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■The Present/静カニ潜ム日々
![]() | The Present (2013/04/03) 静カニ潜ム日々 商品詳細を見る |
2013年3月にPlay Dead Seasonが本当に素晴らしい1stアルバムをリリースしたが、そんなPDSとかつて共にスプリットをリリースした横浜にて結成された3ピース静カニ潜ム日々もほぼ同時期に、負けずに素晴らしい1stアルバムをリリースした。BIGMAMA、[Champagne]といった人気バンドを輩出したRX-RECORDSからリリースされる静カニの2013年リリースの1stアルバムは、全9曲の確かな熱量を持ちながらも、ゆるやかに歩を進め日常を生きる歌が収録されている。
まず静カニは本当に単純に曲が良すぎるバンドである。90年代エモやUSインディーロックといったバックグラウンドを持ち、ポストロックなんかの要素も持っており、3ピースというシンプル極まりない形態で、本当に余計な装飾をしたない剥き出しであり、確かな強度のアンサンブルで鳴らす。そして本当にメロディセンスが卓越しているバンドであり、平熱~微熱の絶妙なエモーショナル具合。全ての音がごく自然に存在しながら、鋭利な冷たさと、柔らかな温かさの両方を持っている。更に今作のざらついた感じのミックスなんかも、彼等の温度とアンサンブルを更に生かし、静カニの魅力が更にダイレクトに伝わってくるのも大きい。更にはギターボーカルである川元氏のボーカルが本当に良い。焦燥だとかいった要素を感じさせながら、どこまでも優しく。どこまでも伸びやかに、どこまでもクリアに響き渡る歌。これが静カニの魅力だ。今作に収録されている全9曲は、本当にただの名曲の集まりだ。余計なギミックも無く、本当にごくシンプルに素晴らしい歌が収録されている。そしてその歌は何よりも鋭利に聴き手の胸を突き刺していく。時に歪んだ轟音も織り交ぜながらも、楽曲は常にクリアで青い。そして何よりも本当にポジティブなエネルギーが静かに燃え上がっている。
第1曲「Step Forward」の冒頭のギターのハウリング、そして3カウントから既に胸を焦がされそうになり、クリアさと歪みが絶妙に同居したギターのサウンドと、タイトで本当に無駄が無いなのに、躍動感に満ち溢れたビートに引っ張られながら、全てを祝福する福音が響き渡る。どこまでも純度を高め、2分半の中でいきなりクライマックスへと導かれる瞬間。既に静カニの描く世界に引き込まれている。第4曲「Idea」では更に透明度を高め、本当に平熱の中に潜む微熱の熱量がじんわりと浸透し、聴き手の心に入り込んでくる。本当に極限まで削ぎ落されたアンサンブル。必要最低限の音しかないのに、その一音がこれ以上無い位に感情を伝え、そして力強く羽ばたいていく。後半になると絶妙に歪み、しかし爆音サウンドのそれとは絶妙に違い、どんなにギターのサウンドが歪んでも、その旋律とアンサンブルが持つ熱力は自然と変わっていないし、終盤は絶妙な焦燥を感じさせ、静かに拳を握り締めたくなる。本当にバンド名そのままで、静かに聴き手に潜む日常の中の熱量を見事に体現した名曲だ。そして終盤の3曲は本当に静カニの真骨頂とも言える楽曲が続く。哀愁も男臭さも暴発させ、轟音系ポストロックの様に静謐さから歪みが暴発し、高らかな叫びと共に涙腺を崩壊させる第7曲「Carry On」。今作で屈指のドラマティックさを持っている第8曲「What Should I Say ?」。シンセの優しい音色から始まり、まるで子守唄の様に日々の終わりを優しく見守り、最後はドラマティックな歌と共に新たな日々の始まりをただ祝福する最終曲「Isotope」この3曲は近作でも屈指の名曲であり、もう感情という感情が揺さぶられる。
盟友であるPDSとは路線も方向性も違うけど、静カニもPDSに負けず劣らず本当に素晴らしい名盤を生み出してくれた。9曲40分で描かれる日々の感情としての音楽。エモ・インディーロック・ポストロックの要素を取り入れながらも、それをすり抜け、自らにしか生み出せない屈強な強さと優しさで描き、日々を生きる人々への賛美歌集として今作が生れ落ちるのは本当に必然だったと思う。また素晴らしい1枚がこの世に生れ落ちた事が、僕は本当に嬉しい。
■Bipolaire/Kimika
![]() | Bipolaire (2009/04/14) Kimika 商品詳細を見る |
GY!BE等を輩出してる事でお馴染みのカナダの音響系ポストロックバンドであるKimikaの04年の録音された1st。2011年になってFluttery Recordsから再発された音源だ。今作はボーカルの入った楽曲も多く、基本的には静謐で波打つ波紋の様な静かな広がりを見せるポストロックなのだが、アコースティックなテイストを前面に押し出している楽曲もあり、ボーカルの入った楽曲は完全なる歌物作品にもなっている。オーガニックな柔らかさが聴き手に染み込む優しい音色で作り上げたポストロックだ。
ポストロックでは静謐なパートから空間系エフェクターを駆使し轟音パートに移行しカタルシスを生み出すバンドも多かったりするが、今作は実際その様な要素は存在はするが決してそれを前面には押し出しておらず、あくまでも静謐さの中で煌く旋律の美しさと優しさに大きな比重があると言える。第1曲「Quartier D'eÌ?toile」の純度の高い透明な空気の中で緩やかに進行する音は素朴でありながらも、かなり洗練されている。第2曲「Last Words」は一転してアコースティックな歌物になっており、繰り返すコード進行の反復に乗るおぼろげなボーカルの繊細な空気は幽玄の物であるし、核になっているオーガニックさのみで勝負している様な感触がある。しかし後半から轟音のサウンドが入り込むが、それはポストロック的な轟音では無く、エモやインディーロックの系譜にあるサウンドなのだ。高まる熱量と共に剥き出しの感情を奏でる轟音サウンドはポストロックの系譜にありながらも、もっとロックバンドらしいストレートさを持っているし、それでも失われない純度の高さと柔らかな空気は陶酔する事間違い無しだ。彼等も轟音系ポストロックバンドではあるのだが、その王道の流れの中で更にロックバンドである事に意識的でもあるし、彼等の轟音からはロックの激情、静謐なパートではポストロックらしい洗練された美意識と共にその音色の純度を守るクリアなアレンジと核になる旋律の優しさが確かに存在している。完全にアコースティックに振り切った第4曲「Ghost」にこそ彼らのサウンドの根っこみたいな物が存在しているし、インディーロックの系譜を感じさせるだけでなく、微熱の歌のささやかに尖ったコード進行と歌の奥行きの深さはシンプルな形態でありながらも、削ぎ落とした先の鋭利さがある。後半は特に轟音サウンドを封印し、自らの静謐さと浮遊する旋律を確かな熱量で鳴らしているし、彼らはポストロックバンドであると同時に、もっとプリミティブなロック魂をシンプルでありながらも洗練させたサウンドで鳴らすバンドである事を認識したし、その熱量をポストロックのフィルターで通した上で鳴らしているのが彼らの魅力でもあるのだ。
カナダの広大な大地で静かに育まれたポストロックはロックバンドとしての土着的な力を感じさせてくれるし、一つの音を一歩一歩踏みしめる様な旋律とサウンドスケープはオーガニックであるし、確かな熱量があるからこそ静かに浸透していく。決して派手な音では無いけれど、その音は長い時間に渡って聴き手の中で静かに呼吸し続ける強さがあるのだ。だからこそKimikaの音には頼もしい強さを感じる。