■lostage
■Guitar/LOSTAGE

奈良から世界にその爆音を放つLOSTAGEの2014年リリースの6枚目のフルアルバム。タイトルはまさかの「Guitar」だ。ジャケットもギターだし、ここまで真直ぐなアルバムタイトルとジャケットに驚いた人は多いかもしれない。今作も前作同様にレコーディングは地元奈良のNEVERLANDでレコーディングされ、レコーディングアシスタントとギターサポートにex-Crypt CityのSeb Roberts、そしてここ最近の彼らの作品では御馴染みのRopesのアチコ嬢がコーラスで参加。エンジニアは岩谷啓士郎を迎えている。
さて3人編成になって3枚目のフルアルバムだけど、今作は見事なまでに歌物の作品となっており、LOSTAGE特有のエッジの効いたサウンドで切り裂くポストハードコア全開な曲は収録されていない、どの楽曲も非常に普遍性の高い曲ばかり並ぶし、言ってしまえばLOSTAGEというバンドはソリッドな攻撃性だけじゃなくて、普遍性と叙情的なメロディも大きな武器である事は過去の作品を聴けば分かると思う。今作は攻撃的で直接的に刺す音こそ前面には出ていないけど、紛れも泣くバンドとして深化と円熟を感じさせる音が溢れているし、本当に普遍的な良さに満ちている。
実質的な今作のオープニングである第2曲「コンクリート / 記憶」を聴けば分かるけど、決してバンドとしての音は全然日和ってなんかいない、五味兄のズ太く歪んだベースラインはより深淵まで抉る音になっているし、五味弟のギターも泣きのメロディを奏でながら突き刺していく、岩城氏のドラムも持ち前のビートの強さを相変わらず見せ付けているし、あくまで硬質なバンドサウンドは変わっていないし、寧ろより研ぎ澄まされている。バンドとしてのアンサンブルがより強固になりながらも、ざらつきを残しながらも、五味兄はとにかく切なく感情豊かに荒涼感を露にしながら歌い、メロディはどこか優しくありながらとにかく切ない。元々LOSTAGEというバンドは普遍性もグッドメロディもあったバンドだし、それを研ぎ澄ましたからこそ今作は生まれたんだと思う。かといって器用に歌物の作品に仕上げましたかと言えば大違いだし、このバンドの歌はとにかく不器用な歪さばかりだ。第3曲「Nowhere / どこでもない」ではここぞという所では轟音ギターが渦巻き、感情を揺さぶりまくるけど、その音にカラフルさやポップさは勿論無い。なんというかどの楽曲もそうなんだけど、剥き出しで余計な装飾を拒んだ音になっているのだ。だからこそメロディが素朴かつ素直に伝わるし、歌もじんわりと心に来る。
第4曲「いいこと / 離別」は前作に収録されている「BLUE」の様な青き疾走感をより明確にした楽曲だし、第5曲「Guitar / アンテナ」は今作で唯一LOSTAGEの持ち味の一つである吐き捨てる言葉とソリッドな音で突き刺す攻撃性が際立つ楽曲だけど、そんな楽曲でもバンドとしての大きな円熟を感じるし、特にアルバムの後半の楽曲は本当に剥き出しの音しかない。第6曲「深夜放送 / Unknown」は余計な音を本当に削ぎ落とし、シンプル極まりない音のみで構成され、アチコ嬢のコーラスが確かな風通しの良さを生み出し、心がキュンとする。第7曲「Flowers / 路傍の花」は彼らの普遍性の一つの集大成であった「NEVERLAND」の深化形であり、素朴なサウンドと、柔らかな音と歌によって傷だらけでもポジティブに前を向くエネルギーを感じる名曲であるし、今作を象徴する一曲になっていると思う。郷愁の音色が涙腺を刺激しまくる第8曲「Boy / 交差点」、そして決定打は今は亡きbloodthirsty butchersのフロントマンであり、俺たちのジャイアンである吉村秀樹に捧げたレクイエムである最終曲「Good Luck / 美しき敗北者達」だ。今作のテーマに喪失や死や別れといった物を五味兄の書く歌詞から感じたりするんだけど、そんな今作を締めくくる8分近くにも及ぶ普遍性とエモーションが緩やかでありながらも確かに渦巻く名曲だし、レクイエムでありながら確かな生をこの曲から感じるし、そうかLOSTAGEはとうとうそうした感情まで見事に表現するバンドになったんだな。最高のエンドロールの先にあるのは確かな明日への渇望と希望だ。
LOSTAGEはポストハードコア的なアプローチも勿論最高なんだけど、同時に普遍性とグッドメロディも素晴らしいバンドだし、ここまで素直な作品を作り上げたのは間違いなくバンドの覚悟の表れだろう。今作に存在する音と言葉は安易な希望ではないし、確かな絶望や悲しみが直ぐ横に存在している。だからこそ彼等のバンドとしての前向きさや傷だらけの格好良さがより説得力を増して伝わってくるし、本当の意味での生命賛歌なんだと思う。本当に素晴らしいアルバムだ。LOSTAGEというバンドの底の知れなさを感じると同時に、本当にバンドとしての強さを感じる傑作。
■ECHOES/LOSTAGE
![]() | ECHOES (2012/07/11) LOSTAGE 商品詳細を見る |
奈良県在住の3ピースオルタナティブロックバンドであるLOSTAGEの2012年リリースの2年振りの5枚目のアルバム。3ピース体制も完全に板に付いて、昨年リリースしたミニアルバムでも更に研ぎ澄まされた鋭利さと、多彩さと、郷愁の歌を高めた彼等の進化を目にしたが、今作は彼等のルーツである90年代ポストハードコアのサウンドの中でどこまでもじんわりと胸を打つ歌を聴かせてくれる傑作になった。また数多くのゲストが彼等の音をより輝かせているのも見逃せない。
LOSTAGEはポストハードコアのサウンドを継承した切れ味の鋭いサウンドが大きな魅力の一つであるのだが、今作では分かり易く激しさやオルタナティブさを前面に押し出している訳ではない。第1曲「BROWN SUGAR」は3人編成になってからの「ひとり」や「Hell」に続く必殺の1曲で、ざらついたギターの音が身を切り刻み、鋭角のビートで叩きつけ、五味兄はこれまで以上に叫んでいるし、序盤から破壊力に満ちた必殺の1曲で始まるし、Zの根本潤がゲストでサックスを吹く第2曲「真夜中を」はタイトなビートに引率されながら、微熱のテンションを保ちながら、ジャンクさと鋭利さが見事に組み合わさったLOSTAGEならではの1曲だし、これまでの様なポストハードコア・オルタナティブの要素が強い楽曲は、これからの必殺の名曲の仲間入りを確実に果たすだろうし、その感覚とアンサンブルは更に磨きがかかっている。
でも驚いたのは第3曲「BLUE」だ。これまでもLOSTAGEは歌物オルタナティブな名曲を多く生み出してきたし、前作のミニアルバムでは「NEVERLAND」という完全に歌物に振り切った名曲が収録されていたが、これまで以上に歌もギターの音もクリアに響き渡っているし、郷愁の旋律が青く輝き、どこまでもストレートに胸を打つ名曲に仕上がっている。そしてこの曲は、今作を本当に象徴する1曲だと思う。今作は多彩さを極めつつ、あくまでもオルタナティブロックとしてのサウンドスケープを保ちながら、どこまでも素直に歌と持ち前のメロディセンスが花開く郷愁の音色を今まで以上に素直に聴かせる作品になっているからだ。透明感溢れるアルペジオで始まり、若干アコースティックテイストを持ち、Ropesのアチコ嬢のコーラスが更に透明感を強くし、完全に歌に振れ切った第5曲「NAGISA」、本当にスタンダードなギターロックとして王道極まりないし、バンドとしての強度と歌が絶妙な第6曲「あいつ」の中盤の2曲はこれまでのLOSTAGEの秘かな魅力だった歌と鋭利さの奥にある柔らかさや優しさといった感覚を遂に全面的に開放した瞬間だし、本当に素直に「良い曲」を聞かせてくれる。
再びDCポストハードコアの独自解釈な第8曲「瘡蓋」を挟みながらも、Zの魚頭圭がアコギを弾く第9曲「ペラペラ」では不穏のギターのループから暴発を繰り出し、その落差の中でも五味兄の歌は全くブレずに存在する。そして最終曲「これから」でオルタナティブサウンドを封印し、優しく柔らかな音色と歌が剥き出しのまま存在し、平熱の中で淡々と、日常を生き続けるポジティブさが流れていく。
数多くの苦難を乗り越えバンドとしての歩を進めたからこそ生まれた作品だと僕は思うし、例えオルタナティブですら無くなったとしても、バンドとしての多彩さを見せつけ、本質としてのオルタナティブロックをLOSTAGEは一貫して生み出しているバンドだと思っているし、捻くれた感覚すら捨て去って、どこまでも素直に胸に響く全10曲。3ピースになってからのLOSTAGEの一つの到達点であると同時に、日本のオルタナティブロックの名盤だと思う。そして何よりも僕が思うのは、このバンドはもっと評価されるべきだし、もっと売れるべきだって事だ。本当に多くの人に触れて欲しい作品。
■LOSTAGE/LOSTAGE
![]() | LOSTAGE(DVD付) (2010/06/02) LOSTAGE 商品詳細を見る |
奈良県から全国にこの鋭利なオルタナティブサウンドを爆音で発信するLOSTAGEの2010年発表の4枚目のアルバム。前作までLOSTAGEは4ピースであったが、メンバー脱退により今作から3ピースとなっている。ギターが一人いなくなってしまったというピンチとメジャーレーベルとの契約を終了しインディーズでのリリースというピンチ、その二つのピンチを乗り越えた先にあったのは、ギターが一本になってしまったからこそ、よりギターリフの殺傷力と存在感を強め、その逆境をバネに自らの音の精度を高めたと言える。
今作はまさに引き算で制作された作品だ。音数が必然的に少なくなったからこそ、今までの音からの変化は本当に大きい。ツインギターの絡みこそ無くなってしまったが、そのギターリフはさらにざらついた感触で聴き手の耳に入ってくるのだ。第1曲「ひとり」からもそれは伺える、イントロから一気に持っていかれ音圧とリフの力が増したギターリフはよりダイレクトに突き刺さる物へと変貌を遂げている。それでいて侘び寂びのある旋律の流れと展開は感情にダイレクトに直結するのだ。第2曲「断層」も少ない音だからこそ、鳴らす音の強度を強め、一つ一つの音に音圧と迫力を加速させ、より鋭角な音を見せ付けてくれている。
更には楽曲の幅もこれでもかと広げてきた印象を今作からは感じる。第4曲「裸婦」のZの根本潤のサックスの音とそれと共鳴するかの様なダブ的なベースラインと土臭い臭い空気を楽曲全体で発しながらも、それをあくまでもオルタナティブロックとして鳴らしたそれは新境地だと言えるし、第6曲「TOBACCO」のストレートでありエモーショナルであり風通しの良い疾走感は本当に気持ち良い。そして終盤の情緒豊かでありながらもざらついた金属感触はまた素晴らしい。第7曲「喉」のダウナーであり、くぐもった感触から一気に歪んだ音へと変貌していくそれや、第8曲「眩暈」の微熱の熱量もまたナイス。そして最終曲である第9曲「夜に月」でそのエモーショナルな哀愁を暴発させていくのはLOSTAGEだからこその音だ。
バンド最大のピンチを乗り越えたLOSTAGEはその音の精度を高め音楽的な懐も深くし、より孤高のオルタナティブバンドへと進化した事を今作で見事に証明した。何よりも今までの作品とは覚悟の違いといった物が今作からは伝わってくる。90年代USオルタナを起点にして始まったLOSTAGEの音はその覚悟を以って更なる尖りきった殺気と感情を鳴らす物になったのだ。今こそこのバンドはもっと多くの人に聴かれるべきであるし、今の知名度と立ち位置はLOSTAGEの音楽に比べても全然だとすら思う。もっと多くの人にこの音が届いて欲しい限りだ。
■CONTEXT/LOSTAGE
![]() | CONTEXT (2011/08/03) LOSTAGE 商品詳細を見る |
奈良在住のオルタナティブロックバンドLOSTAGEの2011年発表の最新作にして3人編成になってから2枚目の作品。前作「LOSTAGE」でメンバー脱退とメジャーから離れる二つのピンチを乗り越え、バンドとしての音圧と腕力を屈強に鍛え上げ、ピンチを進化に変えたが、地元奈良のライブハウスであるネバーランドで録音された今作ではその鋭利さをより突き詰めて、更に必殺のオルタナティブロックへと進化を見事に遂げたと言えるだろう。
まず頭の第1曲「HELL」が完全にこれからのLOSTAGEの必殺の一曲と言って言い位の名曲だと言える。ざらついた録音と、3ピースとは思えない音圧と、90年代エモ・ポストハードコアを完全にLOSTAGEとしての音として20111年に鳴らした物になっている。必殺のキメと構成、ハウリングしまくりながら爆音で一撃でノックアウトされてしまいそうになる殺傷力。えげつない音でありながらも、そこにLOSTAGEはキャッチーさを忘れずに芯に置いている。間口こそ広いが、その奥にある爆音の音塊に粉砕されるのは間違いないだろう。第2曲「12」もバーストする轟音と空間的な響きを重んじた歌メロが融合している。第4曲「私」ではストーナーな煙たさを感じさせるサイケデリックなギターソロすら登場しているし、骨組みになっているオルタナティブロックの音を更に危険度の高い物にしており、より使える武器を増やしてきた印象を受けた。
そんなざらついた5曲の爆音天国の先にある最終曲である第6曲「NEVERLAND」はLOSTAGEが尖った音の中に隠してたメロウさとセンチメンタルさを全開にした、今までで最も感情に訴える力を持った楽曲だ。五味兄のボーカルはいつもみたいにリバーブをかけず、素のままの歌を歌い、淡々と素直な言葉を歌っている。そこにあるエモーショナルさと温もりはきっとこれからのLOSTAGEの大きな武器になるのではないだろうか。7枚目の作品にして彼らはやっと素直なエモーショナルロックを鳴らしたのだ。
様々なピンチに見舞われながらも、それを乗り越え成長するバンドであるLOSTAGE。今作でもその成長と変化をしっかりと刻みつけてくれた。僅か6曲入りのEPではあるが、この作品はこれからのLOSTAGEにとって重要な作品になるであろう。LOSTAGEは言ってしまえば数多くのミュージシャンから賞賛を浴びるバンドであるが、LOSTAGEの音はもっと多くの人が触れるべき物である。オルタナティブロック・エモを愛する人から、歌物のロックを愛する人まで、その有効範囲は本当に広い音楽であるし、よりLOSTAGEの音が多くの人に届いて欲しい。それだけの物をこのバンドは持っているのだ。