■タグ「ラトビア」
■Behind The Walls Of Melody/Emanon

個人的に実はハードコアが熱い国なんじゃないかと思っているラトビア発の激情系ハードコアバンドEmanonの06年リリースの1stアルバム。リリースはロシアのOLD SKOOL KIDS RECORDSから。Funeral Dinner辺りの正統派激情の流れを汲んでいたりするが、目まぐるしく変化する展開の嵐と怒涛のテンションが吹き荒れる作品であり、エモーショナルさをカオティックに加速させる1枚。
まず驚くべきはメンバー全員がボーカル状態になってる怒涛のボーカルだ。メインボーカルが誰か分からなくなってしまうレベルで絶唱のリレーが巻き起こり、それが否応無しのエモを生み出しているのがこのバンドの大きな特徴であると言える。同時に2分台3分台の中で見せる楽曲展開もカオティックかつエモ。クライマックスの連続とも言える激情具合、合間合間にコンパクトに挿入されている静謐なパートを生かしながらもエモや激情の要素が全面に押し出されている。そしてローファイな音質がこのバンドのささくれ立った殺気をより際立たせているし、変拍子駆使のキメを多用してカオティックさも押し出す。ここまで怒涛という言葉が似合うバンドも中々いないだろうが、哀愁溢れる旋律をハイテンションに叩きつけてくる様は本当に熱くなれる事は間違い無しである。滅茶苦茶な楽曲展開を見せている様にも見えるが、暴発と静謐さを短いスパンで交互に繰り出す手法は彼等のアングリーで尖ったハードコアの核であるとも思うし、何よりもそんな音にドンピシャで嵌るボーカルリレーが堪らない。クリーンのボーカルは全く無く、ボーカルパートは常に絶唱の掛け合いが繰り出され、全身全霊で魂がぶつかり合う瞬間を一つのドキュメントとしてパッケージしているし、一瞬たりとも聴き逃す事は出来ない緊迫感が充満している。正に火花散るハードコア合戦だ!!
正統派激情の流れを受け継ぎつつも、それをよりカオティックかつエモティブに仕上げた彼等のハードコアは本当に喉が擦り切れるレベルで叫びたくなるし、魂を燃やし尽くす勢いのエネルギーが充満している。90年代エモティブハードコアやフレンチ激情辺りの音の良さを濃縮しながらも、それをブチ壊す勢いで叫びまくるボーカルと楽器隊の全面戦争!隠れた激情系の名盤だと思う。
■Tagad/Tesa

バルト三国の一つであるラトビアから届けられた美しい激重狂騒曲、Tesaはトリオ編成とは思えない重厚なアンサンブルを美しく鳴らしながらも、それを激情・ポストメタルを通し、振り注ぐ激重の轟きとして鳴らすバンドだ。今作はTesaの06年発表の1stアルバムであり、遠い異国から美と激重を高めたポストメタル作品となっている。Part17からPart77まで組曲の様な7曲が織り成す壮大な物語。
楽曲自体はポストメタル系のバンドでは非常に珍しくコンパクトな楽曲が多く、必要な音のみを絞り出し、それで楽曲は構成されているが、その無駄の全く無い洗練されたフォルムの中で、嵐の様な音が吹き荒れているのが彼等のサウンドだ。序盤ではアルペジオのフレーズを巧みに盛り込みつつもいきなり美轟音吹き荒れる展開がクライマックスへと爆走しドラマティックな旋律と共に胸を打ち抜きながらも、ポストメタルらしい振り落とす激重リフの重みを全く忘れず、旋律の持つ美とアンサンブルの持つ重厚さとリフとビートの重みが三位一体で攻めてくるから本当に堪らない。そして美轟音からスラッジ・激情の禍々しさまで雪崩れ込みながら、不穏のフレーズのメロウさを際立たせ焦燥感を掻き立て、暴発のパートでその膨張させたエネルギーを全放出するというスタイルは王道の轟音系ポストロックやポストメタルならではの構成ではあるが、ハードコアとポストメタルを行き来しながら、その点と点は確かな一つの線になる。また随所に盛り込まれている空間系エフェクターによるハウリング音の膨張がそのドラマティックさの中に混沌を落とし込んでいる点も見逃せない。作品も後半に入ると美しい旋律をより前面に押し出しポストロック要素の強くなったパートも出てくるが、そこに説教臭さは微塵も無く、反復するフレーズが音圧を強め、そして混沌へと雪崩れ込む。反復するフレーズの高揚と共に増す破壊力を生かし、ポストメタルから宇宙へと雪崩れ込む第5曲「Part 57」は本当に今作の中でも格別の1曲に仕上がっていると言えるだろう。そして終盤は激情の色をより高めた第6曲「Part 67」でその美しい余韻すら吹き飛ばす暴力性と、マス要素を盛り込んだギターフレーズが焦らしつつも、突き抜ける音と共に宇宙へと飛び出したその音を爆発させ、最終曲「Part 77」では静謐さを前面に押し出し、そこから轟音系ポストへと繋がり、飛び散る音の破片が美しい光を生み出すという何ともニクい結末を迎える。
贅肉を削ぎ落とし、シャープな楽曲構成の方法論を取りながらも、随所に盛り込んだ激情やポストロックのエッセンスを巧みに生かし、エネルギーを膨張させては爆発させるを繰り返すTesaのポストメタルサウンドは大きな感動と破壊力を美しく鳴らし、それが聴き手の心臓を確実に貫いてくる。旧ソ連のポストメタル・激情はRekaをはじめとして本当に良質なバンドが多いが、彼等もまたそんな猛者達に負けず劣らず魅力的な音を鳴らしている。また今作を含む今までにリリースした作品はは下記リンクのオフィシャルサイトで試聴&フリーダウンロードが可能になっている。
Tesaオフィシャルサイト
■Fresh Wind In The Valley Of Dreams/Astrowind

2月に入ってからリリースラッシュに入っているFluttery Records、エレクトロニカ、ポストロックと来たがこちらはミニマルなアンビエント作品。バルト三国の一つであるラトビアのAstrowindの2012年発表の作品が今作だ。ラトビアという日本ではあまり馴染みの無い国から届けられたのはミニマルな電子音の反復と持続音が生み出す天上の音であり、静寂の中で時間軸を歪ませる1枚になっている。
作品としては電子音の持続音を中心に楽曲は構成されており、展開はその持続音の微かな変化と聴き手の中で膨張する音色が生み出す非常にミニマルな物に仕上がっている。反復する若干ノイジーな電子音に不穏さを加速させる音を重ね合わせてオーガニックでありながら、少しずつ堕ちていく様な感覚にも陥りかねない。それらの要素がやがて混ざり合った末に天上の音へと回帰するミニマルドローンな作品だ。第3曲「Lost and Found on the Moon」では不安を煽りに煽る通信機器での音声をサンプリングしており、その音声が淡々と続く中で揺らめくアンビエントノイズの反復が鳴り響き、それがより不安定ながらも奇妙な高揚感を生み出している。この感覚は初期のGrowingを彷彿とさせる物があるし、本当に持続する電子音のノイズのみで構成されているにも関わらず、その電子音の奥深い美しさであったりとか、不意にサンプリングされている音声の不気味さ。そして極限まで削ぎ落とした音のみが存在するからこその虚無感に増幅。こうして書いているとダークな作品を想像してしまうかもしれないが、決してそんな事は無いし、その虚構の長いトンネルを抜けた先に見えるのは天国とも地獄ともまた違う新たな世界なのだ。そこは決して桃源郷なんかでは無いけれども、そこに行き着いた時にはもう脳内は反復と持続のアンビエントノイズに脳細胞は溶かされてしまっているし、その虚構すら美しくそして甘美に思えてしまう。っそれこそ今作に存在する快楽的要素であるし魅力だと思う。
ラトビアという旧ソ連の一国から届けられた不穏のアンビエント作品、極限まで削ぎ落とした音は荒涼としているのにも関わらず無限の美しさと眩暈を起こしそうな揺らぎに満ちている。空洞や虚構を突き詰めた先の静謐な美しさはやはり甘美であるのだ。今作も下記リンクのbandcampにて視聴と購入が可能になっている。
Astrowind bandcamp