■URBAN PREDATOR
■DAWN/URBAN PREDATOR
![]() | DAWN (2014/10/08) URBAN PREDATOR 商品詳細を見る |
茨城県古河を拠点に活動する(あくまでも拠点で古河在住のメンバーは誰もいないらしいが)グラインドからの突然変異であるベースレス3ピースURBAN PREDATORの初の全国流通作品となる2014年リリースの1stミニアルバム。これまでオムニバスの参加や自主制作でのEPとシングルのリリースはあったけど、今作でURBANは完全に全国に殴り込みをかける事になるだろう。8弦ギタリストである馬立氏はAGGRESSIVE DOGSでギターを弾いていた事もあるという驚きのキャリアがあったりするけど、それは知らなくても問題無い。今作は既存のハードコア・激情系・カオティック・グラインドに見事に喧嘩を売っている作品だし、既存の音に対するカウンターでもあるのだ。
そもそも本来なら既存の音楽に対するアンチテーゼであり、新しく未知な音を奏でるのが本来のエクストリームミュージックであると思うのだけど、エクストリーム系の音も色々と出尽くして来ている感じは正直に言うと少しあると思うし、本来は既存の音に唾を吐く為の音楽である筈なのに、それが形骸化してしまうという矛盾を感じた事がある人は少なくないと思ったりもする。でもURBANは清く正しくエクストリームミュージックを奏でる。ベースレスという編成自体がもう珍しくも無いし、8弦ギターを使っているバンドだって他にもいる。でもURBANはそれが全て必然になっているし、カオティックだとか激情とかグラインドという枠組みに嵌ってくれない。今年最高のアルバムをリリースした金沢のThe Donorはメタルだとかハードコアとかドゥームとか激情を食い尽くしながらも、結局は「音でかくて強くてリフが格好よければ間違いないんじゃ!!」というシンプル極まりないロック的なサウンドに帰結させる事によって、強くて格好良いという意味でのエクストリームミュージックを生み出したけど、URBANはその真逆を行くサウンドだと思う。激ロックでのインタビューを読めば分かるんだけど、メンバーのルーツはバラバラだし、キャリアも違う。その中で摩訶不思議なケミストリーを生み出しながらも、それを既存の方法論から完全に逸脱した物として吐き出し、分かりやすく言えば、ダークで速くて重くて遅くもあって展開が滅茶苦茶というエクストリームミュージックのそれであるのは間違いないけど、URBANはそれを整理せずに、より混沌とした音として吐き出し、得体の知れなさをより増長させ、そして終着地すら爆破しているのだ。
今作のタイトルトラックであり、今作のリードトラックでもある第一曲「DAWN」は正にURBANというバンドがいかにおかしく狂ったバンドかを証明する楽曲になっている。馬立氏の8弦ギター特有の重音、KAN-ICILOW氏のブラストビートを基軸にしながら、変速性を最大限に活かし、速さと遅さのメリハリが明確で、それでいてドラムだけで激音の波を生み出しながら、常に重い打音の濁流であり、実際のBPM以上の体感の速さと重さを生み出すブルドーザーみたいなドラム。その2つの楽器のみで生み出す音の情報量と濃度が凄まじい事になっている。ベースレスでありながら際立つソリッドさもあるし、馬立氏はひたすらリフで攻めるスタイルのギタリストであるけど、重音の刻みの乱打から、時にはダークなメロディを感じさせるリフまで変幻自在に使いこなし、リフの鬼才としての暴君ギターを繰り出しまくる。
この2人だけでもURBANの異質なエクストリームミュージックはほぼ完成してしまっているけど、URBANの精神的ダークさの重要な核になっているのはボーカルのSOUL氏である。ただでさえ既存の音から離れまくっているサウンドに乗せるボーカルは、更に既存の方法論から離れているし、しかし声としてのボーカルだけじゃなく、言葉を放つボーカルとしてSOUL氏の奇才っぷりは絶対に見逃してはいけないだろう。全編日本語歌詞で歌われるのは、独自の言語感覚で放つ病んだ言葉の数々、自分で自分を切り刻む様な自傷行為の様な言葉のナイフを振り回し、ハイトーンのシャウトを基軸にしながら、捲し立てるポエトリーや、囁き声や呻き声まで自在に使い分けるスタイルは奇抜に思えるかもしれないし、実際人によっては好き嫌いは別れそうな部分はあるのかもしれないけど、しかし「DAWN」の歌詞のワンフレーズである「激情というチープな言葉におさまる無機質な表情とピエロの繰り返し」という言葉にも現れているけど、ある意味自虐的でもありながら、反抗の精神を感じさせる言葉。「DAWN」は文字通りURBANの反抗の犯行の声明であり、正に夜明けと言える曲に仕上がっているのだ。
第2曲からは本当に怒涛の一言。第2曲「a morbid fear of death」はカオティックなギターフレーズが楽曲を引率し、悪魔の行進の様なリフとブラストビートの嵐、一瞬だけクリーントーンのギターが入ってからの怒涛のリフとブラストと叫びの三位一体のトライアングルアタックは怒涛の英語でお馴染みのみすず学苑が余裕で白旗を上げる怒涛っぷり。SNSについて歌った第3曲「eisoptrophobia」は変則的なキメをガンガンブチ込みながら、重轟音の濃密濃厚な音の洪水が凄まじいし、叫びとポエトリーをせわしなく繰り出すSOUL氏のボーカルがキレまくってて最高だ。第4曲「Oil」はマーチングっぽいビートのキメを多用し、速さの中に、断続的なビートダウンを盛り込む事によって、ズタズタになった音の残骸を瓦礫の山の様に築き、歌詞の内容から勝手に解釈すると路頭に迷っている女性ストリートミュージシャンの悲哀とズタズタの精神が見事にサウンドとハマりまくっているし、「会いたくて 会いたくて わかったよ君も震えてるの?」なんて歌詞のフレーズに驚かされる第5曲「Your face is dirty」の今作で一番グラインドしながら、既存のグラインドを噛み殺すヘイトに溢れたサウンドとボーカルはURBANのダークで陰鬱な感情を表現するエクストリームミュージックを決定づけている。
これまでに発表した楽曲に比べると、今作に収録されている曲は極端に短い曲は減って、割と普遍的な尺の曲ばかりだけど、これまでの作品以上に一瞬で終わってしまう様な嵐の様なサウンドは更に研ぎ澄まされているし、情報量がとんでもなく、それを整理していないからこその混沌がそれの大きな要因になっているのは間違いないだろう。終盤の第6曲「机」、第7曲「Everything's Gonna Be Alright」でもダークなメロディが溢れながら安易なドラマティックさには行かずに、あくまでも無慈悲なサウンドのまま収拾つかない状態で全てを貫通していく音がとんでもないカタルシスを生み出しているし、そして最終曲「Intro」はまさかの最後の最後のインストのイントロの小品というひねくれ具合。アコギの調べからマーチング調のドラムとギターリフの応酬で、今作で渦巻く漆黒の混沌がまだまだ続くという事を宣言している様な終わり方だし、それがなんともURBANらしいじゃないか。
しかし今作は2014年の国内エクストリームミュージックに一石を投じる作品でもあるし、茨城の古河という一つの地方都市からとんでもないバンドが登場したという事件でもあり、ここ最近ローカルでも大きな盛り上がりを見せるシーンの中で、ローカルでもここまでの作品が作れるバンドが登場したという大きな軌跡でもあるだろう。長々と書いたけど、今作を聴けば、きっと初めてエクストリームミュージックに触れた時の興奮が間違いなく蘇るだろうし、やっている事自体は既存の音から離れまくっているけど、もっと原始的な部分での「ブラストビートってヤバい!!」とか「ヘビィなギターリフって最高だ!!」とか、「日本語で捲し立てるボーカルってなんて素晴らしいんだ!!」っていうもっとシンプルな部分での音楽の格好良さもガッツリあるし、こういった音にまだ触れていない人にも是非とも聴いて欲しいし、勿論、激情・カオティック・グラインド・ヘビィネス好きは絶対にマストな作品だ。何よりもURBAN PREDATORというバンドは今作を切欠に一気に全国で知名度を上げて大きなバンドになると確信している。