■skillkills
■Illgenic/skillkills
![]() | ILLGENIC (2014/01/22) SKILLKILLS 商品詳細を見る |
もう何というかskillkillsの創作意欲は何処から出てくるのか。前作からたった1年弱、こんなハイペースで作品を生み出し続ける事も凄いけど、新作を出す度に本当に新たな衝撃を与えてくる黒い突然変異ことskillkillsの3rdは、もう凄い期待していたけど、そんな期待なんて軽々しく超える作品になった。グルーブの鬼であり、グルーブの革命児であるskillkillsが自主レーベル「ILLGENIC RECORDS」からドロップした今作は、かなりの衝撃を与えた前作を更に越え、更に聴き手を殺す作品を生み出した。
もうこのバンドを単なる人力ヒップホップで語るのは最早野暮ですらあるけど、誰も思いつかなかった奇想天外の発想と音を生み出しながら、その根底は非常に純粋でプリミティブなグルーブの快楽に溢れているし、今作はそれを更に研ぎ澄まして極めた作品だと思う。第1曲「(((())))」からして完全にネクストへと突入してる。いきなり毒電波みてえなシンセの音が響き渡り、マナブスギル氏は更に情報量を増やし、更にフロウの快楽を突き詰めたラップを展開しながらも、バンドの核である弘中兄弟のビートとグルーブが更におかしくなっている。決して音数は多くないし、2人が鳴らしているのは非常に最低限の音なのに、ドープでありながらも、妙にアッパーな感触があるし、隙間だらけなのに、とんでもなく躍動感を与えてくる。ビートの部類としては非常に「引き」の要素を持ちながらも、その引きを巧みに使って実は「押し」の要素も感じさせている。非常に矛盾しているけど、弘中兄弟のビートとグルーブはそんな境地に達してしまっている。第2曲「Chewing Gum」では常にミニマルな反復のビートを刻みながら、その反復が最大の効果を生み出し、更にマナブスギル氏のラップもミニマルに反復し、ヒカルレンズ氏のキーボードが変化と混沌を与えていく。
今作は前作の圧倒的情報量と比べると明らかに音数は減った。そしてよりレベルミュージックの根底にも近づいたとも思う。前作ではアヴァンギャルドな発想を原始的グルーブへと繋げていたけど、今作は本当に最低限の音のみで全てを生み出せる様になったし、独自の黒っぽさが確かにあるのだ。第3曲「Don't Think」はその黒っぽさが前面に押し出されているし、そしてグルーブの揺らぎが更に際立つ。第4曲「G.S.K.P.」は一転して混沌とか狂騒と言った音が多く存在していながら、それでも徹底して研ぎ澄ましたグルーブがやはり核になっているし、第5曲「Debut」はそのミニマルなビートから、一発一発の音の躍動を強く押し出し、跳ね回るビートと、タイトなシンセの音色の相反する音が、何故か自然とグルーブの快楽へと繋がっていく。
作品も広後半になるとよりそのグルーブの真髄へと引き摺り困れる。ブルージーさを押し出し、サイケデリックなトランス感覚を生み出す第6曲「Electric Dandy Band」、そして狂騒と混沌は加速し、第8曲「Chi-Pa-Pa」は壊れた声の出る玩具の音声をずっと聞いてるみたいなもうよく分からないグルーブの世界が広がり、人力でありながら変拍子徹底駆使、拍が完全におかしいのに、それがごく自然な形になってしまっているのが最早恐怖でしか無い。そして最終曲「24-7」で聴き手を完全に突き放して終わる。
前作に比べるとキャッチーな要素こそ少し後退した印象はあるけど、よりおかしさが増えたシンセとサンプリング、より研ぎ澄まされたラップ、そして反復と構築と分解の無限回廊を繰り返しながら、最終的にグルーブとビートの悪夢と快楽を生み出す弘中兄弟の音。その発想力も凄いけど、やはり彼等はその終着点を前作同様に「レベルミュージック」、「ネクストミュージック」、「ダンスミュージック」として放っているし、やっぱり今作もノレるし踊れる。何よりも今作も「WE WILL KILL YOU IN SOUND」であるし、「ヤバ過ぎるスキル」が溢れている。4人のスキルが生み出す音が聴き手を殺す。そして結局は全てが「完全にノーギミック」なのだ。2014年初っ端からskillkillsは見事に人々をkillする名盤をまた生み出してしまった。
■BLACK MUTANT/skillkills
![]() | BLACK MUTANT (2012/12/26) skillkills 商品詳細を見る |
2011年の登場と1stアルバムのリリースにて一気に知名度を上げたアバンギャルド人力ヒップホップ4人衆であるskillkillsの本当に早くも届けられた2012年リリースの2ndアルバム。精力的なライブ活動を行いながら、メジャーシーンとは別の場所で活動しているバンドとしてはありえない僅か一年でリリースされた2ndだが、これが1stで聴かせた衝撃を更に上回る作品になっている。4人それぞれ卓越したスキルを持ちながらも、よりアバンギャルドに、そしてダンサブルになった今作は本当にヤバい。
リズム隊である弘中兄弟の生み出すグルーブ、ヒカルレンズ氏のターンテーブル・サンプリング・キーボードの入れ方のセンス、マナブスギル氏の解き放たれたラップと言語のセンス。それらがぶつかり合い、ヒップホップというかビートミュージックをネクストへと引き上げるのがskillkillsの音楽だが、今作はそれが更に上を行くネクストへと到達している。単なる人力ヒップホップでは終わらず。ポストパンクからアバンギャルドからレベルミュージックまでを喰らった音はより洗練され、各メンバーのスキルにも更に磨きがかかっている。変則的なビートやトラックの使い方をしているのに、どこまでもグルービーであり、肉を強制稼動させるグルーブとアンサンブル、黒い突然変異が新たな進化を見せてくれた。第1曲「skillillkills」からノイジーなサンプリング音と、弘中兄弟の必要な音のみで生み出す、揺らぎと屈強さのグルーブ、マナブスギル氏の解放された言語感覚によるパンチラインの嵐と変則的でありながらも、どこまでもダンスミュージックであり続けるバンドの音と見事に調和したラップ。変則的に入るキメが揺らぎのグルーブから覚醒させ、バンドの進化を見せ付ける。単なる人力ヒップホップでは無く、バンド編成だからこそ生み出せる肉体的を揺らすグルーブとアンサンブル。奇天烈な癖にどこまでも脳に危険信号を送るサンプリングやラップといった自らの武器を更に進化させ、それを「スキル」として遺憾なく発揮しているのだ。第2曲「Chloroform」では本当に必要最低限の音のみで生み出されるリズム隊の音が生み出すドープなグルーブ、その空白を見事に埋めるラップとループするサンプリングとキーボードの高揚感、ドープさから生まれる高揚感という矛盾を矛盾では無くしてしまい、新たなビートミュージックとして放っているのだ。
個人的には中盤の楽曲が特にガツンと来た。第3曲「Teenage Mutant」なんてポストパンクの変則性を見事に活かしながらも、ロックのダイナミックさも体現し、時折入るマナブスギル氏のギターがまた良い感じで危険信号となっている。第4曲「π」では奇妙なキーボードとフリーキーなドラムから始まり、よりダイナミックになったビートが体と脳髄を揺らし、三味線のサンプリングのループがまた高揚感を生み出し、マナブスギル氏のラップに至っては「お腹がすいたらスニッカーズ」とか「ポリンキーポリンキーskillkillsの秘密はね教えてあげないよジャン」なんていうパンチラインまで飛び出すレベルまで言語感覚を更新するラップを披露している。中盤で入る妙にブルージーさを感じさせるギターソロがまた良いし、今作でも本当に必殺の1曲になっている。それに続く第5曲「Count 2.9」は正に黒い突然変異の二つ名を体現する楽曲であり、変拍子のドラムと、よりドープなグルーブに磨きがかかるベース、不協和音をループさせるキーボードが不気味なおぞましさを生み出しながら、それを絶妙なバランスでビートミュージックとして成立させてしまう手腕、ダブとかそういった要素を取り入れながらも、それでは絶対に終わらないアバンギャルドさ。本当に恐ろしい。
終盤に入ると、より黒っぽさをskillkills流に体現した楽曲が並び、ジャズのセンスのピアノが印象的でありながら突発的にスペーシーになったりもする奇妙な捩れが生まれている第6曲「P.N.P.」、スグルキルス氏のベースが今作で一番ブチ切れてる第7曲「Back Spin」、ノーウェイブな感覚を感じるサンプリングが人力レベルミュージックと化した最終曲「Hungover」と全8曲にも及ぶグルーブとアバンギャルドさが生み出す本質的な意味でネクストに到達したビートミュージック。本当の意味で「面白い音楽」であり、本当の意味で「ダンスミュージック」をskillkillsは体現している。
多彩なアイデア、そしてそれを活かすスキル。似ている曲なんて全く無い、しかし一貫してるのはアバンギャルドでありながらも、どこまでもダンスミュージックであり続ける事。ビートにダイナミックさはバンドだからこそ生まれ、ヒップホップのテンプレートを嘲笑い、雑多な要素を単純にダンスミュージックとした鳴らすskillkillsは異質でありながらも、誰よりも踊れる音に意識的であると感じるし、それがskillkillsにしか生み出せない音楽なんだと思う。そして先日初めてライブを観たが、ライブは音源が物足りなくなってしまうレベルで更に凄い!!本当に体の細胞が全部覚醒する感覚を覚えてしまった。黒い突然変異ことskillkills、完全にノーギミックなヤバイスキル、凄まじい名盤が生まれてしまった。