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■Epicureans/Yumi

昨年末に来日を果たし最高に熱いライブを繰り広げたシンガポール激情系ハードコアYumiの2014年リリースの1stアルバム。この日本ではheaven in her armsとのスプリットでその名を知った人も多いのではないだろうか?今まさに勢いを増している東南アジアハードコアではあるけど、今作はそんな東南アジアハードコアの正に決定打となる名盤だと思う。日本のバンドにも大きく影響を受けているらしく、日本人好みするセンスを持っているけど、それを東南アジアから鳴らし、日本のバンドとはまた違う衝動と激情を鳴らしている。
HIHAのスプリットではポストブラックメタル×激情系なサウンドを聴かせていたけど、今作は正に王道を往く激情系ハードコアとなっている。それも現在進行形の激情とは違い、それこそ「君の靴と未来」の頃のEnvyだったりとかに代表される00年代初頭の激情系だったりとか、激情黎明期である90年代US激情だったりとか、エモヴァイオレンスだったりとか、そういった多くのバンド達の影響を受けている音だと思う。そのサウンドは斬新かと言えば違うんだけど、Yumiの音はこういった音を出すバンドっていそうでいなかったって感じだし、懐古主義のサウンドでは無くて、過去を現在へと繋げる音だから説得力がある。のっけから絶叫とエモヴァイオレンス感溢れるギターフレーズにガッツポーズな第1曲「Mountains」が必殺過ぎる。クリーントーンのパートではポストロック的な音に走らないで、ハードコアの荒い感触と美旋律をちゃんと両立させているし、こういった部分はここ最近のジャーマン激情のバンドとかに通じるんじゃねえかって思うけど、Yumiの場合はそのセンスの良さをもっと荒々しく初期衝動に溢れたサウンドで放ってくるから格好良い!!あざといメロディセンスは全編通して冴えまくっているし、それを90年代US激情らしいリフと自然と同居しているから凄い。
HIHAとのスプリットの楽曲の様にバンドの美意識と構築美を重視した第2曲「Keeley Davis」では一転してクリーントーンのサウンド主体の壮大な轟音系サウンドではあるけど、そんな楽曲でも衝動的な荒さがあるから信頼出来る。一方で第3曲「弓」はベタベタに泣きまくったギターフレーズと疾走するビートがガツンと来るキラーチューン。まるで初めてEnvyだったりとかIctusを聴いた時の様な新鮮な感動がありつつ、でも真新しい事は特別していなかったり、これはもうバンドの持つサウンドの純度の高さが為せる技だとしか思えない。第4曲「HH」もソリッドなリフと共に暴走する叫びとビートがのっけから絶頂しまくっているし、しかしメロディセンスは抜群。この猛る疾走感とエモティブなメロディセンスの見事な融合は個人的にフランスのThe Third Memoryにも通じる物があるとすら思った。
そして作品の後半はいよいよ壮大にエンディングへ。激と美が織り成すドラマである第5曲「Swarm of Wasps」の王道の壮大な激情系サウンド、今作屈指のヴァイオレンスなサウンドで咲き乱れる第6曲「Dissipate」、そして最終曲「Sound of Feeling」のアクセル全開にしまくり混沌としたサウンドで攻めながらも、The Caution Children級の美旋律を見せつけ、引きのクリーンパートからの大団円な激情のラスト。最初から最後まで完璧すぎる流れだ。
激と美が同居し、これぞ激情系と言わんばかりの王道サウンドで攻めまくり、荒々しさをしっかり感じさせながらも洗練された音。王道サウンドでありながら、バンドとしての武器の多さ、東南アジア激情もいよいよここまで来たかと思ったし、シンガポールの激情系の歴史を受け継ぎながらも、その先を行く音を生み出している。というか東南アジアだとかシンガポール云々なんて関係無いし、こんなに初期衝動に溢れながらも美しく熱いサウンドを現行で鳴らすバンドっていないとすら思う。激情系好きは絶対にマストな一枚だろう。
■Pazahora/Pazahora

今、水面下で日本でも支持を集めている東南アジアハードコアだが、今作を聴くと東南アジアのハードコアはヨーロッパやアメリカや日本とはまた違った独特の音を鳴らし、それでいて非常に格好良いバンドが多いと気付かされる。
今年、日本を代表する唯一無二のハイボルテージハードコアバンドであるENSLAVEとのスプリットをリリースし、2011年には来日を果たしているシンガポールのネオクラストバンドであるPazahoraの06年リリースのアルバム。僕自身が東南アジアハードコアに関して無知なので、このバンドの背景や、シーンについての詳細は全然知らないけど、今作にはレイジングであり、ダークであり、メロディアスな悲哀のネオクラストが存在している。
彼等のネオクラストはスパニッシュやUSとはまた違うダークさがある。全体的にディストピア感溢れ、メタルの影響ではなく、ハードコアのままネオクラスト成分を手にしたとも言える。スパニッシュのバンドとはまた違う、東南アジアハードコアの流れにあると言えるし、ネオクラストに振り切らない感覚が独自の音だと言える。ギターフレーズなんかはメロディアスではあるけど、TragedyやEkkaiaの影響を受けつつも、もっと殺伐としていて、ドロドロとした感覚。勿論、ENSLAVEやsekienがジャパニーズハードコアの影響下にありながら、ネオクラストになったのと同じで、自らの国のハードコアの流れから「ネオ」になったバンドだろう。
また彼等の特徴はそのツインボーカルだ。歪んでしゃがれたボーカルをメインに、コーラスワーク的な掛け合いでハイトーンの女性ボーカルも入り、エモティブな掛け合いを見せてくる。それが最高に堪らない。音質は案の定ロウではあるけど、それが逆に荒涼とした音を更に助長させてヘビィに感じるし、何よりもドラマティックなメロディを持ちながら、奈落へと急降下するサウンドは最高だ。割とシンプルな8ビートを基軸に楽曲は展開し、時にミドルテンポでシリアスさを更に増幅させる。第2曲「Bullshit Generators」から疾走しながらも重みを感じるビートに、メタリックなハードコア成分を持ちながらも、ズブズブとした暗黒っぷりは疾走感が強まる程に抜け出せない閉塞感に苛まれる。第3曲「Dogs Of War」も常に疾走するビートでメロディアスなギターフレーズが渦巻いているけど、もっと濃霧に包まれる様な、黒煙の様な、焼け野原で立ち尽くしている様な殺伐とした音が展開されている。第7曲「Human Error」なんかは今作でも時にドラマティックな展開を見せるのに、そこにあるのは感動的なカタルシスではなくて、胸を抉る痛みの叫びと音だ。最終曲「Profits Of Doom」のたった一分弱をオールドスクールなクラストの匂いを充満させつつも、メロディアスに駆け巡る音も最高だし、ある意味ではオールドスクールとネオを見事に繋ぐ音なのかもしれない。その絶妙なバランス感覚は狙っているのか、たまたまそうなったかは分からないけど、Pazahoraの魅力であるし、何よりもダークな激情をシリアスに投げかける彼等のスタイルは本気で支持したいと思う。
来日やENSLAVEとのスプリットもあって、日本では特に名が広まっている東南アジアハードコアだと思うけど、昔からの歴史がありつつも、洗練されない荒々しいエモティブさは大きな魅力であるだろうし、泣きに走らずに、メロディをダークさに振り分けて、黒炎を燃やし続けるPazahoraのネオクラストは他の地域のネオクラストと違った大きな魅力があるし、世界各地に散らばるネオクラストの遺伝子を、また違う形で進化させたバンドだと言えるだろう。ネオクラスト好きは勿論だけど、オールドスクールなクラスト好きや、メタリックなハードコアが好きな人や、ダーククラスト好きにも受け入れられるであろう作品。
■Split/heaven in her arms×yumi

国内激情最高峰として名高いheaven in her arms。2ndアルバム「幻月」以降は精力的に海外でもライブを行っていたりする彼等だが2012年に入ってリリースされた新音源はシンガポールの激情系ハードコアバンドであるyumiとの7インチスプリットであり、今作ではそれぞれが1曲ずつ提供する形となっている。プレスは300枚限定。そしてそれぞれがあまりにも美しい激情を見せてくれる1枚となった。
まずheaven in her armsは「白夜の再結晶」という新曲を提供。昨年リリースされたAussitôt Mortとのスプリットではかなりカオティックハードコアに振り切れた楽曲を提供していたが、この「白夜の再結晶」はHIHA至上最も美しい1曲と言って良いかもしれない完成度を誇っている。スケールの大きさは2ndである「幻月」の流れを受け継ぎながらもピアノの音をフューチャーし、歪みながらもクリアで美しい音色が交錯し、楽曲の後半まではケント氏はポエトリーリーディングを披露。徐々に歪む音色がスケールを加速させシューゲイジングして行く様は彼等の名曲である「赤い夢」を彷彿とさせるけれども、ケント氏がハイトーンのシャウトを見せた瞬間に、それらの音が光を描く轟音としてタイトルに相応しい美しい純白の結晶を生み出していく。驚きなのが今までは徹底して赤黒い闇の中から美しさを見せていたHIHAがここまで光を感じさせる楽曲を生み出したっていう点だ、相変わらず楽曲その物はシリアスではあるけれども、歪みながらも3本のギターが持つ輝きが反射し合っている様のスケールは圧倒的だ。だからこそこれから先にリリースされるであろう3rdアルバムが非常に楽しみで仕方が無い。
一方のyumiであるが、僕は今作で初めて彼等の存在を知ったのだけれど、激情系であると同時にポストブラックメタルを感じさせるトレモロリフと叫びは中々にダークで良い。トレモロリフの洪水から始まりつつも、静謐なパートもしっかりと盛り込んできたり、その旋律は紛れも無く激情系ハードコアのそれには間違いは無い。そしてそこから暴発するパートへ突入するカタルシスは中々の物がある。DeafheavenやGottesmorderみたいにポストブラックの中から激情を感じさせたり、Coholみたいなブラックメタルを前面に出しながらの激情とは違って、あくまでも激情系ハードコアのフォーマットの中でポストブラックの色をアクセントに加えているといった感じの印象だ。だからこそストレートに悲壮感が伝わってくるし、同時にそのダークさを粗暴なハードコアとして鳴らしつつもスケール感を同時に演出も出来ていたりする。これは予想外に良いバンドだったと思うし、これからも色々チェックしていくつもりだ。
たった2曲入りの7インチではあるが、どちらも素晴らしい激情系ハードコアを聴かせてくれる1枚であるし、今作にはダウンロードコードも付属されているからレコードプレイヤーを所持してない人にも是非とも手にとって欲しい作品だと思う。正直に言うとHIHAの新曲目当てで今作を購入したが、HIHAは新たな進化を感じさせる必殺の1曲を提供しているし、yumiも近年東南アジアで地味に盛り上がり始めてる激情系ハードコアシーンの真髄を感じさせるナイスな1曲を提供したと思う。それぞれのバンドの今後のアクションには是非とも期待したい限りだ。