■ZENANDS GOTS
■暗夜に蠢く/ZENANDS GOTS

本当に煉獄の音がこの世に産み落とされてしまった…04年結成と実は地味に活動期間は長かったりするギターボーカルとドラムの2ピースで残酷過ぎる世界を生み出すゼナンズの待望の正式リリースの1stミニアルバム。レコーディングは初代ドラムである中川氏在籍時にされた物であり、リリースは自主レーベルである不動の庵から。何度もライブを拝見させて頂いているし、エクストリームミュージックの極北とも言うべき、凄まじいライブに多くの人が殺害されているのは言うまでも無いけど、今作ではこれまでライブで魅せた残酷で救いの無い理不尽な暴虐さが濃縮されている。
彼等の音は極限の最果て。ハードコアやグラインドコアの影響を受けているサウンドだけど、そこのルールを守る事を全否定し、そして彼等が選んだのは、極限の音に極限の音を更に加える事だった。言い切るとゼナンズはエクストリームミュージックの純粋すぎる悪鬼だ。グラインド・カオティックハードコア・ドゥーム・スラッジ、それらの音楽の一番純粋で危険な部分だけを抽出し、それを整理せずに、ゼナンズというボウルに全部ブチ撒け、そこに悪意・憎悪。殺意といった負の感情の、これまた純粋に濁りまくった感情をブチ込み、その結果必然として生まれたのがゼナンズというバンドであり今作だ。ほぼ全ての曲がショートカットチューンであり、全7曲15分というライブでの圧倒的ファストさをそのまま音源にした作品だ。しかしゼナンズにかかればたった15分で聴き手を完全獄殺なんて容易い話だ。だってライブでもそうだったんだから。
本当に冗長さや余計な音は何一つ無い。ギターボーカルとドラムと言う最小限の2ピースであると同時に、彼等が必要とする音はただ人を苦しめる音と殺す音だけだったから。極端に短い楽曲も、速さも混沌も重さも殺意も全てがたった一瞬で襲いかかり、そして殺す。一撃で人間を単なる肉塊にする人でなしとか畜生とかサイコパスとかいう言葉すら生温いであろう異常快楽猟奇殺人鬼、彼等は絶望と恐怖しか与えてくれないし、彼等の音に救いは無い。第1曲「奈落」から逃げ場の無い世界が始まる、苦痛をそのまま音にしたスラッジなリフの血塗れの轟音のギロチンが落とされ先ず現世からさようなら。ドラムの音の重さも訳分からないし、どうやったらこんな音出せるんだっていうギターの音も訳が分からない。ミドルテンポで地獄の入り口すらすっ飛ばしのっけから地獄の最奥へと拉致。どっかの総書記ですら小便漏らすの確実な地獄への拉致加害者。ギターボーカルである千葉氏の憎悪に満ちたボーカルによる現世こそ最悪の地獄と言う生きる人間全てをドン底に叩き落す声明から「ここが地獄だ」という殺害宣言を皮切りにBPMは一気に加速。グラインドとカオティックとドゥームの織り成す地獄絵巻の始まりだ。「異形狩り」、「首斬れ」、「broken」、「骸」と禍々しいタイトルの曲ばかり並ぶけど、第2曲から第5曲までは本当に一瞬で駆け巡る。怒涛のブラストビートと、カオティックすら超えて、最早ただの煉獄XTC過ぎる音塊なギターのみで血で染め上げ、合間合間のブレイクすら一瞬で、「お前ら全員死ね」じゃなくて「お前ら全員殺した」って感じ、もう恐怖に震える暇すら与えてくれない「異形狩り」と「首斬れ」の2曲はゼナンズの危険過ぎる音だけで生み出した悪夢だ。憎悪・絶望・殺意・狂気・暗黒・地獄、そんな言葉すらチャチに聞こえてしまうレベルだし、もう訳が分からない。まだカオティックハードコアらしいギターフレーズで始まり、濁流のサウンドの中から微かにメロディを感じさせ、しかもそれがやたら美しく聞こえる第4曲「broken」ですら殺意は増幅するばかりだし、千葉氏の吐き出す言葉は絶望だけだ。第5曲「骸」なんてかなりファストで短い曲なのに、とんでもなくドゥームという矛盾すら生まれた始末だ。もう訳が分からない。
終盤になると一転して今作で唯一曲が長い第6曲「変わり果てた空」では今までの曲と違ってギターが鳴らすメロディが明確になり、千葉氏のボーカルも叫び吐き捨てる憎悪全開のボーカルから読経的なボーカルを見せる。そしてゼナンズ流のポストメタルな美しさも感じる。BPMも再びミドルテンポになり、悲壮感とか超えた、絶望感とか超えた、もう分からないけど、地獄って多分メロディにするとこんな音なんだろうなって感じのアルペジオと容赦無く叩き付けるスラッジリフが織り成す美しさは完全に闇の世界に身を落としたゼナンズだから生み出せた物だし、それは本当に震える美しさだ。最終曲「赤い月」はまたまた一転してメランコリックで美しいアルペジオから始まり、それが今作で一番の美しさで堪らないけど、でも結局混沌に満ちたサウンドに変わる。でも違うのはさっきまで絶望を歌っていた千葉氏が絶望を抱えても生き続けてやるという覚悟を歌っている事だ。さっきまで散々地獄だとか絶望とか言ってたけど、でもその絶望すら抱えたまま生きて叫び続けてやるという覚悟を歌う事はもしかしたらゼナンズなりの一つの救いなのかもしれない。結局何処に行っても地獄なら、その地獄すら生き抜いてやるという声明は最高に格好良すぎる!!
決して万人に受け入れられるバンドでは無いのかもしれないし、聴く人をかなり選ぶ音だと思う。しかし地獄系(こんなカテゴライズあるのか知らないけど)サウンドな他のバンドすら「お前らこんなんで地獄とか笑わせるぜ!!」とばかりにブチ殺し、更なる地獄で上書きするゼナンズ。千葉拓也という人の頭の中にはどんな悪魔が住んでいるのか心配になるし、現世がどんな苦痛に満ちた世界に見えるのかちょっと本気で心配してしまうレベルなんだけど、個人的に千葉拓也という人は屍の板倉氏同様に負の世界に選ばれた表現者である事は間違いないだろう。しかも彼等はライブバンドであり、音源でも凄い事になっている煉獄をライブじゃ更に凄まじい煉獄として放つから訳分からない。軽々しく暗黒だとか地獄だとか鬱だとか言っているバンドに飽き飽きしている人たちも多いのかもしれないけど、そんな人たちには心置きなく今作をお奨めする。確実に本当に地獄を見れるから。
それともう一個、蛇足的な追記というか僕の個人的な妄想でもあるけど、幽遊白書には仙水編で「黒の章」というビデオが出てくる。蔵馬曰く「黒の章には 今まで人間が行ってきた罪の中でも最も極悪で非道のものが、何万時間という量で記憶されています。」っていう内容で、もしかしたら千葉拓也という表現者は黒の章を見てしまった仙水や御手洗と同じ感情を現世を見て感じてしまったのかもしれない。でもそれを音楽と言う表現に昇華し、この苦痛の世界を生き抜くという宣言をしている千葉氏はこれ以上に無い位に最高のアーティストだと僕は思うんだ。