■forget me not
■3つの終わり/forget me not
![]() | 3つの終り (2009/08/29) forget me not 商品詳細を見る |
愛媛が誇る国宝レーベルであるIMPULSE RECORDSを運営する井川氏が在籍する愛媛から全国を不穏に陥れる3ピースことforget me notの09年リリースの4曲入音源。リリースは勿論IMPULSE RECORDSから。この作品だが本当に緊張感とカオティックさが渦巻く作品であり、緻密でありながらも、徹底的に冷徹な音のみが存在し、27分に渡って全てを凍りつかせるスリリングさが充満した1枚だ。また凝りに凝りまくったジャケットやアートワークも素晴らしいの一言。
forget me notの音楽性はHooverや、SLINT辺りのTOUCH&GO周辺のバンドの影響がまず色濃いと言える、とにかくジャキジャキで硬質なアンサンブルが非常に特徴的だし、歪み破綻的になるパートと、静謐な不穏さを押し出すパートの対比が見事。また楽曲も長尺な曲が多く、曲展開も非常に複雑。なによりもメンバー3人が卓越した演奏技術と表現力を持っており、それがスリリングにぶつかり合い、そしてツインボーカルで残酷な死刑宣告を食らわせる様なボーカルを繰り出す。そのアンサンブルを最大の武器にして独自の激情を生み出しているのだ。
のっけから約9分にも及ぶ第1曲「20X号室の住人」からこのバンドの凄まじさが発揮される。タイトなビートと、不穏に刻まれるギターリフがただ温度も感情も無く鉄槌を下す序盤、ポストロック的なアプローチを見せながらダイナミックに展開していくカタルシス、更にはマスロック的アプローチも盛り込み、ボーカルが入ってからは性急さも見せつつ、よりダイナミックなポストハードコアとしてのカラーを出しながらもビートもギターフレーズも非常に変則的に展開。しかしどのフレーズも切れ味の方が凄まじく、先の見えない展開で、どこまでも不気味かつ残酷に展開する。そこには安易なドラマティックさは無く、終盤になると更に冷徹さすら極めディスコーダントさと緊張感と共に混沌を生み出していく圧巻の1曲だ。
第2曲「欠ける間と掛けられた記憶」は更に静謐な不穏さを前面に押し出し、少しずつ展開していくフレーズの反復が時折変則性とテンションの変化を生み出しながら、上がりきりそうで上がりきらない熱病の様なテンションで展開していく。ボーカルもそんな楽曲と見事に嵌り、より不穏で頭がヤラれてしまいそうな感覚に陥らせる。後半になると、またダイナミックな展開を見せつけてくるし、本当に複雑怪奇な楽曲構成をアンサンブルが生み出し、乗りこなし、混沌を一つの秩序で制圧しながら、それが却って新たな混沌を生み出している。そして何よりも収録されているどの楽曲にも言えるけど、今作にはタイトル通り終わりを想起させる冷徹な残酷さがあるし、本当にそれぞれの楽曲が一つの終末を描く。インタールード的な第3曲「憂鬱の鳩」を挟んで第4曲「薄明かりの街灯は曲がり角を照らす」でもその静謐さから破滅へバーストするforget me notの魅力は全開だし、クリアな音色なのにどこかドス黒い濁りすら感じるギターのアルペジオの反復や、必要最低限の音しか鳴っていないのにグルーブの重みを音と音の隙間から生み出すリズムセクション、最後の最後まで安易な感情論を否定し冷たい熱病の様なアンサンブル。もう完璧過ぎる。
愛媛という地方から全国を震撼させるレベルの作品だと思うし、27分に渡り緊張感が途切れる事は無い。多くの素晴らしいバンドを吸収し昇華し、完全に自らの音にして独自の激情を鳴らすforget me notというバンドは本当に唯一無二な存在であり、冷徹な狂気と混沌をハードコアとして鳴らすバンドだ。3ピースで描くディスコダンスハードコア経由のスリリングな世界、想像以上である。