■埋火
■恋に関するいくつかのフィルム/埋火

見汐麻衣を中心に結成された3ピースバンド埋火(うずみび)。彼女達がまだ地元である福岡で活動していた頃のレコーディングされた05年発表の記念すべき初音源作品。ロレッタセコハンの出利葉氏がレコーディングし、リリースもロレッタセコハンのレーベルからのリリースとなっている。日本語詞とシンプルで音数少ないサウンドが織り成す歌物ポップスであるが、どこまでも優しく鋭い作品になっている。
彼女達の音には本当に何のギミックも無い。清流の流れの様に紡がれるクリーンなギターフレーズはディストーションサウンドを全く使わずただ柔らかで気持ちの良い旋律を静かに奏で、リズム隊も必要以上に自己主張はせずに淡々とビートを刻む。そして見汐麻衣の少しヘタウマ的な透明感のある少し幼さの残る歌声でシンプルな言葉でシンプルなラブソングを淡々と歌う。第1曲「と、おもった」も柔らかな旋律が空間を包み込み、淡々と進行するけど、単なる歌物でこのバンドは終わらない。決して自己主張をしない音で構成されているのに、そのたおやかさの奥底にあるのは強度だ。それはヴァイオレンスさや攻撃性が持つ強さではなく、合気道の様に向かってくる力を全て無効化して受け流す様な、確固たる浮動さからくる強さだ。第2曲「サマーサウンズ」も中盤からはディストーションのかかったギターサウンドが登場するけれど、あくまでもブルージーに楽曲を盛り上げるアクセントとして機能し、そこからまた緩やかな速度へと自然と回帰する。そしてそのフレーズの持つ奥行きと高揚感を時にサイケデリックに膨らませイマジネーションを高めるドラマティックさ。あくまでもストーリーのアクセントとしてのディストーションサウンドであり、そこから更に高揚し広がるサウンドに決して引っ張られない見汐麻衣の歌こそがこのバンドの持つ強度だと思う。そして歌物の形を取りながら、その歌の強度を生かす楽曲のレンジの広さも見逃せない。第3曲「恋に関するいくつかのフィルム」はバンドの音自体はくぐもった少しサイケデリックな要素を感じさせるダウナーで音数の少ないサウンドになっているけど、そこに必要以上にダークさを感じさせず、あくまでも短歌の様に紡がれる言葉が前に出るのは歌物バンドだからこその強みを最大限に生かす為の楽曲の作り方をされているからだと思うし、第4曲「黄色い涙」は更にブルージーな要素を加速させ、ざらついた感触を強く持たせ切迫感を感じさせたりもしてるし、派手なギミック一切無しで、ルーツミュージックに近い感覚を生かし、それを最終的に歌に帰結させる力量は流石の一言に尽きる。
シンプルな方法論でシンプルなラブソングを歌う埋火だが、単に安い言葉を並べるだけのシンプルさでは無く、一つ一つの言葉と音に確かな強度が存在するからこそ埋火の歌は心に深く染み渡って来る。方法論はまた違うけど割礼の持つロマンと残酷さをよりシンプルに歌に帰結させる彼女達は福岡と言うロックの異端の地から生まれた一つの強い意思だ。