■Nortt
■Ligfaerd/Nortt
![]() | Ligfaerd (2010/04/05) Nortt 商品詳細を見る |
デンマークのフューネラルドゥームユニットであるNorttの2006年発表の2ndアルバム。その音はドゥームメタルの規格を超えて、ダークアンビエントやデプレッシブブラックにまで及んでいる徹底して黒を貫いた音と言えるだろう。ただでさえ暗黒の音を描くフューネラルドゥームであるが、そこにより精神的漆黒や死への渇望といった鬱な方向へ特化した要素を取り入れた結果、安易な救いなんか存在しない極端極まりない音楽になっている。
まず第1曲「Gudsforladt」ではドゥームやブラックメタルの要素すら感じさせないひたすらアンビエントな音が繰り広げられている。静謐なシンセの音が薄らと聞こえ、ただ虚無感に満ちた音で埋め尽くされるだけの曲。しかしこの時点で精神を十分に蝕むだけの陰鬱さは発揮されている。そして続く第2曲「Ligprædike」で本領発揮。ノイジーで全てを搾り出すかの様なディストーションのギターがとてつもなくスローなリフを鳴らし、それに加えて生気の無いシンセが終わり無く反復し、そこに今にも止まりそうなドラムがギリギリでリズムを刻み、怨念に満ちた低域のボーカルが乗るという極端極まりない音を展開。ここに存在する音にバンドとしての音圧は皆無で、全てが今にも消え入りそうな音圧で鳴らされているから余計におぞましい空気を生み出している。そして後半のパートがまたこの陰鬱さを高めていく。展開も無くただ止まりそうな音を鳴らすだけの低域ギターは最早ホラーであり、そこに若干の感情を感じさせるフレーズが入るから感情移入してしまいそうになる。
続く第3曲「Vanhellig」も死後の無の世界の様な感触を徹底して作り上げており序盤のアンビエントパートで嫌になる位にそのコールタールの様な音でズブズブに沈めてから突如鳴るギターリフは当然の様に生気を感じさせない物だ。というかここまで徹底して無機質とはまた違う、無感情の漆黒の音を徹底して鳴らしているから本当にタチが悪い。SilencerとかWorshipはまだその感情の部分を感じる事が出来るから救いがあるのだけれども、Norttが鳴らしてるのはその先に逝ってしまった人間の抜け殻の音なのだ。第5曲「Dødsrune」はそれを極めた最も凶悪な楽曲。鐘の音色と怨念の蠢く様なアンビエントな音とチャーチオルガンが奏でる感傷的な音色と無感情のギターが重なり合って、ある意味壮大なスケールで鳴らされている楽曲。そこから中盤のダークアンビエントな音だけになるパートなんか本気で心臓が止まりそうな感覚に襲われるし、そして再びボーカルとギターとドラムが入った所でその感触は消える事無く終わっていく。
いくら何でもやり過ぎって言って良いレベルで抜け殻の様なフューネラルドゥームを鳴らしている今作であるが、楽曲そのものの完成度は非常に高い。しかし盛り上がり所なんか全く無いし、ドラマ性はおろか、感情を感じさせるパートすら皆無の本当に抜け殻になる感覚に襲われそうになる音楽だ。スローさを極めた音とリズムは心拍数が停止する寸前の死に向かう寸前の感覚を描いているかの様だ。ここまで徹底的に無感情で漆黒の音を描いてしまっては本当に極端だとしか言えないけど、そういった音楽がまた人間の救いになる事だってあるのだ。コールタールの海に沈んでいくかの様な音がただ終わり無く広がっている。