■石橋英子
■Carapace/石橋英子
![]() | キャラペイス (2011/01/06) 石橋英子 商品詳細を見る |
ex.PANICSMILEのドラマーでもあり、ドラムだけでなくフルートやピアノなど多くの楽器を演奏しソロ名義でも活動する石橋英子のパニスマ脱退からは初の2011年発表の3rdアルバム。多くのアーティストと演奏家やプロデューサーとして関わっている彼女だが今作はジム・オルークをプロデューサーに迎え、ジムも録音や楽器演奏で参加し、更には山本達久、勝井祐二、波多野敦子、吉野章子もゲストで参加している。
今作は基本的には石橋英子とジムの2人のマルチプレーヤーの手によって演奏されている作品であり、今までの作品にあったアバンギャルドな要素は後退し完全なる歌物のポップな作品であると同時に、その楽曲を構成する音も随分とシンプルになった印象。楽曲も石橋英子のピアノと歌が機軸になっている。第1曲「coda」もプログレ調の変拍子の楽曲ではあるけど完全に歌物であるし、何よりも陽性のポップさも感じさせる旋律で進行しながらも静謐さの中にある強度も存在する1曲だ。そしてシンプルで静謐だからこそ生まれる情景豊かな音と歌が深層心理に訴える物になっている。ゲストミュージシャンの手によりストリングス等もその世界を静かに彩っているし、派手な音やアバンギャルドさは皆無ではあるけれど、石橋栄子の持つポップミュージシャンとしての側面に焦点を当てた作品だからこそ、軽やかに聴き手の耳に音が入り込んで来るし、それと同時にジムとの共作という蜜月が生み出した繊細かつ精密な音の練り込み具合がそれをより明確にしている。今作の楽曲は静謐さと同時にプログレ色の強さも感じるのだけれど、あくまでもピアノと歌を機軸に作られた作品であるし、それは石橋英子の楽曲がただの歌物に落ち着かない事実の証明であるのだ。第5曲「shadow」もあくまでもシンプルな音のみの楽曲であるし、かなり分かりやすい作品であるのだが、一つの色から徐々に他の色も混ざり始めるかの様な音が見せる豊かな色彩、第8曲「hum」のふわふわとした緩やかさを感じさせながらもそれが少し冷たい狂気に結びついてしまうスケール感、どれも一貫した強度を持つ楽曲ばかりだ。
多くの才能豊かなミュージシャンがその音の世界を彩り、何よりも石橋英子とジム・オルークという二人の奇才が生み出した深遠で静謐な豊かなポップネスの魅力が今作には詰め込まれている。石橋英子の中にある情景や感情を高い精度で素直な形で音にした作品であると同時に、ジムがその世界をよりダイレクトに聴き手に伝えるサポート役にもなっている様にも思うし、どこまでも豊かでストイックな強さを感じるポップスがここにある。何があっても揺るがない音と歌は強い引力で聴き手をその世界へと引き込むのだ。