■The Anchors
■Answersongs/The Anchors

ex.AMOK、THE RAIN RAINSの寺田氏を中心に結成された三重を拠点に精力的に活動する4ピースエモーショナルロックバンドであるThe Anchors。そんな彼等が2012年に発表した記念すべき1stアルバムが今作である。リリースは愛媛から全国に良質なエモ・ハードコアの音源を送り届けるIMPULSE RECORDS。しかしながら想像以上にとんでもない傑作が生まれてしまったと言えるだろう。WE ARE!やbedの様な緻密なギミックを駆使しつつも歌と旋律に帰結するエモーショナルサウンド。今作は2012年の国内エモも最重要作品の一つだ。
彼等のサウンドは本当に王道のエモ・オルタナサウンドだ。90年代USオルタナやエモの空気を存分に吸い込み、国内エモの猛者達が持つ歌の強さと侘寂を受け継ぎ、細かい部分でポストパンクやU2辺りのバンドを彷彿とさせるビートやギターワークを駆使し、その表現力を優しくも力強い歌へ帰結させる。硬質でざらついたサウンドの中にある温もりとストーリー、本当に作りこまれたサウンドでありながらも、それを説教臭さなんか全く感じさせない自然体の歌物エモとしてアウトプットする技量の高さと純粋な楽曲の良さが光りまくる。作品の中に捨て曲は1曲も存在していないし、それぞれの楽曲が作品の中で呼吸している。くっきりと聴こえる日本語詞の歌に重点を置きながらも各楽器が静かに主張し、ドラマティックなメロディが歌と共に共存する第1曲「Ice Voice」からいきなり胸を打つ名曲になっている。地味に変拍子を取り入れつつも、メロウに泣くギターソロや少しずつ熱量を高めていく展開を持ちながらも歌は平熱の温度と湿度を絶妙に保ち柔らかにでも力強く耳に入ってくる。第2曲「Change」の疾走感とポストハードコアやUSエモの流れを汲んだ楽曲構成と青臭さも堪らない。一方で第4曲「Midnight Puppets」では硬質なギターワークがヒリヒリとした緊張感を持ちながらも、アルペジオのフレーズなんかは非常にメランコリックでさらつきがより強調された楽曲になっているが、それでも淡々と物語を紡ぐ歌の熱量は全く変わりはないし、一歩一歩力強く歩みを進めるかの様なストーリーとバンドのアンサンブルの強度と美しさが確かに光る1曲になっている。第6曲「Smile」ではより歌物に接近し、ミドルテンポの中でたおやかに流れ、涙を流すギターなんかもうブッチャーズに通じる物すら感じてしまう。特に後半はじっくり聴かせる楽曲が多く。前半の楽曲のヒリヒリとしてエモさとの対比も見事。特に第9曲「Trainsong」と第10曲「Perfect」は本当に心が豊かになる名曲だと思うし、分かり易い爆音サウンドでは無いからこそ彼等の持つ楽曲自体の魅力がじわじわと来る。
日本は本当に良質のエモのバンドが多いと思っているし、僕はそれらのバンドの愛好家でもあったりするけど、また一つ素晴らしいバンドが素晴らしい作品を作り上げてくれたのを心から嬉しく思う。脈々と流れる和製エモの血肉を感じさせながらも、歌物オルタナティブであるという事に彼等は本当に真摯なバンドであると思う。心を熱くする10の物語、日本のエモはまだまだいけるのを証明する傑作だ。