■rowthe
■LIGHT/rowthe

茨城が生んだ激情系ロックバンドであるrowtheの07年発表の1stミニアルバム。今作は新宿LOFTでかつて上映された「LIGHT」という映画のサウンドトラック作品でもあるらしく(映画の方は観ていない)、収録されている6曲の内の5曲がインストとなっているが、それでもrowtheのサウンドの魅力は十分に伝わってくる物になっている。rowtheの激情では無く、情景豊かな音の波が今作には確かにパッケージされているのだ。
rowtheはボーカルの末山氏が中心になって曲を作っているのだけれども、今作はギターの黒澤氏が中心になって曲を作っている。SE的な第1曲「恍惚灯」からストレートでラウドな第2曲「競衝」と今作は始まるが、第3曲「対峙の軸」からrowtheの本領発揮であるし、第3曲から第5曲までの3曲は黒澤氏の曲になっている。rowtheはロックバンドとしての激情とスケール感が大きな魅力でもあるけど、空間的な音作りを駆使し、そこから生まれる情景を想起させる音が本当に魅力的でもあるし、インストでもそれは健在。「対峙の軸」は少しだけラウドなリフが登場こそするが、殆どポストロックの域に入ったクリアなアルペジオとトレモロのフレーズの二つのギターの音色が重なり合い、不穏さの中で静かに蠢く音像とタイトなビートが静かに絵画を描く様に情景を構築していく。第4曲「生存」もあくまでもロックバンドとしてのフォーマットは崩さずに淡く差し込む光を描く様な楽曲になっており、後半からは柔らかなディレイが生み出す轟音と共にその輝きを高めるポストロックになっている。第5曲「群白想起」では完全に轟音系ポストロックに突入し、不純物の無いクリアな音が描くのは聴き手の感情を確実に呼び起こす優しい音色だ。それでいてエモーショナルに展開していく轟音の神秘性にも惹かれる。普段のrowtheとはまた趣こそ違うけれど、彼等の魅力である季節や情景を想起させる激情の音色はサウンドトラック作品である今作でも確かに存在しているのだ。だが唯一末山氏が歌う第6曲「蘇生”転生”Ver.」でこそrowtheのサウンドは完全に発揮されている。ループする空間系の音色と、削ぎ落とされたアルペジオのフレーズの反復のみで構成されたこの曲は、本当に数少ない音のみで構成され、展開も殆ど無い楽曲である筈なのに、末山氏の殆ど断片化された言葉を静かな語り部の様に紡ぐボーカルと共に一つの終末にも近い感傷と感情が描かれた名曲になっている。
今作でも十分にrowtheの魅力は伝わると書いたけれど、現在のrowtheのライブで披露されている未音源化の楽曲郡と、そのライブパフォーマンスは今作以上の物になっているし、その情景を描くポストロック的なアプローチを再びストレートなロックのフォーマットに帰結させ、それに激情を加えたからこそrowtheは非常に感動的なライブパフォーマンスを見せてくれるのも間違い無い事実だ。今作製作時以上に鍛え上げられたバンドのアンサンブルと、rowthe独自のロックバンドとしての激情と情景はそう遠くない内に出る作品で初めて多くの人の目に飛び込むだろうし、それを更に高次元のライブで見せてくれる筈だ。rowtheのライブは一回で良いから見て欲しい限りだし、それを形にした遠く無い未来に出す新譜は間違いなく名盤になる筈だ。
■秋/rowthe

水戸出身で現在都内で精力的に活動をしている5人組の激情バンドであるrowtheのライブ会場で販売されている3曲入りシングル作品。rowtheはその超高次元の音塊を描くライブが特に素晴らしいのだけれども、音源の方でもその音はしっかりとパッケージされている。それにrowtheの魅力はストレートなロックバンドとしての音を鳴らしながらも、ツインギターが立体的に絡み合い緻密に練り込まれた音、季節であったりとかそういった物を日本語詞で歌い、その侘び寂びを感じさせる日本人ならではの心象風景を描く旋律、末山氏のクリーントーンの歌と、歪んだシャウトを巧みに使い分け、エモーショナルな激情をダイレクトに放つボーカルスタイル。それらが組み合わさって心に沁みる歌心を見せつけながらも、ヘビィなリフが鳴らす旋律と空間的な歪みがそれをより高次元の音に仕上げているのだ。
第1曲「雲居の空」と第2曲「秋」は繋がった楽曲であるのだけれど、「雲居の空」のメロウで美しい旋律がその風景であったり季節を想起させ、そこから徐々にその熱量を高めていき、そのドラマティックな熱量を保ったまま「秋」ねと雪崩れ込む。疾走感溢れるストレートな音と末山氏の歌が見事にマッチし、胸を掻き毟る激情とパッションが溢れ出す音になっている。ロックバンドとしてのスタンダードな音を鳴らしながらも、決してそこに甘えてなんかいないし、そのエモーショナルな感傷を高次元の立体的なサウンドで組み合わせた物だからこそ、そのスケールの大きさに圧倒される。
第3曲「双月」は更にグッとその歌心を見せ付ける1曲。末山氏はボーカリストとして独自の歪みを感じさせてくれる人であり、その感情や風景を楽器隊の音とシンクロさせ、その焦燥感をより確固たる物にしている。似た様なボーカリストがまずいないし、スタンダードなスタイルを取っていながらも、その歌は微かな感情の変化やそういった物をしっかりと伝えてくれる物である。rowtheはバンドとしての確固たるスタイルを確立しているが、それに加えて末山氏のボーカリストとしてのカリスマ性やそういった部分がよりrowtheの音は決定的な物にしているのだ。
僅か3曲入りのシングルであるが、rowtheの鳴らす世界観は確実に伝わってくる物であるし、その情緒豊かな音と歌には本当に虜になってしまうだろう。しかしながら音源以上の音を鳴らすライブはもっと素晴らしい物がある。音源完全再現であり、それに加えて空間を一気に支配する轟音の洪水がrowtheの神秘性を更に高めているのだ。やはりこのバンド、一筋縄ではいかない。