■theSun
■Twelve Inch Six Songs/theSun

オリジナルメンバーであるイサイ氏の離脱により4人編成となった札幌のハードコアの猛者達による超変則カオティック激情系ハードコアであるtheSunの2012年リリースの12インチアナログ音源。全6曲入りとなっており、同じ内容のCDもセットで同梱されているレコードプレイヤーを持ってない人にも優しい仕様。4人編成になってからの初の音源であり、前作から実に3年振りのリリースとなったが、イサイ氏の離脱を乗り越えて、新たな道を歩み始めた事を高らかに宣言する1枚。
theSunと言えば変則的なキメの乱打を繰り出し、変拍子によるカオティックさから生まれる激情が持ち味であるが、今作はそんな変態性は健在ではあるけど、以前に比べたら抑え目になっているし、カオティックとかそう言った要素よりも、もっとエモやポストハードコアといった原始的な要素が凄く大きくなっている。ボーカルのヒグチ氏がかつてやっていたBlack Film Danceを思い浮かべる人も多いと思う。でも単純なる原点回帰では終わる訳が無く。あくまでもtheSunが長い歳月を経て培った物を更に原始的かつ直接的に表現しているのだ。第1曲「Who?」から直接的なエモーショナルなざらついたディスコードのギターフレーズが非常に印象的だし、変拍子のビートは健在だが、あからさまな変則性を抑え、ディストーションとクリーントーンを巧みに切り替え、ざらついた冷徹さの中から生み出される熱量が熱病の様に襲い掛かってくる。ヒグチ氏のハイトーンボーカルは相変わらずであるけど、それでも叫びながらもより歌に接近している印象を受けるし、以前から持っていた感情に訴える力をより鍛え上げたからこその進化を感じる。第2曲「短い夢」は変則的なキメを巧みに取り入れたこれぞtheSunとも言うべき楽曲ではあるが、もっと分かり易いポストハードコア的なリフとビートのアンサンブルが印象的だし、静と動を巧みに切り替える王道の手法も取り入れながらもディスコードの変則的なギターフレーズを前面に押し出し、エモーショナルな狂気を生み出し、そこから性急なサウンドへと雪崩れ込むカタルシスが何よりも堪らない。第4曲「Night」はこれまでのtheSunには無かった平熱のクリーントーンのギターが引率し、ヒグチ氏が今まで以上に歌うtheSun流の歌物エモな1曲であり、一方でドラムが変則性を高めるという奇妙な捩れも同時に生み出しているし、そこからドラマティックなエモーショナルなサウンドへと移行していく様は狂気が咲き乱れている。鋭角かつ冷徹なサウンドスケープが印象的な第5曲「Will in this government in the future?」も、ドライブするディスコードサウンドが第炸裂な最終曲「Voiced Sound」も今までのtheSunの流れにありながらも、それ以前のメンバーがそれぞれ在籍していたバンドにも繋がり、本当に今までそれぞれが培った物を集結させたtheSunというバンドが、もっと原始的なバンドとしてのパワーを拡大させた作品だ。だからこそ今まで以上に感情と肉体に訴えながらも、その裏では相変わらず変態性と狂気が笑みを浮かべている。
前作の2ndアルバムでも90年代エモ・ハードコアのカラーは色濃く出ていたが、今作は更にそれを前面に押し出し、自らのルーツを再確認した上で、それをバンドの新たな進化へと結びつけた作品だと思うし、より聴き手に訴える直接性を手にしながらも、だからこそ狂気と変則性も際立つ異質さもある。やはり札幌のシーンを長年に渡って支え続けている猛者の貫禄があるし、だからこそピンチを乗り越えて自らの覇道を歩み続けているのだ。エモ・ポストハードコアの大推薦作品。
■Mass Of The Dead Songs/theSun
![]() | mass of the dead songs (2009/10/07) the SUN 商品詳細を見る |
北海道のカオティックハードコアバンドであるtheSunの09年発表の2ndアルバム。ギターに佐藤氏を迎え5人編成になっっているのだが、2本のギターはよりプログレッシブで変態性の高いフレーズを繰り出し、必殺のキメをここぞと繰り出すtheSunの武器をより強固な物にしている。そして今作は90年代エモーショナルハードコアのカラーもしっかり高めよりオルタナティブな作品になっているし、必殺のキラーチューンがこれでもかと咲き乱れる必殺の作品だ!
旋律自体は今までの作品よりキャッチーさを感じさせる物が増えているのも今作の大きな特徴であるが、それによってtheSunの奇妙さがより際立っているのは間違いないであろう。第1曲~第2曲の必殺のフレーズがプログレッシブに咲き乱れる様から、第3曲「KissHug KIssHug」の90年代エモコアをズタズタに解体した哀愁と奇妙さが同居する様などバンドの進化を感じる事が出来る。
そして今作屈指のキラーチューンである第5曲「SwordOrKnife」が素晴らしい。メロをしっかりと確立させていながらも、それを解体した変拍子の単音フレーズの高い中毒性が素晴らしいし、見事に静謐なパートとカオティックなパートを両立させた起承転結がしっかり感じる事の出来る楽曲の構成もまたナイスだ。続く第6曲「落ちる」のドラマティックさも今作で見せ付けた進化だろう。性急な2ビートとスロウに絡む静謐なフレーズは一気にカタルシスを生み出し、そこから必殺のブレイクと激情が待ち構えるクライマックスに加速する様は身の毛がよだつ位だ。
また第8曲「ヤバイ」の壮絶なパラノイア激情絵巻もメロウな旋律と狂気が見事なバランスで結びついた名曲だし、第9曲「Lee」のアコースティックでありながら、より狂気を放ち窒息しそうになる楽曲と、それぞれの楽曲の完成度の高さもあるが、よりtheSunのカオティックハードコアの振れ幅は広くなったし、確かな進化を感じる。
4年の歳月を得て作られた作品なだけあってtheSunの進化を確かに感じる作品になっている。theSunの解体され尽くし、歪みまくったカオティックさを殺すことなく、より哀愁漂うメロウさが増し、より楽曲の幅も広がり、より狂気を感じる作品になったのではないだろうか。
北海道のハードコアシーンを支え続けてきた猛者達によって結成されたtheSunであるが、やはり妥協の全く無い、ハードコアの美学を彼らは見せ付けてくれている。この混沌は止まる事無く膨らみ、そして新たな快楽と狂気を聴き手に与えてくれるのだ。
■Q/theSun
![]() | Q (2007/07/11) the sun 商品詳細を見る |
北海道のカオティックハードコアバンドtheSunの07年に発表されたEPである今作は、ハードコアのカラーよりもポストロック色の強い作品に仕上がっている。クリーントーンと歪みの絶妙なバランスだったり、カオティックなキメと転調の嵐だったりのtheSun特有のサウンドは存在しているが、より歌の部分に重点を置き、スロウテンポの楽曲が大半を占めている。theSunの変態性や特異な要素を大きくフーチャーした作品だ。
第1曲「SAGI」から浮遊感のあるギターの音で始まり、じっくりと聴かせる構成になっている。ヒグチ氏はハイトーンで絶唱しているが、それでも叫びというよりは歌の部分に重きを置いているし、theSunの持つハードコアの要素を敢えて抑える事によって、その異形さをアプローチした形になっているのだ。更に第2曲「エラーman」に至っては殆どポストロックといっても過言では無い楽曲に仕上がっている。不穏の揺らぎを持つギターの音色とベースが空間の軸を揺らしながら転調を繰り返し、聴き手に言い知れない恐怖感を与えてくる。そこから終盤で歪みまくったギターがバーストして破綻していく様はある種の美しさを見せてくれる。カオティックハードコアとしての軸はしっかり持ちながらも、そこに知的な狂気をブチ込んだ事によって異様さと異形さを持った蛇の様なズルズルと這い蹲る不気味さが聴き手を犯していくのだ
だが第4曲であり今作のラストを飾る「Kill Your Godiva」では一気にハードコアの瞬発力と強さを開放し、変拍子と転調とキメによるジェットコースターの様な暴走カオティックサウンドが展開されている。終盤のブレイクからファズギターと歪んだベースのユニゾンなんか鳥肌が立つ爆発力を見せつけている!不穏のトンネルを迷い込んだかの様な楽曲が連なる流れから一気に悪魔が笑う混沌の世界にブチ込まれ昇天する事は必至だ。
安易に爆音ハードコアサウンドに頼らず、変態性としなやかなバンドとしてのフォルムで自分達の音を叩きつけるtheSunであるが、今作でその異質は十分に伝わると思う。分かりやすいハードコアサウンドでは無いけれども、違う次元にある空間的歪みの世界は大きな中毒性と快楽を孕んでいるのだ。
■Twist,swingin’&percussion instrument/theSun
![]() | Twist,swingin’&percussion instrument (2006/05/31) the SUN 商品詳細を見る |
北海道のオルタナティブシーンを作り上げてきたmoonwalk、the carnival of dark-split、BLACK FILM DANCE、NEXT STYLEに在籍していた面々によって結成されたカオティックハードコアバンドがこのtheSunである。そんなスーパーバンドの1stアルバム。リリースはenvyのSONZAI RECORDから。
90年代のサンディエゴのバンドに通じるエモーショナルハードコアな音ながらも、変拍子とキメを多用しまくった楽曲構成はとても不穏で独特のサウンドを放っている。
第1曲「Ha.Sa.Mi」から不協和音を奏でる単音フレーズに、音の輪郭が見えない不穏のベースライン、不気味なシンセ音と、パラノイアなハイトーンボーカルが見事に融合した必殺の1曲で幕を開ける。第2曲「GoodBye...CherryTree」も、エモコアの流れをしっかりと受け継いだ必殺のリフとキメが乱れ咲く1曲だ。分かりやすい構成ではなく、一気に転調していく展開の作り方が聴き手をジェットコースターの様なカオティックな世界へと誘う。
全編を通して分かりやすいディストーションのサウンドには頼らず、不協和音の不気味なフレーズを際立たせるコーラスを多用したギターフレーズと、ひたすら空間をじんわりと埋め尽くすベース、性急ながらも、安定したリズムを作るドラムが見事なまでに静と動を使い分け、常にパラノってる感覚で攻め立てる。それは第10曲「Bye Bye」の様な王道のエモコアサウンド(あくまでtheSunの中では)な楽曲にも表れていて、安易な激情や泣きに頼らないサウンドからは冷徹さとダークさすら感じてしまう。ヒグチ氏のボーカルもシャウトなどは使わず、沸点に至りそうで至らない狂気をを保ったまま壊れている。
個人的に大好きなバンドであるのも勿論だが、北海道在住のバンドなんで残念ながら本州であまりライブをやらない。なんでtheSunのライブが東京である時は僕は何があっても観に行く様にしている。その位、ライブも良いバンドなのだ。音源での混沌としたサウンドはそのままに、よりダイナミックに展開していくライブは是非体感して欲しい。
現在は新たにギターを迎え、ツインギターの5人編成で活動してる。5人編成になってからの2ndアルバムも素晴らしい出来なので、こちらも機会があったらレビューしたい。