■ライブレポ
■langとSTUBBORN FATHERの激突を目撃して
この日大阪のハードコア大妖怪STUBBORN FATHERが参戦すると聞きつけ、迷わず足を運んだ。
激情ハードコアという言葉もある種の紋切り型のフレーズと化してしまった感もある昨今だが、langとSTUBBORN FATHERというサウンドスタイルこそ全く違うが、共に本物の唯一無二の音を鳴らす両者の激闘を簡単ではあるがここに記す。
昨年5月のレコ発以来の都内でのライヴとなったSTUBBORN FATHER。
この日はドラマーのCamelが出演出来ず、サポートドラマーとしてSeeKのWakkieを迎えての特別編成でのライヴ。
まずはWakkieのドラムがスタボーンの新たな一面を開花させる素晴らしいプレイをしていた。
Camelの独特のヨレも含めたグルーヴ感とスネアの抜けが極まったブラストビートはスタボーンの確かなフックであり、それがないスタボーンは一体どうなるのかといった気持ちもあったが、そんなのは安い杞憂でしかないと思い知る。
Wakkieの硬質でタイトなドラムはスタボーンのサウンドに泥臭さ以上に、洗練された空気感を確かにもたらし、スタボーンの持つ楽曲の完成度をアップデートさせる物に。
加えてWARPの高さがあって奥行きのあるステージはスタボーンの空気感に神々しさを与えた。
スタボーンがホームにしている心斎橋HOKAGEのステージとフロアの境界や段差のない場所でのゼロ距離でのスタボーンのダイレクトさも勿論最高だが、一段上から見下ろす様に混沌を叩きつけたこの日のライヴは大袈裟な言い方になるかもしれないが、光すら差し込んでいた感覚がある。
セットは裏側→隠された太陽→陽極→痣とこれでもかとスタボーン印のフックしか無いキラーチューンで突き抜け、ラストは間物の泥泥のサウンドで全てを置き去りに。
バンドの熱量も凄まじく、それはshigeが何度も叩きつけて脚の折れたマイクスタンドと、最後の最後にkokeが床に叩きつけてヘッドの折れたベースが物語っていた筈。
主催のlangは一昨年新ギタリスト高澤が加入し、5人編成になってから更なる快進撃を続け、昨年はその名前を一気に広げた。
この日のlangは高澤加入以降の集大成でもあり、これからのlangを提示する物だったと言える。
ライヴでは終盤にプレイされる事の多いキラーチューン「IHATOV」をド頭に持ってきた辺り、この日の気迫は違った。
langは何一つギミックや仕掛けなどなく、単純に良い曲を全力で我武者羅に演奏する。たったそれだけのバンドなんだけど、でもそれってハードコア云々抜きにして、ステージに立ち音を放つ上で一番大切な事だと僕は思う。
湯田のタイトにしばき上げるドラムのキレ、寺井の音数こそ多くは無いけど、静かにバンドをまとめあげるベース、太田と高澤のツインギターの絡みはlangの持つグッドメロディをより立体的に表現し、和田の叫びと語りと言葉が心象風景を描く。
この日はFredelicaとのスプリットの楽曲、かなり久々に聴けた1stアルバム収録の「柄」と新旧オールスターなセットリストで挑んだlangだったが、何よりも新曲が本当に素晴らしい。
langは最早ハードコアバンドではなく、ハードコアパンクの精神を奥底で燃え上がらせながら、より多方面へと突き刺すシンプルに良いバンドへと進化を遂げている。
langの持ち味の焦燥感はそのままに、より瑞々しく光り輝く日常の片隅の音と言葉。それこそがlangの一番の武器だろう。
アンコールは2ndアルバムを締める名曲「一日の終わり」。徹頭徹尾langの持つ青さが炸裂したナイスなライヴだった。
langとSTUBBORN FATHERという両者はそれぞれが目指す未来こそ違えど、引かれ合いぶつかり合うのは必然であった。
この日の両者のライヴは確かに僕の記憶に残る素晴らしい物だったと断言する。
共に未来へ向けて更に己を磨き上げ続ける両バンドを僕はこれからも追いかける。
■sassya- × VACANT split CD release party@吉祥寺WARP(2020年1月18日)
東京のsassya-と愛知のVACANTの一撃必殺爆撃スプリットは間違いなく今年のベストリリースの一枚になる作品だ。
そんな2020年の最新型名盤を引っ下げてのsassya-&VACANTのスプリットリリースパーティは北海道の御大zArAmeをゲストに迎えての大勝負な激闘ライヴ。
更には全バンドのPAをツバメスタジオの名音楽技師こと君島結氏が担当するのだから既に最高が約束された一夜。
この日も色々と熱いライヴが被りまくっていたが、僕はこの最高が約束された夜を目撃するべく吉祥寺WARPへと足を運んだ。
この日の東京は初雪を記録し、この冬一番の冷え込みとなったが、そんなの知ったこっちゃねえって話。
真冬の夜に最高にイカしたロックバンド達の熱演が観れるんだからシチュレーションも完璧過ぎたって話だ。
・VACANT
トップは愛知のVACANTからのキックオフ。VACANTは僕個人としてやっとライブを観る事が叶い、この日彼らを目撃するのは心から楽しみだった。
VACANTはポストハードコア云々の文脈で語られることも多いのかもしれないけれど、僕はロックンロールバンドであるとずっと思っていて、この日のライヴはVACANTが最高のロックバンドであることを証明するライヴを展開していた。
本当にグレッチの音なのか?と疑いたくなる程に鋭角で尖り切ったギターの音一発で完全に勝利が約束されたライヴ。
余計な感傷を排除し、コシの強いビートとささくれだったギターフレーズだけで勝負をかましてくる漢らしさ、メンバーそれぞれの佇まいこそクールではあるが、その中に確かな熱情が迸る。
MCは殆どなし、チューニング以外ほぼノンストップで必殺の鋭角ロックを繰り出していく様は最高に気持ちがいい。
ラスト前のMCでエイさんは自らを「アマゾンの奥地の原住民の様なマイペースなバンド」なんて言っていたが、VACANTは間違いなく愛知から全世界に羽ばたくべきロックンロールバンドだ。
なんのギミックもいらない。ひたすらにビートとリフに愛されたからこそ生み出せる鉄のサウンドは問答無用だ。
最後の最後にギターボーカルのエイさんが「狂って帰れ!!!!!」と叫んだ。
2001年の下北沢SHELTERでの「狂気狂鳴」のCOWPERSのライヴで最後に現動氏が吐き捨てた言葉であり、その辺りも含めて本当に燃え上がるライヴとなった。
・zArAme
ゲストバンドは北海道のレジェンド達によるスーパーバンドzArAme。
この記念すべき日にzArAmeがゲストバンドとして参戦したのは必然だったと思う。
幻想的で美しいインスト「転生」からキックオフ、そのまま畳み掛ける様に「lowpride」、「ラストオーダーはディスオーダー」とzArAme印のキラーチューンが繰り出される。
zArAmeはVACANTとsassya-に比べたらキャリアが長い人たちによって結成されたバンドではあるが、円熟の中にある冷めない衝動と鋭角さがあり、がむしゃらに尖り切るのではなく、その尖りにどこか優しさすら感じる。
例え形を変えても音楽を続けてきた人たちだからこそ生み出せる貫禄がzArAmeにはある。それは轟音と叫びと共に今なお狂い続ける音像だ。
現動氏とイサイ氏が漫才の様な掛け合いMCをしたりとほっこりする時間こそあったが、理屈抜きに轟音で殴り付けるサウンドはzArAmeが現役の本物であるからこそ生み出せるものだ。
ラストの「微唾」の感動的な瞬間まで何一つ隙が無いライヴだった。
zArAmeはex.COWPERSだとかex.theSunというメンバーのキャリアだけで語り尽くせるバンドではない。
現動氏の最高の叫び唄と共に積み重ね続けるからこそ生み出せる熱情。
WARPのフロアは完全にzArAmeの空気になり、その音だけで世界を変えることが出来るなんて子供みたいな幻想もzArAmeを観ていると確かに信じることができるんだ。
・sassya-
トリのsassya-がこの日の全てを持っていったと思う。
この日のsassya-は今後伝説になり得るであろうライヴを繰り出していた。
いつもライヴの最後にプレイされる勝負曲「脊髄」でスタートした瞬間にこの日は何もかもが違うと確信した。
岩上氏のやり切れなさを叫ぶボーカルの気迫、決して音数が多くないからこそ鋭角さに繋がるアンサンブルのハマり具合、ギターとベースとドラムが一つの生き物になっているグルーヴ、初っ端から感動的で生々しい空気に包まれる。
sassya-のライヴはその緊張感が異様だ。ドラムとベースの一体感に加えて、ファズを踏む瞬間の気迫とその一瞬の後に繰り出される爆音のギター。
自問自答の言葉、爆発する瞬間のカタルシス、決して速い楽曲が多いわけではないが、高まった瞬間に繰り出される感情の疾走。ロックバンドとして全てが完璧なライブをsassya-は常にブレずに展開する。
この日の終盤は待望の新曲もプレイ。一曲目の新曲はsassya-印のブルースとも言うべき新境地、そこからスプリット収録の新たなるキラーチューン「吠えないのか」へと雪崩れ込む瞬間にはWARPの空気は全身を切り裂くものへ。
そして本編ラストでプレイされた新曲がsassya-史上どころか、ロック史に名を残すかもしれないとんでもない名曲だった。
勝負曲「脊髄」すら霞んでしまいそうになるsassya-史上最も物哀しく優しい名曲。
ベタな例えになってしまうの承知で言うが、bloodthirsty butchersの境地にまでsassya-は遂にたどり着いた。そしてこの日初めて聴いたこの新曲で気付いたら涙を流していた。
そんな感動的なラストからアンコールでの4カウントからの「だっせえパンクバンド」での全力で暴走するサウンドで一気に天までぶち上げて行く瞬間。問答無用で血管が破裂しそうになるくらいの興奮。
本当にずるくて嫉妬しそうになる程にこの日のsassya-は完璧だった。このバンドは本気で持っているバンドだなって再認識したと同時に、だからこそ本物のロックバンドであり続けているんだろう。
VACANT、zArAme、sassya-と活動拠点も世代も違うけれども、どこまでも尖り続ける事で未来を切り開く3バンドの生み出す空気に酔いしれた特別な夜になった。
WARPを出ると熱狂と熱情を冷ます様な寒さの中、まだ小雨が降り続いていた。
冬の寒空の下の帰り道の東京はいつもと変わらないけど、なんだかいつもと少しだけ違う空気が流れていた。
何者にもなれない僕でも、たった3時間3バンドのライヴを観ただけで、世界が少しだけ変わった気がした。
随分といい歳になった自分でもそんな事を恥ずかしげもなく心から思えるのは最高のライヴを目撃したからだろう。
二度と同じ夜は訪れないからこそ、この日の夜はずっと記憶に残る。
■SATURDAY NIGHTMARE@国分寺Morgana(2020年1月11日)
鉄板バンドも遠方からのカチコミバンドも気鋭の若手も含めてモルガーナだからこそ出来る攻めのブッキング。
熱情に満ちた土曜日を文字通り悪夢へと変えるオルタナティブな夜となった。
・North by Northwest
昨年突如として登場し、各所で話題になり始めている3ピースインストスラッジバンド。
このバンドのライヴは何度も観ているけど、シンプルな3ピースのサウンドから最大公約数どころか宇宙へと連れ去っていくライヴを展開する。
三位一体になった音のグルーヴ、一瞬のハウリングのブレイクから一気に雪崩れ込むスラッジサウンド、その瞬間瞬間がトランスへと繋がる。
それとこの日のライヴを観て改めて気付いたのは、NbNの持ち味とも言えるクリーントーンの不穏なサイケデリックさは関西が誇る伝説的ヘヴィロックバンド花電車のそれに確かに通じるものがある。
往年のヘヴィロックの泥臭さはそのままに、現代へとアップロードされたヘヴィロックは地底と宇宙を自在に行き来する。すなわち合法でぶっ飛べる最高のヘヴィロックって事だ。
・MUGANO
2ピース西東京ヘヴィロッカーズ。NbN同様にここ最近のモルガーナでは鉄板バンドになりつつある若手だ。
MUGANOも結構ライヴを観ているけど、どんな場所でライヴをしてもシアトルの地下室に変えてしまう魔力が魅力的だ。
下手したらこの日一番音量が大きいライヴだったけれども、MUGANOの魅力は爆音のリフとタイトなビートだけでソリッドなヘヴィロックを鳴らす所だ。
ギターリフはどこかルーズでありながらも、不思議と耳に残るキャッチーさがあり、それが一音一音タイトに叩きつけるドラムと見事に映える。
その中でもスラッジ・ストーナーを熟知したボーカルは下手な歌物バンドよりもずっと歌物としての魅力に溢れており、ヘヴィさの中の叙情詩を確かに聴かせる。
沈み込む様でもあれば、果てへと爆走する様でもあり、基軸を何も変えずに多様にヘヴィロックを鳴らすMUGANOはMelvinsがそうであるようにどこまでもロックバンドなのなのだ。
・umanome
かなり久々に観たumanome。この日の中で最も普遍的なロックバンドであり、だからこそ逆に異質さも際立ってた。
ポストハードコアな叫びまくりな楽曲も良いが、umanomeは爽やかでクリーンなエモーショナルな楽曲こそ魅力的である。
何一つ飾らずに全身全霊で歌い上げてグッドメロディを鳴らす。
下手したら往年の日本語ロックのバンドにも通じる歌心とほんの少しの湿り気。
激烈なバンドばかり並ぶこの日のブッキングでどの様なライヴをするか気になったりしたが、なんてことはないありのままのumanomeのライヴだった。
何一つ飾らない、下手したらポップだけれどもそこに打算はない。
不器用なまま鳴らされる音は叫び歪んでいても青く歌い上げてもumanomeになる。
決して派手では無いけれども心に確かに響くライヴだった。
・ixtab
群馬からカチコミかましに来たixtab。この日のライヴは本当に神憑りを感じさせる絶対正義な優勝ライヴだった。
ixtabの持つハードコアパンクはサウンドスタイル云々を全て打ち抜いていく。
変幻自在なビート、だけれども常にカオスな爆走感で突き抜け、一体どこにそんなエネルギーがあるんだと言いたくなる程に怒りを音に込める。
ネオクラスト云々とか文脈こそ色々あるが、ixtabはあらゆるハードコアパンクを飲み込み、それを怒りに一点集中で放出し、その場で死んでしまっても構わないとばかりに全身でライヴをする。
お行儀の良さなんて何一つ無いけれども、ハードコアパンクは元々そんなお手本に習う音楽じゃなくて、ありのままを全放出する音楽だって事をixtabは証明している。
最後にプレイした森田童子のカバーも含めて休まる暇など全くなし。全感受性を強引にこじ開けてブチ上がらせるライヴは本当に最高でしかなかった。
・SUNDAY BLOODY SUNDAY
混沌の夜を締めくくるのはご存知SUNDAY BLOODY SUNDAY。
このバンドはトータルとしてのバランス感覚の鋭さを持ち、こうした企画ではその魅力が一番発揮されるバンドだろう。
セット自体は1stの楽曲とREDSHEERとのスプリットの楽曲で構成されていたが、そのセトリも含めて本当にバランスがいい。
ヘヴィなリフ、歪んだベース、しばきあげるドラム、高らかな歌。たったそれだけで無限の広がりを見せるヘヴィロックがSBSなのだ。
何一つトリッキーな事をしていないからこそ、ライヴでの底力は相当なもので、それぞれの音の輪郭がはっきりし、その中でリフに溺れるのもメロディに浸るのもビートで頭を振るのも全部正しい楽しみ方になる。
いつだって最高のライヴを演るという安心と信頼。だけれども常にフレッシュな感覚でライヴを観れるバンドって本当に少ないと思う。
この日もSBSはただ最高だった。そしてそろそろSBSの新たなる未来を切り開く新曲が聴きたい限りだ。
ここ最近のモルガーナはハコ企画ならではの鉄板感を出しながらも、同時に若手バンドを積極的に輩出しようとする気概がある。
型にハマってばかりでは何も変わらないからこそ、国分寺という土地からオルタナティブな感覚で新たなる音を発信している。
だからこそモルガーナは本当の意味でライヴハウスだと言えるハコだ。
僕個人として決して足を多く運んでいるとは言えないけれども、これからもモルガーナでの新たなる音楽との出会いは心から楽しみだ。
■a hundred percent vol.4@渋谷HOME(2019年12月29日)
ライヴは夜だけのものじゃないって認識は少しずつ広まっている感覚はあるけれども、年末の真昼間にカテゴライズからはみ出しまくった4バンドが集結したのは本当にナイスなブッキングだ。
ハコ企画で枠に囚われないブッキングが増えるのは本当に良いことだと思う。
そんな訳で、遅ばれながらも個人的な2019年のライヴ納めの簡単な感想。
・Presence of Soul
今年最新アルバムをリリースしたPoS、この日はYukiとYoshiのコアメンバーによるデュオ編成でのライヴ。
デュオ編成でのライヴを観るのは初だったが、バンド編成のPoSと打って変わって、二人きりで出来る最大公約数を目指した先に、バンド編成PoSとまた感触の違う美しい世界が広がっていた。
プレイしたのは長尺曲2曲だが、その2曲の光と闇のコントラストがPoSのセンスで鳴らされるのだから、VJも相まって引き込まれる。
前半のYukiの美しい歌声とYoshiの透明感あふれるギターが幾重ものレイヤーを重ねてオーロラのように神々しく音を体現する楽曲、後半は一転してこの世の闇を暴くようなノイジーかつ不穏な静謐さから、ギターとノイズと叫びが奈落を暴くカタルシスで終結する落差。
特に後半の楽曲は下手なスラッジのバンド以上にヘヴィかつ暗黒のサウンドスケープ、デュオで鳴らされているとは思えない黒の塊に脱帽した。
・moreru
今年アルバムをリリースし、各所で話題を掻っ攫った若手バンドmoreru。
ライヴはこれまでも何回か観ているが、moreruほどにライヴを重ねる度に変化していくバンドも中々いない。
明らかに音量のキャパシティオーバーなノイズギター、しばき上げるドラム、その中でメロディの輪郭を浮かび上がらせるベース、そして憎悪を吐き出すボーカルと、完璧過ぎるノーフューチャースタイル。
下手したら明日解散してるかもどころが死んでそうなくらいの先の見えなさはライヴからも伝わってくるけど、より明確に憎しみの先の歌と悲哀のメロディを持つからmoreruは単なるスタイルだけの激情とは一線を画す。
moreruがライヴを観るたびに印象が変わると感じるのは破壊衝動と楽曲そのものの良さのバランスがより明確になっているからなのかと感じたりもしたが、そこに計算高さは何も感じないのがmoreruのmoreru感なのかもしれない。
moreruは少し観ないでいると本当に別バンドになりそうで、普通に解散とかもしてそうな感じも含めて今観ておいた方が良いバンドなのは断言する。
・looprider
loopriderは全く予備知識が無い状態で観たのだけれども、このバンドは◯◯っぽいって部分を意図的にすり抜けていく感覚を覚えた。
ヘヴィでありながらもポップな轟音。高らかに響く歌、音そのものは凶悪極まりないのにどこまでも心地良い。
果てしなく爆走する楽曲から、神々しいシューゲイズな楽曲までレンジは広いが、それらを全てロックンロールへと帰結させているのがloopriderの持ち味なのかもしれない。
エクストリームミュージックのトータルな整合性も含めて、絶妙にはみ出すセンスに拍手。
・kokeshi
この日の一番の収穫はkokeshiを知ることが出来た事だろう。
名前は何度か見たことがあって、バンド名からそれ系なポストロックかな?なんて安易なイメージを持っていたけど、そんなものは木っ端微塵にされた。
kokeshiは紛れもなくダークサイドニューメタルの先を鳴らすバンドだ。
黒々しい轟音、メンバーの演奏力こそ凄まじいが決してお上品なかっちりさには走らずグルーヴ感に満ちている。
各楽器の音の厚みやレンジが完璧で全音域から腹に来るヘヴィネスをお見舞いする。
退廃的なメロディアスさ、時にはメタルコアらしいブレイクダウンがありつつも全くモッシュ出来ない感覚や、ポストロック的なアプローチはあくまでその先の轟音へのアクセント。
楽曲のセンスがとにかく素晴らしく、それを高い密度で演奏するバンドだった。
ニューメタルは過去の音楽の様に思っている人がいるかもしれないけど、kokeshiを観たらニューメタルはまだまだ可能性のある音楽だと思える。
早くフルアルバムを聴きたい今後要注目なバンドだった。
年末にふと思いつきで足を運んだけれど、ジャンルにハマるのではなくて、そこから積極的にはみ出して打ち壊していくバンドが世代や文化圏関係なく集まっていたのは本当に印象的だった。
ジャンルの型にハマらない・ハメられないからこそ音楽はもっと面白いし、それをハコ企画で体現していた点も含めて印象深い日でした。
昼ライヴだったのも含めて、こうしたブッキングがもっと増えていくと思う。だからこそ、まだまだ楽しいことが待っていると思いながら2019年のライヴ納め。
■carolとREDSHEERの果たし合いを目撃して
と書いたは良いが、正直に言うとcarolに関して全く予備知識のない状態でこの日の来日公演には足を運んだ。
この日はナインスパイスの方で百姓一揆を観に行ってからPitbarへとハシゴをしたので、実際にライヴを観たのは目当てのREDSHEERからだったのだけれども、carolは想像を超える化け物で、それが日本の激音の化け物REDSHEERと殺し合いを果たした瞬間を目撃した興奮が未だに冷めぬ中、この文を書いている。
先に書くと当時を知ってる知らないとかcarolを知ってる知らないとか再結成なんて事は本当にどうでもいい事で、ダークハードコアのおぞましい力を目の当たりにしたという事実だけで十分だ。
REDSHEERは大分久しぶりにプレイされた「Silence Will Burn」からスタート。
新旧織り混ぜてのセットとなったが、この日carolとREDSHEERが出会ったのは必然だった。
ドイツと日本、それぞれの音楽的文脈は共通項もあるかもしれないし、異なる部分も多いと思う。
だけれど、REDSHEERには怒りと憎悪を圧倒的な音像に変える力がある。
生音のライヴなのもあったのかもしれないけれど、普段のライヴ以上に音のうねりは激流の様で、その中でギラギラとした殺気が首根っこを掴んでくる。
ラストにプレイされたHELLO FROM THE GUTTERからリリースとなったコンピレーション「SILENT RUNNING」に収録されている「Tearing You Apart」の激音を体感して、この殺意と憎しみはどこまであふれ出て来るのか怖くなってしまった。
終わりなく刻まれていくリフと共に曲名通り心身が細切れにされていく地獄。
carolのメンバーも最前でハイテンションでREDSHEERのライヴを観ていたけど、彼らがREDSHEERに惹かれた必然を感じた。
REDSHEERの持つ進化性と地獄はcarolと刺し殺し合うに相応しいものであり、黒く磨かれた刃で真っ二つにされた気分になった。
そして主役のcarol。前述した通り予備知識ほぼなしで今回のライヴを目撃したが、肉体に衝動を憑依させた化け物たちが目の前にいた。
Pitbarの生音の音響なんて問答無用で関係なし、一発の音が本気ででかい。そして塊になって降りかかってくる。
メタリックなフレーズも多用してはいるが、感触はどこまでもダーク。陰鬱な歪みが心身ともにバラバラに切り刻んでいく。
サプライズとしてAcMeのカバーから対バンのREDSHEER小野里氏が飛び入りでマイクジャックによるツインボーカルと怒涛の勢い。
Kowloon Ghost Syndicate安藤氏も飛び入りでゲストボーカルで参加し、Pitbarは大きな盛り上がりと混沌に巻き込まれていく。
MCで彼らが発した差別への怒りも含めて
carolは単純に強靭なサウンドを持つだけのバンドではない。それはcarolを知らなかった僕でも伝わった。
ハードコアパンクが持つ先鋭性だけでなく純粋なる怒りの衝動を音に宿す。
だからこそcarolは本物の化け物なんだろう。
例え言葉がわからなくても、バンドを知らなくても、その音を生で体感した瞬間に何度も拳を突き上げてしまう熱情。
ブレーメンコアとかメタリックハードコアとかニュースクールハードコアとか人によってその音に対して思い浮かぶ物はそれぞれある。
でもそんな人それぞれの文脈を超えた圧倒的なダークネスに心底恐ろしくなると同時に、異常なまでの興奮を覚えた。
完全に途中参加のGIGだったので今回はcarolとREDSHEERが対バンを果たしたという事実に関して記したが、共に何の予備知識や文脈がなくても観る物を再起不能にする激音だ。
うねるグルーヴ、粉砕するビート、切り刻むリフ、その中で感じるメロディの悲壮さ、そして怒りを叫ぶボーカル。ハードコアが何故進化を遂げながらも常に今に対して最も熾烈な音で怒りを叫ぶのか。
この駄文を書き記しながら、そんな衝動について僕なりに考えていたりする。
そしてこの駄文を書き記している時点でcarolは1/10の小岩bushbash、1/11の鶯谷What's UpでのGIGを残している。
少しでも興味がある人、ダークなハードコアが好きな人は迷わず足を運んで欲しいと願う。
ドイツからとんでもない化け物が目撃者の人生に残るライヴをするから。
再結成感など全く無し、最強の現役のバンドが地獄へと叩き落としてくれる。