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■Perpetuum/Raein

イタリアの激情ハードコアを語る上では絶対に欠かせない生きる伝説Raeinの2015年リリースの最新作。前作同様にオフィシャルサイトで音源の方はダウンロード可能になっており、無料ダウンロード可能であるがリスナーは作品に寄付をしてサポート出来る形を取っている。
僕は自主制作されたLP盤の方で入手したが、そちらも手作り感溢れるDIYな仕様になっており、レーベル契約無しで全てを自分たちで行うスタイル。彼ら程の知名度とキャリアがあればこうした一見無茶な活動形態も全然成り立つんだから凄い。
内容の方は4年前にリリースされた前作ではピュアでストレートな激情サウンドを鳴らしつつも円熟していく音の渋さを聴かせていたが、今作はよりハードコア的な疾走は減り、ミドルテンポで聴かせる音が増えている。2008年の再結成作からハードコア要素よりもその先の円熟を鳴らしていたが、それがいよいよ明確な形となって現れている。
Raeinのメロディセンスは枯れるどころか益々磨かれているのが嬉しくもなる。第1曲「Salvia」のツインギターの息を呑む絡み合いが生み出す哀愁。音こそソリッドな音作りではあるし、疾走するパートもあるけど混沌に落下していく初期のRaeinでは無く、再結成後の一つ一つの音を積み重ねるストレートな疾走だ。
Raeinは爆発的なテンションで音楽をやる事には完全に見切りは付けてしまっているのだろうけど、でも衝動は全く枯れてはいないし、洗練されていく中にも第二の初期騒動を感じる。拳を高々と突き上げる音ではなく、拳を静かに握り締めてしまうのが今作でRaeinが提示したサウンドである。第2曲「Tutte Parole D'Amore」の流れるメロディの美しさったら堪らないじゃないか!!
第4曲「Giovanni Drogo (Requiem)」こそ最初は爆発的テンションで音を鳴らしているけど、その前振りからグッとテンションを落としてメロディを聴かせる叙情詩的感性、そして最終曲「Senza Titolo」のRaeinで持ち味である起伏と緩急の付けた曲展開を活かしながら。シューゲイジングな音も取り入れて揺らぎの中のドラマティックさへ帰結する。
全6曲とコンパクトな作品でありながら、楽曲の起伏はより曲をじっくり聴かせる為の手段になり、血液の流れの様な自然体な音に確かな血潮を感じる。キッズだった時代は完全に過ぎ去ってしまったからこそ、大人にしか生み出せない新たな衝動とRaeinはずっと向き合って来たと思う。そしてRaeinにしか生み出せない空気感と哀愁を変わらず鳴らしている。
アルバムタイトルは日本語では「常動曲」、イタリア語では「永久機関」という意味も持つらしく、そんなアルバムタイトルを裏切らない作品だ。ファンタジーな世界でも、ポリティカルな怒りでもない、人生を音にした名盤。
■2: As Zeitgeist Becomes Profusion of the I/Viscera///

イタリアのポストメタルバンドの2010年リリースの2ndアルバム。元々はグラインドコアをやっていた連中らしいけど(過去作は未聴)、今作はかなり実験性の強いポストメタル作品になっていると思う。ポストメタルの要素にサイケデリックさを加え、更には雑多な要素の音をブチ込んで非常に実験的な音を鳴らしている。
ポストメタルのバンドらしく全4曲どれも長尺の楽曲が並んでいるけど、今作に収録されている4曲はどれもアプローチが全く違う。一貫して言えるのは雑多で実験性が強く、同時にサイケデリックな音を鳴らしているという事。割と従来のポストメタルから絶妙に外れたアプローチをしているバンドだとも思ったし、今作の音は中々に斬新さを感じさせる。先ず第1曲「Ballad of Barry L.」を再生した瞬間に耳に入り込んでくるのは引き摺るスラッジさを更にサイケデリックにしたギターリフだ。重心がかなりあるダウンテンポのビートとスラッジなギターリフはかなりドゥーミーな要素を押し出しているけど、同時にポストメタルらしい美意識も感じさせる。そんな音を機軸にしていながら、曲が進行していくと、サイケデリックな音色の反復もかなり増え、こちらも反復するリフとビートが脳髄を揺らし、まるで浮遊感の中で沈んでいく様な矛盾した感覚が音に表れる。終わり無き反復の音がサイケデリックさを助長し、脳細胞を確実に侵食しながら、より音圧を高めて絶頂へと導く。そこら辺の音は同じイタリアのUfomammutにも通じるけど、彼等はより謎な宇宙的感覚を音で表現していると思う。第2曲「Hand in Gold」は這うベースの重低音と、極限まで音数を削ったギターのアルペジオのサイケデリック音階で始まり、よりサイケデリックさを前面に押し出したアプローチをしながら、その音は一転して高揚感を持ち始めて、アンビエントな音色を生かしながらも、やたら哀愁を漂わせるボーカルがまた印象的だし、割と正統派なポストメタル的アプローチを繰り出しのながらも、徐々に加速し始める音、しかも中盤は完全ブラストビートに変貌し、カオティックな暴走ハードコアなパートが突如表れ、聴き手の意識は別の方向へと持っていかれてしまうけど、再びポストメタルな音へと自然に変貌していくし、最後は高揚感が一気に充満していく一転して一つのアッパーさを感じさせる曲だ。
しかし更なる驚きは第3曲「Um Ad-Dunia」で待ち構えている。こちらもスラッジな激重リフから楽曲が始まり、そしてサイケデリックな高揚感をより肉体的にしたサウンドで蹂躙。ボーカルも完全にブラックメタル的ながなり声のボーカルになり、ギターリフにブルータルさが出始めたと思ったら、いきなりダウンテンポから加速し、カオティック成分が加わり、ブラストビートで加速するパートまで出てくるし、それがまた絶妙にポストメタルに回帰した音となり、やたらメロディアスな旋律へと変貌していく。楽曲も後半はよりブルータルさが出始め、断罪のギターリフがハードコアライクに繰り出され、更にはトレモロリフの応酬なブラックメタル要素まで出てくるという何でもアリな感じ。本当に雑多な要素を詰め込んだ楽曲だし、突拍子も無い展開ばかりなのに、それらが全て自然に繋がり、一つの壮大なストーリーとなっているから凄い。最終曲「They Feel Like C02」は今作で最も長尺な15分近くにも及ぶ大曲であるが、またサイケデリックなポストメタルサウンドを鳴らし始め、容赦無く落とすパートと、静謐な美しさを見せるパートと、絶唱と共に高揚感を生み出すパートがそれぞれの役目を持ち、ブラストビートで暴走するカオティックハードコア・激情系ハードコアなパートもあり、今作の中でも最も音は目まぐるしく変わり、それらの音が混沌として変化しながら繰り出され、全てを蹂躙し尽くした果てに最後はハウリングノイズのエンディングを迎える。
ポストメタルとして見たら実験性が強い筈なのだけど、元々がグラインドコアのバンドだった事もあって、随所随所にカオティックハードコアなパートも入っているし、単にサイケデリックさやアンビエントさを追求するだけの実験性では無くて、本当に闇鍋みたいに雑多な要素を盛り込みながらも、楽曲や作品には何故か一貫性を強く感じたりもする。サイケデリックなポストメタルとしても非常にナイスな作品だとは思うけど、実験性だけで終わらない。ハードコアな粗暴さをしっかり打ち出している点も大きく評価したい。ポストメタルの隠れた名盤だと思う。
■Anxiety Despair Languish/Lento
![]() | Anxiety Despair Languish (2012/11/27) Lento 商品詳細を見る |
イタリアの超極悪スラッジ5人衆であるLentoの2012年リリースの3rdアルバムであり、今作もリリースはドイツのdenovaliから。前作「Icon」で余りにも極悪で、超音圧で黒煙と血飛沫が視界を埋め尽くす熾烈さを極めた激重の名作を生み出した彼等だが、今作は大きな変化を迎えた作品である。相変わらずその激重サウンドは健在ではあるけれども、楽曲がより幅広く洗練され、よりポストメタルに接近した作品に仕上がった。
まず大きな変化としてはその音作りだと思う。前作までは音階すら崩壊するレベルの音圧と音量で攻め立てていたが、今作では録音がかなりシャープで綺麗で聴き易い音になっている。それでいて彼等の持っているタイトなアンサンブルもより際立ち、それぞれの楽器の音もクリアになった印象を受ける。それでいて音楽的な幅もかなり広がった印象もある。2分台3分台の少し短めの楽曲の中でストイックさを極めて一撃必殺の音をアンサンブルとして構築していくスタイルになっているし、より美しさとかそういった部分が際立つ様になっている。更に大きな変化と言えば空間系の音色をフューチャーした楽曲が今作は多く、それに加えてトリプルギターがそれぞれ自らの音を拡張させながらも、一つのタイトさでぶつかり合っているし、アコースティックギターなんかも時には盛り込み重さと破壊力以外の新たな武器を手に入れた印象。より重くタイトになったMAREとも言える音はかなりポストメタルへと接近し、ドゥーム成分は大分薄くなっている。この変化に対して前作を愛聴していたフリークス達は戸惑うとも思うけれども、旋律を際立たせても、シャープな音作りになっても彼等の激重サウンドの破壊力は決して弱くはなっていないし、より屈強になったアンサンブルは一つの肉体美すら感じる。
第1曲「Glorification Of The Chosen One」からアンサンブルのタイトさとスラッジさと広がる空間的な音色で遅く重く攻めながら、時にメロディアスなフレーズも取り入れ、漆黒の美しく洗練されたファルムを見せ付けているし、第3曲「Questions And Answers」は暗黒の激重殺戮部隊の殺戮パレードとも言うべき漆黒の行進曲だと思うし、第5曲「Anxiety, Despair And Languish」ではKYOTY辺りに通じるリリカルさも感じさせながらも、重く重心の効いたアレンジが生み出す陶酔感も凄まじく、不穏のキーボードのフレーズが押し出されながら一つのドラマティックさすら感じるレベルでダークでありながらもやたら胸に突き刺さる旋律がかなり印象に残る。激重の轟音を展開する第6曲「The Roof」も彼等の変化と進化を強く感じるし、第8曲「A Necessary Leap」ではこれまでの様なドゥーミーさを感じさせる冒頭のリフの鉄槌から、それぞれの音が美しく花開き、奈落の彼岸花とも言える闇の美しさが目に見える最終曲「My Utmost For His Highest」ではカオティック成分とスラッジ成分とポストメタル成分がハイブリットな融合を見せ、最早一つの厳かさと神秘性を確立したエンディングを迎える。前作同様に合間合間にアンビエントな小品的な楽曲を入れているのも作品絶対のバランスを絶妙に保っているし、作品全体が本当に洗練された物になっている。
今作はLentoの大きな転換作になったと思うし、これまでの彼等を知っている人からしたら戸惑いも多いかもしれないけど、僕は今作での変化は進化だと思うし、持ち前のストイックさと徹底した重いサウンドを新たな形で打ち出した作品だと思う。個人的な我侭を言うなら、この方向性で前作の様な煙たさと音圧があればもっと良かったなんて思ったりもするけど、それは次回作辺りのお楽しみにしておくし、彼等がこの作品を経て、どのような進化を見せるのかが個人的に凄い楽しみだったりする。
■Tenpeun 01-05/La Quiete

イタリアの激情神ことLa Quiete(ラクイエテ)の初期の音源をコンパイルした編集盤。19曲にも及ぶ楽曲が収録されており、入手困難音源ばかりのLa Quieteの音に触れる上では本当にありがたい編集盤だ。そして何よりも今作に詰め込まれているのはイタリアは勿論、世界の激情系ハードコアのシーンにてLa Quieteがどれだけ重要な存在であるかを否応無し痛感させられるカオティックかつ青臭くクリアな激情だ。
若干クランチ気味のクリーンなギターが織り成すのは変拍子だらけのカオティックなフレーズの数々であり、リズム隊も破綻寸前のギリギリのラインで統率され、複雑に絡み合う楽曲を構成しているが、そのカオティックさと同時にエモーショナルかつ青臭い宝石の様に煌く旋律のクリアさが組み合わさった事によってLa Quieteの青く光る純度の高い激情系ハードコアが生み出されている。もう1枚の編集盤である「2006-2009」に比べたらハードコア色の強い楽曲が並んではいるが、彼等の核になっているのはその純度の高さを見せ付ける旋律であり、それをストレートでありながらも、カオティックな感触で鳴らしているからこそ、唯一無二のサウンドが生み出されているのだ。時に不協和音を織り込むコード進行だが、それでも風通しの良さは絶対に損なわれていないし、カオティックとエモーショナルという二つの要素を同時に手にしたからこそLa Quieteは無敵である。全ての楽曲が3分にも満たない短尺さを誇っているが、その僅かな尺の中でジェットコースターの様に目まぐるしく転調を繰り返し、ハードコアパートとクリーンパートが高速で切り替わっていきながら、瞬間のドキュメントを繰り広げているし、その一瞬の中にある、輝きと混沌がストロボの様に発光し、その眩さの向こう側にある音は感動的だ。音自体はペラペラな音作りではあるけれど、彼等は重厚な音圧にも頼らなくても、その旋律と統率された混沌の中で決して消える事の無い光を生み出しているのだ。それらの楽曲の中でも「Mandorle Amare Al Traguardo Della MileMiglia」、「Untitled」の2曲は本当に朽ち果てる事の無い輝きを見せてくれるハードコアと激情が確かに存在し、僕たちの網膜にその輝きを刻み付ける。
誰も汚す事の出来ないまっさらな風景の中で青い輝きを見せるハードコアとして彼等はやはり最強であるし誰も追従不可能の唯一無二の音を鳴らしている。激情系ハードコアフリークスは必聴なのは言うまでもないし、エモファンやロックファンにも訴えるだけのポテンシャルを彼等は確実に持っている。今作と「2006-2009」の2枚の編集盤でLa Quieteのサウンドを十分に堪能出来るし、彼等は日本でももっと多くの人を虜にするだけの力を持っている。イタリア激情神の座は彼等の為の椅子であり、その旋律は本当に胸を打ち抜く涙の音だ。
■2006-2009/La Quiete

CONTRASTO、RAEIN、NEIL ON IMPRESSIONのメンバーも在籍するイタリアの激情神ことLa Quiete(ラクイエテ)の09年発表の7曲入りの編集盤。06年発表の「pure pain sugar」と08年発表の「sons of vesta」の2枚のEPをコンパイルした作品であり、2枚ともアナログのみのリリースな上に現在入手困難となっているので、La Quieteの貴重な音源をこうしたCDのフォーマットで聴けるのは嬉しい限りだ。そしてたった7曲にLa Quieteのサウンドが濃縮されているし、La Quieteの魅力を存分に堪能出来る1枚となっている。
先ず彼等のサウンドは激情系でありながらも非常に風通しの良いクリアなサウンドが特徴的である。クリーンなギターの絡みと、ハードコアというよりもエモに近い感触の楽曲が並ぶ、それを複雑極まりない展開と構成で演奏するのが彼等のサウンドの大きな特徴だ。それでも決して難解にはなっておらずメロディアスな要素に重点を置いて、歪んだ激情よりも透明感に満ちたクリアな郷愁のサウンドを聴かせてくれる。第1曲「Sulla Differenza Fra Un Sorrisi E Una Risata」はハードコアな疾走感が強いけれど、クリアな泣きの旋律と共に変拍子と転調を駆使したマスロック色の強いフレーズの応酬で一気に胸の鼓動が加速してしまう。一方でkillieもカバーしている第2曲「Giugno」は透明度の増したアルペジオの旋律が胸を焦がすエモーショナルさとメロディックさが前面に出た1曲。その高揚感が軽やかに飛翔するサウンドは郷愁と感動を呼び起こす。第4曲「Cosa Sei Disposto A Perdere」は激情とエモが絶妙のバランスで融合したポストハードコア色の強い1曲で、楽曲の緩急のつけ方の軽やかさにも持っていかれるし、ポストロック色とメロウさが際立つ第5曲「Musica Per Un Giardino Segreto #4」、ダークさも持った旋律と悲壮感に満ちた今作で最もドロっとした感触の強い第6曲「Le Conseguenze Di Un Abbraccio」と、それぞれの楽曲の完成度は本当に高いし、統率されていながらも多彩さを持っている。歪んだディストーションのサウンドは殆ど見受けられず、クリーントーンの中に少しばかり歪んだ音色で攻め立て焦燥と郷愁の音色と、それをハードコア・エモ・マスロック・ポストロックのカラーを巧みに取り入れた結果の追従不能のハードコアだ。
音楽的には全く違うけれど、フランスの激情神Aussitôt Mort同様に、独自の進化の方法論にて誰も追いつけない激情を生み出しているLa Quieteも激情のシーンに君臨する帝王の一人であるのだ、多くのバンドに影響を与え、多くの人々の支持を集めているのも納得だ。純度の高い旋律と、それをカオティックにしながらもよりストレートな音に仕上げ放っているLa Quieteは偉大なる激情バンドである事は絶対に揺らがない。