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■パンクの鬼/The Gerogerigegege

80年代後半から活動し、ノイズ界の異端児の中の異端児としてカルト的人気を持つ山之内純太郎によるThe Gerogerigegege(ゲロゲリ)の90年発表の作品。今作はまず参加しているメンバーのクレジットが山之内以外は「死にました」になっているというふざけたクレジットがされているが、全75曲という曲数、全曲大体30秒程で1分超えの楽曲は1曲も収録されていないという構成、そして蛭子能収の手によるジャケ等全てがガチのぶっ飛び具合だ。
先ず今作はライブ音源であり山之内によるライブ告知のMCもしっかり収録されていたりするのだが、全曲に共通して言えるのはタイトルを叫ぶ→「ワンツースリーフォー!」のカウント→30秒程のノイジーかつパンキッシュな演奏→次の曲、といった本気で馬鹿過ぎる構成。山之内が叫び、ノイジーかつ性急な演奏を繰り返すだけの作品なのだ。しかも何故かThe Doors、The Rolling Stones、The Cure、果てのは何故か三原順子、ダウンタウン・ブギウギ・バンドのカバーまで収録されているという謎っぷりだが全くカバーなんかしておらず前述の通りパンキッシュかつノイジーな超ショートカットチューンをブチ撒けるだけといった物。しかしその曲名が大体酷いのだ。特に秀逸なのを挙げるとするならば、「サザエさんとマスオのSex」、「タラちゃんのオナニー」、「戦メリ3分なめとんのか」、「マリオ80万点」なんかだ。ここまでの説明で大体今作の音についての説明は終わってしまったが、ここにあるのは全75曲にも及ぶ全力の初期衝動オンリーの正にパンクロックだ。演奏がグチャグチャでノイズまみれだろうとタイトルを叫び、力の限りのフォーカウントを決め、そしてあっという間の演奏、。それが75曲ノンストップで続くカタルシスは相当な物であるのは間違いない。
今作は言ってしまえばスカムパンクの作品であり、ぶっちゃけてしまえば特別聴く必要なんか全然無い作品だ。しかし大真面目に大馬鹿そのものな手法で山之内は自らの初期衝動を全力でブチ撒ける。本当に初期衝動オンリーなその姿勢は正にパンクの鬼でしか無いのだ。演奏技術も計算も構成だとか展開も、小細工なんか全て捨ててその一瞬を突っ走って行く様は本当に胸が熱くなる。その初期衝動だけで今作は最高に格好良いパンクロック作品なのだ。特別聴く必要は全然無いけど、ただその初期衝動は自分の胸にあるパンク魂を確実に熱くしてくれる。そんなパンクロックしか今作には無い。だから最高なのだ。
■ADK/あぶらだこ
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孤高のハードコアパンクバンドであるあぶらだこのADK在籍時の最初期の音源をコンパイルした編集盤である今作は、あぶらだこがまだ髪を立て、真っ当なハードコアパンクをやっていた頃の音が聴ける作品なのだが、一般的な奇怪なあぶらだことは違ってストレートなパンクサウンドが今作には詰まっている。しかし、そこはあぶらだこ。ストレートなパンクをやっても何処か奇妙な感覚はあるし、この頃からあぶらだこは異質な存在であった事が今作を聴けば分かると思う。
まずこの頃からヒロトモにしか出せない独自の奇妙なボーカルは確かに存在している。第1曲「ランニングハイ」はストレートなパンクナンバーであるが、それとヒロトモのボーカルは奇跡的にマッチし、どことない奇妙な歪みを感じることが出来るだろう。また今作はあぶらだこ云々を抜きにして純粋にハードコアパンクとして必殺の楽曲ばかりが揃っているので、ジャパニーズパンクの格好良さも十分に楽しむことも出来るのは間違いない。キャッチー極まりない第3曲「エルサレムの屈辱」なんて単純に格好良いパンクナンバーだし、第7曲「米ニスト」と第8曲「クリスタル・ナハト」なんてパンクらしい初期衝動と瞬発力とキャッチーさに満ちているのに、あぶらだこにしかない独自の不穏さもしっかりと出ているのがまた素晴らしいのだ!
しかしそのパンクの範疇から外れた曲もやはり存在しているのもまた事実だ。不穏さ極まりないダークなポジパン曲である第6曲「原爆」はあぶらだこの狂気に満ちているし、第12曲「童愚」なんてくぐもったインプロ風のサウンドにヒロトモの呻き声の狂気しか無い奇声のみが乗るという謎の1曲だ。最初期からこんな狂った楽曲とストレートなパンクナンバーの両方を鳴らしていたあぶらだこはやはり異端だったのではないか。そして第14曲「OUT OF THE BODY」はこれ以降のあぶらだこに通じる悲しみに満ちたダークさを持った楽曲。そして以降のあぶらだこは前人未到の孤高の世界に旅立ち、誰も追いつけない歪みまくったハードコアパンクを展開するのも頷ける。
まだ覚醒する前のあぶらだこの音源集であるが、普通にジャパニーズパンクの名盤だと僕は思うし、この頃からあぶらだこにしかない奇妙な歪みと不穏さは確実に存在していたのだ。そして以降のあぶらだこは完全なる孤高。日本が生み出した誰にも真似出来ない世界を作り上げた最強のハードコアパンクの初期衝動が今作にはある。そしてやはりあぶらだこはあぶらだこでしかないし、誰もあぶらだこの代わりになんてなれやしないのだ。
■タコ/タコ
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先日の待望の再発も記憶に新しい山崎春美率いる80年代を代表するカルトユニットの1stアルバム。先ず参加メンバーが本当に凄まじい。坂本龍一、町田町蔵、遠藤ミチロウ、佐藤薫etcと奇才達が山崎の元に集結している。そして作品として本当に未整合な混沌とした物だ。パンク・ファンク・フリージャズ・歌謡曲と楽曲の色が本当にバラバラだ。今作は80年代の狂騒を表す作品であるし、そのインパクトもかなりの物であるが、単純に音楽作品として異形でありながらも、屈指の完成度をそれぞれの楽曲が持っているのだ。
第1曲「免疫」からいきなり山崎春美がのた打ち周り呻き叫ぶだけの一人パラノイア劇場が展開されている。狂人の狂騒に続く第2曲「仏の顔は三度までだった」でパンク要素とアイドル歌謡が何故か自然に混ざる異様な80年代の地下世界に僕達は完全に足を踏み入れる。
超絶テクによって繰り広げられるインプロの海に発狂寸前の町田町蔵が「カミカゼー!」と叫び、差別用語もガンガン飛び出す第4曲「きらら」、女ボーカルと奇妙な音のコラージュとパンキッシュな楽曲が別チャンネルで行き来する第6曲「赤い旅団」、フリーキーなサックスと解体されまくった歪みのギターをバックにアシッドフォークが展開される第14曲「鵺」とバラエティーに富んだ混沌が今作の大きな核だが、特に素晴らしいのは坂本龍一作曲の第12曲「な・い・し・ょのエンペラーマジック」だ。タイトルは「い・け・な・いルージュマジック」のパロディ、特別ゲストに昭和天皇の音声、昭和天皇をdisりまくった歌詞、女性ボーカルテクノポップでありながらくぐもったダークさ、そしてスケールや拍の概念すら崩壊したピアノソロと坂本龍一の隠された名曲であり、それと同時にタコの象徴する楽曲になっているのだ。
そして最終曲「宇宙人の春」はガセネタのセルフカバーであり山崎春美がボーカルを取るハードコアパンク。グチャグチャに解体されたギターフレーズと、本当にオーソドックスなハードコアパンクなリズム隊に、がなり叫ぶ山崎、今作での混沌が全て収束し、狂騒を残したまま終わる素晴らしいラストだ。
タコは80年代前半の狂騒と共に消滅し、タコは後生に伝説だけが語り継がれる事になった。しかし80年代だからこそ出来た狂騒としての音楽の価値は本当に大きい。参加メンバーの豪華さを差し引いても、その音楽的功績は素晴らしい物であると言える。
山崎春美という奇才の元に集まった奇才達が織りなす破壊的なジャンクさは当時だからこその音楽だ。その混沌は今でも大きな衝撃を持っている。