■Xasthur
■Portal of Sorrow/Xasthur
![]() | PORTAL OF SORROW(ポータル・オブ・ソロウ)(直輸入盤・帯・ライナー付き) (2010/05/15) XASTHUR(ザスター) 商品詳細を見る |
ブラックメタル界で絶大な人気を誇っていた独りブラックメタルユニットであるXasthurだが、2010年にリリースされた今作はMaleficの設立したレーベルの初リリース作品であると同時にXasthurの最終作品となった。今作を最後にXasthurは完全に活動を終了している。そして陰鬱さを極めた自殺系ブラックでありながら、今作はアンビエントカラーを取り入れXasthur史上最も美しい作品でもある。
まず第1曲「Portal of Sorrow」に驚かされた。アシッドフォークの女性シンガーソングライターであるMarissa Nadlerを迎え、フォークを基調にしたサウンドを聴かせている。しかしそこはXasthurだ。その旋律は重々しく禍々しくドロドロ、アンビエントな音が効果的に聴き手の絶望を煽ってくる。際限なく繰り出される美しい音色は終末へと繋がり、言い知れぬ美しさの中で「死んでも良い。」と錯覚してしまいそうになる。そして他の楽曲もここ最近の実験性の強い作風を極め非常に幅広くなっていると同時に確実にブラックメタルからは離れているのが伺える。第3曲「Shrine of Failure」ではまさかのギターソロまで飛び出してしまう始末。しかし徹底した暗黒の音色は健在であるし、そこは全く変わらないのだけれど、Marissaボーカルの曲は陰鬱さの中にゴシックな耽美さや、退廃的な儚さを強く感じさせるし、後ろで鳴る音こそ陰鬱でもシンセの音色はどこか美しく、絶望の先の安らかな死なのか、それとも微かな救いなのか、それは聴き手がそれぞれ勝手に決めれば良い話だけれども、でもゆるやかに死に行く人の安らぎが今作の美しさへと繋がっている気も僕はする。Xasthur最終作として作られたからこそ、そんな気がするのだ。そして楽曲の尺も今までに比べて短くなったのもあってかXasthurはどの作品よりも今作は聴きやすい作品だとも言える。そして一番の変化は旋律がよりメランコリックな物になった事だろう。手法こそ多岐に渡ってはいるけど、どの楽曲にもそのメランコリックさが存在し、聴き手の感情により訴えやすくなった。Marissaボーカルのクラシカルでゴシックな楽曲でも、Malefic独りで作られた楽曲でもそれが存在しているからこそ作品全体で確かな統一感があるし、その音楽性のレンジの広さがあるからこそ作品全体を一つの物語の様に聴く事が出来る。そして寒々しいギターリフはあまり登場せずにキーボード中心に進行する楽曲が多いのも。ブラックメタルの形をまだ残した楽曲でもブラックメタルからは確実に離れている事も分かるし、だからこそXasthurは終わりを迎えたのだと思う。
今作でXasthurの一つの到達点を迎えたと同時に「もうメタルの名が入った音楽はやらない。」というMaleficの言葉通り、ブラックメタルから離れ、別の暗黒を今作で描いたのだと思う。だからこそ今までで一番優しく安らかな眠りの様な作品を作ったのだろうし、その美しさこそが今作の大きな価値だと思う。自殺系ブラックの代表格はこうやって死を迎えてしまったが、その死はどこまでも美しいと思わせてくれる傑作。
■Nocturnal Poisoning/Xasthur
![]() | Nocturnal Poisoning (2008/02/05) Xasthur 商品詳細を見る |
USブラックメタル最右翼である、Malaficによる暗黒自殺系独りブラックメタルであるXasthurの2002年発表の1stアルバムである。自殺系ブラックメタルの言葉通り聴いてると死にたくなってくる人の心の闇を増幅させる暗黒の世界が貫かれていて、例えるならどこまでも無と漆黒の世界をただひたすら成す術も無く見つめているかの様な錯覚に陥ってしまいそうになる作品だ。
全編を通して圧倒的な陰鬱さを持ったスローテンポでズタズタになったリフが延々と繰り返されており、リズムパターンは非常にチープでなおかつ音質もかなり悪い。しかし悪質な録音環境で録音された音はこの終わり無き負と虚無の世界に見事にハマっていてかなり癖になる。明確なメロディと輪郭を完全に殺してしまっている不穏の漆黒のギターと、神聖さを持ちながらも、地獄すら越えてしまった精神の暗黒世界で鳴り響く賛美歌の様なシンセの音が合わさって、より心をジワジワと浸食して、こちら側に連れてかれそうなサウンドを完成させている。そして安易な暗さすら蹴散らしてしまう病んでいてなおかつ美しく悲しいメロディが見え隠れするのが、また一層Malaficの世界を確固たる物にしている。Malaficの精神異常者と自殺する寸前の人間の狂気を感じさせる極悪なボーカルがこのサウンドに乗った瞬間に一気に彼岸へと片足を引き擦り込まれている感覚になってしまいそうになる。特に第7曲「Nocturnal Poisoning」は15分にも渡るこの世の人で無くなってしまった人々に捧げるかの様な鎮魂歌であり、優しくもありながら、非常に悲しく美しい漆黒の虚無がこれでもかと目の前に広がっていく様を表しているように思える。
ただでさえ聴く人を選ぶブラックメタルというジャンルの中でも、更に聴く人を選ぶであろう自殺系ブラックメタルの最右翼、聴くのにかなり体力を使う作品ではあるが、この漆黒の世界の魅力に嵌ってしまったら二度と抜け出せなさそうだ。極まった異常さと狂気はどこまでも美しいと思ってしまいそうになる快作に仕上がっている。