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■【残酷なまでに無垢な美しき真夜中の音楽】しののめ、ロングインタビュー
2018年も終わりに差し掛かり、SNSではフリークス達が今年の年間ベストなんかをツイートしたりしているが、僕個人として2018年の一番のベストリリースはしののめの1stフルアルバム「ロウライト」だった。
シューゲイザー/ギターロック/エモといった括りのサウンドスタイルではあるが、しののめは安易なるカテゴライズを拒むバンドだ。
バンド名を出してしまえば、syrup16g 、きのこ帝国、それでも世界が続くなら、ANCHOR(新潟)、bloodthirsty butchers、Discharming Man、mogwai、Low、U2といったバンドと共振する部分はあるが、バンド名を羅列しただけではしののめの本質には迫れない。
気付けば作為的でSNS映えを狙った表現もどきばかりが増えてしまった病みきった今であるけど、そうした本当の病巣を無垢で無作為な表現で暴く力を持つのがしののめの魅力だと個人的に思う。
深いリヴァーブのかかったボーカルと音像、冬や夜に映える美しいメロディ、果てしなく諦めを言葉にした歌、それらは安易に鬱ロックだとかメンヘラ御用達といった安い評価を蹴散らす力がある。
今回は実に10ヶ月振りのライヴとなったブラックナードフェスでのライヴ後にメンバー3人にインタビューさせて頂いたが、具体的なバンド名やジャンルとしての音楽の話はほぼ皆無だ。
メンバー3人は非常に穏やかな人達だが、決して多くない言葉は3人の確かな反抗声明である。
作為やジャンルやSNS映えといったくだらない物に辟易としている人にこそしののめに触れて欲しい。
こんな時代だからこそ、しののめの持つ暴く表現は聴く人の感受性に響くはずだから。
・今日は約10ヶ月振りのライヴでしたが、手応えとしてはどうでした?
真下(Dr):前よりみんなの気持ちが揃い始めた感がありますね。
私はしののめに途中から加入しているので、やっとバンドらしくなって来たかな?
眞保(Gt.Vo):みんながバラバラな感じが凄かったので。
・まず今年の2月に1stアルバム「ロウライト」をリリースしてのリアクションなどはどうでしたか?
久間(Ba.Vo):活動してない割には聴いてもらえている感じはします。
眞保:Twitterとかで検索したりすると、気合いの入った感想を書いてくれている方がちょこちょこいたりするので、ハマる人にはハマるバンドなのかな?
・僕はしののめを初めて聴いた時に、不特定多数に向けているのではなくて、そこからはみ出してしまった人達に向けている音楽だと思いました。
眞保:大衆受けが嫌なわけではないのですが、自分は正直に言うと好きなバンドがあまりいなくて、それで自分が好きなバンドを作ろうっていうのがしののめですね。90年代とかだと結構好きなバンドはいるのですが。
・現行の邦楽ロック系のシーンの中ではかなり浮いてるバンドにも見えるのですが、90年代や00年代のシーンで当てはめてみるとすごくしっくりくるバンドでもあると思います。
オルタナティブな感覚が当たり前だった時代とリンクするバンドだなって。
眞保:「ロウライト」はCDとMVでアレンジが違いまして、音源の方は短いんですけど、MVの方では1分半くらいイントロを付け足したらMVを撮影・編集してくれた方に「これ聴かれねえよ。」って言われましたね。
・僕はMVを観てからCDを聴いたので、アレンジが全然違ったのはびっくりしましたが、個人的にはMVの方のアレンジが好きですね。あのイントロは聴く人を引き込むなって。
眞保:MVを観て気に入ってくださった方は「あのイントロが良い。」って言ってくれてますね。
ライヴではMVの方のアレンジで演奏してますが、まずアルバムをレコーディングした時はドラムは真下さんじゃなかったので。MVの方のアレンジでは真下さんが叩いてるのでそっちのアレンジでやっています。
・「呼吸」もCDとMVでアレンジ変わってますね。
眞保:CDの方は僕一人でのアレンジでしたが、そっちはバンドアレンジでやってみたらどうかなと思ってアレンジを変えましたね。
・今日初めてライヴを観て、やっぱり音源よりもバンド感が出ていると思いました。
ある種の生々しさや無作為さを強く感じましたね。
眞保:我々は器用なタイプではないので。
・僕がそもそもジャンルって括りが好きな人間では無いのですが、しののめはシューゲイザーやギターロックって括りで語られたりもすると思うんですよ。
でもそれは触りでしかなくて、寧ろしののめの音楽は一つのスタンダードですらあると思ってます。純粋に良いメロディと良い歌と刺さる言葉で成立してる音楽だなって。それと同時に本質的な意味でオルタナティブであると感じます。
鬱ロックだとかいうくだらないカテゴライズだったりとか、わかりやすいセンセーショナルな言葉だったりとか、そうした作為的なSNS映え狙いみたいな打算がしののめには無いのが本当に好きなんですよね。
眞保:そうした計算はないですね。少しはなきゃ
駄目じゃないかって話はしたりしますが。結局そんな計算は必要ないからやらないだけですね。
・僕はそうした打算で作られた音楽が溢れている現代に対して、しののめは「本当はそうじゃないだろ!」って暴いてる気もします。
眞保:音楽って本来は芸術的なものだと思ってるんですが、そうした芸術的な音楽が相当減っているように感じてます。
・音楽って芸術の中でも一番人に伝わりやすいものでもあると思うんですよね。
感情や思想を音と言葉でダイナミックに表現出来るのが僕の中の音楽なので。
眞保:表現の手段として音楽をやっているだけなので、必要のないものは削ぎ落とされているのかなって。
・しののめは核がしっかり見えるからこそ、響く人には本当に響く音楽をやっていると思います。
眞保:そうであり続けたいですね。
・久間さんはしののめのオリジナルメンバーですが、久間さんから見たしののめってどういうバンドなのでしょうか?
久間:「みんなおいでよー!」って感じではないけど、「ロウライト」に関しては辛い気持ちの夜とかに優しくはないけど朝まで付き合ってくれるアルバムみたいな感じなので、バンドも基本的にそんな感じですね。優しくはしないけど突き放しもしないみたいな。
・駆け込み寺みたいな。
久間:「大丈夫だよ!元気出してよ!」みたいな感じじゃないけど、朝まで一緒にいてくれるみたいな感じはしてます。
・真夜中に聴くと本当に映えるバンドですよね。
久間:そんなバンドだと思っています。別に昼間っぽいバンドではないので。陽が出てない時に聴くバンドって感じはあります。
・「しののめ」ってバンド名もそれを表してますよね。
久間:最初に曲を作った時から夜っぽい曲が多かったので。
眞保:夜っぽいバンド名にしたいなって感じで決まったよね。
久間:それで大体バンド名は略されるから四文字くらいでって感じでバンド名は決まりました。
眞保:エゴサが異常に難しいバンド名。
・真下さんの加入はアルバムレコーディング後ですよね。
久間:一年がかりでアルバムどうにか完成させたんですけど、アルバム用のアートワークの写真の撮影でまた時間がかかって、そんな時に加入しました。
眞保:色々ギリギリになってしまったんで大変でしたね。真下さんから見るしののめはどんなバンドですか?
真下:良いなって思うところは想像の余地があるところですね。
歌詞とかはちゃんと具体的な言葉で書かれてはいるんですけど、曲からイメージが浮かぶ様な曲が多くて。
元々、私と久間ちゃんが美大の先輩後輩の関係なんですけど、私は絵を描くのが好きなんですが、音楽以上のものをくれると言うか、インスピレーションが膨らんで良いなって。二人の歌声も大好きだし。
私はこういう暗いバンドをやるって思ってなかったんですけど、今はやるって決めて良かったですね。
眞保:真下さんが加入して最初のスタジオは衝撃だったらしいです。
真下:最初に眞保君に呼ばれてスタジオに行ったんですけど、何曲か曲をコピーして合わせるってなって、その時は久間ちゃんは体調が悪くてあんまり歌えなくて、眞保君はギター弾いて歌い始めるけど全然やる気がないんですよ。
そんな雰囲気だったので「この異様な雰囲気はなんだろう?」ってなって、眞保君に聞いたら「あんまりカバーやる気でないんですよね…」って。そして凄く辛い空気が流れてましたね。
私は高校生の時からドラムをやってるんですけど、バンドってもっと楽しいものだって感覚だったんですよね。だから「バンドって楽しい…よね?」ってのを投げ掛けるところから始まった感じです。そしたら二人は「楽しいって何だっけ?」みたいになって。
眞保:真下さんが加入する前はピリピリしてたので。
久間:当時はお腹が痛くなって携帯見たら眞保君から連絡が来てるとかあって、それを予知してお腹が痛くなる感じでした。
眞保:スタジオの時、全く私語無かったよね。
久間:みんな下を向いてお酒を飲むだけみたいな。それで曲合わせてピリピリした空気が流れてまたお酒に逃げるみたいな。
そんなのを数年やっていたので、真下さんに問いかけられた時に楽しいの概念の振り返りから始まりました。でも今は楽しいですね。
眞保:最近はスタジオでの私語が多すぎるかなって。でも最近は明るい…のかな?
・そもそもしののめの音楽に楽しい要素が全くないので。しののめはやはり真夜中の真っ暗な部屋の片隅で体育座りで聴くのが礼儀だと思ったりします。
久間:ロウライトが完成した当時は宇都宮に住んでて、丁度寒くなり始めた頃だったので、取り敢えず窓開けて正座して聴きましたね。そして「これだ!」ってなりました。
・しののめの持つ暗さって日常生活や人生の中で失ってしまった物に対する後悔というか…どうしても拭いきれない物悲しさや喪失感を歌ってるバンドだと思います。
しののめって僕の中で感情なり景色なり時間なりを想起させる音ってのがありまして、だからこそしののめをジャンルで括りたくないですね。
眞保:ジャンルなんて手段でしかないですから。シューゲイザーっぽい音作りとかは多いですが、それはあくまで曲の表現方法として使ってるだけで、僕はたまたまギターが弾けるからギターを弾いてるだけですし、たまたま僕の表現方法が音楽だっただけです。
パンクバンドだから奇抜な格好をして過激なことを言うってのは僕にとっては手段であって目的ではないですね。
・パンクバンドだからって全ての曲でポリティカルなメッセージを放たないとダメとかってルールは僕もないと思います。
眞保:音楽はあくまで表現の手段と考えてるので、そこが他のバンドとのノリの違いかなって思います。
・眞保さんが具体的に表現したいものとは何でしょうか?
眞保:色味だったりとか、冬の寒さだったりとか、内向的なところだと自分が思ってる事とか、そうしたものをどうやって音楽に昇華してこうかってところを考えてやってますかね。
・「楽園」という曲の歌詞に「生きる事は素晴らしくない」ってあるじゃないですか?あの曲を初めて聴いた時に「本当はそんな風に思いたくない!」って足掻いてるように思いました。
眞保:本当はかなり期待してるのかもしれないですね。人生そのものが絶望的だと感じてるので「救いはないものか?」という気持ちはすごくありますね。
何の考えもなく肯定されてるのに違和感を覚えたりとかあって、「自殺ダメゼッタイ!」とか「生きていれば良いことあるから生きましょう。」とか何の根拠もなく言ってる事が、みんなそれを何の疑いもなく受け入れてるのが本当に怖くて、だから触れちゃいけない部分を暴くというか…そういうノリはあるかもしれません。
音楽というかロックというかそうしたものがポップスとなんら変わらなくなっちゃったって感じもありますね。
・それこそ作為的なものが増えてしまったのかなって。
眞保:大量に売らないと回らなくなったんでしょうね。だからわかりやすくて作為的で消費されるものが増えてる傾向があると思います。
・ここまで眞保さんの考えを話してもらいましたが、眞保さんがしののめの中心人物じゃないですか?その眞保さんの表現に対して久間さんと真下さんはどうリンクさせてる感じでしょうか?
真下:私はイメージの拡張器でありたいなと思っていて、眞保君が曲に込めてる思想とかに触れて、そこで感じた情景とかを音に出して、眞保君が3考えてるなら6にして返したいなって。それがバンドでやってる意味だと思います。
私は空想とか妄想が好きなので、そういう情景だ!ってなったら私の中ではそういう世界になってるんですよね。それを眞保君に伝えると最初はレスポンスが良くなかったりするんですけど、合わせてるうちに気付いてくれてる事もあって、それが他人が介在する意味だと思います。
・眞保さんが描いた色をブーストさせるのが真下さんなら、そこにまた違う色を加えるのが久間
さんだと個人的に思います。一つのテーマやコンセプトに対して近いけど違う色を付け足してるというか。
久間:基本的に暗いので、根っこが暗いというか。一番暗いかも。
眞保君がデモを持ってきた時に普通にリスナー目線で聴くんですよ。それを聞いてブーストみたいにはならないんですけど…何だろうな?
真下:私はこういう意味が分かってない人がいるのも重要だと思うんですよ。自分なんでいるのかな?みたいな。そういう感覚の人も重要だなって。
私みたいにしっかりと思考を持ち過ぎてるとまたそれはそれでバンドの雰囲気とかバランスが変わりますし、ウジウジと「何で!?」って感じで久間ちゃんにはいて欲しいなって思います。無理しないで「何で私が歌っているんだろう?」みたいな人も重要ですね。
久間:分からぬままで、ずっとファンみたいな感じで所属してて、デモ聴いて「これめっちゃいいじゃないですか!!え?これ私歌うんですか?」って感じなんで。
・ますます一筋縄ではいかないバンドですよね。しののめって。こうして話していると皆さん穏やかな方ですが、根はダークサイドだなって。
久間:もしかしたら眞保君が根っこは一番明るいかも。
・次の展開は決まってますか?
眞保:アルバム出してから今日までゆっくりし過ぎたので、少し飛ばして行こうかなって。何なら今月とか来月とかには色々動こうかなって感じですね。
久間:寒い間に何かします。
眞保:冬の間だけ頑張ります。
・逆冬眠ですか(笑)。
真下:夏は夏眠します。冬は頑張るので夏の間はWANIMAみたいな明るいバンドに頑張ってもらう感じで。冬は私たちしののめが頑張ります。
・改めて夜や冬が似合うバンドですよね。次のアルバムやライヴも楽しみです。
眞保:アルバムは出しますけど、ライヴはどうしようかって感じですね。
真下:基本的に作るのが好きな人たちが集まっちゃってるんで。
・100s結成前の中村一義みたいな。
久間:レコーディングしたりとかMV撮ったりしてる方が楽しいです。
真下:でも今日のライヴで観ている人たちの顔が見れたのは本当に幸せでしたね。
久間:観てくれてる人がいるって状況が半年以上なかったので…
・しののめの音楽は今の時代だからこそ広まる筈なので、マイペースながらも頑張って作り続けて欲しいです。20年とか30年とか続けて欲しいなと。
真下:今日、割礼さんのライヴを観て、自分があの位の年齢になった時にどんな音を出してるんだろうって興味が出ましたね。
眞保:割礼すごく格好良かったな。
真下:目指せストーンズで!転がる石になります。
久間:割礼さんがMCで「公民館で練習したりもする。」と言ってたので、私たちも次のライヴはまた公民館かな?
眞保:個人的に蒲田温泉でライヴしてみたいですね。
・次のライヴはまた公民館で!ライヴハウスでライヴしないバンドって感じで。真冬の水上公園とかも良いですね!水元公園とか。
久間:寒さに震えてもらいながら。
真下:でも冬のフェスとかやりたいよね。
久間:「ロウライト」の長くなったイントロの部分を私たちは「レイキャヴィークの部分」と呼んでまして。
眞保:当時シガーロスにハマってて、アイスランド行きてえ!って思いながらフレーズ作りましたね。
・アイスランドでもライヴして欲しいですね。
眞保:シガーロスと対バンしたいと思いながら、それを目標に末長く続けていけたらなと。
オフィシャルサイト:https//:www.shinonomenome.com
Twitter:https://twitter.com/ShinonomeBand
Instagram:https://www.Instagram.com/shinonomeband
■消える世界と十日間/それでも世界が続くなら
ベルウッドレコード (2017-07-26)
売り上げランキング: 7,467
それでも世界が続くならというバンドほど不器用なまでに普通なら見たくない事を暴こうとするバンドはいないと思う。
結成から現在に至るまで人の痛みとリアルを愚直なまでに歌い続けて来たそれせかの2017年にリリースされた7thアルバムは「一人の人間の人生を、よりリアルに音楽に閉じ込める」ことをコンセプトに、篠塚が約十日間に渡り楽曲を作り上げたドキュメント作品となっている。
これまでの作品同様にほぼ一発撮りでライヴでの空気感をそのまま音源にした様なサウンドプロダクトに仕上がっているが、今作ではそれがより作品のコンセプトにリアリティを与えている。
並べられた楽曲こそ様々な表情を見せるが、どの楽曲もこれまで以上に「暴く」という事により大きな比重が置かれている。
楽曲そのものはポップであり、歌物としてのクオリティが凄まじく高いにも関わらず、それをズタズタに切り裂くノイズギターとざらついた音と言葉の数々。作品が進んでいく程により突きつけられる感覚に襲われる。
鋭角なノイジーさがバーストする新たなキラーチューンである第1曲「人間の屑」、繊細なアンサンブルの静けさからドラマティックに轟音がバーストする第7曲「消える世界のイヴ」の二曲からは特に痛みを乗り越えた先を生きることを新たなる犯行声明として歌う楽曲も魅力的だが、僕個人は第4曲「正常」と第9曲「水の泡」の2曲が特に今作の核となる楽曲だと思う。
風俗嬢も 警察も 詐欺師も 先生も
言いたい事は同じ 金を稼げ
正常/それでも世界が続くなら
残酷なまでに綺麗事抜きの真実を死刑宣告の様に歌う「正常」はそれせかの持つバンドとしての本質が特に表れた楽曲だろう。
「水の泡」も同様だが、当たり前に横たわる見たくもない聞きたくもない真実を突きつけ暴くのがロックである事からそれせかは逃げていない。
耳触りの良い言葉を選ぶのなんて本当に簡単で、世の中なんて綺麗な言葉だけを欲しがる人間ばかりだ。そんな人間相手に教祖様になればもっと売れるし、もっと金も稼げる。
じゃあそれせかは何故それをしないのか。まだ正常でありたいからこそ、狂った事が当たり前になってる事を暴き続けるしかないのだ。
今作も楽曲の完成度自体とんでもなく高く、純粋にギターロック/オルタナティブロックとしてのメロディセンスの凄まじさもそうだが、そんな楽曲に乗る言葉は普通なら選ばれない言葉ばかり。だから暗くて重く、聴き手を本当に選ぶ。
だからこそ聴き終えた後に聴き手の心に確かな楔を打つ。だからそれせかはロックの本質だけを常に掴み続けるのだ。
■さよならノスタルジア/こうなったのは誰のせい

神戸を拠点に活動する若手ダウナー系ギターロックバンド、こうなったのは誰のせいのタワーレコード限定リリースデビューミニアルバム。
プロデューサーとしてそれでも世界が続くならの篠塚将行を迎えている事からこのバンドを知ったが、若手バンドながら既に高水準の音を完成させている。
00年代初頭頃の内省的なギターロックの空気感とマスロック・ポストロックを融合させたサウンドは残業レコード辺りのバンドの空気感と近いものを個人的に感じるが、このバンドはより痛みや後悔といった感情をストレートに歌い上げている。
目まぐるしく繰り出されるタッピングフレーズと変則的なリズム隊のグルーヴのプログレッシブなサウンドが展開されているが、そうしたテクニカルさ以上に、Vo.Gtのカイトが歌い上げる個人的感情の生々しい痛みが響く。
変態的サウンドとは裏腹に収録されている楽曲はどれも哀愁のメロディと歌が全面に押し出されており、その対比がこのバンドの魅力だ。
一寸の隙の無いアンサンブルが時にノイジーに変貌し、うずくまった感情をそのまま音にした様なサウンドは生々しいザラつきと共に美しく響き渡る。
第5曲「拝啓」の様なアコギ弾き語りの楽曲を聴くと分かるのが、あくまでも歌とメロディを軸にした上で、技術先行型ではなく表現の為のプログレッシブなアプローチをこのバンドが展開している事。
変態的なフレーズの数々も印象に残るが、それ以上に歌と言葉が脳に残るのはこのバンドの持つ内省的個人的感情としてのロックが確かなリアリティと共に確かに伝わるからだ。
鋭いサウンドアプローチの中に潜むアメーバの様に聴き手に忍び込み、気付いたら浸透し毒となり麻薬となる様なサウンドは青紫色の美しさと醜さが同居したものであり、聴き手の数だけ後悔や諦念といった感情に訴えかけて来る。
残業レコードを代表する伝説的バンドthe cabsが持っていたポストハードコアの域まで迫る鋭角の鋭さも、プロデューサーを務めた篠塚のそれでも世界が続くならの持つ見たくない事や聞きたくない事をノイジーに暴く様な生々しさもこのバンドには確かに存在している。
この生々しい痛さと重さは人を選ぶかもしれないが、今の時代だからこそ、感受性が豊かな人には確かに届く作品になっている。
00年代ギターロックが青春だった人は勿論だが、今の時代だからこそこうした音が若いリスナーに届いて欲しいと願う。
今後が楽しみなギターロックバンドが久々に登場した事が僕は嬉しい。
■delaidback/syrup16g
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT (2017-11-08)
売り上げランキング: 635
syrup16gはこれまで「delayed」、「delaydead」と未音源化楽曲の編集盤をオリジナルアルバムとしてリリースしているが、今作は実に13年振りの遅刻シリーズとなる記念すべき10枚目のオリジナルアルバムだ。
収録されている楽曲は「delaydead」リリースから解散までにライブで披露されていた大量の未発表曲の一部、シロップ解散後に五十嵐隆の新バンドとしてスタートしたが作品をリリースする事なく超短期間で解散した犬が吠えるの楽曲、2013年の実施シロップ再結成ライブとなった生還ライブの時に披露された新曲、そしてシロップ結成当初の20年前の未発表曲まで網羅した全13曲。
言うなれば音源化していない楽曲を寄せ集めただけの作品ではあるが、そこはシロップ。スピッツのB面集の様に名曲を寄せ集めただけで名盤が成立してしまうマジックがあるのだ。
収録されている楽曲の生まれた時代には実に20年近い振れ幅があるが、それでも不思議と統一感がある様に聞こえるのは五十嵐隆という男のソングライティングのセンスがシロップ結成当初から現在に至るまで全くブレていないからだろう。
本来、犬が吠えるの代表曲になる予定であった第1曲「光のような」、第7曲「赤いカラス」のシンプルなアレンジだからこそ輝く楽曲の純粋なメロディの良さ。派手な事をしていないが力強いアンサンブル。過去を現在へと変え、色褪せない輝きを放つ。
生還ライブの楽曲も2017年のシロップの楽曲として卸され、第2曲「透明な日」の染み渡るメロと歌、第5曲「ヒーローショー」の軽快さ。どの楽曲も3ピースの美学が生み出した美メロとポップネスにあふれている。
20年近く前の楽曲である第6曲「夢みたい」の歌謡曲的なメロの中に潜む粘り、第10曲「開けられずじまいの心の窓から」も生還ライブで披露された楽曲とも見事にリンクし時を超える名曲である事を証明。
特に当時からファンの間では名曲と呼ばれ解散時に音源化されなかった事を悔やむ声が多かった第3曲「star slave」は今作の中でも一番の名曲。少ないコード進行によって淡々と刻まれる吐きそうな程に美しいメロディと悲壮感はシロップの一番の持ち味であり、煌めきすら悲しく感じさせる情景を描く歌詞とメロディは必聴。
第8曲「upside down」も軽快なカッティングギターから滲み出る80年代UKロックへのセンチメンタリズムも注目すべきだろう。
そんな名曲巡りの今作のラストを飾る「光なき窓」の儚い余韻も含めシロップが持つ魅力を存分に楽しめる全13曲だ。
シロップは他のバンドに比べて未発表の楽曲が非常に多く、今回こうして一度時系列の彼方に消えてしまった楽曲を2017年に蘇らせてくれた事はファンとしても非常に嬉しい。
同時にシロップ入門編としても最適な一枚となっており、五十嵐隆という男の天才的ソングライティングセンスとシロップの3人が織りなす熟練のアンサンブルも堪能出来る。特に今作はキタダマキのベースが今まで以上に変態的かつメロディアスなベースを弾き倒しているのも忘れてはいけない。
僕個人としてはsyrup16gというバンドに関しては過去以上に今後世に生まれるであろう今の音源を楽しみにしている側ではあるが、今作を聴いて、そう遠くない内にまたリリースされるであろう新作への期待が高まったのも事実だ。
00年代以降の日本国内のギターロックに於いてsyrup16gというバンドがここまで多くの支持を今尚集め続けるのか。それは今作を聴けばわかるはずだ。
■darc/syrup16g
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT (2016-11-16)
売り上げランキング: 12,274
2016年秋の「HAIKAI」ツアーに合わせて突如としてリリースされたsyrup16gの9thアルバム。
全8曲36分とアルバムとミニアルバムの中間の何とも言えないサイズのアルバムで、ジャケもFOO FIGHTERSへのオマージュであるがそこら辺で売ってそうな水鉄砲と本気なのかふざけてるのかよくわからない感じではあるが、それとは裏腹に再結成後のシロップの新たな音を提示した名作に仕上がった。
公式でのインフォメーションでは1stアルバムである「COPY」制作当時と同じ気持ちで作られた作品とアナウンスされていたが、結論から言えば過去のシロップへの懐古的な作品ではなく、自らの原点を見つめ直した上で現在進行形のシロップへとアップロードした長年追いかけて来たファンならずとも必聴の名盤となった。
リードトラックとしてMVが公開されている「Deathparade」こそロック色の強いアプローチをしているが、残りの楽曲では派手なアプローチは全くしておらず、その点はシロップが新たなファンを獲得する気があるのかと言う批判も生んでいるが、そもそもシロップというバンド自体が外へのアプローチに必要以上に固執せず、自らの愛した音楽へのセンチメンタルな感情と五十嵐隆という男の個人的感情の吐露であるのだから、自らに素直になった結果生まれたアプローチだと僕は思う。
再結成後の「Hurt」、「Kranke」という2作品では様々なアプローチを試み、再結成後のシロップを構築している作品だと僕は感じたが、今作が持つ不穏さはシロップが持つ糖度の粘りを新しい感触で蘇らせた物だろう。
少しロウでくぐもったサウンドプロダクトもあるが、第1曲「Cassis soda&Honeymoon」の最低限の展開の中で不協和音の中の甘さで陶酔させ沈んでいく音にいきなり飲み込まれていく。
第4曲「Father's Day」の繰り返されるフレーズが徐々に轟音へと変貌しながら、決して高揚感へと導かないドープなサウンドも不思議と胸に突き刺さる。
その一方で五十嵐隆の十八番である最低限のシンプルなコード進行で吐きそうな程に甘いメロディを携えたシロップのアプローチも磨きがかかっている。第3曲「I'll be there」と第7曲「Murder you know」の2曲が今作の肝となる2曲であり、これまでのキャリアの中で築き上げたシロップ名曲殿堂の中でもトップレベルの普遍的名曲だ。
そしてラストを飾る「Rookie Yankee」のアコギと共に振り絞るように歌い上げるやけっぱちながらも前向きな言葉と音の生々しさは胸に突き刺さる物だ。
syrup16gという多くの熱狂的ファンを抱えるだけでなく、奇跡的な生還劇を果たしたバンドは他の再結成バンド以上に過去は美化され、再結成後も活動させしてくれたら嬉しいみたいな感情が生まれやすいのかもしれない。
だけど僕はシロップが再結成のアナウンスと同時に新作アルバムを引っさげてくれた事を含めて、シロップの今を支持したい。
それは過去への懐古でも焼き直しでもなく、もがきながらも自らの武器を磨き上げ、解散前という過去を焼きはらおうとしてくれているからなのかもしれない。
決して派手なアルバムではないが、シロップが持つ屈指のメロディセンスと五十嵐隆の言葉のセンスが鈍く光る今作を僕は支持したい。
80年代UKロックや日本のオルタナティブロックという自らのルーツを見つめ直したアプローチが並ぶという点は確かに「COPY」と同じ気持ちで作られた作品なのかもしれないが、15年という時を経てsyrup16gというバンドが新たな進化を遂げた事を証明している。
時流に流されず、どっしりと力強く構えた全8曲。五十嵐隆が歌うリアルは未来へと確かに向けられている。