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■Qual der Einsamkeit/Sequoian Aequison

ロシア・サンクトペテルブルクのインストゥルメンタル/ポストロックバンドSequoian Aequisonの1st EP。日本盤はTokyo Jupiter Recordsから100枚限定でのリリースとなっている。2014年に1stアルバム「Onomatopoeia」をロシアのレーベルSlow Burn Recordsからもリリースしており、それに続く作品となる。フューネラル・ドゥームバンドInter Arboresの元メンバーが在籍していたり、ポストブラックメタルのTrnaやポストメタルバンドYpresのメンバーも在籍していたりとロシアのアンダーグラウンド人脈が集まって結成されたバンドだ。
しかしこのバンドの音は本当に重い。1stアルバムと基本的な路線は変わっていないけど余計暗く寒々しい音になったのではないか。ポエトリーリーディングのサンプリングだけを使用し、後はバンドサウンドがのっそりのっそりと曲を進行させていくスタイルだ。先ず特筆すべきはクリーントーンでの寒々しいメロディの美しさだろう。既存のポストメタルとはまた一味違ったアプローチをしているバンドだし、バンドのサウンドの中には勿論ヘビィな轟音パートも存在しているけど、曲の基軸になっているのはアンビエントな空間系の音を使いつつも葬式めいた暗さのメロディだろう。推進力を放棄し、情景を静かに変化させていくだけのビートも効果的に曲のメロディを活かし、それが徐々に重みを帯びていくとより音の純度も高まっていくし、それが直情的なポストメタル的アレンジでは無く、サウンドの基軸はそのままに音を歪ませて破壊していくサウンドなのだから暗く深く重い。そんな第1曲「Der Sklave Des Nichts」から11分にも及ぶくすんだモノクロの風景だけが淡々と映し出されていくし、かなり聴き手を選んでしまうサウンドではあるかもしれない。
フランツ・カフカの15篇の詩をコンセプトにしたコンピレーションアルバムにも収録されているらしい第2曲「Abendwasser」はより深みに入っていく楽曲だし、のっけからドローンな音と美麗のアルペジオが美しい流線型を描きながら、同時に不安感をdこまでも煽っていく。サウンド自体はダイナミックさを感じさせるのに、即興的なドラムのビートが唐突に入り込んで来たり、ギターの音色も明確な輪郭を持たないアンビエントな物だけになったりして不安をより加速させる、そこから電子音が飛び交いながらも白と黒が混ざるような轟音パートになった瞬間には安堵すら覚えたし、やっとご褒美を貰えた気分になった。TJR盤に収録されているボーナストラックである第3曲「Irretrievable (Live At Mars)」は1stアルバム「Onomatopoeia」のライブ音源。こちらは生々しく重いポストメタルサウンドを堪能出来る逸曲になっている。
バンドの音自体はインストであるからこそ情景を想像しやすい物になっているし、決して分かり難いサウンドでは無いけど、バンドが持つ純粋なダークネスと寒々しさと深みが輪郭を掴ませてくれないし、時にアンビエントや即興音楽の要素や電子音の不気味さや、バンドのアンサンブルが持つ内側へと引きずり込む空気も含めてかなり人を選ぶサウンドではあるとは思うけど、この深みは一回ハマると抜け出すのは不可能だろう。
また今作はTokyo Jupiter Recordsの方でも購入可能だが、TJRのストアの方では1stアルバム「Onomatopoeia」もセットになってかなりお買得な価格で売られているので、好きな人は是非とも1stとセットで今作入手をお勧めする。
■Optimus Prime/Optimus Prime

Rekaのメンバーも在籍していたロシアの激情系ハードコアバンドの09年リリースの単独音源。バンド名は恐らくはトランスフォーマーから取っている。リリースはOSK Recordsからで全7曲入。しかしこれが本当に素晴らしい激情系ハードコアで、激情系の美味しい部分を見事に手にした作品だ。
Rekaの様なポストメタル・スラッジ色はある訳では無くて、楽曲的にはヨーロッパの激情のバンドに近い哀愁だったり美意識を感じさせる音が特徴的。かといってポストロック方面や大作志向の作品では無くて、非常にアグレッシブな激情系のサウンドをカオティックかつ美しく響かせる。第1曲「Here And Now」からザックリしまくったリフと哀愁のギターフレーズが咲き乱れ、疾走感溢れるハードコアサウンドが変則性を持ちながらも青々しく吹き荒れていく。メロディのセンスはイタリアの激情に近いと言えなくもないけど、それに独特の冷気を加えて、更にはマスロック的なテイストも匂わせながらも、あくまで激情系なカオティックなギターフレーズが高速回転し、一気にブチ上がっていく。それでお約束と言わんばかりに透明感溢れる静謐なパートも盛り込んでいたりもするけど、決してポストロックに接近はしないし、あくまでも疾走感溢れるエモティブな楽曲の中で必然として存在する音だし、そんなパートでもアグレッシブさは殺さない。あざといトレモロリフを交えていたり、楽曲からは確かな美意識を感じたりもするけど、そんな研ぎ澄まされた美意識を完全に疾走する透明感の為に利用し、シリアスな緊張感を持ちつつも、閉塞的な印象は無くて、寧ろもっと突き抜けた音を放っている。
静と動の対比を生かしつつも、あくまでもアグレッシブで直情的な激情系ハードコアだから、実に格好良い。たった二分間でカオティックに駆け巡り、ラストは断罪のキメの嵐で絶頂な第2曲「Pain And Fear」は痺れる格好良さだし、クリアな音色の清流の美しさから絶妙に歪んだ暴発へと雪崩れ込む第3曲「Manual Revolution」も見逃せない。第4曲の冷涼として壮大さも感じるサウンドから最後はThe Third Memoryを彷彿とさせる粗暴に暴走する青へと変貌もナイスだし、エモティブな透明感と青と熱情、しかし同時に悲哀も感じさせるメロディのセンスもそうだし、練り込まれた楽曲ばかりでありながら、それを安易に大作志向に仕上げるんじゃなくて、美しくもカオティックに放つサウンド、ギターリフも一々ソリッドに切り刻んでくるし、疾走感溢れながら独特の重みを感じるのは、ロシアの広大で荒涼とした大地が育んだ物なのかもしれない。今作で最も静謐なクリーンさから悲哀を生み出す第6曲「And The Rain Will Washes The Stains Away...」から最終曲「Nansen's Stigma」のクライマックスは本当に素晴らしく、「Nansen's Stigma」はこのバンドも数多くの武器を最大限に生かした屈指の名曲。何よりも今作屈指の熱情が暴れ回り、ラストはRekaにも繋がる線となる壮大なクライマックス。最高だ。
Rekaとは音楽性は全然違うけど、その激情は本当に素晴らしく、アグレッシブさ、カオティックさ、疾走感、スケール、メロディセンス、エモティブさ、ダークさ、どれも郡を抜いて素晴らしい。バンドが唯一遺した単独音源ではあるが、激情系の隠れ名盤として評価されるのも納得の完成度、ヨーロッパの激情が好きな人はマストな一枚だし、悲哀と熱情が生み出す美しき衝動は決して見逃してはいけない。
■Ⅲ/Reka

情け容赦無い負の濁流が攻め立てる。遥か北の大地であるロシアはモスクワの激情・スラッジのバンドであるRekaの2011年リリースの3rdアルバム。アトモスフェリックスラッジと激情が螺旋を描き、濁流のサウンドをダウンテンポで長尺で放出し、Amenraや1stの頃のLVMENと通じる暗黒激情絵巻となっている。2ndから今作の間にボーカルのメンバーチェンジがあったらしいが、憎悪を惜しみなく叩き付けるボーカルもまた魅力的な1枚になっている。
とにかく終始ダウンテンポで、直下型激重リフが重々しく降り注ぎながらも、同時に美しいアルペジオも鳴らし、重く美しいサウンドを鳴らし、長尺の楽曲の中で少しずつ楽曲は展開し、緩やかに重く、暗黒の激情を見せてくれる。巧みなBPMの変化の付け方によって落差を見せる手法はAmenraのそれに通じる物だし、中盤にほぼインスト状態のパートなんかを盛り込む事によってボーカルが前面に出ているパートの暴虐さを加速させてもいる。全5曲は繋がっている様にも見えるし、アルバム1枚で一つの楽曲にもなっているという感覚は、これらの系統のバンドらしい手法であったりもするけど、正統派暗黒スラッジ系激情としてRekaは非常に高い完成度を持ったバンドだとも言えるだろう。主軸になっているのはやはり空間を漆黒に染め上げる激重リフの振動ではあるけれども、美しい旋律を鳴らすギターパートも同時に存在しているし、それが黒々しい輝きを見せ、闇の世界の中での一抹の輝きを見せてくれるが、光だとかそういった物はとうに漆黒の濁流が飲み込み、徹底して暗黒を貫いている。タイトかつ重いダウンテンポのドラムと、低域強調型の激重ベースラインも彼等のサウンドに厚みを持たせるのに一役買ってもいるし、特に後半からの楽曲はそのスケールも非常に大きくなっており、濁流の音色から、感動的な激情の比重を更に強くし、聴き手に確かな感動を与えてくれている。同時に一音一音の重みも加速させており、作品全体を通して闇の業火は手の付けられないレベルで燃え上がり、脳髄破壊、精神蹂躙の暗黒激情絵巻のクライマックスに相応しい物になっている。是非ともアルバム全部を正座しながら通して聴いて欲しい作品だ。
徹底した暗黒の規格を守り通し、重く美しい激情を徹底して鳴らすRekaは退廃的な美しさを持ったバンドだと言えるだろう。闇を描き出し、スラッジ・ポストメタル経過型激情として非常に優等生なバンドであるとも言えるし、これらの音楽がまだまだいける事を証明している作品になったと言える。毒々しく黒々しいサウンドには本気で痺れてしまう。暗黒系激情好きにはマストな1枚だ。
■Acoustic/Mooncake

ロシアのポストロックバンドであるMooncakeの2012年発表のアコースティック作品。リリースは彼等の作品の再発も行っているFluttery Recordsから。Mooncakeの過去作は未聴だが、今作は素朴なアンプラグド作品であり、削ぎ落とされた音でシンプルに描かれる物語は実に豊かな音色を以って響いてくる。感情豊かで雄弁な音色と旋律が描く柔らかで優しい世界が広がってくる。
基本的にアコースティックギターとストリングスのみで楽曲は構成され、たまにパーカッションが入るという本当にシンプル極まりない作品である。アコギの素朴なコード進行で描かれる楽曲は極限まで音数を減らした物では無いにしても、何の装飾も無いし、その後ろで鳴るストリングスが楽曲の旋律に静かに深みを与える。方法論としては何のギミックも無い物だけれど、彼等はあくまでも自らの楽曲の旋律のみで勝負している印象を受ける。その旋律も陰湿さは皆無でクリアで陽性の音色が静かに広がっており、清流の様な音色には心がほぐされて柔らかな気持ちになる。だが第3曲「Mandarin」ではそれ以上に深遠さが加速し、静寂の世界に温もりを与え、ドラマティックに展開しながらも、静寂の感傷は決して変わらないし、その中で熱を帯びていく様は心がキュッと締め付けられる。全5曲共に基本的なアプローチは統一されてはいるが、それぞれの楽曲が確かなドラマ性を持っているし、素朴な作品だからこそ、その旋律が描く物語はより明確になっているのだ。そしてその中にある確かな熱量こそがまた聴き手を掴み、柔らかな熱情として胸に入り込んでくる。
純度の高い清らかさと、その奥にあるドラマ性とエモーショナルさのみで描き出される純白のアコースティックポストロックは決して派手では無いけれども聴き込む程にその世界へと引き込まれて行くし、スッと聴き手の耳に流れる音色の柔らかで美しい旋律には心惹かれる物が確かに存在している。Fluttery Recordsの作品はクリアな音色を奏でるアーティストばかりだが彼等もまた少しずつ上り詰める静寂の情景を高い精度で描くアーティストだと思う。
■Terminal Stage of Decay/STARLINGRAID

元Rhetorical Paradeのボーカリストであり、在日ロシア人のローマ率いる激情系カオティックハードコアバンドであるSTARLINGRAIDは本当に異質なバンドだ。今作はそんな彼等の2010年に自主制作でリリースされた1stアルバム。彼等は本当に全てを飲み込むバンドであり、激情・カオティック・アンビエント・ポストロック・インダストリアル・ドゥームと本当に多岐に渡る音を飲み込みながら、それを単純に組み合わせたのでは無くSTARLINGRAIDとしか言えない何処にも属さない新しいハードコアを今作で鳴らしている。それは正に彼等が自ら称している「グノーシスコア」でしか無いのだ。
ぐにゃぐにゃに分解されまくり、再構築を放棄しそのアメーバの様な軟体性とハードコアのダークな部分を抽出した狂気の世界が結びついたのが彼等の音であり、崩壊寸前のまま引きずる様な進行を見せる。第1曲なんて僅か11秒であり、ローマの狂気と激情の旋律で空間を全て変えてしまい、それに続く第2曲でいきなり変拍子を更に分解したビートとドゥーム的な旋律がぐにゃぐにゃなまま鳴り、囁きのボーカルとのた打ち回るハイトーンのシャウトが耳に残るし、展開も計算されていながらもグチャグチャに分断されているし、1曲の中でハードコアもドゥームもポストロックも飲み込んでしまっている。全て緻密に計算されていながらも制御不能の混沌のみがそこにある。その音のインパクトは本当に大きい。続く第3曲で静謐なポストメタルのクリーンさに狂気という不純物を混入した音を聴かせ、3分程度の決して長くは無い尺の中で行き先不明の暗黒神としてのハードコアのみがそこには存在している。後期のKularaにも近い感触とCLEANERの実験精神に近い物を感じたりはするが、それも模倣では無いし、こいつらはもっとドゥーミーでもある。しかし煙たいディストーションサウンドは皆無で、クリーントーンでの歪みのサウンドであり、それがかえって音階や旋律のダークさを更に際立たせている。時に空間的な広がりを見せるギターも開放ではなく閉塞に向かう精神世界の狂気が浸透するかの様な物であるし、それに分断されたポリリズムのハードコアな音、ぐにゃぐにゃのまま脳髄に浸透していくアンビエントさ、それらを一貫した音にしている彼等のセンスと前衛性は本当に評価されるべきであるし、自らですら統率不能の激情を、更に切り刻んだからこそ誰にも真似できない自らの激情を確立させた。その音は本当にヘビィ極まりない閉塞に向かうハードコアであり、後期Kularaの尊厳すら奪う力すら感じる。特に第8曲の今作で最も明確な激情のリリカルさを自らのグノーシスコアサウンドで響かせる様と、今作で最もハードコア色の強い第10曲の疾走する精神世界の螺旋から、終盤でそれすら切り落とし、純粋な絶望のみを取り残す様は本気で背筋がゾクゾクとしてしまった。
狂気と陰鬱さを極めた末に完全に奇怪極まりない突然変異のハードコアを生み出してしまった今作。そのサウンドにローマの絶望で脳髄の中の神経細胞が全て異常を起こしてしまっているかの様な暗黒の激情ボーカルが乗り、更に狂気を高めている。kularaが解散し、長いこと不在になっていた激情暗黒神の椅子に君臨するに相応しいバンドがロシアからこの日本で生まれた事は本当に大きい。彼等の存在はheaven in her arms同様に新世代から激情のシーンを新たな次元へと導くと信じているし、全てを置き去りにしたグノーシスコアという彼等のハードコアは彼等にしか生み出せ無かった音だ。1stにしてグノーシスコアはとんでも無いレベルで極まっている。
今作は下記リンクのSTMと礎から購入可能。また下記リンクのSOUNDCLOUDにて今作に収録されている全12曲が視聴可能だ。
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