラッジとか激情とかブルータルとかパワーヴァイオレンスとか呼ばれる音楽の中でも完全にトップの作品であると思うし、似ているバンドなんて完全に皆無になってしまい、同時に孤高の存在となった証明だ。1stの頃のスラッジハードコアの頃から十分凄いバンドだったけど、2012年リリースのEPで確変モードに入り、そして今作で完全過ぎるまでの傑作を叩き付けて来た。最早このバンドよりもヴァイオレンスで暗黒なバンドはいないと思うし、もし今のSSOSに影響を受けたサウンドを他のバンドがやったりなんかしたら本当に滑稽な物真似になるだろう。それだけのバンドになってしまった。リリースは俺たちのA389!!!!!
いや実際にSSOSも最初から現在の様なオリジナリティを持っていたバンドだった訳じゃ無い。1stは名盤ではあるけどEyeHateGodの影響はモロに受けたサウンドだったし、それを独自のスラッジハードコアに仕立て上げた快作だったと思う。その頃から確かにヘビィなバンドではあったけど、今作の様なスケール感はまだ無かった。そして2012年リリースのEPでより深淵へと攻める暗黒のスケールを手にし始めた。そして今作でスラッジもパワーヴァイオレンスもブルータルも激情も飲み込み、究極の暗黒激音を完成させてしまったのだ。その決め手はヘビィロックの暗黒成分を完全に熟知してしまったバンドとしてのグルーブだと思う。サザンロック要素はまだ燃えカス程度にはあるし、曲によってはまだその成分を強く感じたりもする。でも既存のスラッジコアを脱却し、激情・パワーヴァイオレンスに接近しただけでこんな音になるだろうか?第1曲「Ghost Plains」を初聴して思ったのは、枠組みとしてはパワーヴァイオレンス方面に寄り添ったと思わせているけど、実はその真逆でパワーヴァイオレンスすらブチ殺してしまっているんだと思う。勿論スラッジなリフは余裕でパワーアップしているし、そしてブルータルだ。だからSSOSはヘビィロックの究極地点を見つけてしまったのだ。
第2曲「Moths」も初聴した時は驚いた。凄い野暮な比較になってしまうのを承知で言うけど、NEUROSISやAmenraといったバンドが生み出すスケール感溢れるヘビィロックの悲哀をSSOSは自らのサウンドをヴァイオレンスなスタイルへとより接近させながら、その中でリフからドス黒さと同時に血塗られた悲しみも放出させる事に成功してしまっている。勿論バンドアンサンブルに至っては完璧だし、一々音が鎌首を振り落としてくる厄介過ぎるサウンドに脱糞。第3曲「The Flock」ではより研ぎ澄まされたスラッジサウンドに悶絶圧殺必至だ。勿論スラッジ一辺倒じゃない!!第4曲「Grindstone」の爆走サザンロックとパワーヴァイオレンスの衝突による更に得体の知れない重音の連続には頭振りまくるしか無いし、遅さだけじゃ無く速さの点に於いても音が段違いで鍛え上げられているし、というかグルーブを極めまくっているせいで最早サイケデリックの領域に到達してしまっている。
アルバムの後半の流れは更に凄い事になってしまっている。EyeHateGodとは全く違う方法論でEHGの領域に到達してしまった第6曲「Orphans」のヴァイオレンスでありながらアシッドでサグいサウンドの連続もそうだし、野獣の咆哮と暴走重戦車のビートと殺人兵器とかしたギターリフが無数の死体の山を作り上げる暗黒爆走スラッジ兵器こと第7曲「Reaper Christ」、再び悲痛に叫ぶサウンドに涙が止まらなくなるSSOS流の暗黒激重バラッドこと第8曲「White Braid」、最後に第9曲「Recitation Fire」と第10曲「Part 2.」まで徹底して最新で最悪で最凶の暗黒音楽を描いている。しかも本編が終わったらボーナストラックで約32分のライブ音源まで収録されているし、それが本編に負けず劣らず凶悪な激音しか出してないし、これ聴いているとマジで誰かSSOSをとっとと日本に呼んでくれ!!ってなる。
ありとあらゆるスラッジ・ドゥーム・ストーナー・パワーヴァイオレンス。ファストコアetcといった音楽の危険性分だけを融合しまくって、そこにオリジナリティを見出すのでは無くて、そこにある最も黒くて危険な成分によってオリジナリティを手にしたのが今作だし、SSOSはどこまでもピュアに暗黒激重サウンドを追求した結果生まれたオリジナリティと説得力と破壊力なんだからもう文句の付ける場所なんて何処にもない。作品毎に進化を重ねているバンドだけど、この2ndは完全に歴史に残すべき作品だし、ドス黒い音しか無いのに、その黒の数々の多彩さによって生まれるスケールとある種の美しさ、そしてそんな感動すら消し炭にする暴力。これはSSOSだけにしか生み出せない音だ。
■Primitive and Deadly/Earth
![]() | Primitive and Deadly (2014/09/02) Earth 商品詳細を見る |
これはEarth復活作である「The Bees Made Honey in the Lion’s Skull」以来の衝撃だ。ドゥーム・ドローンの最重要バンドであり、御大Dylan Carlson率いるEarthの2014年リリースの最新作は正にそんな作品となった。復活後はダークで深遠なるアメリカーナ路線を突き進んできたけど、ここに来てDylan先生はヘビィロックへと回帰した。これまでのアメリカーナ路線の流れにありながら、シンプルなバンドサウンドとリフに回帰し、earth史上最もロックな作品を生み出した。初期は無慈悲なドローン・ドゥームとして登場したEarthが行き着いた先は至ってシンプルなロックだったのだ。
でもEarthが単なるロックを奏でるかと言ったらそんなのは大間違いだ。間違いなく作品はドローンな流れにあるし、これまで同様にアメリカーナ要素もある。しかし今作は更に余計な装飾を取り除き、ギター・ベース・ドラムという本当にシンプル極まりない音で制作されている。そして最も大きな特徴はどの楽曲もギターリフ主体の楽曲ばかりだと言う事だ。極限まで推進力を落としたビートとヘビィなリフというシンプルな音で構成されているのだけど、単なるロックなギターリフをDylan先生が弾く訳が無い、ヘビィさを全面には出しているけど、反復するギターリフは非常に美しいメロディを持ち、それでいてヘビィな残響音を聴かせるリフは余韻の最後の最後まで恍惚の音だ。復活後の3作品はヘビィロックから離れたアメリカーナ路線を追求していたけど、そこで培った物をヘビィロックに還す事によって新たな地平を切り開いたのだ。第1曲「Torn by the Fox of the Crescent Moon」は正に今作のEarthの衝撃がダイレクトに表れた楽曲であり、反復するギターリフが徐々に色彩を増やし、随所随所に美しいアルペジオを盛り込みながらも、徐々に熱を帯びるギターリフによる揺らぎと高揚感、バンドサウンドを前面に押し出したからこその、ダイナミックな揺らぎは正にサイケデリックであり、しかしこれぞEarthにしか生み出せなかったロックなのだ。プリミティブなリフの力による神々しく圧巻なサウンドスケープはEarth史上最高の物になっている。
また今作の大きな特徴として、再結成後の作品ではインストの楽曲のみを発表して来たEarthがここに来てゲストボーカルを迎えている事だ。いきなりストーナーな感触を持ちながら、奈落と桃源郷が混ざり合ったギターフレーズに意識を持っていかれる第2曲「There Is a Serpent Coming」では(Queens Of The Stone AgeのMark Laneganがゲストボーカルを務めている。しかしMark Laneganの深み溢れる渋いボーカルとEarthの音が見事な惹かれ合いを果たし、悠久のギターリフとMark Laneganのボーカルのコラボレーションは正にロックの最深部であり高みからの新たなる福音であるのだ。特に素晴らしいのは第3曲「From the Zodiacal Light」だ。今作でも特にヘビィさとサイケデリックさ溢れるギターの音が印象的であるし、メインのフレーズと、脳の使われていない部分すら覚醒させるであろう、儚く耽美な揺らぎ。そしてゲストボーカルであるRose WindowのRabia Shaheen Qaziのシリアスな緊張感を持つボーカルがまた素晴らしい。今作はここ最近のEarthの中でも特にダークな感触を持つ作品ではあるけど、そのダークさは絶望的なダークさとは違う、人間には抗えない得体の知れない物へのある種の畏怖の念が生み出す恐怖心としてのダークさであると思うし、しかし恐怖は時に救いと隣り合わせであると思うし、この曲はシリアスさから少しずつ精神を開放させる高揚感へと繋がり、Dylan先生とRabia嬢による愛撫の果てに緩やかな絶頂を僕達は迎える。
再びインストである第4曲「Even Hell Has Its Heroes」も驚きだ。リフ主体である楽曲構造は変わらないけど、サイケデリック・ストーナーといった言葉が見事に当てはまる序盤のロングギターソロからいきなり涅槃へと連れて行かれるし、今作が紛れも無くロックアルバムである事を証明している。延々と続くスロウなギターソロ、そしてスロウなビートとリフが更に調和し、彼岸をそのまま音にしているみたいなサウンドスケープは個人的にはここ最近の割礼が持つ、ロマンとエロスとしてのサイケデリックロックと間違いなく繋がっていると思うし、ロックは極限まで極めると、シンプル極まりない音でも、異様さを生み出せるし、スロウで長尺でありながら、時間軸を完全に歪ませ、次元すら書き換えてしまう。再びMarkをゲストボーカルに迎えた最終曲「Rooks Across the Gate」も凄まじいサイケデリアであり、持続音のギターリフとアコギの調べがとMarkの歌が世界の全てを天国でも地獄でもない、ただ抗えない何かが支配する新たなるパラレルワールドへと変貌させ、最後の最後の余韻まで息を飲む緊張感に支配されたまま終わる。
これは単なるヘビィロックへの回帰では無い、これまで培った広大で異様な世界を描く音楽を、完全にロックに還し、ロックの新たなる可能性を提示した作品になったのだ。Earthのこれまでを全て持ちながら、そのどれとも違う音は正に悟りの境地だと言えるし、Dylan先生の天才っぷりにはもう驚くしか無い。果たしてEarthがこの先何処に到達するかはまだ誰も分からないけど、でもdylan先生が目指す先は涅槃すら超えた最果てなんだと思う。
■Dude Incredible/Shellac
![]() | Dude Incredible (2014/09/16) Shellac 商品詳細を見る |
BIG BLACKやRapemanでの経歴は勿論だし、エンジニアとしてこれまで幾多の名盤を生み出してきたスティーブアルビニ先生率いるShellacの実に7年振りとなる5th。前作同様に今作も7年という大分間を空けてリリースされたけど、アルビニ先生はエンジニアとしては勿論だけど、やはりバンドマンとしても本当に素晴らしい才能を持つ人間だと改めて思うし、安心と信頼のshellacだけの音が今作にも存在している。リリースは勿論、爆音兄弟Touch And Goから!!
前作がアバンギャルドな要素も盛り込んだ作品ではあったけど、今作は9曲で32分と実にコンパクトな作品となっている。自らの手によるレコーディングの生々しい音の緊張感は勿論健在だし、見事なまでにアルビニ節な金属の振動による鋭利で不穏な音の感触はやっぱり素晴らしい。今作ではそれをもっとダイナミックに生かす楽曲が並び、渋くもありつつ、アルビニサウンドの危険性ははやり素晴らしい物だと実感。
Shellacはボーカル、ギター、ベース、ドラムのみで構成される音、アルビニ先生ならではな完全アナログ、オーバーダブ無し一発録音のレコーディング手法、極限まで突詰めながらも、同時に荒々しくもあり、本当にドラムのスネアの振動からギターの弦の振動が盤に生々しく詰め込まれている。今作のオープニングである第1曲「Dude Incredible」ではブルージーなギターフレーズで幕を開くけど、独特のタメを生かしたドラムのビートとグルーブ、ベースとギターの金属的ざらつきの音、不穏に反復するフレーズ、押しも引きも見事に生かし、不穏な静謐さから、ディストーションな歪みまで生々しい熱を感じるギターリフ、安易なる爆音の暴発ではなくて、あくまでも一定のテンションを保ちながら押していく感覚、一瞬で飲み込まれる音ではないけど、熱病の様に体を蝕み、そして犯していく。この独特のグルーブとビートとリフのシンプルながらShellacにしか出来なかった音が、今作は本当にダイナミックに出ている。ファズギターの音の粒の粗さですら芸術の域に達しているし、渋くありつつも、もっと明確にそれぞれの音が分かりやすく存在し、分断して切り裂いていく。だからこそ素晴らしい。
第2曲「Compliant」の不穏な引きを生かしたからこそ逆説的に生まれる攻撃的サウンドと、ベースとドラムが引率する独特のタイム感のグルーブ、一転してベーフレーズの反復と、金属の鈍い光沢を感じさせつつも、少しずつ音を変化させるギターによる化学反応、ジャンクだとかオルタナティブという言葉で括るのは簡単かもしれないけど、そんな安易なカテゴライズは断固拒否するサウンドはやはりshellacだし、第4曲「Riding Bikes」絶妙にヨレヨレなグルーブが徐々に沈みこむ感じ、全体的にブルージーな音が増えた感じもあるし、変則性こそ全然変わってないけど、より削ぎ落とされて研ぎ澄まされている。スタイルこそ全然不変だし、やっぱり基本的な音はこれまでの作品とは大きく変わっていない。でもそれで十分だし、見事なまでにストップ&ゴーのお家芸炸裂の第5曲「All the Surveyors」を聴くとShellacはスタイルを徹底的に貫きながら、それを研ぎ澄ます事を進化とするバンドだと思うし、そのスタイルは多くのフォロワーを生み出しまくりながらも、未だに唯一無二であるのだから凄いんだ。一転して轟音が押し寄せながらも、その情報量を一気に搾り、その落差で頭を混乱させる第6曲「The People's Microphone」、Shellac流のグルーブによるダンスミュージックである第8曲「Mayor/Surveyor」、Shellacにだけ許された独自の捩れの歪みしかない最終曲「Surveyor」と今作を聴いて思ったのは結局ShellacはずっとShellacのまんまだ。
元々Shellacが好きな人には説明不要で今作も安定のアルビニ節全開で最高としか言えないし、Shellacを知らない人には、もう堂々とポストハードコア、オルタナティブの最高の作品だとしか言えない。最早このバンドに関しては語る事もあんまり無いのかもしれないし、それでも数多くのフォロワーを生み出し、未だに多くのリスペクトを集めまくっているからこその貫禄はお見事。やっぱりShellacって素晴らしいバンドである。