■THE NOVEMBERS
■Rhapsody in beauty/THE NOVEMBERS
![]() | Rhapsody in beauty (2014/10/15) THE NOVEMBERS 商品詳細を見る |
今年、これまでを総括するシングルをリリースしたノベンバだが、その先のアクションは想像以上に早かった。前作リリースから約1年のスパンで届けられた2014年リリースの5thである今作は、前作で見せた多様性と陰鬱さと残酷さとは全く違う作品である。今作は「美しさ」をテーマにした作品となっており、同時にノベンバのこれまでの作品で最もロックのロマンを感じる作品になっていると思っている。前作での多様性とは全然違うし、しかしこれまでのノベンバとも違う、歪みも美しさも耽美さもノイジーさも手にした残酷過ぎるロマンの結晶だ。
非常に個人的な感想ではあるし、雑な言い方にはなってしまうかもしれないけど、今作は80年代や90年代初頭のロックや、もっと言えばSSE周辺のバンドの持っていたロマンと耽美さと共通する空気感を持っていると思っていたりする。全体的に録音は少し粗さを残した歪みを感じさせる音になっているし、単に美しさを追求した作品ではなくて、歪みと美しさのっ調和であり、同時に現行のロックとは全然違う方向性の音になっているのに、懐古主義的な音にはなっていない。様々な先人へのリスペクトや影響を感じさせながら、それを取り込んで消化するのは進化の定石であるし、ノベンバは真っ当なまでにそれをやってのけている。シロップやアートのフォロワーとして登場した頃とは全然違うバンドになったし、こうしてロックサウンドを再び鳴らす事によって、図らずしもノベンバは完全に化けてしまった事を証明した。
第1曲「救世なき巣」は浮遊感と轟音が渦巻き、輪郭が崩壊したアンビエントさを感じさせる一曲であり、今作はそこから始まる。荒々しいノイジーな音と、エフェクトをかけまくっている小林氏の歌による残酷な美しさの幕開け。単なるノイズでは無く、荒涼とした物悲しさに溢れている。しかし今作は堂々とロック作品だと前述した通り、第2曲「Sturm und Drang」からはノベンバの新境地とも言えるロックの始まりだ。エフェクターを多数使っており、かなり音を弄りまくっている筈なのに、プリミティブなリフの応酬とビートの応酬がスリリングに繰り広げられ、歌はやっぱりエフェクトをかけまくっているし、叫びを駆使しまくっていて歪んでいる。ヘビィさを感じさせるリフは前作でもかなり出てきたけど、ここまで疾走感溢れる音では無かったし、しかし突き抜ける様でありながら、落ちていく様でもある音が生み出すカタルシスな何なんだ。第3曲「Xeno」からようやくもっとロックらしいフォーマットの曲になり、小林氏の歌の輪郭も明確になる。フィードバックするギターとシンプルなビートが生み出す音塊、第4曲「Blood Music. 1985」も音の粒の粗さを感じるのに、楽曲そのもののキャッチーさを活かし、メロディも掴みとりやすく、でも轟音系ロックのフォーマットとはまた違うズレを感じるし、数多くのバンドの影響を感じながら、その何処にも行かない感じで、ノベンバという磁場を生み出している。dipだったりとか、ブランキーだったりとか、Borisだったりとか、そういった孤高のロックバンドが持つ空気感であり、小林氏は間違いなくそれらのバンドの影響は受けていると思う。でもそれを模倣する事はせずに、ノベンバという核の中にしっかりと取り込んだ事によって、新たな音として消化しているのだ。
そんな流れから自然な形で過去の楽曲の再アレンジである第5曲「tu m' (Parallel Ver,)」へと流れるのは流石だけど、「Misstopia」に収録されているVerとは明らかに印象は違う。「Misstopia」のVerはアコギ基調の枯れ木の様な物悲しさに溢れていたけど、今作のVerはオルゴールとクリーントーンのエレキギターを基調にしたアレンジになっているし、少しずつ豊かな色彩が花開いていく印象なのだ。そしてタイトル曲である第6曲「Rhapsody in beauty」のSonic Youthばりのホワイトノイズと、80年代ロックからラルクまでを感じる高揚感と耽美さと優しさの極彩色のサウンドは脱帽だ。荒々しさと美しさが見事に共存し、爆音で聴けば聴く程に、意識が高揚するのを感じるし、覚醒する。そんな高揚感を受け継いでの第7曲「236745981」、耽美なダークネスと前作で見せたヘビィなグルーブとリフによるドロドロと渦巻く情念の一曲である第8曲「dumb」も今作の確かなキモになっている。
そしてノイジーでロックな曲が続いてからの第9曲「Romancé」は間違いなく今作のハイライトであり、ノベンバの新たな到達点である。高松氏の動くまくるベースラインが楽曲を引率し、シンセとシンプルなギターの音色と小林氏の歌が織り成す今作屈指の歌物でるが、まるで中谷美紀が歌っていても違和感が無いであろう、美しく耽美なメロディと、甘い残酷なロマン、揺らめく音の波と、シンプルな楽曲構成によって生まれるのは、まるでThe Cureの如し甘きロマンスだ。そして最終曲「僕らはなんだったんだろう」はアンプラグドな歌物となっており、終盤までのノイジーさと美しさの同居から、終盤の2曲の「今日も生きたね」を生み出したからこそ到達できた、シンプル極まりない普遍性は今のノベンバの一番の武器なのかもしれない。
最早ノベンバは俗に言う「ロキノン系」だとか「ギターロック」の広い様でいて狭い範疇で語ってはいけないバンドだと思う。ここ最近の作品や、まさかのBorisとの対バンだったりで、これまでのイメージを変化させ、これまでノベンバとは無縁だった層にも着実にアピールしている。今作は非常に多数の色彩によって描かれたロマンと美しさの作品であるが、それこそがロックが持つ魅力であると思うし、ノベンバは紛れも無く「本物のロックバンド」になった。ロックの持つ妖しさやドキドキが今作には間違いなくあるし、流行や、既存の音には決して歩み寄らないで、ノベンバはノベンバにしか歩けない覇道を間違いなく歩いている。その道の先はまだ誰も分からないけど、ノベンバは、どこまでも純粋にロックバンドであり続ける。
■今日も生きたね/THE NOVEMBERS
![]() | 今日も生きたね (2014/05/14) THE NOVEMBERS 商品詳細を見る |
日本のギターロック最高峰の一つであるノベンバの自主レーベルMERZ設立第2段となる今作は、特殊な形態でこれまで販売されていたMERZ設立第1段音源である4thアルバム「zeitgeist」の全国流通と共にリリースされる2曲入シングルであり、ノベンバ自身にとって渾身の2曲が収録された作品だ。また今作は一つのパッケージに同内容のディスクが2枚おさめられた「シェアCD」仕様となっており、シェア用ディスクにも歌詞カードと紙ジャケットが封入され、盤面には宛名と贈り主を記入する事が出来るという付加価値ありの作品であり、今作を購入した人はノベンバの音を友人などにアナログな形でプレゼント出来る。こうした付加価値はバンドの一つの拘りを感じるスペシャルさがあって非常に素敵だ。
今作に収録されている2曲はバンド自身にとってかなり特別な2曲だ。表題曲である「今日も生きたね」は「zeitgeist」以降、フロントマンの小林氏曰く「自分なりのアンセム」というテーマに製作した楽曲となっている。そしてもう一曲の「ブルックリン最終出口」はノベンバ活動初期から存在する楽曲であり、ライブではずっと演奏されていた楽曲。ノベンバの最新の一曲と、これまで未音源化だった、最初期の楽曲の2曲を収録したというのはバンドにとっては一つの覚悟だっただろうし、小林氏の今作のリリースに寄せたコメントによると、「ブルックリン最終出口」は“架空の執着”と“現実への依存”の歌であり、「今日も生きたね」は「ブルックリン最終出口」で描かれている残酷性への執着や悲惨な世界への諦観を別の視点で歌った楽曲であるらしく、ノベンバが昔から持っていた、現実への絶望と終着、悲惨な世界への嘆き、依存や愛、そういったテーマを繋ぐ2曲なのだろう。だからこそ今回シングルという形でのリリースとなったと僕は思っている。
「今日も生きたね」はノベンバにとって現在最新の1曲となっているのだけど、ノベンバ史上最も音楽的多様性と豊かさを持つ最高傑作「zeitgeist」以降の楽曲とは思えない程に「今日も生きたね」は削ぎ落としに削ぎ落とされたシンプル極まりない楽曲であるし、アンセムを意識して作られた楽曲にしてはまるで、花どころか葉すらも枯れ落ちてしまっている、だけどそこにずっと存在する大木の様な楽曲だと僕は思った。7分半にも及ぶ楽曲でありながら、楽曲の構成も進行もかなり淡々としているし、リズムも緩やかなまま進行し、ギターフレーズも最小限のシンプルな音のみ、コード進行もシンプルで空白まみれ、展開も最小限。極限の極限まで音を削ぎ落とし、しかしほんのシンプルなメロディのみで進行しながらも、そのメロディは柔らかで優しくあるし、ここ最近の楽曲と違って完全に歌物を意識している事もあってか、小林氏の歌が非常に前面に出ている。言ってしまえばバラッドなんだけど、それにしてはここまでドラマティックさを放棄したバラッドなんて中々無いし、この曲を聴いて感じるのは本当に体温の温度なのだ。何かに怒る訳でも、嘆く訳でもない、残酷な世界に対する一つの諦念を歌っているんだけど、でも小林氏は最後にそんな穢れた世界を祝福する様なフレーズを歌うし、日々を生きる人々に対する賛美歌という意味ではこの曲は間違いなくアンセムだし、絶望の先の生をただ受け入れているからこその歌だし、終盤の賛美歌みたいなコーラスだったりとかも含めて、ノベンバが最小限の音で描きたかった世界だと思う。方法論こそ違うけど、ノベンバ自身が大きく影響を受けたSyrup16gのバラッドもそうだけど、派手な装飾を拒み、シンプルで優しく美しいメロディと歌のみで紡がれる楽曲は正に渾身の一曲だろう。
一方で最初期の楽曲である「ブルックリン最終出口」も歌物ギターロックな曲になっているが、「今日も生きたね」とは違ってシンプルながらももっとバンドサウンドが出た曲となっている。こちらもクリーントーンで淡々と進行する楽曲であり、「今日も生きたね」よりは展開等は少し明確になっているけど、それでも余計な装飾を拒み、シンプルな展開の曲。初期ノベンバにあった、カッティングを生かしたギターワークだったり、空間系エフェクターにより、美しく歪んだ音色や、メロディを奏でるベースラインといった要素もある。しかしこの曲で歌われているのは、美しい物が犯される絶望であり、自分自身が人間であるという事に関する嫌悪だ。レイプだとかディストピアといったテーマはノベンバの中ではかなり前から一貫して歌っていた事だし、そういった映画に影響を受けた小林氏の世界観がこれまでのノベンバのどの楽曲よりも色濃く出ている。しかし
「今日も生きたね」と「ブルックリン最終出口」は間違いなく繋がっている双子の様な曲であると僕は思うし、この2曲は他の楽曲と共に音源に収録される事を拒んだからこそ今回のシングルリリースになったと僕は勝手に思っている。
「zeitgeist」リリース後に、この2曲をシングルとしてリリースしたという事実は間違いなくノベンバにとって一つの節目であると思うし、「zeitgeist」とは一転して、完全にシンプルな歌物のバラッド2曲をここで発表したのは覚悟の証だ。初期ノベンバは特にメロディアスな普遍性を持つバンドだったけど、今のノベンバがそういった普遍性を持つ楽曲をリリースした事によって、改めて進化を感じたし、バンドのこれまでとこれからが一つの線で確かに繋がったと思う。派手さが全く無い2曲ではあるが、この2曲は間違いなくノベンバにとって屈指の名曲だ。そしてこの先のノベンバがどうなっていくのかを僕は見たいと心から思うのである。
■zeitgeist/THE NOVEMBERS
![]() | zeitgeist (2014/05/14) THE NOVEMBERS 商品詳細を見る |
日本のギターロック・オルタナティブを代表するバンドの一つであるノベンバの自主レーベルMERZ設立後の初音源となる2013年リリースの4th。リリース当初はオフィシャルの通販とライブ会場の物販と一部小売店とダウンロードでの販売という少し特殊な形でリリースされたが、今年五月に晴れて全国流通となる。僕は先日足を運んだライブの物販の方で購入させて頂いた。また第1曲と第7曲と第9曲はdownyの青木ロビンのプロデュースとなっている。
アルバムタイトルは映画監督ピーター・ジョセフの映画から拝借されているらしく、作品自体も多くのディストピア映画にインスパイアされて制作されているらしく、ノベンバの作品で最もシリアスで重厚な最高傑作となっているし、最早ギターロックの枠組みで語る事が不可能なバンドになってしまった。ポストロック・インダストリアルといった要素がかなり前面に出ているし、それをノベンバのサウンドとして見事に昇華した傑作だ。
青木ロビンのプロデュースによる第1曲「zeitgeist」から先ず今作の異質さを実感する筈だ。機械的なビート、浮遊感と不穏さが際立ちまくった音色、揺らぎまくっている小林氏のボーカル、コールタールに沈んで行く様な精神的重さをいきなり炸裂させ、否応無しに聴き手は今作と向き合わないといけなくなる。第2曲「WE」は比較的ギターロックの色が出ているし、今作の中では大分メロディアスでキャッチーではあるけど、ポストロック的な静謐を歌物にしている手腕を感じさせる。一方で第3曲「Louder Than War (2019)」では攻撃的なインダストリアル色の強いサウンドが炸裂し、硬質な鉄と血の臭いが充満しているし、その攻撃性を生かしながら静と動の対比と疾走感が炸裂する第4曲「Wire (Fahrenheit 154)」と本当に多種多様な音が渦巻いているのに、それを作品の中でブレも無く聴かせるのだ。歪みまくったサウンドでありながら、スロウな不穏さが生み出す美しさが印象的な第5曲「D-503」も見逃せない。
しかし今作は後半こそ真骨頂だと個人的に思ったりもする。前半の楽曲を総括し、今作で一番の破壊力と不穏さを持つ第6曲「鉄の夢」の金属的ビートとリフの断罪、ヘビィさを膨張させて爆発する攻撃性の塊みてえなバンドアンサンブルに小林氏の叫びが乗り、聴き手を確実にブチ殺してくる。そして今作屈指の名曲である第7曲「Meursault」は本当に素晴らしい。ゴス的な音階を持つギターのアルペジオの反復、ポストロック的なリズムの反復、そして今作の中で最もシリアスな絶望感を感じる小林氏の歌と歌詞、今作のハイライトであると同時に最もディストピア感が充満した楽曲だし、祈りの様な言葉とは裏腹に破滅感が充満する感覚に窒息しそうになるし、何よりもそんな音が非常に美しい。そこから終盤は一つの希望を感じさせる楽曲が続き、第8曲「Sky Crawlers」はウィッチハウスやアンビエントな質感を柔らかで優しい歌物として鳴らしているし、今作のエンディング的楽曲である第9曲「Ceremony」はノベンバの普遍性を強く感じさせる屈指のバラッドだし、最終曲「Flower of life」は浮遊感に満ちたメロディアスさと、エピローグ的な役割を果たし、大きな余韻を強く残し、そしてシリアスな今作を一つの救いと希望で締めくくるのだ。
作品自体の尺は決して長い訳では無いのに、作品全体を通して本当にサウンドも精神性もかなり重厚だし、ベタな言い方になってしまうけど、今作を通して聴くと本当に一つの映画を観たみたいな気分になるのだ。何よりもノベンバと言うバンドが新たな地平に立った作品でもあるし、ノベンバ史上最も音楽的多様性と豊かさを持ち、これまでのノベンバを総括し、そしてこれからへと繋げていく作品だと僕は思う。紛れも無く日本のロックの新たな地平をノベンバは開いているし、今作に触れた後に感じる事は本当に人ぞれぞれだと思う。だからこそ本当に意味がある作品なのだ。見事過ぎる最高傑作だ。
■picnic/THE NOVEMBERS
![]() | picnic (2008/06/04) THE NOVEMBERS 商品詳細を見る |
00年代後半以降の日本のギターロックを代表するバンドであるTHE NOVEMBERSの08年リリースの1stアルバム。リリース当時は正直そんなにガッツリ来なかったんだけど、Borisとのまさかの2マンライブの報を知り、改めて聴き直したら個人的にガッツリ好きになってしまった作品だ。このバンドはSyrup16gやART-SCHOOLといった日本の内省的ギターロックバンドと比較される事が多いけど、それらのバンドとはまた違った魅力と個性があり、人気を大きく集めるバンドになったのも納得である。
彼等の音は本当に普遍性に満ちたギターロックだし、今作の音は正直に言うと特別な目新しさという目新しさは無いと思ったりもする。国内外のギターロックバンドやUSオルタナの影響を受けたサウンドが特徴的であり、それをTHE NOVEMBERSというフィルターを通し、自らの音にしているといった印象。US、Ukのそれぞれのロックバンドから影響を受けているのもそうだけど、国内バンドの湿った感覚も受け継ぎ、それを消化したからこその普遍性は、独特の癖を持っていると思う。第1曲「こわれる」のイントロのギターのアーミングのフレーズなんてモロにUSオルタナのそれであるのだけど、そういったノイジーさと切れ味鋭いカッティングで攻め立て、浮遊感と鋭利さを剥き出しにして突き刺していくのだ。分かりやすい破壊力がある訳では無いけど、鉄の匂いを感じさせる弦楽器の音に、ノイジーに捲くし立てるソロなんかは本当にオルタナティブロックの美味しい場所をしっかり押さえて、同時にそれらの音の隙間をすり抜けて行く小気味の良さもある。多くの国内バンドの湿り気を重視したサウンドと通じながらも、同時に荒涼とした乾いた感覚もそんざいしているのだ。透明感溢れるフレーズとコード進行を持ちながらも、カッティングの音が乾いた感触も生み出し、ここぞというパートではディストーションの雄たけびと共に、小林氏の痛々しいシャウトが炸裂する第2曲「Arlequin」も名曲だし、このバンドの楽曲はどれも普遍性の高いギターロックでありながら、分かりやすい楽曲構成を全くしていなくて、起承転結のセオリーを微妙にズラした楽曲の構築方法も非常に面白い。
そんな楽曲だけじゃ無くて第3曲「chernobyl」の様にシンプルなアレンジで楽曲のメロディの良さを生かした淡々とした歌物の曲の出来も良いし、単にシンプルなアレンジを施しているだけじゃなくて、随所随所に入り込むシューゲイジングするギターの音なんかは楽曲を良い感じに引き立てるスパイスにもなっているし、ギタボの小林氏が映画にも大きく影響を受けた歌詞の世界観を持っていることもあるのか、楽曲の進行もどこか映画的な淡々とした感覚を持っているし、歌物の楽曲ではそれが更に際立っている。一方で第5曲「ewe」では青い疾走感と共にシンプルな言葉で紡がれる痛々しい感情の螺旋が堪らないし、第7曲「ガムシロップ」の甘いコーラスのギターフレーズの音色が響き渡り、シンプルな構成の中で淡々と紡がれる歌から、歪んだ轟音のクライマックスへと雪崩れ込む瞬間の何とも言えない空虚さと青さの崩壊はこのバンドの本質を良く表していると僕は思う。
そういった甘さも痛々しさもひっくるめた上でディストピア感覚と自己嫌悪と醜さを暴く第9曲「白痴」は本当に今作屈指の必殺の1曲だし、ノイジーなディストーションギターの必殺のギターリフと淡々としたアルペジオのフレーズの対比や、サビで小林氏がありったけの痛々しい絶唱を聴かせ、今作で一番冷酷な鉄の香りを感じさせるサウンドはバンドの世界観と非常にマッチしているし、中盤の血生臭さしかないギターソロなんか最高だ。そして最終曲「picnic」で映画のエンドロールの様な余韻を強く感じるラストを迎える。
間違いなく00年代国産ギターロックの名盤だし、内側から痛めつけるギターロックの代表格としての存在感は十分過ぎる位にある。そして普遍性と共に、絶妙にすり抜けるメロディセンスとサウンドセンスは他のバンドにはやはり無い物だし、多くのファンを獲得したのも頷ける内容だ。そして現在は更に踏み込んだ深遠なる音を鳴らすバンドとなり、より唯一無二の存在になっている。