■STARLINGRAID
■Terminal Stage of Decay/STARLINGRAID

元Rhetorical Paradeのボーカリストであり、在日ロシア人のローマ率いる激情系カオティックハードコアバンドであるSTARLINGRAIDは本当に異質なバンドだ。今作はそんな彼等の2010年に自主制作でリリースされた1stアルバム。彼等は本当に全てを飲み込むバンドであり、激情・カオティック・アンビエント・ポストロック・インダストリアル・ドゥームと本当に多岐に渡る音を飲み込みながら、それを単純に組み合わせたのでは無くSTARLINGRAIDとしか言えない何処にも属さない新しいハードコアを今作で鳴らしている。それは正に彼等が自ら称している「グノーシスコア」でしか無いのだ。
ぐにゃぐにゃに分解されまくり、再構築を放棄しそのアメーバの様な軟体性とハードコアのダークな部分を抽出した狂気の世界が結びついたのが彼等の音であり、崩壊寸前のまま引きずる様な進行を見せる。第1曲なんて僅か11秒であり、ローマの狂気と激情の旋律で空間を全て変えてしまい、それに続く第2曲でいきなり変拍子を更に分解したビートとドゥーム的な旋律がぐにゃぐにゃなまま鳴り、囁きのボーカルとのた打ち回るハイトーンのシャウトが耳に残るし、展開も計算されていながらもグチャグチャに分断されているし、1曲の中でハードコアもドゥームもポストロックも飲み込んでしまっている。全て緻密に計算されていながらも制御不能の混沌のみがそこにある。その音のインパクトは本当に大きい。続く第3曲で静謐なポストメタルのクリーンさに狂気という不純物を混入した音を聴かせ、3分程度の決して長くは無い尺の中で行き先不明の暗黒神としてのハードコアのみがそこには存在している。後期のKularaにも近い感触とCLEANERの実験精神に近い物を感じたりはするが、それも模倣では無いし、こいつらはもっとドゥーミーでもある。しかし煙たいディストーションサウンドは皆無で、クリーントーンでの歪みのサウンドであり、それがかえって音階や旋律のダークさを更に際立たせている。時に空間的な広がりを見せるギターも開放ではなく閉塞に向かう精神世界の狂気が浸透するかの様な物であるし、それに分断されたポリリズムのハードコアな音、ぐにゃぐにゃのまま脳髄に浸透していくアンビエントさ、それらを一貫した音にしている彼等のセンスと前衛性は本当に評価されるべきであるし、自らですら統率不能の激情を、更に切り刻んだからこそ誰にも真似できない自らの激情を確立させた。その音は本当にヘビィ極まりない閉塞に向かうハードコアであり、後期Kularaの尊厳すら奪う力すら感じる。特に第8曲の今作で最も明確な激情のリリカルさを自らのグノーシスコアサウンドで響かせる様と、今作で最もハードコア色の強い第10曲の疾走する精神世界の螺旋から、終盤でそれすら切り落とし、純粋な絶望のみを取り残す様は本気で背筋がゾクゾクとしてしまった。
狂気と陰鬱さを極めた末に完全に奇怪極まりない突然変異のハードコアを生み出してしまった今作。そのサウンドにローマの絶望で脳髄の中の神経細胞が全て異常を起こしてしまっているかの様な暗黒の激情ボーカルが乗り、更に狂気を高めている。kularaが解散し、長いこと不在になっていた激情暗黒神の椅子に君臨するに相応しいバンドがロシアからこの日本で生まれた事は本当に大きい。彼等の存在はheaven in her arms同様に新世代から激情のシーンを新たな次元へと導くと信じているし、全てを置き去りにしたグノーシスコアという彼等のハードコアは彼等にしか生み出せ無かった音だ。1stにしてグノーシスコアはとんでも無いレベルで極まっている。
今作は下記リンクのSTMと礎から購入可能。また下記リンクのSOUNDCLOUDにて今作に収録されている全12曲が視聴可能だ。
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