■K.U.K.L.
■The Eye/K.U.K.L.
![]() | Eye (2002/05/23) Kukl 商品詳細を見る |
今や世界的アーティストとして名高いビョークであるが、そのビョークが現在のソロはおろかThe Sugarcubes以前に参加していたバンドがこのK.U.K.L.(クークル)であり、今作は84年に発表された1stであるが、現在のビョークとはかけ離れた呪術的なポストパンクであり、当時から考えたらかなり前衛的であっただろうし、何よりもビョークのボーカルスタイルが現在とは全く違う。狂気に満ちた呻き声と囁きと叫びを撒き散らす邪悪なボーカルスタイルなのだ。しかもリリースはあのCRASS RECORDSであり、CRASSのペニー・リンボーがプロデュースしている。
その音楽性はニューウェイブ・ポストパンクに分類されるのだけれど、民族音楽を取り入れ、ゴシックパンクの空気を思いっきり吸い込んだサウンドは正に呪詛のサウンドであり、聴き手を恐怖に陥れる事は間違い無い。硬質でジャンクなポストパンクのビート、コーラスを使用しポジパンの様な感触を持たせながら不協和音のフレーズを奏でるギター、パーカッションや民族楽器を取り入れたサウンド、そしてビョークのボーカルとどこを切ってもキャッチーさは皆無であり、陰湿極まりない。第1曲「Assassin」からソロでのビョークしか知らない人は卒倒してしまう出あろう女性特有の精神的狂気を更に助長させるサウンドに驚くだろう。曲名通りオリエンタルな空気を醸し出しながらも、ゴシックも通過した楽曲は不穏の空気を生み出しながら進行していくし、終盤のブレイクからのビョークのシャウトすら超えた叫びには神経に嫌な信号が伝わるレベルだ。第2曲「Anna」ではアフリカ辺りの民族音楽を想起させる笛の音色ともう一人のボーカルである男性のアイナーのポエトリーな囁きとビョークのボーカルが儀式めいた空気を作り出しているし、どこまでも不安を煽りまくってくる。第4曲「Moonbath」に至っては完全にダークアンビエントの領域に足を突っ込んでいるし、笛の音色とシンセの不気味な音色におぼろげなビョークの声が乗りこちらも不気味な楽曲。第5曲「Dismembered」でのビョークとアイナーの掛け合いボーカルと共に冷徹に進行していく様や、第7曲「The Spire」のジャンクな狂騒、第8曲「Handa Tjolla」のケチャを思い浮かべてしまいそうになるパーカッションの乱打といい、アイスランドという国を全く想起させない多国籍な要素を孕み、それを混沌と邪念の音楽に変換したサウンドは畏怖の念を抱かずにはいられない。
感触としては決して音楽性で言えば近くはないけれど同じ80年代の日本のカルト界の歌姫であった戸川純が思い浮かんだりもしたが、K.U.K.L.は更に狂気が暴走しているし、ポストパンク・ポジパン・ゴシック・民族音楽を無節操に取り込み、それをビョークの狂気へと帰結させている。80年代にここまでの音楽をやっていた事にも驚きだが、今や世界を代表する歌姫であるビョークのルーツがこのバンドである事実も衝撃的だ。ソロ作品でも時折垣間見えるビョークの狂気だが、それがK.U.K.L.では更に高い純度で暴走している。