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■老人の仕事/老人の仕事

現在各所で大きな話題を呼んでいるドゥーム/ストーナートリオこと老人の仕事の自主制作にてリリースされた1stアルバム。
全3曲ながら収録時間は30分弱と濃密なドゥーム絵巻に仕上がっている。
killie、johann、CxPxSのメンバーにより結成され、当初は「老人」名義で活動し、2017年末に「老人の仕事」へとバンド名を変え、今作をリリース。
メンバー全員ライヴでは毛むくじゃらな布で全身を覆う衣装とバンド名のみならずヴィジュアル面でもインパクトのあるバンドだが、その音楽性はSleepへの日本からのアンサーと呼ぶべきヘヴィロックだ。
メンバーの儀式めいた呻き声ボーカルなんかも入っているが基本はインスト。時にはフルートの音も入れていたりするのだが、3ピースのシンプルなバンドアンサンブルの強靭さにまず驚く。
和音階を取り入れたりしつつも、それぞれの楽器隊のフレーズそのものは実にシンプルで、ギミックは何一つない。しかし音の一発一発が異様にヘヴィで強烈。
リフとグルーヴのみで聴き手の原始の本能を呼び起こし、脳味噌をトランス状態へと導く。
ヘヴィでスロウなサウンドのみならず、ダイナミックなロックンロールすら感じさせ、ドゥーム/ストーナーの領域だけで語れない不思議なサウンドを放つ。
特に素晴らしいのは第3曲「翔んでみせろ」。人間は太鼓の音を聴いたら踊りたくなるといったレベルまで肉体的本能に訴えるグルーヴ、繰り返されるリフが宇宙を手に入れろと言わんばかりに飛翔し、異次元体験の世界へと誘う。
余計な理屈抜きに、その音だけで聴き手をロックしダンスさせる。「ロックなんてそれで良いんだよ!!」と言わんばかりに、曲名通り翔んでみせている。
そのバンド名やヴィジュアルのインパクトも凄いが、老人の仕事はSleepへの愛を愚直なまでにロックンロールにしたバンドだ。
楽曲の中にメッセージや言葉は存在しないが、音楽が持つ原始的な可能性を提示し、狂騒へと導く。
ヤバくてぶっ飛んだ音楽の前ではアルコールもドラッグも必要ない。その音に身を委ねて翔んでみせたら良いだけなのだ。
ヒリヒリした緊張感の中で冷や汗を流し、早くなる心臓の鼓動と共に踊り狂いたくなる。危険極まりない音楽がそこにある。
■HEART OF EVIL/GUEVNNA
LongLegsLongArms Records (2016-10-21)
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ex.CoffinsのボーカリストであるRyoを中心に2011年に結成されたアーバン・ストーナー・ロックバンドGUEVNNAの2016年リリースの1stアルバム。
国内外問わずに激情系ハードコア/ネオクラストの音源をリリースする3LAからリリースされた事に驚いた人も多いはず。
当初はスラッジ要素の強い楽曲中心だったが、前作EP『Conspiracies』からその音楽性を大きく変えている。
今作は前作EPにて新たに提示した路線をさらに突き詰め、アーバン・ディスコ・ストーナーを色濃くアピールした快作だ。
ストーナー/スラッジ要素は今作でも確かに残っているが、今作でより際立つのはダンサブルなビート。
BONGZILLAテイストもしっかり感じさせつつ、ツインギターのリフとリードの絡み、土臭さあふれるフレーズなのに不思議とバンドが提示するアーバンな空気を堪能させてくれる。
タイトル曲となっている第3曲『Heart Of Evil』は4つ打ちのビートで踊らせるグルービーさとリフの煙たさが不思議なバランスで共存。アッパーでダイナミックな音に自然と体が動く。
第5曲「Parasitic」に至ってはよりダンサブルな要素を全面に押し出し、サビのボーカルとリフの掛け合いの所に吉幾三風味の合いの手を入れてしまっても違和感のない、日本人好みするダンスビートのディスコチューンだ。
また単にダンサブルな曲で攻めるだけで終わってないのも今作の注目すべき点。第4曲『Last Sleep』はスラッジ色の強いドープな一曲で、聴き手をズブズブと沈めていく。かと言ってエクストリームには絶妙に振り切らないバランスで楽曲が成り立つのは、楽曲そのものの練り込みがなせる技だろう。
ガッツリとストーナーに疾走する第7曲『Daybringer』からブルージーなフレーズの哀愁に酔いしれたと思えば、最後に今作一番のヘヴィなサウンドで爆走するカタルシスで締めくくられる第8曲『Burn』まで聴きどころがたっぷり。
ストーナー/スラッジといったエクストリームミュージックを大胆にアッパーに変貌させながらも、それらの音楽に対する敬意も忘れないバランスで成り立つヘヴィ・ロックはこれまでありそうでなかった物だろう。
また今作には歌詞カードこそ付いてないが、全8曲それぞれの楽曲をイメージしたアーティストANUSTESの手によるアートワークカードが付属しており、音だけでなくヴィジュアル面でも聴き手を楽しませてくれる。
都会の夜の情念と狂騒をストーナー・ロックから表現した大胆でありながらも妖艶でいてポピュラーな一枚だ。
■SUNDAY BLOODY SUNDAY/SUNDAY BLOODY SUNDAY
Fixing A Hole 販売:密林社 (2016-11-30)
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10年以上に渡り活動を続ける埼玉の3ピース・オルタナティブ・ロックバンドSUNDAY BLOODY SUNDAY(以下SBS)の2016年リリースの1stアルバム。
リリースから既に一年近く経過しているが、数多くの人が2016年のベストリリースに挙げる名盤となっており、SBSの名前を一気に世に広めた作品である。
バンド名から僕は真っ先にU2が思い浮かんだが、彼らが鳴らすのは90年代グランジ/エモを軸に、ストーナー・ロックなどのヘヴィ・ロックのテイストを加えた物となっている。
確かにサウンドスタイルとしては00年代以降のテイストは薄く、人によっては懐かしさを感じさせるものではあるが、単なる懐古主義なバンドでSBSは終わらない。
今作を代表するキラーチューンである第2曲『Still Spins』を聴けば、SBSはスタンダードなオルタナティブ・ロックを鳴らしながら、未来へと向けてその音を放つバンドだと分かる。
ヘヴィな煙たさを放つリフ、ミドルテンポで重心が効いたリズム隊のグルーヴ、そこに乗るギター・ボーカル冨永氏の歌は透明で情念あふれる伸びやかな物だ。
リフから想起させられる郷愁のグッドメロディ、歌とギターリフがシンクロし、確かな泣きとして聴き手の感情を揺さぶる。
個人的にNIRVANAやALICE IN CHAINSといったグランジバンドが大好きなので、SBSのサウンドスタイルはドンピシャに刺さるが、それらのバンドが持つ湿り気やダークさだけがSBSの持ち味ではない。
SUNNY DAY REAL ESTATEといったバンドの持つきらめきのエモーション、さらに初期BLACK SABBATH的なヘヴィ・ロックの源流をくみ取り、メインストリームからサブジャンルまで飲み込みながら、ポップネスとエクストリームの隙間を突き刺すSBS節を完成させている。
歌詞こそ全曲英詞であるが、彼らのライヴでサビを一発聴いただけで、観る人をシンガロングさせてしまう様な歌心こそSBSの一番の武器だろう。
第8曲『Don't Know Who I Am』は個人的に今作のベストトラック。流れゆくギターフレーズと歌が心の奥底まで染み渡り、力強く羽ばたく名曲となっている。
ヘヴィネスを保ちながら黒さだけではなく、多彩な色彩を描き歌うSBSは、時流や流行り廃りを越えたスタンダードミュージックである。
マニアックな音楽愛があるからこそ、それらを不変のオルタナティブ・ロックに帰結させたSBSの手腕に軍配だ。
力強いグルーヴとギターリフ、そして泣きのメロディと一発で耳に残る歌。それらのシンプルな要素だけで高らかに青空へと駆け上がる音楽を作り上げている。
今作は現在だけでなく、未来へと語り継がれる一枚となるだろう。3ピースの一つの理想形として、全音楽好きへ突き刺さる名盤だ。
■Conspiracies/GUEVNNA

ex.CoffinsのRyo氏率いるストーナーロックバンドGUEVNNA。今年に入ってex.屍・VektorのTemi氏も加入したが、そんな彼等の初の単独音源である1stEPが今作だ。歌詞カードこそ無いけど、アートワークが凝っていて収録されている4曲それぞれをテーマにしたアートワークも注目だけど、これがこれ以上にない位にロックな作品になっている。既存のストーナー・ドゥームとはまた違ったアプローチを展開しながらも、それでも言うまでもなく煙たい音ばかりが充満している。
BongzillaやIron Monkeyといったバンドの影響を受け、それらのバンドへの愛を感じさせるサウンドでありながら、今作は所謂ストーナー・ドゥームとは全然違う作品である。ストーナーとして見ると爆走ブギーサウンドじゃないし、ドゥームとして見ると極端にヘビィに振り切っている訳じゃない。基本的にミドルテンポで曲は進行しているし、リフやグルーブはどこまでもヘビィだ。しかし同時に純粋なロックバンドな間口の広さがあって、極端にヘビィさやドラっギーさやダークさに振り切るんじゃなくて、どっしり構えた骨太のミドルテンポサウンドを活かし、良い塩梅の重さのリフだったり曲の完成度の高さで勝負しているといった所だろう。特にバンドのグルーブはかなり気持ちよくて、引きずった音でありながら解放された音は純粋に気持ち良い。個人的にはストーナーやドゥームだけじゃなくて、古き良きグランジサウンドにも通じる物を感じるし、バンドがそこら辺を意識しているかどうかは分からないけど、この煙たく重く、でもカラッとしていて純粋にロックなサウンドはグランジ的だと思うのだ。
第1曲「Conspiracy」の冒頭から煙たく思いギターリフとリズム隊のグルーブでグイグイ引き込んでいくサウンドが展開されるも、そこから躍動感溢れるストーナーサウンドが展開される。それも爆走ロックサウンドとは違って、あくまでミドルテンポなビートでのっそりと疾走する矛盾したサウンドを成立させてしまっている。それはどこかダンスミュージック的グルーブでもあり、極端に速くも無いし、遅くもない。音もあくまでもロックサウンドの中でのヘビィさで、チューニングの重さじゃなくて一番重く聞こえる音階を使ったリフを使っているからだろう。本質としての「ヘビィ」さを熟知しているからこそ生み出せるサウンドだと思うし、Ryo氏のボーカルもCoffinsとは全然違ったストーナーロック愛に溢れたボーカルを聴かせ、それが滅茶苦茶格好良い!!何よりも曲そのもののキャッチーさが素晴らしいし、確かにヘビィではあるけど、そういった音楽を全然聴かない人でも、もしかしたら音楽を全然聴かない人ですら拒絶反応起こさずに受け入れられるであろう普遍性があるし、でもやっぱりストーナー・ドゥーム好きのフリークスからは「これでしょ!!」って絶賛されるサウンドだ。
第2曲「Confession」は正にキラーチューンであり、2本のギターが充満し走りまくる気持ちよさと、リズム隊の少し粘っこくてコシの強いビートが炸裂。中盤のBPMを落としたパートではより重くなっているのに、でもあくまでもロックなサウンドであり続けている。音こそドゥーム・ストーナー好きに受け入れられる音なんだけど、個人的に実はドゥーム・スラッジ感はふりかけ程度のエッセンスなんじゃないかなって思ったりもする。所謂ドゥーム・スラッジの密教性が今作には全く無いし、今作で提示しているのは自然体なロックサウンドの中での開放だと思うし、それこそアートワークも含めたらある種の全ては明らかにはしないけど、その世界観を分かりやすく提示しているのかもしれない。その捉え方も人それぞれであるし、「病み」だとか「暗黒」といった部分がテーマじゃなくて、もっと普遍的な「何か」をこのバンドはテーマにしているのかもしれない。第3曲「This Mortal Grace」なんて映画のBGMにも全然使えてしまうんじゃ無いかっていう気持ちの良いロックサウンドだし、Old School Discoにもバンドは影響を受けているらしいが、極端に速くない自然体な速さでのグルーブはそこから来ていると考えたら納得だ。第4曲「Deathbed」は今作でも特に濃密なグルーブに溢れていて、リフの反復といった要素もありつつ、でも終盤のギターソロは激渋であり、最早渋い男達のロックとして全然成立すらしていると思う。でもグランジ的グルーブもあり、それでいてディスコサウンドやストーナーといったグルーブもあり、それを最も普遍的な形でロックに落とし込んでいるのだ。流石である。
既存のストーナーでは無く、またドゥーム・スラッジ方面に振り切るのでは無く、開放的でキャッチーでノレるサウンドを提示したGUEVNNAはストーナーからロックの新たな可能性を今作で提示したと思うし、ヘビィさに頼らず、でもやっぱりヘビィなグルーブで、もっと間口が広く普遍的でありながらより濃厚な全4曲はバンドのオリジナリティと熟練の渋みが光りまくっている。来年には1stフルアルバムもリリース予定らしいし、そのフルアルバムでは今作で提示したサウンドが更に進化していると思うし、より普遍的で独創的なGUEVNNAのストーナーサウンドがどうなっていくか本当に楽しみである。
■NOISE/BORIS
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遂に出た。「NOISE」である。ヘビィロックを基点に全ての音を縦断する変幻自在であり孤高であり最果てのバンドであるBorisの2014年リリースの最新作。ヘビィロックサイドの大文字名義では実に6年振りのリリースである。昨年は小文字名義のborisでのリリースや昨年から今年頭にかけての精力的な日本でのライブ、勿論世界レベルで評価されるバンドとしてのワールドワイドな活動と本当に止らないバンドだけど、遂に決定打と言える作品をリリースしてしまった。リリースは国内盤CDはエイベックス、アナログ盤はDaymareからで、エイベックス盤にはボーナスディスク付。
Borisはこれまでの多数の作品をリリースし、その形骸を嘲笑う自由過ぎる変化と進化の軌跡を進んできたけど、今作NOISEはBORIS名義の作品でありながら、ヘビィロックサイドに留まらずboris名義での要素を持つ楽曲も普通に存在するどころか、これまでのBorisを総括する作品であり、しかしただ総括するんじゃなくて、散らばりまくった点を一つにせずにそのまま「NOISE」という箱にブチ撒け、そしてそれを最新の形で進化させたのだ。2011年にリリースされた3枚のアルバムは本当に大きな驚きに満ちていたし、特にJ-POPからエクストリームミュージックを奏でた「New Album」のインパクトは相当だったけど、「New Album」同様に成田忍氏がプロデュースした今作は「New Album」が一つの実験であるなら、今作はこれまでリリースした膨大なる作品が持つそれぞれの実験の結果の再検証であり、同時に発表であり、実験を踏まえた上での実践であり、そしてそれらを散らばったままヘビィロックとして鳴らし、結果として非常にBorisらしい総決算的な作品に仕上げたと思う。本当にこのバンドの触れ幅の大きさやアイデアの多彩さは驚くしかない。
今作はこれまでのBorisをほぼ網羅した作品であり、収録されている8曲が見せる音は完全にバラバラだ。しかしどこを切っても存在するのはBorisにしか生み出せなかった音だし、それぞれの楽曲がこれまでの作品の焼き直しや再利用では無く、これまでの作品を完全に通過させる事によって全く別の次元へと到達させた作品だ。言ってしまえば「flood」も「PINK」も「New Album」も「feedbacker」も「Heavy Rocks」も今作にはあるし、同時にその過去の作品は存在すらしていないのかもしれない。全曲が必然的にそれらの作品の新たなる息吹であり、長い実験とリリースとライブを重ねて生み出した終着点であり、そして次の出発点なのだから。そう考えると今作は「NOISE」というタイトル以外を受け付けない作品だと思うし、あらゆる音の混迷と、ヘビィロックが放つ幾多の音の色が混ざり合った得体の知れない「何か」。そうかそれがBorisが生み出すノイズなのか。
先ずそのタイトルに驚かされる第1曲「黒猫メロディ」は「New Album」で見せたポップネスが生み出すエクストリームミュージックの最果てであり、冒頭のV系ライクなギターフレーズなんかモロ過ぎて最高だけど、「New Album」と明らかに違うのは、サウンドプロダクトを小奇麗に纏めていない事だ。「New Album」に収録されているポップネスの極限を生み出した「フレア」と違うのは、曲自体は「フレア」同様にBoris流のポップスやらギターロックへの回答であるのだけど、音質はハイファイな音じゃなくて、確かな歪みを感じさせるし、ヘビィなリフが音の粒子を拡大させ、轟音として轟いているし、中盤のギターソロは最高にストーナーでサイケデリックだ。ポップさとヘビィさとサイケデリックの融合であると同時に、それらの音楽が持つ高揚感の極限のみを追求した音は最高に気持ち良いんだけど、歪んだサウンドが聴き手の耳に残り続け、中毒成分として残り続ける。一方で第2曲「Vanilla」は02年にリリースされた方の「Heavy Rocks」に収録されている楽曲を彷彿とさせるギターリフから始まりながらも、ポップで煌きに満ちた音像であるし、曲自体はこれまでのストーナー色の強く爆音でブギーするBORISとしてのヘビィロックの王道の楽曲であるけど、同時にこれまでに無くポップな高揚感がサイケデリックで宇宙的なサウンドで鳴らされているから、全然印象が違う。ポップネスからヘビィロックへ、ヘビィロックからポップネスへ。冒頭の2曲は起点が全然違うけど、その起点同士はすんなりと線として繋がるし、もっと言ってしまえば凄くシンプルに最高に格好良いヘビィロックでしか無いのだ。
ヘビィロックサイドの音から一転して第3曲「あの人たち」はアンビエントとサイケデリックな音像による揺らぎの音像。くぐもった音像でありながら、一つ一つの音の音圧は最初から凄まじく、これまでにリリースした「flood」や「feedbacker」の系譜の楽曲だけど、冗長さを完全に削ぎ落とし、同時にアンビエントな轟音でありながら、非常に歌物な曲に仕上がっていて、ここ最近の作品でもあったborisとBORISの融合と言える楽曲でありながら、ドゥーミーな轟音とアンビエントの融合であると同時に、それを普遍的な歌物の感触すら感じさせるのはBorisの大きな成果だと思う。wataがメインボーカルの第4曲「雨」は更に極端に音数を減らしながらも、更に揺らぎ歪んだ轟音の壁すら目に浮かび、それをあくまでも6分と言う枠組の中で、アンビエント方向に振り切らずに、焦らし無しの轟音と歌が生み出す、美しいメロディが飛び交うパワーアンビエントの一つの到達系だと思う。第5曲「太陽のバカ」はまた一転してロッキングオンライクなポップな曲だけど、ギターの音作りがもっとヘビィだったり、もっと奥行きのある感触がやたら耳に残る。SUPERCAR辺りがやっててもおかしく無い位に普遍性に満ちた曲なのに、それすらもborisというフィルターを通過させると独自の捻れが生れるのは本当に面白い。
そして決定打とも言えるのはこれまでライブでも演奏していた第6曲「Angel」だろう。20分近くにも及ぶこの曲は、ここ最近のBoris名義での大作志向の壮大な音像が生み出すサイケデリアの究極系であり、同時に痛々しく胸を抉る最強のエレジーだ。物悲しく、荒涼としていて、痛々しいwataのアルペジオの反復が終わり無く続き、ビートも極端に音数を減らし、本当に隙間だらけの音な筈なのに、その隙間を感じさせない。そこに歪みまくったギターが薄っすら入り、そこから轟音のヘビィアンビエントになり、青紫の轟音の中で、ただ哀しみを歌うTakeshiのボーカルが本当に胸を打つ。ストーナーやドゥームといった要素を強く感じる音作りなのに、深淵の深遠へと聴き手を導く、内側にも外側にも放射される悲しきヘビィネス。特に曲の後半は本当に神々しくて泣けてしまうよ。
そんな空気をまたしてもブチ壊すのが第7曲の「Quicksilver」で、これは完全にBorisの最強のアンセムであり、同時に「Pink」に収録されている「俺を捨てたところ」の更に先を行く最強の進化系だ。ドラムのカウントから、せわしなく刻まれるギターリフと性急なDビート、本当に久々にシャウトをガンガン使いながらも、ここ最近のアニソン・V系ライクなBorisを感じさせるメロディ、Borisがずっと持っていたヘビィロックとアニソン的メロディセンスの融合という点を、再構築して生れたのがこの「Quicksilver」だし、彼等がここまでストレートにアンセムを作り上げた意味は本当に大きい。「Quicksilver」は間違いなくここ5年程のBorisを最高の形で総括した名曲だ。とおもったらラスト数分は極悪すぎるドゥームリフによる暗黒ドローンをアウトロにしているし、その落差が自然になってしまうのもBorisなんだと改めて実感した。最終曲「シエスタ」の約3分のアンビエントの静謐な美しさで終わるのも、やっぱりBorisらいいと思う。
そしてエイベックス盤のボーナスディスクは、今回「NOISE」という枠組みから外されてはいるけど、また別の視点のBorisを味わえる内容で、Borisが提供したタイアップ曲中心に収録されている。Borisらしいパワーアンビエントさと、繊細で静謐な美しさが光り、地獄の様な歪んだ音像と対比を織り成すインスト曲「Bit」、「New Album」の「フレア」の路線を更にポップに突き詰めて、完全にBoris流のヘビィロックJ-POPと化した青き疾走「君の行方」、ストーナーロックと90年代V系が衝突してしまっているのに、そこをポップさで落としつけた、こちらもポップなBorisの進化系「有視界Revue」、昨年リリースされた「目をそらした瞬間」の再発CD-BOXの新録音源として収録されていた「ディスチャージ」の新verと、この4曲もそれぞれの楽曲が「NOISE」という作品を補足しつつも、強烈なインパクトを持つキラーチューンばかりだ。
これまでその全貌を決して明確にはしないで、常に聴き手を嘲笑ってばかりいたBorisがここまで素直にこれまでの自らを見直す作品を作るとは思っていなかったし、これまでの膨大な作品を完全に一枚のアルバムに落とし込んだ。でもそれによってBorisの姿がやっと掴めるかと言ったら、それは完全に大間違いで、今作の音は進化系でありながら、脱ぎ捨てた蛹な気もするし、常に人を置き去りにしかしないBorisならではの置き土産なのかもしれない。今後、このバンドがどうなるかは結局想像なんて出来ないし、そんなの本人達ももしかしたら知らない事かもしれないけど、総括する、一つの点にするのではなく、散らばらせたまま、それをそのまま新たな枠に取り込み、それぞれの楽曲が反発しながら新たな調和を生み出す。その不自然さと自然さこそがもしかしたらBorisが提唱した「NOISE」なのかもしれないし、そんな歪みすら超えて、ただ単純に最高のヘビィロックアルバムだと思う。俺はこれを待っていたんだ!!