■ZOTHIQUE
■Limbo/ZOTHIQUE

地底から金星までを行き来する這い寄りながらも彼方へと飛び立つ東京のサイケデリックドゥームカルテットZOTHIQUEの最新音源は1曲20分のバンド史上最大の超大作となった。
今作は年明けの2016年から商品として流通する物だが、2015年12月初頭の東名阪ツアー限定で無料配布され、僕はアースダム公演の方で今作を入手させて頂いたので一足先に紹介の方を書かせて頂きます。
ZOTHIQUEは2013年の1stリリースから毎年アルバムのリリースを重ね、異常な創作意欲を感じさせるバンドだ。2015年にリリースされた3rdアルバムである「Faith, Hope And Charity」で既存のドゥームを逸脱してしまった。
そしてそれから半年弱というスパンで届けられた今作は「「Faith, Hope And Charity」」のJAH氏作曲の「Venus」二部作の流れをより突き詰めたインスト曲。最早ドゥーム要素は消え去ってしまっている。
20分に及ぶ大作ながら前半10分はアンビエントパートという構成。フロントマンの下中氏はそこでピアノもプレイしている。
延々と持続音のくぐもったノイズとピアノのみで10分近くに渡って繰り広げられるアンビエントさはこれまでのZOTHIQUEのアプローチには無かった物だと言える。
そんな前半とは対照的にバンドサウンドになってからの後半は「Faith, Hope And Charity」で金星まで到達したZOTHIQUEがその先へと飛び立って行く瞬間を音にしている。ドゥーム要素は正直に言うとほぼ皆無だと言えるが、煌くキーボードの音に導かれながら、力強くビートがエンジンを鳴らし、ギターが美しく光り輝くメロディを奏でる。そこにはダークさといった要素は全く無く、ポジティブな前進の瞬間を見た。しかしキーボードとギターの音色が溶け合って輪郭を無くし、最後の最後でブラックホールでも飲み込めない新たなるコスモとなり新たなる秩序を生み出す。
たった1曲ではあるが、これまで以上にコンセプチュアルアートな1曲となっている。Limboとは「カトリック教会において「原罪のうちに(すなわち洗礼の恵みを受けないまま)死んだが、永遠の地獄に定められてはいない人間が、死後に行き着く」と伝統的に考えられてきた場所」との意味であり、地獄でも天国でも無い場所の事を指すみたいなのだが、その分かりやすい天でも地底でも無い場所を今作では言葉を借りずに音のみで描いているのだろう。しかしそんな辺境地が実在の宇宙よりも宇宙的であり、地獄よりも深く、天国よりも上にある場所だと思わされてしまう辺り、流石はZOTHIQUEだ。
■Faith, Hope And Charity/ZOTHIQUE

先日、GUEVNNAとフランスのAguirreと共に10日間にも渡るツアーを繰り広げたサイケデリックドゥームバンドZOTHIQUEから早くも3rdアルバムが届いた!
前作から僅か一年での新作リリースとこのバンドの創作意欲は止まる事を知らないし、2013年から毎年必ずアルバムをリリースし続けるのは並大抵の事じゃ無いだろう。
そして肝心の内容は、息が詰まりそうな窒息的ドゥームを展開していた2ndと打って変わって、ZOTHIQUEが持つ音楽性の多様さと可能性が全面に出た作品となっている。
今作ではフロントマンの下中氏がメインコンポーザーを務めていたこれまでの作品と違い、各メンバーがそれぞれ楽曲を制作するというスタイルで作られており、それがバンドの音楽性の多様化に大きく繋がっている。
先ず驚いたのはソロ活動もしているベースのJah Excretion氏作曲の第1曲「Venus I」である。これまでのZOTHIQUEに無かったアンビエント・アトモスフェリックな空気感の音像が響き、中盤からはまさかの美轟音サウンドだ。
サイケデリックな空気感も存在するが、これまでのZOTHIQUEのヘビィさとノイズによるグチャグチャなサイケデリックでは無く、美しい調和が徐々に歪む酩酊世界。まさかの一手だ。
だが下中氏作曲の第2曲「The Tower Of White Moth」では見事なまでにZOTHIQUE節炸裂なスラッジハードコア!!ノイズとキーボードの歪みまくった味付けこそあるけど、クラスティなビートとヘビィなリフで爆走する、スラッジ・ドゥームだけじゃなくハードコアな魅力を全面に押し出して攻める。
DARKLAW氏作曲の第3曲「Hijra」でまた一転してダウンテンポの極悪な一曲。こちらは重さだけじゃ無く締めつけも加わり、反復リフ圧殺曲だが、リフ以上に爆音のノイズがその輪郭をドロドロに溶かす。
2ndからのノイジシャンが2名も在籍する編成のZOTHIQUEになってからカオス感が余計にタチが悪くなったと思うし、1stの頃のサイケデリック要素は味付けであくまでヘビィでストレートなハードコアだったZOTHIQUEはもういない。
かと思えばドラムのKoji氏作曲の第4曲「Faith, Hope And Charity」はZOTHIQUE流サバス系統ドゥームというノイズが暴れながらも正統派を突き進んでいるし前半4曲でもう実態は解明不可能だ。
第6曲「Amyotrophy」はZOTHIQUE史上最もストレートなハードコアパンクがぶっ飛んでくるし、JAH氏作曲のアンビエントな第7曲「Nomadic」を挟んでの第8曲「Valley Of Tears」で今作でのZOTHIQUEの到達点がやっと見えてくる。
ストレートなハードコアも治安が悪いスラッジもアンビエントもサイケデリックなノイズも今作には存在しているが、クライマックスは物悲しさ溢れる歌物が来てしまった。
日本語詞でセンチメンタルな喪失感を歌い上げ、ギターは勿論、ノイズキーボードも声を上げて泣き叫ぶ様なピュアネス。地獄巡りかと思わせて、人間臭さしか無い爆音のバラードだ。
そして最終曲「Venus II」で全ての音が暴れ狂う涅槃へと堕ちていく…。
それぞれの楽曲だけをピックアップすると作風も音も混沌を極めている様に見えるけど、アルバムを通して聴くと前作以上にストーリー性や世界観を感じる事が出来るし、ヘビィさや既存のサイケデリックでは無く、ヘビィさを自由に使いこなし、ノイズすら自在に操るドロドロの音。
1stがハードコア色が強く、2ndはドゥーム色が色濃かったが、その二枚の流れを汲んだこの3rdは純粋なサイケデリックを追求しているのかもしれない。
どっちにしろZOTHIQUEはまたしても別次元の作品を作り上げてしまったのだ。
■ZOTHIQUE/ZOTHIQUE

今年はDRAGGED INTO SUNLIGHTの来日ツアーのサポートも努めたZOTHIQUEであるが、前作からたった一年という、この手のバンドじゃ随分と短いスパンで新作をリリース。今作は2014年リリースの2ndアルバムであり、今作は現在の新編成でレコーディングされているけど、前作よりも更にサイケデリックな成分が増幅し、更には音の破壊力も強化され、更にはZOTHIQUEが単なるドゥーム・スラッジを超えて自らにしか鳴らせない音を手に入れた傑作だ。
今作は3曲30分というより大作志向の作品に仕上がっており、JAH EXCRETIONをベーシスト兼ノイズ担当としてメンバーに迎えて製作されたらしいけど、前作ではサイケデリック成分を持ちながらも、あくまでもハードコア経過型のドゥームとしての破壊力を尊重し、サイケデリックなシンセの音をあくまでもアクセントに使い、ヘビィなグルーブとリフの破壊力を前面に押し出していたけど、今作では完全にサイケデリックな成分をここぞとばかりに出しまくっている。大作志向になった事によって、バンド名からも分かる通りクトュルフ神話の世界観に影響を受けているだろう禍々しいサウンドもより際立ち、電子音と爆音のバンドサウンドが織り成す異次元サウンドはとてつもない進化を遂げた。
いきなり這い寄る混沌なベースとシンセの電子音が異様な空気を生み出し、錯綜しまくるサイケデリックなシンセの音と、引き摺りまくったビートとリフによるグルーブに悶絶必至の第1曲「The Shadow Of Linxia」から今作の異様さが伺える。殆ど推進力を無くし、ドロドロと脳髄を掻き回す重低音と電子音の異常過ぎるセックス。簡単には絶頂させずに、訳の分からない焦らし方を聴き手にしかけまくり、でもギターリフとボーカルは見事に巨根絶倫だし、それでねっとりと攻めていく。前作でもそうだったけど、ZOTHIQUEというバンドはバンド自体の音の破壊力がそもそも凄いし、今作でのより混沌を極めるノイズと電子音の数々は、低域を攻めまくるバンドサウンド、高域を犯し尽くすシンセという二つの方面からの蹂躙っぷり、しかし終盤になると一気にBPMを速くして、前作でも見せていた激ヘビィなハードコアサウンドで高速抜き差し、でもよりノイズが混沌を極めているし、とてつもなく強いリフとビートが暴走しまくり、所構わずに犯しまくる。こうしたハードコアな格好良さこそZOTHIQUEの魅力だとは思うけど、それがより禍々しさを手に入れているし、本当に全部の音が精液を撒き散らしまくりながら全てをグチャグチャに壊していく。
個人的に驚いたのは第2曲「Hypnotic Kaleidoscope」だ。まるでCorruptedの「月光の大地」を思わせるアコギの荒涼とした物悲しい旋律と、裏で揺らめくノイズ。ディストーションギターに頼らなくても今のZOTHIQUEは根本として重い音を鳴らせるバンドになっているし、そして女性ボーカルの謎の歌が聞こえてくる。ギターの音色が歌に合わせて牧歌的になっているし、恐らく元々あった楽曲を歌っているのか、それとも普通にオリジナルの曲なのか、そもそもサンプリングしているのか、それは分からないけど(そもそも今作には何のクレジットも無い)、アコギの調べが終わり、静かに余韻が続いていたと思ったら、全てを切り裂くヒステリックな叫びが幾重にも響き渡り、そして非常階段かよってレベルのノイズと終わり無く叩きつけられるドゥーミーなリフの応酬。まるで、ほんの微かな救いすら絶望で犯してしまう様な、そんな凄さを個人的に感じた。そして最終曲「Amoy」は正に現在のZOTHIQUEの真骨頂。全盛期Electric Wizardに匹敵するうんじゃねえかってレベルの漆黒で、凄まじく重くて、酩酊しまくっている音しか無いし、バンドの音自体は非常にシンプルだったりするにも関わらず、狂騒の電子音が、そんな漆黒の音を更に精液で塗りたくる。終盤のシンセソロ(?)は今作を象徴する圧巻の物であり、終わり無くシンセがぶっ壊れた音を放出しまくり、最後の最後は全てが形を失い、単なるノイズの塊となってしまっている。
バンドの方向性をより明確にし大胆に変化させた今作だが、その決断は大正解だったと言えるだろう。前作も凄まじい作品ではあったけど、よりドロドロと蠢く音は唯一無二の領域に達しているし、サイケデリックドゥームとしか言えない混沌を生み出している。何よりも今作の音は不協和音ばかりなのに、凄まじくトリップ出来るのだ。その酩酊の果ての果てにある絶頂感覚は素晴らしいし、ドゥームとかハードコアとかノイズって枠組みに収まらない得体の知れなさをZOTHIQUEはこれからも生み出していくのだろう。今作も見事な傑作。
■Alkaloid Superstar/ZOTHIQUE

作家クラーク・アシュトン・スミスの小説に登場する大陸ゾティークからバンド名を拝借しているらしいサイケデリックハードコアバンドであるZOTHIQUEの2013年リリースの1stアルバム。僕は昨年のNoLAとおまわりさんの共同企画でこのバンドと出会ったが、その全てを薙ぎ倒す音塊に一発で殺されてしまった。今作でもライブ同様にハードコアとドゥームとサイケデリックが激突する重戦車の音塊と悪夢の音像が蠢いている。
盤を再生した瞬間にキーボードの不穏な持続音から始まり、不安を煽りまくるが、作品の導入である第1曲に続く第2曲「The Immortal」からとんでもない事になってしまっている。常に飛び交う不協和音のキーボートと蠢くアンビエントで暴力的サウンドコラージュ、しかしバンドの音自体は完全にダークサイドなハードコアサウンド。吐き捨てる様なドスの効いたボーカルと、重戦車リフがストーナーかつハードコアに暴走していく。リズム隊のグルーブもモロにハードコアな暴走サウンド。しかし中盤からキーボードの音を前面に押し出し、ドゥーミーなリフの這い回る残響と共にハードコアからドゥームのサイケデリックさへと展開し、訳が分からなくなってしまう。そんなサイケデリック絵巻で脳を溶かされきった先には再び激重暴走ハードコアで攻めてくるから、サイケデリックとハードコアの両極端な振り切った音の相互攻撃に聴き手は圧殺必至だろう。第3曲「Frozen Gloom」はストーナーを色濃く押し出しながらも、アトモスフィリックの美意識を絶妙に感じさせる辺りがニクいし、そんなパートではキーボードsとノイズのコラージュが本当に大きな効果を生み出している。第4曲「A Lotus In The Sun」は完全にドゥーム方向に振り切った楽曲であり、推進力を放棄したビートと、残虐なるドゥームリフが先ずドゥームメタルとして熾烈さをこれでもかと生み出しているけど、同時にキーボードのサウンドがその音を更に彼方の物にしてしまっているし、9分にも渡って本当にサイケデリックな煉獄が続く圧殺悶絶な1曲となっている。
サイケデリックと言っても彼等のノイジーさやサイケデリックさは非常に伝わり易い形でアウトプットされているし、サイケデリックといってもあくもでもサウンドの幹になっているのはハードコアとドゥームの相互破壊的サウンドだし、そのサウンドの破壊力を更に際立たせる為にキーボードやノイズのコラージュが一役買っているし、そういった要素を抜きにしてもこのバンドはハードコア・ドゥームとして本当に格好良い。第5曲「Into The Vaults of yoh-Vombis」なんて高速Dビートから始まり、最高にダーククラストな格好良さが剥き出しで、暴走していく2分間が長尺の楽曲が多い今作の中でも更に際立って攻撃的で良い。そして今作は終盤になると更なる混沌の坩堝となり、音自体は意外とキャッチーなストーナーだったりするのに、辺り構わず飛びまくる音がそれを未知の世界へと誘う第7曲「Alkaloid Superstar」、そして14分近くにも及ぶ最終曲「Sunless」ではアコースティックギターの調べから始まり、悪魔が大挙して押し寄せるみてえなスラッジ成分の強いリフへと変貌し、それが時にアトモスフィリックに、時にハードコアに形を変えていきながら展開し、やはりキーボードの不協和音は飛び交いまくり、最後はノイズもキーボードもドス黒い音塊となったスラッジリフもスラッジグルーブも全てが膨大な球体となって降り注ぎ爆発する。その瞬間にはもう何も無くなってしまっている。
ハードコアとしてとんでもない馬力とを誇りながら、ドゥームのグルーブと音塊をぶつけて粉々にした音にサイケデリックな音像で更にかき乱していくサウンドは脳のあらゆる神経を引き千切られる感覚すら覚えてしまうだろう。しかしそれでもこのバンドは単純にダークサイド側のハードコアとして本当にとんでもなく格好良いバンドだと僕は思うのだ。