■七尾旅人
■雨に撃たえば...!disc2/七尾旅人
![]() | 雨に撃たえば...!disc 2 (1999/08/04) 七尾旅人 商品詳細を見る |
孤高のシンガーソングライターである七尾旅人が10代の終わりに完成させた99年発表の1stアルバムである。現在のエレクトロニカの感触は全く無い。宅録サウンドとアコースティックの狭間とも言える様な言えない様な音。そして独自の言語感覚で紡がれる歌は若さとかそうゆう物では片付けきれない程に痛々しいまでに心を晒した歌である。メロディアスでありながら分解された曲に、独特の不敵さと情緒不安定さを重ねている。簡単に何処のシーンに属しているとかそうゆう次元では語れない、完全にオリジナルな世界を旅人は10代でそれを確立させてた。
子守唄の様なオルガンのイントロと旅人のパラノイアな言葉と不気味なコラージュが響く第1曲「最低なれピンクパンク...!」から異質の世界を一気に展開していく。そこから第2曲「ココロはこうして売るの(2)」のメロディアスなアコギのイントロから一気に不穏の轟音の渦が蠢き始める。アコースティックなサウンドに乗るの言葉の一つ一つがとてつもなく重い。美しきラブソングである第6曲「萌の歯」も素晴らしい。純粋過ぎて恐怖と美しさすら感じてしまう音数の少ないシンプルながらも福音の様な優しいメロディが響く。第8曲「コナツ最後の日々。」は哀愁と絶望的な世界を美しく描くレクイエムであり、第11曲「コーナー」は今作で最もポップかつ激しい楽曲でありながらも、七尾旅人の世界を別のベクトルで描きシンクロさせた名曲である。
そして今作のハイライトであり、屈指の大名曲「ガリバー2」は七尾旅人という人間の世界を表現した曲である。若干チープなリズムとシンプルなギターの音と共に紡がれる言葉は、圧倒的な質量を持ち、一つ一つが心を突き刺していく。極私的なミクロの世界がじんわりと広がり浸透していく。10分の長尺ながらも、その音の一つ一つが言葉の一つ一つが、世界を塗り替えていく。言葉で上手く表現出来ないのが悔しい限りではあるが、是非聴いて欲しい。
書ききれないがアルバムのサウンドの方向性はバラバラだ。ドラムン・シューゲイザー・サイケ・アコースティック・ジャズ・オルタナと楽曲によって表情をコロコロ変えていく音。しかしその音はどこまでも統率されており、どこをどう聴いても七尾旅人の音楽だ。それは第4曲「ルイノン(9 May'99)」の骨だけにまで削ぎ落とされた美しきゴスペルを聴くと分かるが、この歌の力が凄まじいのだ!どんな音も旅人のミクロの世界に飲み込まれていく。
長々と書いたが、この作品の圧倒的な素晴らしさと世界はとても僕なんかでは文で表現出来ない。こうゆう表現者を天才という言葉で表すととチープになってしまうけど、七尾旅人は天才・奇才というカテゴリーすら不要なのかもしれない。
旅人は作品毎にサウンドを変え、歌のベクトルも変えていく事になる。それらの作品は簡単に消費されやしない重さと存在感を持っている。この若き歌うたいの作ったミクロの世界を表現したアルバムは、最終的に聴き手のミクロに潜り込む優しい福音になった。屈指の大傑作、今すぐにでも聴いて欲しい。