■Amber Daybreak
■Sentinels/Amber Daybreak

日本のHeaven in her Arms、Endzweck、Liteとも競演した経験もあるベルギーの激情系ハードコアバンドであるAmber Daybreakの09年リリースの1stアルバムであるが、これがもう1stとは思えないレベルで完成されまくった作品であり、透明感とエモーショナルさを兼ね揃えた激情系の中でも屈指の作品だと言えるだろう。ベルギーと言えば激情・激重の素晴らしいバンドを多く生みだしている国であるが、まさかこういったエモ系激情の素晴らしいバンドも登場していた事実に驚きだ。
彼等はKidcrash、Suis la lune、La Quieteに影響を受けたらしく、彼等のサウンドは透明感に満ちたクリーントーン主体のギターフレーズとクランチ気味の歪みの音色を組み合わせたギターワークが展開されているし、ハードコアの疾走感を持ちながらも、ポストロックの静謐さや、マスロック特有のテクニカルさも盛り込んだ物になっている。そこら辺はKidcrashの影響が大きいとは思うが、ある意味お約束なサウンドである筈なのに、彼等がテンプレ激情で終わらないで確かな個性を持っているのは、恐らく楽曲の中で焦燥感と緊張感が常に充満しているからだと僕は思う。少しペラペラした音作りでもあるけど、それでも彼等の楽曲はマスロックの叡智を吸収したからこその目まぐるしい展開と、緊張感に満ちたアンサンブルが確かに存在しているし、それをハードコアのフィルターを通して鳴らしているからこそ、その瞬間の激情をどこまでも哀愁と瞬発力を全開にして打ち鳴らしているのだ。時には複雑なフレーズを巧みに絡み合わせているし、ポストロック・マスロック的パートを上手に組み込み、そのパートはここぞという暴発疾走パートを最大限に生かす役目も果たしている。第1曲「Winter Seems Longer」は序盤からいきなりマスロック的サウンドが花開いたと思ったら、すぐさまハードコアパートへと雪崩れ込み、少しばかり静謐なパートを入れたと思ったら、マスロックフレーズも加えたハードコアパートへと突入し、そしてポストロックパートへと行き着き、シンガロングパートから再びハードコアパートへと雪崩れ込む。3分間の間で本当に目まぐるしい展開を見せるのに、常に青い衝動に満ちており、どこまでも胸を突き刺してくる。第5曲「Boat Trip」の焦燥感に満ちたクリーントーンのギターのストロークとハーモニックスからいきなり持っていかれるし、そこから一気に激情を爆発させて、ハイトーンの少しナヨいシャウトと、クリーンでありながら、激情が咲き乱れるギターの轟音に一発でやられてしまうだろう。全8曲共に常に予測不能な展開を見せるという意味で彼等はカオティックであり、同時に鬼気迫る殺意の音では無くて、徹底してクリーンで青く透明な旋律を聴かせてくれるし、本当にハイブリットなバンドだと思う。第8曲「No One On Arrival」の胸を焦がす壮大な激情で今作が終わるのもまた良い。
とにかくクリアでエモーショナルな激情系の良い所を全て取り入れた末に自らの物にしてしまったとしか言えない彼等だが、恐ろしいのはこれが1stアルバムだと言う点だ。1stでLa QuieteやRaeinの迫る勢いの完成度の作品を生み出してしまっているのだから、そこいらのバンドが逆立ちしても太刀打ち出来ないであろう、青い衝動をどこまでも緻密かつ衝動的に鳴らす彼等は本当に素晴らしいバンドだと思う。