■Vestiges
■The Descent Of Man/Vestiges

アメリカはワシントンのバンドであるVestigesの2010年発表の作品。全7曲の組曲形式の壮大な作品となっている。音楽性はポストメタルを基軸にした物でありISISの影響を感じさせる物ではあるが、単なるISISフォロワーには決してなっておらず、激情系・アンビエント・ブラックメタル・クラストコアと様々な要素を融合させて独自の音を展開する良質なポストメタルバンドだ。ISIS以降のポストメタルを体現する作品だと言える。
アンビエントなイントロからクラストと激情を融合させたハードコアサウンドから今作は始まる、ハードコアの肉体に訴えかける快楽性と粗暴さを同時に持ち合わせながらも、その旋律は非常に物悲しさを感じさせダークな物である。それでいて幾重に重なり合う轟音のリフが自らの音圧を高めている。またクラストコアとブラックメタルを融合させたパートも性急なDビートとトレモロリフが組み合わさり、その暴力性を高めていく。しかし徹底して重厚なアンサンブルは崩れていないし、様々な音楽的要素を組み合わせていながらも、それを一貫して壮大なハードコアへと変換するバンドのセンスの高さを強く感じる。作品全体の構成と緩急の付け方もまた見事で、クラスト・ブラックメタルの性急なパートから自然な形で重低音がドローンな形で響くアンビエント色を感じさせるパートへと移行し、それらが全て自然な形で繋がっていく。疾走する轟音パートから自然な形でテンポを落とし、スラッジサウンドへとまた変貌を遂げていく様も全て一貫した音としてアウトプットされている。
前半は激情・ブラックメタル・クラストを基盤に展開されていくが、中盤からはバンドのポストメタルバンドとしての持ち味も見せ始める、反復するビートと音が徐々にドラマティックに加速させて行き、一気にバーストするかと思わせておいて、ベースの残響音が響くドローンなパートになり、そこから再びクリーントーンでのギター進行と激情のシャウトが聴き手を揺さぶり、一気にメロウな激情サウンドへと昇華されていく様は、単なるツギハギじゃ絶対に生まれない徹底した美意識によるドラマティックな音の世界だ。そして後半は完全にスラッジなリフが引き摺る様に響く静謐かつ重苦しいポストメタルへ、そして暴発した先にあるのは、ヘビィな轟音リフと緻密でありながらも隕石の様なリズムを鳴らすドラムが印象的なポストメタル絵巻だ。しかしそこから再び前半の様なブラックメタルへと変貌し、崩壊寸前のカタルシスを残し、聴き手に緊張感を与えながら暴走していく。そして完全にスラッジな音と激情系ハードコアを融合させた終盤で今まで築き上げた芸術的な音を全て粉砕するかの如く破壊の限りを尽くし、最後は稲妻の様なリフが無慈悲に振り落とされる。
この様に多彩な音楽性と、緩急を付けながらも様々な音が交錯する展開と構成を兼ね揃えた作品であるが、その音楽性が向いてるベクトルは本当に一貫しているし、粗暴さと徹底した美意識が同居した素晴らしい作品となっている。方法論はまた違うのだが、日本のheaven in her armsに通じるダークさとハードコアの暴力性を保ったまま美しくブチ壊れていく様とドラマティックな楽曲の展開はこのバンドの持ち味では無いかと思う。ISIS以降多くのポストメタルバンドが登場しているが、ISIS解散以降はISISに追いつけ追い越せと多くのバンドが素晴らしい作品を発表し、シーンを次の一歩へと突き動かし始めている。今作もそんなシーンの流れの中で生まれた傑作だと言える。
また今作はBandCampの方でフリーダウンロード配布されている。日本のAmazonn等では取り扱っておらず盤自体の入手は難しいので下記リンクからダウンロードして是非その音に触れて欲しい。
The Descent Of Manダウンロードページ