■Melvins
■The Bulls & The Bees/Melvins

地下世界の帝王としてアンダーグラウンドシーンに現在も君臨するMelvinsの2012年発表のEPである今作はまさかのフリーダウンロード作品。トヨタがアメリカで展開するブランドScionの運営サイト「Scion A/V」の企画として配布された物であり、何とも太っ腹で気前の良い作品。昨年はライブ盤もリリースしたが、約2年振りの純粋な新作である今作はこれぞMelvinsと言うべき、ヘビィでグランジな5曲が並んでいる。
基本的な路線はここ最近のMelvinsでツインドラムの複雑なビートを生かしながらも、基本はスラッジかつグランジなリフを中心に攻め立てる楽曲構成。第1曲「The War On Wisdom」から複雑なツインドラムの絡みで始まるけど、バズがシンプルでありながらもヘビィなリフを鳴らした瞬間に完全にMelvinsにしか鳴らせないグランジサウンドが展開される。変拍子で緩急を付けつつもストレートなリフの強さを見せるし、複雑なリズムセクションはそれをより強調する。転調やブレイクダウン等を取り入れ、捻じ曲がりながらも直接的なヘビィネスをぶつけてくるし、Melvinsファンは勿論、今作でMelvinsに初めて触れた人も十分に取り込める力がある。続く第2曲「We Are Doomed」はタイトル通り、ミドルテンポの後乗りのスラッジ・ドゥームな1曲でスラッジなMelvinsを見せる1曲。ストーナーなリフと共に煙たさを出しながらグランジとドゥームの融和するグルーブが噴出しながらも、殺気立っていてそれでいたロック・グランジの精神を感じさせるサウンドはやはり彼等ならではの物だろう。よりドープでノイジーなうねりまくる激重リフと砂埃が舞い上がるサイケデリックな第3曲「Friends Before Larry」、不気味なアンビエントである第4曲「A Really Long Wait」、ジャンクなビートが楽曲を引っ張り、Melvinsの変態性とグランジ・ヘビィロックの馬力が結びつき哀愁の歌メロを聴かせつつも最終的にはスラッジリフで攻め立てる第5曲「National Hamster」、この様にここ最近のmelvinsのサウンドを本当に分かりやすく見せてくれる全5曲であるし、フリー配布作品とは思えない完成度とどこをどう切ってもMelvinsでしかない音が確かに存在している。あくまでもここ最近の作品の延長線上の作品ではあるけど、十分に初心者もファンも引き付ける納得の内容だ。
言ってしまえば企画盤的な作品ではあるけれど、今作にパッケージされたのはもうただMelvinsでしか無いヘビィロック・グランジサウンド。フリー配布とは思えない気合の入り具合を見せてくれている。長年地下世界の帝王として君臨するMelvinsの余裕すら感じるし、長年帝王の座に君臨する彼等の実力を改めて見せ付ける作品。6月にはBuzzDaleにMr.bungleの元メンバーであるTrevor DunnとMelvins Lite名義で作品を発表する事もアナウンスされており、2012年のMelvinsの動向から益々目が離せない。今作は下記リンクからダウンロード可能。
The Bulls & The Bees試聴&ダウンロードページ
■Sugar Daddy Live/Melvins
![]() | Sugar Daddy Live (2011/05/31) Melvins 商品詳細を見る |
地下世界の重圧殺の死神ことMelvinsの11年発表の最新ライブ盤が今作だ。ツインドラム編成になり、より脂の乗った状態である現在のMelvinsの圧巻のパフォーマンスをパッケージしており、収録されている楽曲も現在の編成になってからの物が殆どだ。しかしそれはMelvinsが今もなお進化し続けるバンドだからこそであり必然的な事であるのだ。まさに現在のMelvinsの貫禄を感じさせる圧巻のライブ音源だ。
今作でプレイされている楽曲の殆どはヘビィでありながらも精神としてのグランジが色濃く出ている楽曲が多いこともあってか、シンプルなリフの格好良さだったりとか煙たい爆音だったりとかロックバンドとして最重要要素に比重をおいている楽曲ばかりだ、そこにツインドラムの驚異的なシンクロ率を持つ複雑なビートと、一音一音の力強さがバンドの骨組みを支え、よりダイナミックな格好良さが出ている素晴らしいアクトばかりだ。
その中でも異質なのは1stアルバムに収録されている楽曲である第6曲「Eye Flys」だツインドラムの複雑なビートが絡み合う前半から、一気にストーナーになる終盤という構成もナイスであるが、より変態性の強くなった楽曲の異質さは屈指であり、昇天必死だ。
そして本当に卑怯なのはラストのラストにMelvins最強の一曲である第13曲「Boris」がプレイされている事だ。アメリカ国家である「Star Spangled Banner」を歌い上げた後に、一気に大地を粉砕していまいかねない極悪スラッジコアなギターリフが鳴り響き、呼吸をしているかの」様な完全なツインドラムのビートと最強のスラッジナンバーが聴き手を粉砕していく。そしてインプロ的な色付けのアレンジがされてサイケデリックさを極めていき終わりを迎えるのがまたMelvinsらしかったりもするのだ。
地下世界の帝王として、ロックバンドとして、常に進化を続ける化け物であるMelvins、しかしMelvinsは屈指のライブバンドでもあるのだ。長年に渡るキャリアに裏付けされた貫禄は勿論だが、そこに甘えず自らを進化させるMelvinsは無敵のライブバンドだ。3月の「EXTREME THE DOJO」での大阪・名古屋公演でMelvinsの凄まじさを体験した人ならMelvinsのライブにおける説得力の強さは十二分に体感したと思う。残念ながら東京公演は震災の影響で中止になってしまったが、Melvinsが再び日本の地に降り立った時には彼らのアクトは是非体験すべきだ。今作でのアクトもグレイトだが、やはり生で観るMelvinsはライブ音源以上の鬼気迫る凄まじさがあると思うからだ。
■The Bride Screamed Murder/Melvins
![]() | ザ・ブライド・スクリームド・マーダー (2010/06/02) メルヴィンズ;MELVINS 商品詳細を見る |
長年に渡りアンダーグラウンドの頂点に君臨するスラッジコアバンドMelvinsの2010年発表の作品。ツインドラム編成も完全に板についたMelvinsであるが、今作はよりトリッキーさと実験精神が強くなった作品だと言う事が出来るだろう。ツインドラムの変拍子が複雑に絡み合うビートにヘビィで煙たく、それでいてキャッチーなリフが自然に馴染んでいたりするのはやはりMelvinsだからこそだし、その中で突拍子も無い展開がやってきたりするのだからこのバンドは本当に油断出来ない。
ツインドラム編成になってからのMelvinsは複雑なリズムセクションを展開しながらも、シンプルなグランジ的格好良さを持った楽曲で攻めていたが、今作でより変態性の強さも高めているのは見逃せ無い。第3曲「Pig House」はリフこそシンプルだが、ドラム同士の絡みは複雑かつ完璧なまでにシンクロしているし、その中で法則性ゼロの展開を見せ、なおかつ全編に必殺のリフが渦巻くという絶妙なキラーチューンだ。この様にリフの格好良さを軸にしながらも楽曲の中でトリッキーかつ変幻自在な展開を目まぐるしく展開するお陰でサウンドによりインパクトを持たせているのだ。
ハードコア→ストーナー→ドラムソロからのドゥームサウンドという奇抜な展開を見せる第7曲「Inhumanity And Death」やThe Whoのカバーでありながらどこから切ってもMelvins印のスラッジサウンドになっている第8曲「My Generation」と今作でのアプローチは本当にバラエティ豊かである。それでいて作品全体に見事なまでの一貫性を強く感じるのは、バズが弾き倒すヘビィなリフが存在する限りはMelvinsが何をやってもMelvinsである事の表れなのだ。
今作で楽曲の格好良さを真空パックしながらも、よりアバンギャルドな方面にMelvinsは拡散した。ツインドラム編成も完全に物にしたからこその変化であるし、だからビートはより複雑さを増したりしてるし、それを軸にしながらもヘビィロック・グランジ的な強さと格好良さをMelvinsは殺さず、それをより際立たせている。
長年に渡り地下世界の帝王に君臨するMelvins、その帝王の座を明け渡すのはまだまだ先の話みたいだ。
■Bullhead/Melvins
![]() | Bullhead (1993/04/30) Melvins 商品詳細を見る |
長いキャリアの中で数多くの作品を発表してきたMelvinsだが、この3rdアルバムはMelvinsの代表作といっても過言ではない作品だと思う。ポップなフルーツバスケットのジャケットに反して圧倒的なヘビィさがこの作品には渦巻いている。
全体を通して殆どの曲がスロウでなおかつヘビィなナンバーばかりだ。今や世界的に高い評価を得ている日本を代表するヘビィロックバンドBorisの元ネタになっている第1曲「Boris」はオープニングでありながら一気にハイライトな曲だ。約8分にも及ぶスラッジナンバーであるが、ほぼ単一のリフで進行していくだけの曲なのにデイル・クローヴァーのドラムが異形の形でピリピリとした緊張感を作り出している。全体を通しての音数こそ少ないが、だからこそ一音一音が存在感を持っている。凶悪過ぎるギターサウンドは正にスラッジそのものであり、ズブズブと引き摺り回っている。
他の曲は至って普遍的な尺の曲ばかりだが、凶悪なスラッジサウンドは健在。各楽器の音圧のバランスも絶妙であり、ギター・ベース・ドラムのシンプルな編成でのサウンドだが、ギリギリのバランスの中で各楽器が鳴り響いている。このアルバムではかなり異色なアップテンポでゴリゴリ攻めてくる第5曲「Zodiac」のグルービーさは鳥肌物!そしてラストの第8曲「Cow」はヘビィでありながらもどこか哀愁漂うサウンドからデイル・クローヴァーの音数こそ少ないが圧倒的な緊張感を作り出している素晴らしいドラムソロでこのアルバムは幕を閉じる。
このアルバムでMelvinsは独自のヘビィロックの美学を完成させたといえるし、その美学はサウンド面では変化していきながらも今も健在である。アンダーグラウンドのカリスマとして降臨し続けているMelvins、彼等は何処までも孤高の存在だ。
そしてしつこいかもしれないが「Boris」は本当にスラッジコアを代表する名曲だ。本当に死ぬ前に一度は聴いて欲しい、てか今すぐ聴いて欲しい位だ。