■Su19b
■Neutralize/Su19b

神奈川発世紀末行きブラッケンドパワーヴァイオレンスことSu19bの約3年振りのリリースとなる2ndアルバム。
今作はデスメタル/グラインドコアの国内名門レーベルことOBLITERATION RECORDSからのリリース。
Su19bは2017年に結成20周年を迎え、今作はそのタイミングでリリースされた記念碑的な作品でもあるが、前作1stから更に極限化された世紀末を描く一枚に仕上がっている。
Su19bが提示するブラッケンドはジャンルとしてのブラッケンドとは全く違う位置にあると僕は思う。
ブラックメタルに接近する事によるブラッケンドではなく、エクストリームミュージックの悪意の原液をごちゃ混ぜにして世紀末というフィルターでろ過した結果としてのブラッケンドだ。
ツインギターは激重なだけでなく、ひたすら黒いノイズをぶちまけ、グラインドとドゥームを行き来する極端な速遅の落差の暴力性。それらが必然的に存在する。
パワーヴァイオレンスという観点から見ても現行の時流になっているパワーヴァイオレンスとは全く違う場所に存在しており、デスドゥームなどの影響も強い。
更に今作ではDビートとブラストビートの使い分けも巧みで、激走パートの破壊力はこれまで以上だ。ドゥームパートの荒廃的な世界観がパワーアップしている点も見逃せない。
ロウな音質の中でシャープに突き刺すビートがフックを生み、弦楽器隊がドロドロに混ざり合って漆黒の塊となり、そこにリヴァーブが強くかかったボーカルが悪夢の先を描く。
単に極限で暴力的なサウンドで終わらず、Su19bが1stで提示した世紀末の無は死滅型芸術と呼んで良いだろう。
今作ではBATHORYのカヴァーも収録されているが、そちらも原曲を完全に破壊した一面の黒景色となっているので必聴。
漫画家・望月峯太郎の名作に「ドラゴンヘッド」という作品がある。
90年代に連載され、世紀末の混沌と不穏の時代に、未曾有の大災害により破滅した世界を描いた作品であるが、徹底的に書き込まれた崩壊の情景、殆どのページが黒で埋め尽くされ、リアルタイムで読んでいた少年時代に恐怖と絶望を覚えた。
Su19b側が「ドラゴンヘッド」を意識しているかどうかは知らないが、彼等の音はまるで「ドラゴンヘッド」の終わりなき黒の世界とリンクすると個人的に思う。
世紀末を終えて20年近くが経過しようとしている現在だが、Su19bの描く破滅の世界は時に美しさすら感じさせる危険極まりない物だ。
■The World Doomed to Violence/Su19b

禍々しい上記のアートワークのインパクトも凄まじいが、ここまでドス黒さしか無い音があっただろうか?97年に結成され、これまでに多数の7インチやスプリットをリリースして来たSu19bだが、意外過ぎる事に今作がバンドにとって初のフルアルバムとなる。しかしこれまでのSu19bそのものでありながら、それを最高の形で裏切ってくれたのが今作だ。元からパワーヴァイオレンス勢の中でも異質の音を放っていた彼等だが、これまでの作品以上にドス黒くなっている。
しかしフルアルバムという事もあってか、今作での世界観は見事に統率されている。勿論これまで同様に心拍数が停止してしまいそうな激遅圧殺スラッジから破滅に向かって爆走する激速ファストパートの両極端な極限を極めた音は健在だし、バンドとしてやっている事自体はこれまでと実は変わらないとも思ったりする。しかし音のローファイさを前面に押し出したマスタリングだったりとか、リヴァーブかかりまくった暗黒グロウルを放つボーカル。現在進行形のパワーヴァイオレンスと比較しても全然質感が違うし、人によってはブラックメタル的な感触を覚えると思う。タイトル曲である第1曲「World IsDoomed To Violence」ではのっけからフューネラルドゥームだって言われても全く違和感の感じない音になっているし、一発一発が重過ぎるリフとビートは単に重いだけじゃなくて、精神的苦痛を体現したみたいな音になっている。しかし終盤で徐々にBPMが速くなりそしてお家芸のスラッジからグラインドへの極限ワープが炸裂し土石流が流れ込む大惨事な音になり、最後の最後に止めのスラッジリフをお見舞いと7分間で地獄すら生温いとばかりの世界観の音を炸裂させながら、同時にバンドのこれまで培った凶暴な音を炸裂させてしまう。この第1曲が終わってから最後まで今作は本当にあっという間だ。窒息スラッジからブラッケンドなファストパートまで一瞬な第2曲「Blind」はSu19bのお家芸をここぞとばかりに披露しながらも、これまでの音と比べてもロウで深い所を抉りまくっているし、冒頭からグラインドしまくり、同時にデスメタル的ブルータルさが全開な第3曲「Anbition / Invasion」。プリミティブブラックメタルとグラインドとスラッジともう訳が分からない位に配合が繰り返された末に悪鬼を生み出してしまいましたな第4曲「Trainer Of Ruin」。兎に角今作の情報量の多さとジャンルの行き来し具合は完全に狂っているとしか思えないし、時折見せるフューネラルな感触な音がまた作品が持つ暴力性を際立たせながらも、確かな芸術性を感じさせてくれる。ありとあらゆるエクストリームミュージックを飲み込みまくっているし、フューネラルだと思ったら最後の最後はやっぱり激速グラインドな第6曲「Mental Suppression」、全盛期Deathspell Omegaの様な凶暴さと世界観が完全に融合した美しく鬱苦しい精神破壊装置であある最終曲「Dark-Eyed Virgins」は今作でも一番の出来の名曲だろう。
バンドの持つ最深部を抉りに来るサウンドは見事だし、暴力性だけでも限界突破しているんだけど、それに加えてあくまでもこれまでのSu19bのままでこれまでよりも精神を蝕むおぞましさが蠢きまくっている。内側と外側から人間を破壊してしまう音だし、常人が密室でこれ聴いたら多分第1曲の時点で発狂してしまうんじゃないかって位に極端過ぎる。ブラッケンド方面にも手を伸ばした事で黒さもより増幅し、完全に地獄になっているが、自らの持ち味をより黒く進化させたからこそ、既存のブラッケンドとは全然違う音になっているし、フューネラルからスラッジからデスメタルからグラインドまでとエクストリームミュージックを縦断した末の音は極限という言葉しか見当たらない。もうジャンル云々ぶっちゃけどうでも良いし、全てのエクストリームミュージックフリーク絶対入手不可避な一枚。