■Tera Melos
■X'ed Out/Tera Melos
![]() | X'ed Out (2013/04/16) Tera Melos 商品詳細を見る |
マスロックの先駆者であり最重要バンドの一つであるTera Melosの2013年リリースの最新作。前作からマスロックでありながら、よりキャッチーになり、当たり前の様にボーカル入りの楽曲ばかりになり、テクニカルでスリリングなアンサンブルを奏でながらより分かり易いエモ要素を取り入れ始めたが、今作ではもうマスロックを置き去りにする勢いのバンドになってしまっていた。これは単純に素晴らしいエモーショナル歌物アルバムだ。
勿論、卓越した演奏技術は変わっていないどころか、更に磨きがかかっていると思う。でもマスロックらしいタッピングのフレーズやあからさまな変拍子の乱打といった要素はかなり鳴りを潜めている。代わりに空間的な音作りがかなり目立ち、同時によりダイレクトに攻めるアンサンブルを巧みに取り入れ、そして前作以上にボーカルが伸びやかに歌っている。第1曲「Weird Circles」からもう純粋なエモ的な楽曲であり、静謐なアンサンブルが優しく魂を焦がし、そしてスリリングにバーストする快楽、同時に浮遊感を見せ、
よりスタンダードに接近していると同時に、より唯一無二のアンサンブルを手に入れたのだ。マスロックらしいスリリングさはそのままに、それをメロディアスかつクリアに奏で、浮遊と躍動を同時に見せる楽曲は、凄い素直に脳に入ってくると同時に、よりトランス出来る物になった。第2曲「New Chlorine」なんて透明感溢れるアルペジオと轟音サウンドが生み出す完全なるエモーショナルロックだ。
勿論、彼等がマスロックを捨て去っているかと言えば、それは間違いなくノーだ。今のTera Melosはマスロックの先駆者がマスロックの先を奏で、ありきたりなテンプレートを唾棄し、そのスリリングさを浮遊感溢れる歌物へと進化させただけなんだから。第3曲「Bite」がマスロック要素を色濃く出し、不規則かつ不穏にアンサンブルが展開しながらも、それを難解に聞かせずに、性急さとして描き出しているから凄い。第5曲「Sunburn」も一々フレーズとビートが気持ち良い所を絶妙な力加減で突いてくるギターフレーズが最高にツボだし、それに単純にメロディが良くなっている。
前作からそうなのだけど、今作も以前のTere melosの様な長尺の楽曲は全く無いし、3分台4分台で必要な要素を効果的に使いこなし、本当に無駄を削ぎ落としたからこそキャッチーになったし、絶妙なギターワークが生み出す浮遊感が本当に気持ちいいし、それに反して変則性やテクニカル要素を持ちながらも、よりダイレクトな躍動感を生み出すリズム隊が織り成すアンサンブルは独自の物へと進化した。第7曲「No Phase」の様にじわりと広がる空間的なアンビエントなギターと歌のみでより透明感溢れる高揚を生み出す楽曲もあるし、第9曲「Slimed」の様なポストハードコア色と金属的な音作りが不穏さで冷やりとさせる楽曲もありと、作品全体でメリハリもある。そして終盤は第11曲「Surf Nazis」の今作で一番スリリングなアンサンブルでマスロックバンドとしての風格を見せつけながら、より風通しの良くなったサウンドで軽やかな躍動を生み出し、最終曲「X'ed Out and Tired」にてアコギと空間的コラージュと歌のみで静謐な浮遊感で、意識を漂わせて終わる。
前作でマスロックの先を目指し始めたtera Melosだが、今作では音楽的なレンジも更に広がり、よりキャッチーでポップな歌物要素にも更に磨きがかかり、そして軽やかで少しだけ不穏な浮遊感による高揚感という新たな武器も手に入れた。マスロックの先駆者は自らの手によって新たな扉を開いた会心の1枚。
■Drugs Complex/Tera Melos
![]() | Drugs/Complex (2010/10/12) Tera Melos 商品詳細を見る |
今や日本でも市民権を得たと言えるマスロックというジャンルであるが、こいつらの存在を忘れてはいけない。サクラメント出身の3ピースバンドであるTera Melosはマスロックとエモとハードコアを融合させたカオティックサウンドを展開するバンドだ。今作は「drugs to the dear youth」というEPとBY THE END OF TONIGHTとのスプリット音源をコンパイルした編集盤である。日本国内盤はLITEの伊澤氏主宰のレーベルであるParabolicaから。
先ずはマスロックらしい卓越した演奏技術の凄まじさを今作から感じるだろう。緊張感に満ちたアンサンブルで転調を繰り返し、目まぐるしく高速回転するサウンドは息をつく暇なんか与えてくれない。しかし彼等はただ演奏技術さけを磨いた凡百のマスロックバンドとは訳が違う。エモもハードコアも取り込み、そこから独創性に満ちた楽曲へと仕立てる彼等のセンスはユニークでありながらも、自らのサウンドをより混沌へと導いている。マスロックサウンドを序盤は展開しながらも、静謐なアンサンブルが大きな比重を持ち、その中で緩やかなBPMで変則的フレーズを展開する第2曲「40 Rods to the Hog's Head」から既に彼等の独創性を体感したし、マスロックとハードコアとエモの融和という彼等の持ち味を最大限に生かし、爆走する超展開だらけの変態テクニカルサウンドを見せる第4曲「A Spoonful of Slurry」の即効性もバンドとしての純粋なアンサンブルの凄まじさを感じる。殺傷力と切れ味を極めたマスロックは油断してたら一瞬で辻斬りされてしまうだろう。しかしスプリットの方の音源はボーカルを導入しており、また違う趣。変態マスロックサウンドには変わりないのだけれども、その混沌と同時によりアンサンブルは研ぎ澄まされスマートになり、更にはキャッチーな歌と旋律がより際立っている。持ち前の高速ハードコアマスロックサウンドをポップさすら感じる歌へと変換しながらもより直情的なフレーズが目立ち、より即効性を高めているのだ。更にはマスロックどこに行ったんだよ!って突っ込みを入れたくなってしまうアンビエントな歌物である第10曲「Melody 9」が存在していたりするから驚きだ。そして最終曲「Last Smile for Jaron」で再びTera Melos節が炸裂という流れもまた良い。どこまでも柔軟な筋力で跳躍する彼等のバンドとしてのフォルムは美しい。
肉体性と柔軟な独創性を持ち、それを決して難解にせずにハードコアやエモの直情性や野生を取り入れながらも、計算され尽くしたテクニカルなマスロックへと帰結させる彼等のサウンドはTera Melos節という言葉が本当に当て嵌まるし、降り注ぐ無数の音の嵐は瞬く間に身を吹き飛ばされてしまいそうな破壊力を持っている。彼等の音は広大な宇宙であるし、脳と筋肉の神経を覚醒させるパワーが確かに存在する。編集盤ではあるがマスロック好きもハードコア好きもエモ好きも避けては通れない1枚だ。しかしながらこのジャケットのインパクトは一度見たら忘れられないと思うのは僕だけでは無い筈だ。