■タグ「ポジパン」
■Mensch, achte den Menschen/死んだ方がまし
死んだ方がまし (2017-04-08)
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死んだ方がまし。本当にとんでもないバンド名だ。
人間なら誰しもが死んだ方がましって感情を抱いたことは一回どころか何回もあるだろうが、それをバンド名として冠している時点でこのバンドはただならぬバンドである。
2012年に結成されたTokyo Blue Days Punkこと死んだ方がましの2017年リリースの待望の1stアルバムである今作は怖いくらいにロックの本質だけを掴んでしまった大名盤だ。
正統派ニューウェイブ/ポジパンサウンドを基軸に、時にはみんなが大好きな往年のV系やSSE周辺のバンドのテイストも感じさせるサウンドはロックとしては勿論、パンクとしても何一つ現在の主流になっているものとは全く別の位置にあり、下手したら逆行的でもある。80年代に名を馳せたアンダーグラウンドのパンクバンドの全てを凝縮したかのような音だけを鳴らしている。
そしてハイトーンで文学的に吐き捨てられる言葉の数々は何一つ救いなんかありはしない。絶望や虚無といった感情を余計な装飾抜きに並び立てられている。
それが妙に耳に残るメロと痙攣しながらループするギターフレーズと変則的なビート、躁鬱を終わりなく繰り返すような音と共にズタボロに聴き手を切り刻んでいく。
そもそもロックは勿論、音楽は誰も救わないし、世界を変える事なんてまず不可能だ。
だからこそ世界が空虚になればなるほどにロックの意味が問われる筈だ。
今作はどうせ世界も滅ばねえし、誰も殺すことも出来ないんだから、このまま一人孤独に死んでしまってやるというロックの一番危険な感情をパッケージしている。
だからこそ一時的な物だとしても、そうした感情を抱えている人には何処かで届くのかもしれない。
ディストピア完成間近を迎えている現代の日本。頭を空っぽするを通り越して白痴にすら陥ったポジティブの押し売り、「僕は病んでる君の事を理解しているよ」と嘯き続ける安い絶望のチラ裏、Twitter映えばかり狙ってRT数が稼ぎたいだけの表現もどき、それら全部このバンドに焼き払われてしまえとすら僕は思った。
共感だとか共有だとか上っ面の理解者ごっこなんて糞食らえとばかりに自爆テロだけを死んだほうがましは続けている。これでもかとばかりに大半の奴らが見て見ぬフリを続けている病巣を暴き続ける。
「狂ってるのは俺じゃなくてお前らだ。」とばかりに発狂した感情と音を投げつけてくるが、実は誰よりも正常な感受性を通過した上で鳴らされているからこその表現なのかもしれない。
そして誰にも寄り添いもしない。腐りきった世界だけを暴く。
日に日に空虚化していく現代社会に痛烈なカウンターを食らわせる今作は、外側も内側も焼き払って自爆する様なカタルシスすらある。
だからこそ僕は何度も今作をリピートしてしまうのかもしれない。
■ZERO/DEAD END
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80年代に活動しジャパメタにもヴィジュアル系にも多大なる影響を及ぼした伝説的バンドであるDEAD ENDの89年八票の4th。PINKの岡野ハジメがプロデューサーを務めている。ジャパメタ要素はかなり影を潜めている作品でありコーラス多様の耽美なアルペジオを基調にしたギターワークが耽美なDEAD ENDの世界観と見事にリンクした楽曲が並んでおり、メタル路線からの作風の変化に当時は賛否両論が巻き起こったらしい。
今作の楽曲は先ず非常に開放的な高揚感に満ちた楽曲が多い。第1曲「I Want Your Love」からもそれは伺えるだろう。ビートロックに近い感触の抜けの良いタイトなビートと動きまくりメロディラインをなぞるベースと時に泣きの旋律を聴かせるディストーションギターとコーラスによるクリアでありながら耽美さも持ったギターのアルペジオの親和性も非常に高いし、ストレートな歌唱を見せ付けながらもカリスマ性に満ちたMORRIEのボーカルが正に精神への開放と空へと飛び立つ様な高揚感を見せ付けてくれる。個人的には当時のポジパンの影響も伺える部分も多く、開放的な楽曲と同様に持ち前の妖艶さを失っていないのも大きなポイントだと言えるだろう。第5曲「Crash 49」の流麗な旋律を最大に生かすクリアなギターワークが生み出す妖艶さにも惚れ惚れしてしまう。勿論その演奏技術は折り紙付きであるし、その演奏技術を表現力へと変換する彼らのバンドとしてのポテンシャルは本当に高い。今作の中でもメタル色の強いリフとビートロックとポジパンを融合させた第3曲「Baby Blue」、パーカッシブなビートを取り入れながらも、それに反して性急さが鼓動を速くする今作で最もドロドロとした第8曲「Promised Land」とそれぞれの楽曲の完成度も非常に高く、統一された世界観に引き込まれる事は間違いない。泣きまくりなギターソロが炸裂する第10曲「I'm In A Coma」とクラシカルかつ壮大なスケールに圧倒されそうになる第11曲「Serafine」の終盤の2曲の流れはDEAD ENDがバンドとして本当に完成されている事の証明だ。
今作は実に20年以上前の作品であるが、古臭さというのは皆無であり、90年代に巨大なムーブメントを起こしたヴィジュアル系のバンド達に本当に多大なる影響を与えた事が今作で知る事が出来る。広大なる開放のスケールで描かれる美しい旋律とMORRIEのボーカルが聴き手を飛翔へと導く1枚。きっと今作はあまりにも早かった作品であったと思ったりもするのだが、今だからこそ今作がもたらす衝撃は大きい。
■Esoderic Mania/黒色エレジー
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80年代後半に活動していた岡山の女性ボーカルポジパンバンドである黒色エレジーの93年にSSEからリリースされた全音源を網羅したディスコグラフィー的作品である。ポジパンやゴシックと呼ばれるジャンルの中でも「和」のテイストを色濃く感じる黒色エレジーは中々異端な存在であり、ポジパンの流れを感じながらも日本人ならではの耽美さを感じ、それでいて骨太なバンドとしてのアンサンブルがずっしりと構築されている。
コーラス・フランジャーを多用しまくったギターワークや、メロディラインを弾き倒すベースなんかから王道のポジパンの流れはあるのだが、パンク・ハードコアな力強さを楽器隊の演奏から確かに感じるし、「和」のメロディラインからは日本神話的な物を想起させられる。その妖しきメロディに古き歌謡曲の様なキャッチーさのテイストも盛り込まれていて、あくまでもアプローチはシンプルでありながら、そこに日本人らしいわびさびが確かに存在しているのだ。
Voのキョウコはか細く繊細なウィスパーボイスから、重々しい威厳すら感じる古代の巫女の様な太い低域の歌声まで幅広く使いこなし、楽曲の世界観を揺るぎない物にしている。キョウコはさながらイタコの様であり、楽曲に宿る精神世界の精霊達の感情や声を自らの声で代弁しているかの様だ。
第3曲「花粉犯罪」、第4曲「夢の成る頃」はバンドのタイトな演奏とキョウコのボーカルが色濃く結び付き、哀愁と神話的世界が確かな物として存在している良曲であるし、今作で最も歌謡曲テイストが強い第13曲「神々のレース」での精霊と式神達が全方位に自由に飛び回るかの様な幻想的躍動感はこのバンドにしか出す事の出来ない世界観だと僕は思う。
ポジパン・ゴシックの耽美な空気を思い切り吸い込みながらも、そこに捕らわれず独自の美意識をしっかり自分達のサウンドにブチ込んだ黒色エレジー。和製ゴシックならではの日本神話的世界と、パンクとしての芯の強さは一つの線になっているのだ。
寓話の様な妖しく甘い耽美な幻想世界をここまでブレ無く描いた黒色エレジー、もう20年近く前のバンドではあるが彼女達の謡う寓話は今でも確かな妖しさとオリジナリティを持っている。