■My Bloody Valentine
■M B V/My Bloody Valentine
![]() | MBV (2013/03/04) My Bloody Valentine 商品詳細を見る |
先日の来日公演も記憶に新しい(チケットは秒速で完売で僕は行けなかった…)、最早伝説になっているシューゲイザーの代表格であるマイブラの実に22年振りとなる2013年リリースの新作。まさかの再結成に奇跡の来日と、ファンを色々と振り回していた彼等だが、突然の新作リリースは本当に寝耳に水で、出るとは思ってなかったファンも多かったと思うし、驚きと共に、大きな喜びを感じている人も多いだろう。
肝心の内容の方だが、全編に渡ってアナログレコーディングが施されており、作品全体にざらつきを感じさせる。そして何よりも彼等の代表作であり、伝説的名盤である「Loveless」と何ら大きな変化は無い、ある意味では安心と信頼のマイブラ節が全開で、本当にどこを切ってもマイブラらしい作品だと言える。だからこそ「Lovelless」を初めて聴いた時の様な大きな衝撃みたいな物は今作には無かったりする。でもマイブラが新たな作品を出してくれて、それが安心のマイブラの音であった。それだけでも今作は大きな意味を持ってしまう位にマイブラの新作としては十分過ぎるし、「Loveless」の様な破壊力こそは無くても、美しいホワイトノイズは全然健在なのだ。
それでも変化はあると思ったりもする。作風こそは変わっていなくても、今作の音は個人的に凄く優しさを感じる。耳を貫く鋭い轟音では無く、柔らかに耳に入り込み、脳を甘く溶かす轟音であり、轟音と言っても、破壊的な音では無いし、本当に空気の様に当たり前に存在する平熱の優しさを今作の音から感じる。
第1曲「She Found Now」から全くリズム楽器を使用しないで、ギターのフィードバックノイズの音と、おぼろげなボーカルのみで構成された楽曲であり、しかし柔らかに包み込む甘い旋律を基軸にしたフィードバックサウンドが緩やかなリズムを作り出し、まるで呼吸をするかの様な自然な速度と温度を体現しているし、この楽曲だけでマイブラが本当に唯一無二な存在だってのを再確認出来る。第2曲「Only Tomorrow」なんて完全にマイブラらしいギターポップ機軸であり、シューゲイザーを確立した彼等の王道な楽曲。ざらついたギターの感触の荒さがまた良いし、歪みと甘さのバランスが本当に黄金律を生み出し、ほとんど大きな展開こそ無いけど、淡々と刻まれるリズムと共に、緩やかに舞い上がる感覚と、ある種の重みや淀みをスパイスにして、ただ甘いだけのギターポップにしないで、絶妙な揺らぎを生み出している。第3曲「Who Sees You」に至っては、ホワイトノイズの破壊力は上がっているけど、それ以上に「Loveless」と何も変わらない感が本当に強くて、心から安心する。
だけど決して変わらないと言っても、「Loveless」とはまた絶妙に違う。第4曲「Is This And Yes」はシンセの音の反復によって作られたマイブラ流アンビエントになっているし、第6曲「New You」はシンセベースの音がやたら印象的であるし、轟音サウンドを封印しつつも、マイブラの裸になったギターポップ・ドリームポップ的な陶酔感はかなり強いし、聴けば聴く程にじわじわと嵌っていく。今作の音は、アナログレコーディングの作品であるし、2013年の作品にしては音圧は決して強くないのかもしれない。しかし僕はマイブラはそれで良いとすら思う。きっと現代的なマスタリング・レコーディングで作られたら、マイブラのマイブラ感は無くなってしまうのかもしれないし、ケヴィンが自ら拘る音で作り上げた作品だからこそ意味がある。だから全然派手じゃないけど、それが近作にも存在する甘い陶酔の揺らぎへと繋がっているのだから。
アルバム終盤の3曲は打ち込みを機軸にした楽曲であるが、それでも結局はやってる事は何も変わらない第7曲「In Another Way」。ドラムン調のビートと、フィードバックノイズのコラージュのみで作られた躍動感あるダンスチューンな第8曲「Nothing Is」。ここはマイブラのある種の変化でもあるけど、それでも核はやっぱり不変。そして最終曲「Wonder 2」で今作屈指の混沌へと雪崩れ込む、徐々に上がっていく音圧。ドラムンなビートが後ろでなり、加工に加工を重ねた音が徐々に輪郭を無くし、最後は爆音になり霧となり、そして消えていく。その瞬間こそ今作屈指のハイライトだし、この楽曲を聴き終えた瞬間に、マイブラの新作なんだこれって改めて実感した。
新たな試みはあったりもするけど、それでも「Loveless」と基本的には変わっていないし、そうゆう意味では新たな衝撃は無い。でも楽曲の完成度の高さはやっぱり凄いし、派手では無くても、聴き込む程に楽曲に脳が溶かされてしまう作品であり、本当に末永く付き合ってこそ意味のある作品だと思う。何よりも22年の歳月を経て、マイブラが新たな作品を世に送り出してくれた事が何よりも嬉しいし、それがどこまでも僕たちが愛しているマイブラの音なのが僕は心から嬉しい。
■Loveless/My Bloody Valentine
![]() | Loveless (1991/11/05) My Bloody Valentine 商品詳細を見る |
最早ここでレビューを書く必要なんか無いんじゃないかって位の作品であるし、伝説的バンドの代表作として名高い作品。マイブラという90年代初頭のギターロックムーブメントの帝王であり、シューゲイザーシーンの最重要作品としても名高い91年発表の2nd。今作の製作で所属レーベルであるクリエイションが倒産寸前になったという逸話もあるが(制作費は当時の日本円にして約4500万円)、そんな伝説以上に今なお輝く轟音作品だ。
今作の一つの特徴はとにかく空間を埋め尽くすフィードバックノイズの嵐だ。それまでの彼等の作品はサイケデリックな要素を強く感じさせる物もあったが、今作ではとにかく甘い旋律と揺らめく霧の様な轟音が視界と聴覚を全て覆ってしまうサウンドスケープはマイブラならではの物であり、それらの方法論は本当に多くの後続のバンドに影響を与えた。第1曲「Only Shallow」から全てを覆い尽くすホワイトノイズの嵐が吹き荒れる。基本的な旋律は本当に甘く耽美であり、そのシンプルなコードストロークのギターの進行とビリンダ嬢のウィスパーで浮遊感のあるボーカルが甘い陶酔の世界を生み出したと思えば一気に襲い来る轟音に気付いたら脳髄が甘く溶かされてしまっている。第2曲「Loomer」の様に疾走感に満ちたギターロックの形を持った楽曲ではあるけれど、それでもフィードバックノイズは随所に挿入されているし、楽曲の骨組み自体は本当にシンプルでありながらも、それを歪ませまくった末に行き着く轟音を極めたからこそのふらつく音像はやはり別格。第3曲「Touched」みたいにサイケデリックな小品を盛り込みつつも、第5曲「When You Sleep」や第7曲「Come In Alone」といった楽曲はシューゲイザーとしてだけでなく、ギターロック・ギターポップとしても本当に素晴らしい出来となっているし、醒めないで欲しい夢の世界が終わり無く繰り広げられているかの様である。マイブラはシューゲイザーのシーンの中で独自の方法論を確立し、今作はシーンの金字塔であるのだが、今作の魅力はシューゲイザーという観点を抜きにしてもギターロックの視点で見て本当に名曲ばかり揃っているという点と、徹底して作りこまれた甘い旋律の波がホワイトノイズとなり幸福な旋律を奏でていると同時に、抜け出せない幻想が徹底して繰り広げられている事だ。そして最終曲の「soon」が本当にマイブラ屈指の名曲になっている。シンプルなコードのストロークから轟音へと雪崩れ込み終わり無く反復されるフレーズが浮世を漂う感覚へと繋がり、そして静かにフェードアウトして終わる。幻想のサイケデリックかつドリーミーな世界からまた現実世界に引き戻されてしまうかの様だ。
個人的には1stである「Isn't Anything」の方が好きだったりするのだけれども、今作も屈指の名盤だと思うし、シューゲイザーの一つの到達点になった作品としてはやはり絶対に外す事の出来ない作品だ。徹底してドリーミーな幻想世界を繰り出す今作は別次元の旅路であるし、その甘美な世界を知ったら二度と抜け出せなくなる。