■Grails
■Deep Politics/Grails
![]() | Deep Politics (2011/03/08) Grails 商品詳細を見る |
アメリカはオレゴンからダークで深淵で神秘的な音を鳴らすGrailsの2011年発表の7枚目の作品が今作である。ストリングスの音を大きく取り入れ、深い森の中から神秘的な風景を想起させるかの様な音、ヘビィではあるけれども決してゴリ押しで攻めるのでは無く、一個一個の音が繊細に鳴らされ、美しい粒子を描いているかの様な作りこまれたアンサンブル。非常に幻想的であり、奈落の底に堕ちていくかの様な美しい仄暗さを持つインストゥルメンタル作品だ。
第1曲「Future Primitive」から描かれているのは深い森の奥で止まない雨が降り注ぎ続けているかの様な情景だ。トライヴァルなギターのリフとアコギの音色とストリングスの音はどこか郷愁すら感じさせるスケールの大きさを見せながらも、精神世界の螺旋を描き、終わらない迷路の中をグルグルと回っているかの様な感覚だ。他の楽曲でも、ポストロック・プログレ要素・フリージャズ・ドローンとあらゆる要素を持ちながらも、それらが深淵なる世界を描く為の物として帰結している。第4曲「Deep Politics」のピアノとストリングスが作り上げる葬列曲の様な物悲しく空虚さを感じさせる様なアンサンブルの美しさは本当に鳥肌が立った位だ。そこから力強いビートが入り込んで来た瞬間に地獄でも天国でも無く、完全なる無へ旅立つ人へのレクイエムの様な無慈悲であり、それでいて僅かばかりに感じる人間らしい悲しさがまたこの音に説得力を持たせている様にも感じたし、終盤の3曲で描かれる音は本当に高い完成度を持っていると言えるだろう。バンドサウンドを前面に押し出した第6曲「Almost Grew My Hair」の絶妙な熱量で鳴らされる時空を超える音の広がりはとてつもない高揚感も持ちながらも、もっと地底の奥底に落ちていくかの様な残酷さを混じるし、最終曲である第8曲「Deep Snow」でのアコギを前面に出した上での構成やアンサンブルは、人間の温もりと静かな雨に濡れながらも、この世の全てを優しく見守るかの様な感触、そして中盤から一気に轟く音の洪水がこの世界の全てを洗い流すかの様な神々しさを持ち、止む事無く降り続く雨模様の先に一筋の光が差し込むかの様な救いを持っている。その瞬間に今作で鳴らされた世界はその微かな光に導かれながら、静謐に終わりを迎える。
僕は今作を聴いて、方向性こそ全く違うがGY!BEやDirty Three級の深淵なるインストゥルメンタル作品の力を強く感じた。今作で鳴らされている世界はインストゥルメンタルをまたネクストレベルまで確実に進化させた物であるし、仄暗い音から浮かび上がる情景は本当に多彩だ。ここまでの情景を音のみで描ける事に僕は恐ろしさを感じてしまった位だ。インストゥルメンタル音楽の新たな地平を切り開く大傑作。間違いなく最重要作品になる大傑作!心して聴いて欲しい。