■五人一首
■五人一首/五人一首

日本が誇るプログレッシブデスメタルな5人組である五人一首。海外からも高い評価を受けている彼女達であるが、日本語詩と和の世界観と旋律を大切にし、古き良きプログレッシブロックとデスメタルを融和させた音楽性と超絶技巧とギターボーカルである松岡あの字の狂気を感じさせるボーカルが非常に魅力的なバンドである。そんな彼女達の00年発表の1stアルバムが今作だ。
まず彼女達の音は統率されていながらも非常にレンジが広くなっている。本当に根底にあるのは古き良きプログレッシブロックだとは思うが、その基盤にデスメタルを始めにジャズやフュージョンの要素を盛り込み、和を感じさせる世界観を前面に押し出し独特な音を奏でている。当たり前の様にどの楽曲も長尺になっているし、あの字嬢は低域のデスで狂気じみた叫びをブチ撒けるが、クリーントーンのボーカルは妙にでキャッチーで下手っていたりするから余計に怪しさは加速する。第2曲「経文刻印身体」から五人一首に独自のプログレッシブロックを展開しており、ツインギターの刻みのリフとあの字嬢のデスボイスから殺気が迫り来るが、サビではやたらキャッチーになったりするし、変拍子を当たり前に駆使し、超絶技巧のアンサンブルが展開される。特に中盤に入ってからはそれぞれの楽器が完全に持ち前の技術を開放し、それでいて刺すか刺されるかの緊張感でプログレッシブに展開する。そのパートのアンサンブルは本当に絶品であり、持ち前のレンジの広さも同時に見せつけてくる。彼女達の音楽性は下手したら難解な物になりかねなかったりするのだけれども、それでも絶妙にキャッチーな要素を持たせる事によって妙な取っ付きやすさを感じると同時に、自らの変態性をより加速させているようにも見えるのだ。第3曲「二人遊び」なんかはそんあキャッチーさを更に加速させながらも、オリエンタルな旋律がよりとぐろを巻く音を際立たせている。第4曲「月と半魚人」はプログレッシブロックとしての五人一首のカラーが前面に出ており、歌メロを際立たせながらも、哀愁と郷愁と深みにズブズブ落ちる感傷を体現し、変態性を前面に出さない楽曲でも見える演奏技術の凄まじさは一筋縄ではいかない。そして第5曲「楼の主」は今作の集大成とも言える五人一首だからこそ出来るデスプログレ絵巻。聴き手を異次元へと誘う。
和製デスプログレの名に恥じない独自の世界観と音楽性を、持ち前の超絶技巧と高い表現力で体現する五人一首。あの字嬢のカリスマ性もさることながら、5人のメンバーが緊張感たっぷりにぶつかり合うアンサンブルも本当に魅力的だし、初期筋肉少女隊や人間椅子が持っていた様な感覚を自らの物にしたバンドだと思う。寡作な事もあった長いキャリアで今作を含めて2枚しかアルバムを出していないバンドではあるが、それを差し引いても作りこまれた狂気の世界の完成度は凄まじい。