■タグ「ウィッチハウス」
■EP †/†††(Crosses)

世界的モダンヘビィネスの帝王として君臨するカリスマであるDeftonesのチノだが、彼はDeftones以外にも本当に数え切れない位の別プロジェクトで活動していたりもする、どう考えてもウィッチハウスのそれなユニット名である†††(Crosses)もその一つであり、Fraのギタリストであるショーン・ロペスとタッグを組んだユニットだ。今作はそんな彼等の処女作であり、5曲入のEPとなっている。
このユニットはトリップホップやエレクトロニカやミニマムといった要素の強いトラックにチノのセクシーな歌声が乗ると言った物。しかしそのメロウさや耽美さはウィッチハウスのそれに近い物もあったりする。ミニマムな音の反復を基調にしながらも、トラック自体が明確な構成を持っており、チノのボーカルはかなり前面に押し出され完全に歌物の作品になっている。それでいてトラックだけで無く、所々に挿入されているギターも絶妙な効果を生み出している。トラックもDeftonesの耽美なダークさを継承しており、エレクトロニカとかトリップホップの要素を持ちつつももっとオルタナティブロックのカラーが本当に色濃く、チノのボーカルと完全に嵌りきった物だ。トリップホップ等の新たな試みを取り入れつつも、それを自らの物にしるチノのボーカリストとしてのポテンシャルの高さは最早言うまでも無いけれど、シャウトを完全に封印して、全編クリーントーンで歌った今作ではそのポテンシャルの高さを再認識させるだけでなく、どんな楽曲も歌いこなすチノと、オルタナティブでありながら絶妙に重苦しいトラックの完成度の高さが最高の形で結びついていると言えるだろう。特に第2曲「Op†ion」はバンドアレンジにしたらDeftonesの新曲としても全然行ける歌心とヘビィさを持ちながらも、Deftonesのエレクトロバージョンといった安易さではなく、それをあくまでも†††の音として作り上げている所もポイントが高い。第4曲「†hholyghs†」ではかなりバンドサウンドに接近したサウンドを鳴らしながらも、より間口の広い歌物の楽曲になっており、エモーショナルな轟音と共にチノの歌声が咲き乱れ、ダークさの中から光を生み出し照らし出すドラマティックさも持っている感動的な1曲だし、非常に壮大なバラッドに仕上がっている。そして最終曲「†」はウィッチハウス的なゴスでメロウな旋律がダークに締めくくる。
新たな試みを取り入れながらも、あくまでそれを取り入れたサイドプロジェクトではなく、本隊であるDeftonesやFraに負けない完成度を持っているどころか、マニアックさの中に間口の広さをしっかり用意し、一つの歌物作品としてもウィッチハウスやエレクトロニカの作品としても高水準の完成度を持った1枚であると言えるだろう。チノという男の才能はやはり底無しだ。また今作は下記リンクのオフィシャルサイトからフリーダウンロードで配信されている。
††† オフィシャルサイト
■King Night/Salem
![]() | King Night (2010/12/21) Salem 商品詳細を見る |
09年頃に生まれたウィッチハウスという新たなジャンルの音楽がある。音楽性で言えばダブステップ、ヒップホップ、ニューウェイブからの影響とダウンテンポのチルアウト、空間的なサウンドコラージュ、ゴシックな雰囲気といった要素を持っており、早耳なフリークスの間で注目されていたらしい。僕はウィッチハウスに関する知識は皆無だが、ウィッチハウスムーブメントの立役者であるSalemの2010年発表の1stである今作には完全に虜にされてしまった。
まずゴシックなコーラスと共に空間的なコラージュの音色がいきなり咲き乱れる第1曲「King Night」から幽玄の世界が始まる。ダブステップを基調としたビートを軸に進行しながらも美しく幽玄な煌きの音色がシューゲイジングし、極彩色の色彩とゴシックの耽美さが混ざり合い、スケール感のある音が初っ端かな脳髄を溶かしてくる。Salemはダブステップを機軸にしながらも本当に幽玄でメロウな旋律を聴かせてくるし、非常に聴きやすい音ではあるけど、それの音色を加工しまくり、ただでさえ色彩の豊かさを誇る音色がより揺らめきながら轟音のノイズの幽体離脱の旅へとご招待する。ローファイなサウンドプロダクトも非常に効果的であり、音の輪郭が荒いからこそ、掴み所の無い音色がよりダイレクトに降り注いでくるのだ。また女性ボーカルの気だるい歎美さも特徴的で美しい幽玄の旋律と共にゴスな空気を生み出し、同時に歌物としての分かりやすさや取っ付きやすさも持っている点も大きい。第4曲「Sick」ではラップ調のボーカルも入り、ビートもヒップホップの流れにある物へと変化しているが同時にSalemの旋律の美しさは健在。シンプルでありながら少し癖のあるビートはやたらと中毒性があるし、歌と旋律の骨組みがしっかりしているからこそ楽曲自体も非常に魅力的であるし、それを歪ませコラージュし非現実の空間へと聴き手を誘い。視界をサイケデリックな色彩で埋め尽くしてくれる。同じヒップホップ調の曲でも第6曲「Trapdoor」はよりドープに変貌し、緩やかに感覚を沈めていくし、純白の色彩が揺らめく第7曲「Redlights」の相反する様に見える2曲でもその持ち味は変わらないし、第8曲「Hound」のドラッギーなうねりのグルーブ、そして最終曲「killer」のざらついたホワイトノイズと無機質なビートが狂騒を生み出しながらも現実と非現実を行き来する様なトリップ感覚を見せ、その狂騒の中で終わりを告げる。作品自体も統率されているだけで無く、音のコラージュやビートが過剰にならず絶妙な塩梅で存在し、煌く音色が脳を支配する。間口が広く聴きやすい作品であると同時に、その深みは底が知れない。
前述した通り、僕はウィッチハウスというジャンルに関して予備知識も何も無いが、そんな人間ですら虜にしたSalemの色彩とゴシックかつ郷愁の音色が生み出す幻惑の音像には一気に引き込まれてしまった。美しい色彩に見とれていたら気がついたら狂騒と混沌の底無し沼に溺れているし、今作の宗教的で神秘的な音がそれをより加速させる。多くの人に受け入れられるであろう傑作であるが同時に非常に中毒性の高い薬物の様な危険性も持った作品だ。