■Swallow The Sun
■Emerald Forest And The Blackbird/Swallow The Sun
![]() | Emerald Forest & the Blackbird (2012/02/14) Swallow the Sun 商品詳細を見る |
ゴシックドゥーム界の代表的なバンドであるSwallow The Sunの2012年発表の最新作。前作「New Moon」では激泣きと激メランコリックな美メロが咲き乱れるゴシックドゥームを展開し、多くのリスナーの心を号泣に導いた傑作となったが、今作はより音のレンジを広げた作品になっており、前作程は前面には出してはいないにしてもメランコリックな美メロは健在。そしてそれらの旋律の重みも増している。
今作はシンセを中心に楽曲の旋律を作り上げ、泣きのギターといった要素は少し後退している。それに楽曲の尺も長くなりよりスケール感を高めている。第1曲からシンセの哀愁の旋律から壮絶なストーリーを展開しており、前作に比べたら格段にスケールアップが施されている事が分かると思う。アコースティックギターも取り入れ、フォークメタル要素も強めている。ポストメタル要素も以前からあったが、今作のストーリー性と静謐さと激情の広がりはよりポストメタル的なサウンドスケープを拡張した物だ。フォークやプログレッシブといった要素を強めて、元々かなり強かった彼等のストーリー性のあるゴシックドゥームの世界は本当に大きな広がりを見せているし、ゴシックドゥームの枠では収まらない。第4曲では静謐さを前面に押し出しながらも、序盤から泣きのギターが炸裂するクラシカルさと共にクリーントーンの男女のボーカルが織り成す幻惑とメランコリックな歌世界は本当に魅力的であるし、今作に於ける彼等の成熟を本当に痛感させられる名曲になっている。中盤からはグロウルも飛び出し、その静謐さからヘビィなリフが飛び出す展開を見せたりもするが、今作で比重が増えた静寂の中で見せるクリーンさが、ゴシックドゥームとしての暴虐さをより際立たせているし、その暴虐パートから再びメランコリックな美メロパートに移行しても楽曲の中で一貫したストーリーを感じさせる物だ。そして何よりも彼等の暗闇から新たな光へと連なる世界は今作で本当に大きな説得力を持つ様にもなったし、ドゥームサウンドは健在ではあるがドゥームである必然性を自ら捨て去り、新たな要素を貪欲に取り込んだからこその進化だと思う。第10曲の美メロが轟音として迫り来る感覚から、静と動の明確な対比、そして壮絶でありながらも救いへと繋がるラストへの流れは本当に美しい。
美メロは健在ながらもあからさまな泣きの要素は後退したし、ドゥーム要素は壮絶なグロウルボーカルも減ったから前作に比べたら派手な作品ではないし、冗長になってしまった部分があるから前作を愛した人の中には戸惑いを覚える人もいるかもしれないが(僕も初めて今作に触れた時はそうだった)、より複雑になりよりスケールの増した楽曲と作品全体のレンジを広げ、そのサウンドの中にあるのは一貫して美しいメランコリックさだ。聴き込む程に彼等の凄さを痛感させられるし、本当に長い時間をかけて触れる事の出来る作品になったと思う。今作でSwallow The Sunは完全にネクストレベルへの飛躍を遂げた。
■New Moon/Swallow The Sun
![]() | New Moon (2009/11/17) Swallow the Sun 商品詳細を見る |
フィンランドのゴシックドゥームバンドであるSwallow The Sunの09年発表の作品。ゴシックというだけあって、その音は非常にメロディアスで耽美な物になっている。寧ろドゥームというよりもポストメタル的な感触の音にドラマ性と陰鬱で美しい旋律を取り入れ、グロウルを駆使するボーカルスタイルでありながらも、極悪さよりも激情の感情に襲われるし、全ての旋律が泣きの音を作り上げる非常にドラマティックな作品だ。
CDを再生した瞬間に耳に入るのは非常にメランコリックなアルペジオの旋律、そこから轟音のリフと泣きのギターが入り最初から胸を抉る様な涙の音が流れる。この作品にがドゥームらしい煙たさや極悪さは全く無く、寧ろゴシックメタルにポストメタル的要素を取り入れた感触を感じるのだ。だからこそ2本のギターとキーボードの音は緻密に組み合わさっているし、グロウルとクリーンを巧みに使い分ける事でその泣きの感情を最大限にまで引き出すボーカルがまた大きな要素を持っていたりする。荒涼とした空気の中でどこまでも感情をメランコリーさをスロウテンポの轟音の中で描く音楽だと言える。
特に中盤からの流れは今作の大きなポイント。第5曲「Lights On The Lake (Horror Pt. III)」は女性ボーカルをフューチャーし、どこまでも泣きまくりな旋律と、無慈悲に刻まれるヘビィなリフ、静謐なパートから一気にポストブラックメタルな爆走ブラストビートの嵐に移行するプログレッシブさや、壮大なスケールの楽曲と構成力の強さが本当に感情を揺さぶりまくる。そこから第6曲「New Moon」への流れは本当に鳥肌が立つ。やり過ぎだと思ってしまう位に押し寄せるメランコリーな感情を揺さぶる泣きの旋律とドラマ性。しかしこいつらの場合はそれが陳腐な物ではなく、大きな流れの中でその感情をドラマティックに描くのだ。そこにある優しさと温もりの感触こそがこのバンドの泣きの要素なんだと思う。
作品全体を通しての完成度も高く全ての曲がメインを張れる位だし、作品全体が一つの作品として一貫した流れを作り上げている。冷たい感触や陰鬱な感情を感じさせながらも冷徹な音では無く、ヘビィでありながらその音は本当に優しい温もりを感じさせる。だからこそ本当に残酷だ。この音は聴き手の感情をどこまでも揺さぶってくる。夜の静寂の世界を切り裂く感情の轟音を鳴らすゴシックドゥーム。心が震えることは間違いない。