■悠木碧
■プティパ/悠木碧
![]() | プティパ(初回限定盤)(DVD付) (2012/03/28) 悠木碧 商品詳細を見る |
若手人気声優である悠木碧の2012年リリースのデビューミニアルバム。こういった作品は当ブログでは今まで紹介した事が無かったけど、今回購入して凄い良質なポップアルバムだったので是非とも紹介させて頂きたい。声優のアルバムとなるとアニメソング中心に収録されるが、今作はアニソン全く無しで、全曲書き下ろし。声優のCD作品というよりは、一つの女性ポップス作品としての意味合いが凄い強い、一つのコンセプトアルバムだ。
今作のコンセプトはズバリ「箱庭の中の移動遊園地」であり、ある種の寓話的な世界観をアンニュイさとポップネスの両方の局面から描いた作品だと思う。導入部分となる第1曲「ハコニワミラージュ」からオルゴールの音色とピアノが今にも消え入りそうな碧ちゃんの声が印象的で、第2曲「回転木馬としっぽのうた」にて完全に寓話的な幻想世界へと導かれる。ある種ヘタウマ的な幼い碧ちゃんのボーカルと、「みんなのうた」の「メトロポリタンミュージアム」的な狂騒と幻想が入り混じる楽曲は一つのアニソン・声優作品にしてはかなり異色に感じる。鍵盤楽器を中心に構成された楽曲が徐々にクルクルと回り始め、そして現実を無かった事にしてくれる。序盤からそんな楽曲で来るから全編通してそんな楽曲で来ると思ったら大違いで第3曲「ジェットコースターと空の色」では高揚感溢れる旋律とストリングスが印象的だし、正統派なポップソングとしての機能を発揮し、ボーカルも打って変わってハキハキとした歌い方になってる(まあ歌唱力に関しては決して上手く無いけど)。その一方で第5曲「Baby Dolly Alice」では陽性のポップネスと再び幼い歌声で、童話の世界の様なきらめきを見せたと思えば終盤で旋律がダークになり、ある種の恐怖感すら植えつける仕掛けもあったりするし、コンセプトアルバムとして徹底した規格に基づいて作られてるし、それぞれのクリエイターが悠木碧と今作のコンセプトを確かに守りながら、それぞれに色を出し、多彩な作品として仕上げている。特にボーかロイド界隈でも名前も通っているらしい新鋭のクリエイターであるDECO*27氏が楽曲を手がけている第4曲「時計観覧車」なんてねごと辺りが歌っていてもおかしくないガールズロックとポップネスが見事に交錯しており、高揚感ある展開とコード進行が、作品に一つの開放的な風を吹き込み、第6曲「シュガーループ」なんて空間系を絶妙に使ったギターフレーズとタイトでダンサブルなビートと、ブレイクでハウリングを入れてくる辺りなんて完全に現在の日本のギターロックシーンとシンクロした楽曲だと思うし、この2曲は作品全体で良いアクセントとして機能してるだけじゃなくて、作品全体の間口も見事に広めている。そしてそれらの楽曲が第7曲「Night Parade.」へと繋がり、多国籍な旋律と、無機質な打ち込みのビートが今作で一番の妖しさを見せるのもまたニクい。そして最終曲「ハコニワソレイユ」で再び第1曲とシンクロする世界を見せ、約27分の御伽噺から再び現実世界へと引き戻す。
簡単に楽曲の紹介をしたけれど、声優・アニソン作品というよりも、完全に女性ボーカルの一つのコンセプトアルバムだし、ポップスの作品としての水準も高いし、コンセプトアルバムというある種の制限の中で、ここまで多彩な作品に仕上がっているのは凄い。あと碧ちゃんのボーカルは凄い好き嫌いが別れる所があるだろうし歌唱力はちょっと残念だけど(プロの歌手ではなくてあくまで声優の音楽作品だからそこは仕方ない)、今作の御伽噺的な楽曲とギターロック的な楽曲と見事に嵌っていると僕は思うし、素敵な御伽噺の世界を味わえる作品だと思う。