■Ulver
■Wars Of The Roses/Ulver
![]() | War of the Roses (2011/05/03) Ulver 商品詳細を見る |
Ulverはブラックメタルバンドとして始まったバンドであるが、傑作3rd以降はその音楽性を自在に変化させる実験的音楽集団へと変貌を遂げた訳だが、8枚目のアルバムである今作もその実験精神が根付いた作品になっている。Kscopeより発表された事も関係しているのか今作はプログレッシブな要素が全面に出た作品と言える。電子音が行き交う音の中でUlverが昔から核にしている叙情豊かな感覚は健在。不穏の浮遊感と静寂な美しさが絡み合う作品になった。
今作を再生するとまず静謐なピアノの旋律とインダストリアルなビートと浮遊する電子音が耳に入ってくる。第1曲「February MMX」は仄かにエモーショナルな要素も感じさせ、名ボーカリストとして名高いGarmのボーカルがその叙情性を更に加速させていくのだ。徐々に熱量を上げていく様と何重にも交わる音が真っ白な音を冷たい感触で響かせている。しかしそれ以降の楽曲はよりプログレッシブさと実験精神に基づいた楽曲が並び、より深遠な世界へと入り込んでいく。第3曲「Providence」では女性ボーカルをフューチャーし、ストリングスとピアノの音がクラシカルな感触で鳴らされ、賛美歌の様な厳かさを感じさせながら、映画のエンディングの様なドラマ性も感じさせてくれてくれるし、第4曲「September IV」もインダストリアルなビートとは裏腹に胸を熱くさせる感傷の洪水が神秘的に渦巻いている。その世界はやはり北欧バンドらしい厳かさを感じさせる。
第6曲「Island」のアコースティックなトラッドさは矢張りUlverの核である部分を再認識させられたし、15分近くに及ぶ第7曲「Stone Angels」にてその厳かで美しい世界を寓話の様に神話の様に描いている。幾重もの電子音が天上系ドローンの様に反復し、その音が全てを浄化する真っ白な音として聴き手を包み、この世界を浄化するかの様な神々しさすら感じさせてくれている。
僕はUlverは初期の3作しか聴いていないので、脱ブラックメタルしてからのUlverは殆ど知らなかったが、こうして音楽性を変えてもUlverの核である、北欧神話の世界を感じさせる厳かさと世界観はやはり不変であると認識させられた。多彩なアイデアと実感精神が結果的にその世界観を彩る音として存在しているし、何よりもこのバンドはGarmの歌声の存在がその世界観に絶対不可欠である事も再認識した。難解さは若干あるが、それでも寓話の様な世界を描くUlverの音はやはり美しいのである。
■Kveldssanger/Ulver
![]() | KVELDSSANGER(黄昏の詩)(直輸入盤・帯・ライナー付き) (2010/05/22) ULVER(ウルヴァー) 商品詳細を見る |
ノルウェーの森ブラックメタルバンドであるUlverの96年発表の2ndアルバムである今作。まず初めに言っておきたいのが今作はブラックメタル要素は全く無い作品になっている。アコースティックな小品的な楽曲ばかりが揃った、厳かで神秘的なアコースティック楽曲集となっているのだ。
まず今作はブラックメタル界屈指のボーカリストであるGarmのクリーントーンの美しい歌声をどこまでも味わえる作品だと断言出来る。静謐なアコースティックギターの美しく神秘的な旋律とそれを彩るフルートやバイオリン等の楽器、そこに乗るGarmの歌声はより神秘性を高め、聴き手を幻想世界へと導く案内役としての役割を果たしている様にも思えるのだ。Ulverは1stアルバムにてブラックメタル屈指の神秘的で美しい轟音を鳴らしたが、バンドサウンドで制作のされてない今作は、そのUlverの幻想的御伽噺の核を剥き出しにしており、それによってUlverが持つ不穏の美しさがより前面に出ており、それこそがUlverが初期ブラックメタル界で異質であった理由だと僕は思っていたりするのだ。北欧のトラッドさが今作からはかなり感じる事が出来るし、そこがUlverのブラックメタルの根底になっているのだ。
今作は小品的な楽曲集ではあるのだけれども、陰鬱で不穏で美しいUlverの世界は完全な純度の高さで表現された名盤だと言える。異形のブラックメタルの本質を感じる事が出来るし、単純にトラッドなアコースティック作品としても純粋に完成度が高い。やはりUlverは初期ブラックメタルシーンの中でも完全に異質であるし、だからあの当時にUlverの様なバンドがいなかったのかもしれない。幻想と黄昏の短編集に是非酔いしれて欲しい。
■Nattens Madrigal/Ulver
![]() | The Madrigal Of The Night : Eight Hymnes To The Wolf In Man (1997/04/08) Ulver 商品詳細を見る |
ノルウェーの美しきブラックメタルバンドUlverの3rdアルバム。Ulverは1stと3rdでしかブラックメタルを展開していないバンドなのだが、そのたった二枚がブラックメタル史屈指の名盤であるが故にブラックメタル最重要バンドの一つに挙げられるバンドだ。
1stでは昨今のポストブラックに通じる美しく深遠な独自のブラックメタルを展開したが、今作はプリミティブな凶悪さを前面に押し出した最もブラックメタルらしい作品である。しかしどんなに粗暴になってもその果てにあるUlverの美意識は全くブレていない。
まずハイの効き過ぎた粗暴なトレモロリフが耳につく。音質もあまり良くなく、ドラムもクラストコアに通じる抜けの良いビートを刻んでいる。プリミティブブラックらしい作り方がされてはいるが、そこで終わらないのがUlverだ、展開は全く単調ではなくドラマチックであるし、時折入るアコギの音色の静謐さはUlverならではの物だ。何よりローファイな音作りであり、ノイジーなトレモロリフを鳴らしながらも、メロディーの輪郭は非常に分かりやすく、そのメロディーはUlverの神秘性を確かに感じる美しいメロディーなのだ。第3曲「Wolf And Hatred」では特にその深遠さが表れていると言って良いだろう。
1stと違いGarmの美しいボーカルは聴けないが、代わりに狂気値を振り切りまくった激情のガナリ声を聴かせてくれる。Ulverはその楽曲の完成度の高さも評価すべき点であるのは間違い無いが、Garmはブラックメタル屈指のボーカリストであり、その素晴らしい表現力がUlverの神話の様な耽美で美しい世界観を確固たる物にしているのだ。
今作を最後にUlverがブラックメタルを鳴らす事は無くなった。しかしプリミティブな凶悪さと、徹底的した美意識と、練り込まれた緻密さが確かな形で結び付いた今作はブラックメタルを語る上では絶対に外す事の出来ない作品である。1st同様に彼等にしか鳴らせなかった自然世界への畏怖としてのブラックメタルがここに存在する。その寓話の世界は凶悪さと残酷さに満ちているのだ。
■Bergtatt/Ulver
![]() | Bergtatt (2001/08/14) Ulver 商品詳細を見る |
ノルウェーの最重要ブラックメタルバンドの一つであるUlverの95年発表の1stアルバム。MayhemやBurzum等の初期ブラックメタル勢の中では若干知名度が低かったりするが、今作は初期ブラックメタルの中でも屈指の大名盤であり、現在の拡散されていってるシューゲージングブラックメタルのバンドにも通じる圧倒的な美しさと壮大な世界を見せ付ける幻想の御伽噺が5曲収録されており、全曲屈指の完成度を持っていると言っても過言ではない。
ブラックメタルらしいブラストビートや身を切り裂く轟音ギターは勿論健在であるが、その轟音の向こうにある神秘的なメロディの数々、そしてアコースティックなギターの音色もふんだんに取り入れており、展開も単調な物ではなく、大きなストーリー性を持って作られている。アコースティックの情緒的な音色が響いたと思ったらブラストビートが轟音の洪水に乗って暴力的に暴れ回り、そしてまた気付いたら深遠な歌とシンフォニックなメロディが琴線に触れて心を震わせる。
バンドサウンドの中に大々的にフューチャーされている、フルートやピアノの音もどこまでも効果的に世界観を徹底的に作り上げ、轟音の中でそれらの音が混ざり合って、屈指の哀愁と、深い森の中で鳴り響く賛美歌の様な神々しさをもたらしている。そしてGarmのボーカルはその世界を更に狂気と美しさで塗り潰してしまっている、この世界は唯一無二の圧倒的な完成度を誇り、ブラックメタルの一つの到達点に達しってしまっているのではないだろうか。最初から最後まで全く息をつく暇が無い、自然界の野生と理性が同居し、獣の凶暴さと、大樹の様に堂々とした音と、妖精と悪魔が踊り狂う幻想の世界に飲み込まれてしまう。
深遠で美しいメロディと激情と穏やかさが見事に融合したサウンド、徹底して作りこまれている楽曲と、ブラックメタルのシーンの中で堂々と輝いている金字塔だ。初期のブラックメタルのシーンの中では全く単調な音楽ではないから本当に異色の作品だし、どうしても取っ付き辛さがあるブラックメタルの中でもかなり聴き易い部類の音だったりするので、ブラックメタル初心者にも是非聴いて頂きたい。この神話の様な世界は本当に唯一無二であるから。