■Off Minor
■Some Blood/Off Minor

日本屈指の激情系ハードコアバンドであるkillieとのスプリットのリリースで日本でも知名度を上げたアメリカの変態激情系ハードコアバンドであるOff Minorの08年発表の6曲入3rdアルバム。とても3ピースとは思えない情報量と、ジャズとマスロックとポストロックを無尽蔵に喰らい、ディストーションをあまり使用しないサウンドでありながらも予測不能の展開と捩れを緊張感としてアウトプットし、それをハードコアに帰結させる彼等の音は唯一無二だ。
そのフレーズの数々はハードコアを通過しながらも、ジャズの音階を多用し、それでいて変拍子のキメを多用するビートと、テクニカルなフレーズが組み合わさり、3ピースでありながら、目まぐるしく音が変化し予測不能で飽きさせないアンサンブルが大きな魅力になっている。第1曲「Neologist」からハードコアなパートも登場し、直情的な音になっているが、そのパートですら複雑怪奇なフレーズが組み合わさり、カオティックさを増幅させる。不穏なクリーンのパートでは蠢くベースが不安を煽り、終盤のハードコアパートへの期待を加速させるニクい構成がナイス。第2曲「Some Blood」は更にジャズとマスロックの要素を高めて、クリーン主体の音で静謐なパートで不穏なジャズマスロックを聞かせてくる。そこからディストーションの効いた動のパートへ移行しながらも再び静謐さに戻っていく極端な落差を生かし、クリーンなパートをハードコアなパートの起爆剤としての前フリにするのではなくて、静謐なパートで圧倒的な表現力を精神的な揺らぎを存分に発揮した上で、動のパートに帰結させるから他のバンドの追随を全く許さない物になっている。完全にポストロック色を強めた第3曲「Everything Explicit」でもそれは発揮されていて、クリーン主体のサウンドの中で、本当に限られた形態でありながらも、その表現力とアンサンブルを生かして、混沌としての激情を鳴らす彼等の音は共にスプリットを出したkillieを愛する人なら勿論大ヒット間違いなしなんだけれども、唯一無二な音に飢えているフリークス共を取り込むだけの力もあるし、形式に囚われない自由なアイデアをハードコアの形でしかkり鳴らす彼等のバンドとしての力量には完全に無条件降伏してしまった。その楽曲郡の中でも第5曲「No Conversationalist I」は1分に満たない超ハードコアチューンだが、たった43秒で激情をカオティックに打ち鳴らし、その瞬間を駆け巡る台風の様な音には彼等のハードコアバンドとしての核が見えてくる気がする。ラストの「Practice Absence」に至っては女性ボーカルをフューチャーし、ポストメタル色の強いアプローチを見せてくるから本当にこのバンドの豊富なアイデアを唯一無二のOff Minorサウンドとして鳴らすレンジの広さに脱帽するしかない。そして最後は轟音と共に絶唱というクライマックスにはもう震えが止まらない。しかしメランコリックさや感動的な旋律を放棄し、ただその一瞬で叩き付けられるカオティックさに呆然とするしかない。
激情系ハードコアのセオリーを壊し、ハードコアの粗暴さよりも、不穏さの中で蠢くカオティックさとグルーブを重点にアンサンブルを構築し、それを最大限に生かす為のハードコアというのは本当にオリジナリティ溢れる音だと思うし、そこにはハードコアを越えた幾多の音が存在しながらも、それを3ピースで鳴らす極限のアンサンブル。彼等もまた孤高のバンドであると同時に多くの激情系フリークスから高い評価を得ているのは必然でしか無い。killie好きや激情系好きは勿論、マスロック好きやポストロック好きにも大推薦な一枚。人を選ばない幅広い音が存在しながらも聴き手を間違いなく脱出不能の迷宮に叩き落すハードコアがOff Minorだ。