■Eryn Non Dae.
■Meliora/Eryn Non Dae.

フランスの5人組激カオティックポストメタルバンドであるEryn Non Dae.の3年振りのアルバムである2012年リリースの2ndアルバム。1stではあまりの完成度の高さと、極限まで緻密な楽曲と暴虐のブルータルなスラッジさにド肝を抜かれた反面、1stであれだけの物を作ってしまって2ndは大丈夫なのか!?って心配にもなったが、今作は前作よりはブルータルな要素は若干抑え目になってはしまっているが、彼等の持ち味であったポストメタル的緻密さが更に磨きがかかった傑作になった。
7曲で約60分という長尺の楽曲ばかりが並ぶ楽曲の構成もそうだけど、今作はかなりの大作志向の作品になっており、彼等の暴虐さの裏にあった緻密な頭脳的なアプローチといった部分がより表に出ている。しかし極悪さは相変わらずで、分かりやすいアプローチが出てきた反面、よりカオティックさとデスメタル的粗暴さとスラッジな重さが正面衝突し、それをDjent的なアプローチで鳴らした作品になっている。不穏な空白すら聴かせる重みは相変わらず健在ではあるけど、それに加えてカオティックさがバーストするパートではより破壊力とカタルシスが鍛え上げられているし、少しばかりメロウさも加わり、間口を広くしつつも、計算に計算を尽くした混沌が暴発する。
第1曲「Chrysalis」から約2分間のアンビエントなドローンサウンドがSE的に始まり、そこから一気に変拍子炸裂のツインギターが複雑に絡み合いながら地獄の果てにダイブする激カオティックサウンドが展開。ひたすら絶唱を繰り出すボーカルもあり、瞬く間に視界がドス黒い血飛沫で染まってしまう。更にUneven Structureにも負けないレベルの壮大なスケールと高い演奏技術による緻密さもあるし、Uneven Structureがカオティックさから宇宙へと飛び立って行くなら、彼等はカオティックさから煉獄をありとあらゆるダークな色彩で描いていくのだ。静謐なパートを盛り込みつつ、複雑怪奇なドラムがその先にある破滅を予感させ、そして暴発するカタルシスは本当に絶頂物。約12分にも及ぶ第2曲「The Great Downfall」に至っては完全にポストメタルの独自解釈の領域に達した複雑かつ壮大な楽曲を無慈悲な激重スラッジで叩きつけているし、まるで最も凶悪だった頃のNeurosisとMeshuggahが正面衝突したかの様なエクスペリメンタルさすら感じるサウンドを展開しているし、最後は引き摺る音が終末を体感させてくる。
今作の中では一番分かりやすいカオティックハードコアサウンドを展開しながらもスケールは変わらない第3曲「Scarlet Rising」、よりDjent感が出ている第4曲「Ignitus」と続いて第5曲「Muto」では今作屈指のカオティックブルータル絵巻が展開され、統率された世界観の中で地獄の堂々巡りを繰り返している感覚すら覚えそうになる中盤の3曲も凄いし、完全にNeurosisレベルのエクスペリメンタルさを手に入れてしまった事に恐怖しか感じない第6曲「Black Obsidian Pyre」と、あまりの楽曲の完成度の高さに驚くしかないが。最後の最後に待ち構えている最終曲「Hidden Lotus」は正に今作屈指の出来を誇る名曲。悪魔達のパレードを想起させる冒頭の激重リフの応酬から、カオティックハードコア・デスメタル・ポストメタル・Djentとあらゆるエクストリームなサウンドを食い尽くた先にある血みどろの世界を描き、今作の凄まじさを総括し終わる。
前作を初めて聴いた時は、新人若手バンドとはとても思えない極悪さと緻密さと完成度の高さにド肝を抜かれたが、2ndである今作は更にエクストリームさを拡大させ、より混沌をダイレクトに伝え、アンサンブルの強度と破壊力を鍛え上げ、独自のカオティックサウンドを自らの手で掴み取った作品だと思う。先人達の叡智を継承しながらも、その先人すら喰い殺そうとする暴虐の限りを尽くす5人組。こいつらは本当に凄いバンドだと思う。そして今作を聴いて本当に強く思ったのは、もうこれ以上の作品作れるの?3rd大丈夫?って前作を聴いた時と同じ事を思ったが、こいつらは次回作でまたとんでもない化け物を生み出してくれる筈だ。
■Hydra Lernaia/Eryn Non Dae.
![]() | Hydra Lernaia (2009/06/23) Eryn Non Dae 商品詳細を見る |
フランスのEryn Non Dae.は非常にハイブリットな現代に登場するべくして登場したバンドだ。今作は2009年に発表されたこいつらの1stアルバムであるが、デスメタルとカオティックハードコアとスラッジコアを強引に混ぜ合わせてミキサーで一つにしたら重圧的な音と統率されたカオスが空間を支配するポストメタルでありカオティックハードコアな音になってしまったとでも言うべきサウンドはハードコアの粗暴さで聴き手をひねり潰す破壊力を前面に押し出しながらも、先読みの出来ない展開や構成でよりバンドのハイブリットさを見せ付けてくれる作品。
例えばMeshuggahに通じる変拍子と不協和音の嵐は今作に存在するけど、こいつらはデスメタル要素を感じさせながらもハードコアであるし、Meshuggahとは全く違う音だ。片やConverge辺りに通じる構成力やカオティックさもあるが、こいつらは更にヘビィでスラッジな音を響かせている。スラッジ・ポストメタル勢と比べてみてもこいつら程、音が粗暴で混沌としているバンドは存在しない。多くの音楽的要素を組み合わせたハイブリッドなバンドであるのは間違い無いのだけれども、それらの完全に自らの音に消化した結果、全く似た方向性のバンドが浮かんで来ないオリジナリティ溢れる音を放出する作品になっている。一貫してデスメタル×カオティックハードコアなブルータルな音を噴出し、緻密にポリリズムを叩き出しながらも一音一音がスラッジハンマーの如し重さを持つドラムが乱れ咲き、またギターもマスロック的な変拍子を多用しながらもキャッチーさなんて微塵も感じさせないスラッジかつブルータルなリフを刻み付けて行く。それらが三位一体となってドス黒い音を噴出したかと思えば、不意に波を引き、不協和音の旋律が静謐に奏でられ、嵐の前の不穏さを奏でてそのまま更に暴発する無慈悲な音塊といった構成も見せ付けてくるから本当にこいつらは油断できない。その構成力と徹底したブルータルの美学は芸術的ですらあるけど、こいつらには感情移入出来るメロウさは全く無い。楽曲の構成もドラマティックである筈なのだけれども、それは破滅的な音の破壊力が加速したからこそ感じる物でもあるし、聴き手に寄り添ってなんかくれない本当に殺意のみで尽き動く狂気のブルータルカオティック絵巻だ。特に第1曲「When Time Elapses」なんてバンドの持ち味がフルに発揮された渾身の1曲となっており、7分間の中でデスメタル・カオティックハードコア・ポストメタルの要素が目まぐるしく展開し、それでいて終盤でその殺気を高め一気に地獄の底に突き落としにかかってくる極悪な1曲だ。他の楽曲の完成度も非常に高く、中盤でドゥームな展開を見せながら終盤で一気に渇ききった崩壊へと雪崩れ込む第4曲「The Decline And The Fall」だったり、他の楽曲も一貫してブルータル&カオティックな音を展開し、それらが統率されドス黒いサウンドに変換されている。
1stアルバムでここまでの作品を作り上げてしまった事実にまず驚きであるし、徹底して漆黒のブルータルな音で攻め立てながらも楽曲の中で緩急を付ける事でより不穏の空気を作り出し、しかもそれらが計算の上でポリリズムが咲き乱れる予測不能のカオスへと雪崩れ込むのだから本当に恐ろしい。こいつらは本当にジャンル識別不能なハイブリッドさを持ちながらも一貫した無慈悲なサウンドを展開し、その行き着く先は絶望的な破壊の旋律と戦慄だ。デスメタルもカオティックハードコアも飲み込んだ先の黒く重いスラッジな音。こいつらのこれからは死ぬ気で追いかけるつもりだ。