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■Scent/Nepenthes
ex.Church of Miseryの根岸氏と須藤氏が在籍する事で結成当初から話題を呼んでいたNepenthes。みんなが待ち望んだ1stアルバムがいよいよドロップされた。リリースはまさかのDaymare Recordingsで驚いた人も多いと思う。
そしてこれまでのライブ活動でドゥームだとかそんなカテゴライズいらねえんだよ!!ってばかりの爆音巨根ロックを爆散させ、各ライブハウスのドリンクの売上に貢献してきた彼らの1stアルバムが最高じゃ無いワケないって話だ。もう結論から言えば最高のロックアルバムだから酒飲んで音量MAXで聴け!!以外に僕が言うことは無い。
今作の何が凄いって、勿論ドゥームとしてもサイケとしても素晴らしいアルバムなんだけど、結局ロックをを好きになったら老若男女関係なく永遠にロックキッズなんだって事を改めて思い出させてくれるアルバムだって事だ。
のっけから17分に及ぶ大作である「sorrow」から始まる。それがドゥーム以前に最高のブルースなのだ。須藤氏の泣きまくりなギターソロもそうだし、根岸氏の日本語で歌われるハードボイルドさ全開なボーカルもそうだし、ミドルテンポで終わりなく繰り返されるビートもそう。
ライブで聴いた時はサイケデリックな涅槃に引きずり込む曲だと思ったけどそれは大きな間違いだった。Nepenthesはハードボイルドな哀愁を描いているだけだった。それだけで先ず一杯飲むよねって話だ。
そんなロングギターソロで終わる第1曲をブチ犯す第2曲「cease -弑-」はライブでも最早アンセムになっている爆走ストーナーだ!!この曲は最早理屈が何も通じない曲になっており、最高のボーカリストと最高の楽器隊がただ単純にロックしているだけで最高だって方程式以外は何も通用しない。とにかく全ての音が太くギンギンなだけでロックは格好良いんだ!!これでもう一杯飲むよねって話だ。
ストーナーロックの煙たさとグラムロックの艶やかさの両方に酔いしれ、男・根岸の野獣ボーカルの色気に惚れ惚れするし、ギターワークもエロい第3曲「fool's gold」でもう一杯。日本語ロックの素晴らしさを再認識させる日本男児の哀愁を感じるブルースである第4曲「相剋」で更にもう一杯。ラストの「OUT in this harmony」で再び爆走ロックで昇天!!かと思わせて数分のブランクの後に始まる隠しトラック的な曲で再び哀愁とサイケデリックの世界へ。もうその瞬間には色々な意味で頭が完全に吹っ飛んでいるだろう。
格好良いし泣けるし熱くなるしっていうキッズの心のままで触れる事の出来るロックアルバムとなっている。こんな酒税納税推進アルバムはもっともっと売れて色々な景気を良くしてくれなきゃ困るのだ!!
何よりもフロントマンの根岸氏は紛れもないロックヒーローだ。もっと大きなフェス等にネペは出るべきだし、もっと沢山の人に今作を聴いて欲しいと心から思う。チャラチャラした自称等身大のロックもどきは永遠にネペに勝てないだろう。
どんなにベタな言い方でも良い。Nepenthesは本物のロックバンドだ。
■TOBIRA/ele-phant
ABNORMALS、KING GOBLIN、exBUCKET-Tのメンバーによって結成されたギターレス3ピースele-phantの待望の1stのフルアルバム。
ハードコアとかメタルとかヘビィロックとかその他諸々のジャンルは確かなラベルになるけど、時にそのラベルは必要ないと思わせる作品やバンドは本当に素晴らしい物を生み出すけど、今作はそんな作品だ。
カテゴライズはドゥームだしサイケであるけど、そのカテゴライズは逆にele-phantの本質を掴む上では邪魔だとも思う。ロックという言葉は非常に漠然としているけど、今作は「日本語ロック」の新しい金字塔だ。
音楽性は確かにドゥームであるけど、ドゥームやストーナーの根源がブルースであるのと同じで、今作はブルースでもある。曲のレンジが本当に広いしハードコアからヘビィネスからサイケまでと、その触手は多くの物へと侵食しているが、散らかった印象は全く無い。
ギターレスという編成で、歌とベースとドラムという最小限の編成で生み出す最大の効果。それは割礼やATATHEMAが持つミニマルさにも近いし、この3人だけで全てを成立させてしまってる。
キラーチューン「逃げ水」で先ずはそのヘビィなメランコリックさにガツンとやられるだろう。ベースとギターの両方の役割を音を自在に変化させる事で兼任し、シンプルなリフだけで全てを語り、空白を聴かせる要素もありつつ、ダイナミックにロックなビートを叩くドラム、何よりもcomi氏のボーカルが素晴らしい!!時に叫んだりもしながらも圧倒的な歌唱力と表現力で世界を生み出すボーカルは存在感しか無いし、代わりになる人が全くいない。
ドラムとベース、たまにシンセだけで音が作られているって書くとコアなフリークス向けな音だと勘違いされそうだけど、その楽器隊が普遍性とマニアックさの中間地点をすり抜ける音を生み出し、comi氏の歌が一気にメジャー感を演出する。それでいて色気と渋さもある。第3曲「アクマニセンセイ」は今作でも特にハードコア色が強いけど、単なるハードコア的表現ではなく、ハードコアの瞬発力にオルタナティブなうねりを加えて堕ちていく。
今作でも特に素晴らしいのは第4曲「すぐ」、第8曲「Black Room」、最終曲「扉」だ。静けさの中でハードボイルドなブルースを歌い上げる「すぐ」はele-phantのミニマルさの真骨頂であり、「Black Room」の往年のサイケデリックロックの空気感と密室感から万人が泣くバラッドへと押し上げていく様、約9分に渡って激音と混沌の中で悲しみと手を取り合う「扉」。陳腐な言い方だけど最高だ。
一見飛び道具的な編成ではあるけど、既存のドゥームやサイケとは全く違うアプローチを取り、リフで押し潰さず、リフを聞かせ、メロディに溢れ、躍動で踊らせ、そして最高のボーカリストによる歌で心を奪い取る。
日本語ロックはある時期を境に停滞したと思って諦めている人にこそ今作は聴いて欲しいし、寧ろティーンエイジな世代にも、昔のロックにしがみついている人にも聴いて欲しい。似ているバンドゼロ、斬新でありスタンダード、だけど取りつくかれたら逃れられない「悪魔の歌」がそこにある。歌謡エクストリームミュージックここに極まり!!
■GreenAppleQuickStep(2nd) / GreenAppleQuickStep
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不失者の元メンバーも在籍している北海道のサイケデリックロックバンドであるGAQSの2013年リリースの2nd。今作はレコードでのリリースに拘った作品で販売はレコードのみとなっているが、同内容のプレスCDも封入されているので、レコード再生環境の無い人でも問題は無い。BlackSnowFlakeSound(札幌)のRichard Horneがレコーディングとミックス、Bob Weston(Chicago Mastering Service , Shellac)がマスタリングを担当し、生々しすぎる程の質感と音の良さが今作にはある。
さて1stから実に4年振りのリリースであり、2010年からベースレスの3ピースとなった彼等だけど、1stの頃以上に不器用なロックバンドとなった。彼らの音は洗練はされていない。寧ろ1stの方がある意味では洗練されていたかもしれない。しかし彼等が鳴らすのは内側へと向かう彼岸のロックだ。割礼やちゅうぶらんこといったバンドと並ぶだけのバンドだと僕は勝手に思っているし、よりスタンダードなロックに接近しながらも、より湿り気が増し、よりグルーブに重みが増えた。不器用に剥き出しになったからこその進化を今作から感じる。
美しく憂いを感じるコードと、変則性とメランコリックさを追求しまくった2本のギターの絡みが美しく、淡々としていながらも、確かな重みをビートに託したドラム、そして心の奥底へと静かに浸透する歌。スロウテンポで展開されているのに、妙に心を掻き毟るのは何でだろうか。そんな事すら考えていても結局どうでもよくなってしまう位に、陰鬱なロックを極めた第1曲「トンネル」が先ず素晴らしい。なんというか本物のサイケデリックロックって、本当にトランス出来る音か、本当に心の奥底をダークに揺らす音だと僕個人は思っていて、ありがちななんちゃってアバンギャルドやゆら帝の表層だけ模倣したバンドはもれなくファックだと思うんだけど、GAQSには当たり前だけどそんな物は無い。確かに揺らぎのグルーブやギターワーク、スロウテンポで割礼の如くゆれつづける音は紛れも無くサイケデリックではあるが、それ以前に正しすぎるロックバンドなのだ。第2曲「徐々に」のブルース進行を軸にしながら、ドープに沈み込んでいく様は堪らないし、もう意識すら放り出してしまいたい、この音に溺れていたい、もうどうでもいい。そんな退廃的な感情すら甘美で美しいと思ってしまうし、ファッションヒッピー共がやっている自称サイケよりもよっぽど危険だ。ギターストローク一つで鋭さを感じさせ、音も無く聴き手を暗殺出来る勢いであろうギターの音と質感が本当に素晴らしい第3曲「僕らの」、タイトルが先ず最高だし、本当にドラムとギターだけで、空白塗れなのに、その隙間に情念が込められた一つの怨歌でもある第4曲「タイコとギター」。どれも最高だ。
そして前述の通り音が本当に良い。余計な装飾を施さず、加工もせず、ただ生々しいギターとドラムと歌は緩やかでスロウテンポでありつつも、確かな血の流れを感じるし、この音は密室で聴くと本当に鼓膜から心の奥底に響くし、ベッドルームミュージックとしてのエロスすらギターの音の一つ一つに感じてしまう。第6曲「夜のにおい」なんて本当にセックスの時に流したりなんかしたら最高に嵌るだろうし、このドロドロした感触やエロスやロマンこそがロックの真髄であるなと凄く馬鹿みてえに単純な事を思う。最終曲「雨の降る夜」の憂いと悲哀と終末観も素晴らしく、このダウナーさを極めたのがGAQSというバンドなのだろう。
今作には分かりやすく速い曲は無い、豪快なディストーションギターも無い。荒々しいドラムも無い。寧ろ音は空白を感じさせる物ばかり。しかしたった一人ぼっちの夜を過ごす時、ただ大切な人と血と性欲の対話をする時、この音は最高に嵌るし、血とエロスのサイケデリアの真骨頂だ。僕個人としては本当に割礼級のバンドだと思っているし、この音は本当に側にいて欲しい音なのだ。夜に聴くと最高に嵌るし、その夜の数だけ、このレコードの価値は増えていく。そんな作品こそが本当のロックであり、本物の名盤だ。
■ハローフーラ/ちゅうぶらんこ

本当に極短期間活動し消滅してしまったバンドではあるが、ちゅうぶらんこは本当に伝説的なロックバンドである。90年代初頭の時代に地元福岡でカリスマ的ロックバンドになり、メジャーデビュー直前の解散という形で伝説になってしまったちゅうぶらんこが唯一残したスタジオ作品である今作、やっている事自体は本当にシンプルなロックである筈なのにちゅうぶらんこにしかない気だるさが生み出すグルーブ、彼等は本当にロックに真っ向から向かいながら自らを確立したバンドだった。
ガレージロックでありキャッチーなロック。少しばかりサイケデリックであり、時折歪んだギターサウンド。シンプルなビートでありながらもめんたいロックらしい腰の強いリズム隊。ロックの形式を全く崩さないで正統派のサウンドを築いている筈なのに、全くどこにも無い感しかこのバンドから溢れ出てしまっている。コード進行も普遍的なブルースコードで進行していたりと、ルーツロックに本当に忠実であるし、極端に歪んでいる訳でも無いし、極端にダークでもない。少しばかりミドルなBPMで進む楽曲の何処かドロッとした感触、そのシンプルな酩酊に気付いたら飲み込まれるし、バンド名通りのちゅうぶらんこな感覚と居場所の無さがこのバンドの本当に大きな魅力になっていると思う。キャンディポップとガレージロックを融和させつつも、榎本氏のボーカルの存在感が本当に凄い。甘ったるく、ドラッギーなその歌声は一発で持っていく力とカリスマ性が確かに存在しているし、ロックの格好良さをどこまでも忠実に出し切っている。第2曲「まほうのじゅうたん」はコード進行自体はブルースその物だったりするのに歪んだディストーションギターが視界を徐々に歪ませ、土臭さの中にいながらも、堕落していくロックの魅力を生み出し、ふわりと落っこちる感覚を味わえるし、第5曲「つまんない」は湿っぽさと乾いたドライさを共存させた上に密室にいながら、その個人的世界にロックの光が差し込む屈指の名曲だ!第7曲「パトリシア」は今作で最も歪んだ重苦しさがあるけど、その歪んだ音を切り裂く榎本氏のボーカル、ガレージサイケのサウンドと共に聴き手はまさに重くもふわついた世界へと逃避行させられてしまうだろう。
シンプルなロック・ガレージ・キャンディポップサウンドの中に、ドラッグとサイケデリックの感触を盛り込み、居心地の悪さを自らの表現へと昇華させ、揺らぎと歪みのロックを生み出したちゅうぶらんこは正にロックに選ばれたバンドだと思うし、日本のロック史の中で絶対に外す事の出来ないバンドだと思う。榎本氏はちゅうぶらんこを解散後に三重人格の犬を結成し、そちらでは痛烈なドゥームサウンドを展開し、現在活動中のFUN★ANAではサイケデリックの異次元を生み出しているが、今作の様にシンプルなロックからその酩酊と揺らぎを生み出していたのも驚きだ。日本語ロック好きは絶対に外してはいけない作品だと思うし、今作が時系列の彼方で葬られるのはあまりにもったいないと思う。
■恋に関するいくつかのフィルム/埋火

見汐麻衣を中心に結成された3ピースバンド埋火(うずみび)。彼女達がまだ地元である福岡で活動していた頃のレコーディングされた05年発表の記念すべき初音源作品。ロレッタセコハンの出利葉氏がレコーディングし、リリースもロレッタセコハンのレーベルからのリリースとなっている。日本語詞とシンプルで音数少ないサウンドが織り成す歌物ポップスであるが、どこまでも優しく鋭い作品になっている。
彼女達の音には本当に何のギミックも無い。清流の流れの様に紡がれるクリーンなギターフレーズはディストーションサウンドを全く使わずただ柔らかで気持ちの良い旋律を静かに奏で、リズム隊も必要以上に自己主張はせずに淡々とビートを刻む。そして見汐麻衣の少しヘタウマ的な透明感のある少し幼さの残る歌声でシンプルな言葉でシンプルなラブソングを淡々と歌う。第1曲「と、おもった」も柔らかな旋律が空間を包み込み、淡々と進行するけど、単なる歌物でこのバンドは終わらない。決して自己主張をしない音で構成されているのに、そのたおやかさの奥底にあるのは強度だ。それはヴァイオレンスさや攻撃性が持つ強さではなく、合気道の様に向かってくる力を全て無効化して受け流す様な、確固たる浮動さからくる強さだ。第2曲「サマーサウンズ」も中盤からはディストーションのかかったギターサウンドが登場するけれど、あくまでもブルージーに楽曲を盛り上げるアクセントとして機能し、そこからまた緩やかな速度へと自然と回帰する。そしてそのフレーズの持つ奥行きと高揚感を時にサイケデリックに膨らませイマジネーションを高めるドラマティックさ。あくまでもストーリーのアクセントとしてのディストーションサウンドであり、そこから更に高揚し広がるサウンドに決して引っ張られない見汐麻衣の歌こそがこのバンドの持つ強度だと思う。そして歌物の形を取りながら、その歌の強度を生かす楽曲のレンジの広さも見逃せない。第3曲「恋に関するいくつかのフィルム」はバンドの音自体はくぐもった少しサイケデリックな要素を感じさせるダウナーで音数の少ないサウンドになっているけど、そこに必要以上にダークさを感じさせず、あくまでも短歌の様に紡がれる言葉が前に出るのは歌物バンドだからこその強みを最大限に生かす為の楽曲の作り方をされているからだと思うし、第4曲「黄色い涙」は更にブルージーな要素を加速させ、ざらついた感触を強く持たせ切迫感を感じさせたりもしてるし、派手なギミック一切無しで、ルーツミュージックに近い感覚を生かし、それを最終的に歌に帰結させる力量は流石の一言に尽きる。
シンプルな方法論でシンプルなラブソングを歌う埋火だが、単に安い言葉を並べるだけのシンプルさでは無く、一つ一つの言葉と音に確かな強度が存在するからこそ埋火の歌は心に深く染み渡って来る。方法論はまた違うけど割礼の持つロマンと残酷さをよりシンプルに歌に帰結させる彼女達は福岡と言うロックの異端の地から生まれた一つの強い意思だ。