■Funeral Moth
■Dense Fog/Funeral Moth

今年頭にフューネラルドゥームの最重要バンドであるWorshipの来日ツアーをサポートしたのも記憶に新しいex.CoffinsのメンバーやグラインドコアのBROBのメンバーが在籍する日本が誇るフューネラルドゥームバンドの2014年リリースの1st。レーベルはWeird Truthから。今作ではNEGATIVEAIDGUERRILLA REALMのメンバーも加入し4人編成での作品になっている。またこちらもフューネラルドゥームの最重要バンドであるMournful CongregationのJustin Hartwigがゲストでギターを弾いている。
出た「Dense Fog」だ。日本語訳すると「濃霧」と名付けられた今作はジャケットも本当にそんな感じなんだけど、音も完全に濃霧その物だ。前作のEPとは明らかに方向性dが変わっているし、絶望感も半端じゃないけど、より美しい作品に仕上がったと思う。先ず収録内容が本気過ぎる。全4曲70分超えで、インストである第3曲以外は全曲20分超えというとんでもない大作志向だ。そして前作EPとの大きな違いは、前作が激重の無慈悲なリフと推進力を無くしたビートが生み出す煉獄だとしたら、今作は明らかにクリーントーンのギターの音が増えている。のっけから21分超えの第1曲「盲目 - Blindness」から変化と進化を強く感じるだろう。本当に止まってしまいそうな音数を極端に減らしたビート、低域グロウルで日本語で絶望を歌うボーカルが脳内を絶望で覆い尽くすけど、でもそのギターの音は本当に優しい。クリーントーンでメロウで耽美な美しさをメランコリックに奏でるアルペジオの反復は、絶望的な音の中で確かな救いであるし、聴き手に確かな感情移入の余地を与えてくれている。20分超えではあるし、決して楽曲の展開は多い訳ではないんだけど、明確な起承転結を強く感じるのも大きな進化だ。特に後半になってからの展開は本当に鳥肌が立つ美しさで、歪んだ激重リフの緩やかな渦が大きくなって、先ずはクリーントーンなカラーのあるギターソロで泣かせに来るし、最後のJustin Hartwigのロングギターソロはゴシックな空気と終末の美しさを全開にした泣きのソロで堪らない。個人的には大作志向のCorruptedにも通じる物を感じた。
しかし第2曲「Behind The Closed Door」は一切の感情移入の余地を許さない漆黒のフューネラルドゥーム。心拍数が停止してしまいそうなビートと、メロディアスさなんて放棄したリフの残響と破滅的な威力。しかし徐々にメロディアスさを感じせる音になっていくのは流石だし、途中から不穏なクリーンのパートになるとまた感触も大きく変わっていく。終わりの始まりを想起させるギターアルペジオの美しさに震えたと思えば、また無慈悲なドゥーム煉獄。今作は確かなメロディアスさを感じさせる事で、感情移入の余地や美しさと言った点も大きく出た作品ではあるけど、しかし無慈悲さも全く日和ってなんかいないし、寧ろそれらのバランスが本当に作り込むまれているのは大きいと思う。クリーントーンの美しいギターから泣きのギターへと美しい世界を見せる第3曲「濃霧 - Dense Fog」の4分程のインストに恍惚しつつ、最後の最後に待ち構える最終曲「自害 - Kill Yourself」は完全に絶望の極み、この世界と決別した人間が見る世界を描いた様な曲だと思うし、空白だらけの音の隙間ですら窒息しそうな感覚に襲われるし、無慈悲な歪みのリフもメロディアスなクリーンのギターも無く、ただ精神を削る痛々しさだけが永延と這い回る。前半はずっとそんな感じだし、ただ少しだけ歪みながらクリーンな音がひたすらに精神を内側から蝕んでいくし、そして後半はディストーションギターの濃霧が全てをただ覆い尽くし、最後の最後は音量が小さくなったギターリフの反復のみで終わり、絶望の中を彷徨うしか無い事を無慈悲に告げる。
フューネラルドゥームという音楽性もそうだし、その作品構成もあるから間違いなく人を選んでしまう作品ではあるし、聴くのに体力を使う作品でもあるけど、本当に濃霧その物な音が目の前に広がっていくし、その精神世界や情景の表現力はとんでもない事になっている。破滅の美しさが見事でありながら、同時に安易な安らぎなんて与えず、ひたすらに闇と向き合わせてくる作品。言うまでも無く傑作だ。
■Funeral Moth/Funeral Moth
![]() | Funeral Moth (2008/06/01) Funeral Moth 商品詳細を見る |
DE-NIHIL、COFFINS、BROBのメンバーによって結成された東京のフューネラルドゥームバンドの06年にテープでリリースされたデモ音源を08年に再録音しCDとしてリリースした作品であり、たった2曲で28分というもう期待通りのフューネラルドゥーム作品である。日本国内では恐らくかなり珍しいであろうフューネラルドゥームのバンドであるとは思うけど、無慈悲な暗黒は徹底している。
彼等は泣きの旋律を用いて悲しみを生み出すバンドでは無い。とにかく美しい旋律と言うのは無く、絶対零度であり極限まで重いリフと、心拍数停止寸前の推進力放棄の空白だらけのドゥームのビート、徹底した規格と意識でそれを貫き、僅かな救いすら与えてくれない。第1曲「Ignorance」からいきなり16分の大作であるけど、冒頭から無慈悲かつ淡々と振り落とされる音塊、ドラムやベースはグルーブとかそういった物は当たり前に放棄しているし、ただ重く遅くある事のみに特化した音であり、肉体的重圧と精神的重圧を同時に生み出し、両方の面で暗黒重圧殺マシーンと化す。しかも一思いに殺してなんかくれないし、嬲り殺しの音楽となっている。楽曲の中で展開や構成といった要素もほぼ皆無であり、それにただ苦痛を描く超低域グロウルが乗る。それがただ16分続き、聴き手をどこまでも突き放すが、美しい旋律やドラマティックさを放棄してまでも徹底して絶望を描く姿勢は一貫しているし、徹底して重い。第2曲「Depressive Dawn Of A Dismal Misty Day」も尺こそ11分と少し短めになっており、微かに旋律を感じさせるアルペジオのフレーズが挿入されていたりもするけれど、歪みまくった重音は全く変わらず、呪詛の様なボーカルと共に推進力放棄で進行する。中盤で不穏のアルペジオのみになり、そこで囁く様なボーカルが入ったりと少しばかり展開の変化等もあったりするが、そこから感動的な音へと移行するなんて事は全く無いし、最後の最後まで漆黒の重低音が視界と聴覚を埋め尽くし、死の黒煙が噴出したまま終わりを迎えるのだ。
感傷や救いを徹底して排除し、漆黒の重低音をただ放出する彼等の音は軽々しく聴ける代物では無いが、正座して自らの暗黒と対話する時に不思議と調和する音になっているのも事実であり、遅くて重くて暗いという要素を徹底して追及した音楽は暗黒系フリークスには涎が出る代物であるのも間違いないであろう。終末感を味わうには持って来いの一枚であり、その闇の美学に感服するのみだ。