■TORMENTOR
■Anno Domini/TORMENTOR

今もブラックメタルの生きる伝説として君臨し、Mayhemのボーカリストとして知られるアッティラであるが、そのアッティラがブラックメタルの代表格であるMayhemに加入する以前にハンガリーで活動していたバンドがTORMENTORである。今作は88年にレコーディングされ、95年にようやく日の目を見たTORMENTORの1stである。Mayhemとは違う音ではあるが、今作の音はその後のブラックメタルへと確実に連なる重要作品だ。
感触としては楽曲自体にはブラック特有の陰鬱さやギターワークは健在ではあるが、もっとスラッシュメタルに近い感触であるし、言うなればブラックメタルを語る上では欠かせないVenomがもっとブラックに接近し、もっと陰鬱になった印象だ。しかしローファイな音で繰り出されるスラッシュメタルな感覚と、ある種のロウさは妙にマッチし、黒い方々だけでなく、初期SODOMが好きな人も気に入ったりする気がする。そしてギターワークはトレモロリフ一辺倒では無く、スラッシュメタルとブラックの中間の絶妙な位置にある物だと言えるだろう。果てにはロウな音ではありながらもテクニカルなロングソロが登場してきたりするし、ざらつく黒いリフが駆け巡るパートと、メロ中心のギターワークのパートの対比も中々に絶妙な所を確実に突いて来る。2ビートで疾走するビートは本当にロウなスラッシュメタルのそれだし、古き良きハードコア好きも取り込めそうな感じもある。何よりギターワークが全く単調じゃないし、リフで押し切り絶妙な泣きのフレーズを挿入してきたり、ポジパン的なアルペジオを入れてきたりと、全く飽きさせない。こいsて楽曲の面だけで見るとブラックメタルというより、完成度の高いロウでメロウなスラッシュと言った所だが、それだけで終わる訳は勿論無い。楽曲だけ見ても十分過ぎる位に良いのだけれども、それをより独自の物にしているのはやはりアッティラのボーカルだと思う。Mayhemで聴かせた完全にオカルトの領域に足を突っ込んでいるボーカルとはまた違い、ドスの効いたもっと攻撃的で直接的なボーカルを聴かせるが、それがもうアッティラ感しかないのが凄い。不気味で呪いの憎悪を惜しみなく吐き出し、叫びながらも、どこか耳元で呪いの言葉を囁いていくかの様なボーカルが楽曲と本当に完全な形で噛み合い、TORMENTOR独自のブラックスラッシュを生み出してると言えるし、この音はその後のブラックメタルへと確実に繋がっている。
ブラックメタルを語る上で絶対に外す事が出来ない作品なのは最早言うまでも無かったりするけど、それすら抜きにしても全然良い作品だなと個人的には思ったりする。ブラックメタルとしてでは無く、もっとシンプルにメタルの名盤として聴けるし、疾走しながらも、邪悪さを醸し出し、それでいて耽美でドロドロした旋律と絶妙に絡むTORMENTORの音はもっと普遍的なメタルの名盤だと思う。