■DIR EN GREY
■DUM SPIRO SPERO/DIR EN GREY
![]() | DUM SPIRO SPERO (2011/08/03) DIR EN GREY 商品詳細を見る |
DIRはその経歴もあってか本当に様々な意味で議論される事が多いバンドである。90年代末期に登場しV系バンドとして時代を築き、そこから脱V系し完全にヘビィロック路線になり、海外でのライブも精力的に行う様になったりと本当に波乱のバンドだ。そんなDIRの音楽性を一つの到達点とも言える前作「UROBOROS」から約3年の月日を経て2011年に発表された今作は更に一歩踏み込んだ発展系の作品だ。インパクトは確かに前作の方が大きいが、更にダークで深遠なヘビィロックを今作では見せてくれている。
ここ近年のDIRはOpeth等の影響を感じさせるプログレッシブさと大作志向と耽美さを追求した音楽であるが、今作ではそれを更に突き詰めた印象を受ける。前半の曲郡は徹底してダークでヘビィでミドルテンポの楽曲で攻めて来る。京の高域と低域を自在に行き来するボーカルスタイルは更に成長を見せているし、ベースラインもただヘビィなだけでなく複雑なラインを見せ付けてくれているし、その音楽性もドゥーム要素まで取り入れたりとより幅広くなっている。しかしながら海外バンドの模倣ではなく、その影響を受けながらも、それを日本人独自の耽美さを注入した事によって独自のゴシックな感覚すら感じさせてくれる。しかし第8曲「LOTUS」からが今作でのDIRの進化を見事に見せ付けていると僕は思ったりする。「LOTUS」は4分というコンパクトな尺とメロウで耽美で美しい情緒性とヘビィさが見事なバランスで融合し、京も全編に渡ってクリーンで歌う楽曲だが、このようなシンプルな楽曲で何のギミックも無しで攻めた時こそDIRの精神的ヘビィネスと耽美さがどこまでも深く豊かに表現されているのだ。これは間違いなくバンドにとって大きな進化だと断言出来る。そこから第9曲「DIABOLOS」の壮大さと渦巻く陰鬱さへと連なる流れが今作の核になっているとすら思う。その漆黒の蓮華の世界を描く様はDIRだからこそ到達出来た場所だ。そしてヘビィさで攻め立てる曲郡からの終盤の哀愁漂う2曲は今作の壮絶なヘビィさから一転してシリアスでありながらも優しく美しい。最終曲「流転の塔」は正にDIR印のバラッドであるし、その剥き出しになった感情をヘビィでありながらも素直に吐き出すそれは今作のラストに相応しく、重苦しさの先の救いの音だ。
今作は益々複雑になり、重苦しくなり、それでいてそのドロドロとした激情を更にダイレクトにアウトプットした作品である。前作「UROBOROS」は「VINUSHKA」という楽曲が作品の絶対の存在として君臨した作品であったが、今作は作品全体で一つの物語の様な作品になった。しかしながら「LOTUS」や「流転の塔」の様な楽曲こそが今作の真価があると個人的には考えており、シンプルなアプローチの楽曲でも確かな説得力と精神的な重苦しさと、ヘビィな音ではあるがそれ以上に楽曲そのものの旋律であったりといった剥き出しの姿になっても戦える強さと美しさを感じる事が出来る。確かに大作志向ではあるけど、それらの4分といったコンパクトな尺の曲でも長尺の曲に全然負けない説得力を身につけたのは大きい。あとは音源での音をライブでしっかりと刻みつける事が出来るかが大きな課題になるだろう。それをクリアすればDIRはとんでもないバンドになるんじゃないかと僕は思うのだ。