■タグ「ドラムンベース」
■Ghost/The Third Eye Foundation
![]() | Ghost (1997/04/22) Third Eye Foundation 商品詳細を見る |
ブリストル音響派の代表格であるTTEFの97年発表の2nd。TTEFと言えば徹底して陰鬱な音を選び、精神を蝕む様な音を奏でているが、初期作品の今作でもその軸は全くと言って良い程ブレが存在していないし、アブストラクト・ドラムンベースを機軸に作られた音もこの頃から健在である。今作はノイジーかつヒステリックな音も多数使用しており、それが耳を劈くストーナーさも生み出し、正に負の方向に振り切れた徹底したダークサイドミュージックだ。また私生活でもパートナーだったFOEHNもゲストで参加している。
音響とドラムンベースを軸にしたビートと終わり無く鳴り響くダークノイズとサンプリングされたくぐもった不気味な声が織り成す狂気の入り口といえる第1曲「What To Do But Cry?」から今作の刺さる様な音が幾重にも交錯していく。使われてる音が全く以って快楽を刺激する音とは真逆な神経を切り刻むかの様な音ばかりだ。第2曲「Corpses As Bedmates」では鳴り響くノイズがサイケデリックかつストーナーな感触まで生み出している。今作はノイジーな音が多く使用されているが、それらを過剰なまでに重ね合わせ深遠さを加速させるだけでなく随所でのサンプリングの音も精神を蝕む様に鳴らされているし、耳に優しい音なんて全く存在していない。しかしそれらは不快さを感じさせる音ではなく聴き手の不安を煽る精神へと入り込んで行く音なのだ。ビートの作り方や変化のさせ方も巧みで、同じ音を反復させる手法を取っても退屈には感じないし、音圧とビートを巧みに操り楽曲を変化させていく。しかし全くドラマティックな要素を感じさせず冷徹な音像がおぞましいままに表情を変えていく悪夢の様な変化だ。更にはどこかゴシックな耽美さをも孕んだ音色も多く、それらの要素が重なり合い破滅的な美しさを描くTTEFの絶望としての音楽が完成している。一つ一つの楽曲で全く違う音を展開しながら統率されたビートの構造と陰鬱な世界観も徹底しているし、ダークアンビエント的手法を取った楽曲も今作にはある。何よりも終盤2曲の流れは特に素晴らしく第7曲「Ghosts...」のゴシックさと振り下ろされるビートの無慈悲さが奈落の底へと突き落とす様から第8曲「Donald Crowhurst」の子守唄の様でもありレクイエムの様でもある反復するオルガンの音色が自らの漆黒に静かにピリオドを打つ壮厳さは本当に美しい。
僕は目下最新作である「The Dark」にてTTEFの存在を知りその音に触れた人間であるが、Matt Elliotの暗黒の美学とビートの哲学と徹底してダークかつ耽美な美意識が表れた音は初期作品でも全くブレる事無く存在している。それに加えてノイジーかつストーナーなダークノイズはサイケデリックへと到達し、より神経レベルの精神を蝕む音へとなっている。だがそこにある音は陰鬱であるが故に甘い陶酔感に溢れている。仄暗い水の底へと引き摺り込まれる様な音、今作でもTTEFの美意識と暗黒世界は何もブレちゃいないのだ。
■The Dark/The Third Eye Foundation
![]() | The Dark (2010/11/08) Third Eye Foundation 商品詳細を見る |
Matt Elliot率いるブリストルの暗黒音響系ユニットであるThe Third Eye Foundation(以下TTEF)の実に10年振りになる2010年発表の作品。ドラムンベースやダブステップのビートを基調に、徹底してダークな音のみで楽曲を構成し、耽美な美しさを持っていながら終わりなき絶望の精神世界を絶対零度の残酷さで描く文字通り暗黒絵巻となっている。
複雑で重苦しいビートがまず全編に渡って渦巻いており、そこにチェロやヴァイオリンによって生み出される厳格でありながらくぐもったまま絶対零度を保ち温もりなど全く存在しない暗黒世界の基盤が完成されている。不気味な声をサンプリングし楽曲に乗せる事によって、その音の世界に人間の奥底で黒く蠢く絶望の感情が響き渡っている。緊張感を持つ旋律は、聴き手に戦慄を与え続け精神を蝕み続ける物になっているのだ。終わり無く繰り返されるドローンな音は徐々に視界を黒で塗りつぶしていき、神秘と幻想のダンスを繰り返しながらも甘美な奈落に誘う悪夢の様だ。
特に第3曲「Pareidolia」の悪夢の様に繰り返される冷徹な音が徐々に加速し破綻していく様と、第5曲「If You Treat Us All Like Terrorists We Will Become Terrorists」の不協和音が聴き手を犯し、暗黒ドラムンが加速し、煉獄の冷たい炎が燃え盛る様に終わっていく様は圧巻の一言。この世のあらゆる負の感情を増幅させていきながら、快楽的な音になり、その甘い蜜に誘われた先は光すら存在しない怨霊渦巻く美しき地獄だ。そしてそれは恐怖感を煽り増幅させてゆきながらも、抜け出したくても抜け出せず、やがて抜け出したくなくなってしまう危険な世界だ。
全編で漂う緊張感もさることながら、徹底して貫かれたMatt Elliotの暗黒の美学の奥深さは神経レベルで今作から伝わってくるし、全てを燃やし無に還す悪魔が今作には存在している。麻薬の様に甘い世界は唯一無二であり、複雑に絡み合う音は漆黒を貫いた物だ、この暗黒は僕達を待ち構え、その入り口に立った瞬間ブラックホールの様に飲み込んでいく。紛れも無い黒の音楽の到達点だ。