■Godspeed You! Black Emperor
■Allelujah! Don't Bend! Ascend!/Godspeed You! Black Emperor
![]() | Allelujah! Don't Bend! Ascend! (2012/10/16) Godspeed You! Black Emperor 商品詳細を見る |
去年の来日公演も記憶に新しいし、轟音系ポストロックの完全孤高のオリジネイターであり最高峰とも言える存在であるGY!BEの再始動は本当に多くの人が待ち望んでいたと思うし、だからこそ再始動以降の新しい音を待ち望んでいた人も本当に多いと思う。そして2012年、突如としてリリースされた実に10年振りの最新作はGY!BEがやはり完全にオリジナルな存在である事を証明し、そして誰も真似出来ない高みへと更に登り詰めてしまっていたのだ!!もう言うまでも無いのかもしれないけど今作は2012年の最重要作品であると同時に、2012年屈指の大名盤である。
作品の構成としては約20分にも及ぶ壮大な轟音オーケストラが2曲と6分半のドローン曲が2曲という全く親切じゃない作品の構成が既にGY!BEらしいけど、約53分に及ぶ壮大な轟音絵巻は完全に別次元の物であると同時に、再生と破壊を同時に繰り返し、混沌を生み出し、それをどこまでもシリアスで美しい轟音として奏でる一大オーケストラとして君臨している。まずのっけから20分にも及ぶ第1曲「Mladic」が彼等の新たな進化を感じさせるだけではなく、GY!BE屈指の名曲であると断言出来る素晴らしい物になっている。序盤から不穏なストリングスの音が響き渡り、重苦しくシリアスな空気を作り出し安易な癒しだとかそういった要素を完全に排除し、世界で最も過激なバンドである彼等が全く日和ってなんかいない事を嫌でも知る事になる。そしてヘビィなギターのドローンなフレーズが入り込み、空間を埋め尽くしながら、同時にインプロ的なギターも入りこれから始まる新たなる破滅と創造の世界のプロローグが不気味に響き渡り、そこからオリエンタルなフレーズが入り込み楽曲の空気を変え、ヘビィなギターリフが轟音として迫り、熱量を高めながら歪みまくったギターも入り込み、中東辺りの音楽を思わせるフレーズを今までに無いレベルで明確になった輪郭で叩きつけてくる。ドラムもマーチングを基調としながらも変則的に躍動感を与えているが、今作ではこれまでに無いレベルでの疾走感も加わっているし、今までのGY!BEに比べたらかなり楽曲の輪郭ははっきりしているし、より分かりやすい形で自らの音をアウトプットする事に成功している。しかしこれは彼等がロックに接近したのとは全然違うと思うし、これまで抽象的な音が多かった彼等がより明確な音を打ち鳴らした事によってアンサンブルに更なる肉体性が加わっているし、相変わらずメロディアスではあるけれども、だからこそ彼等の不穏さがよりくっきりとしているし、どこまでも残酷な映像を観ているかの様な錯覚にすら陥る。そんな混沌という言葉が相応しい中盤を経て、「Mladic」は後半ではよりオーケストラティックな音へと変貌し、幾重のギターが轟音を奏で、まるで悲劇が全て過ぎ去った先の祝福すら感じさせる天の福音とも呼ぶべき音色が奏でられるが、それも次第に輪郭が崩壊し、混沌へと雪崩れ込み崩壊する。そして最後に残されるのは雑踏と狂騒だけだ。6分半の不気味なドローンである第2曲「Their Helicopters Sing」を挟んで、第3曲「We Drift Like Worried Fire」は今作のもう一つの核とも言える、こちらも20分に及ぶ大曲。こちらはこれまでのGY!BEを総括するような名曲であり、アンビエントな不気味なパートから始まり、新たなる残酷な物語の幕開けを見せるが、そこから悲壮感漂うアルペジオが入り、不気味なベースラインと同調し、シリアスで息苦しくなる空気を生み出しているが、徐々に他の楽器の音も入ってくるとその空気は少しずつ変貌し、そして轟音ギターが顔を見せた瞬間に悲壮感に満ちた空気が少しずつポジティブな風景へと切り替わり、それを加速させるドラムの力強さとあらゆる楽器の美しき音色が灰色の風景に色彩を与え、ノイジーさを見せた瞬間に残酷な悲劇は終わりを迎えると同時に新たな誕生の物語が幕を開く。轟音ギターのフィードバックの嵐から、ストリングスの音色がその終わりと始まりを繋ぐ橋渡しをし、静謐さの中で見せる切迫感を見せつつ、再び楽器隊の音が入り込むと、その切迫感は加速し、単なるメロウな旋律に頼るだけじゃない、GY!BEならではのシリアスな強迫観念から来る不気味さと美しさが入り混じった風景と音色が音圧を上げて、物語のクライマックスへと導き、そして全ての音色が暴発した瞬間に全ての悲しみを洗い流す至福の轟音となり、どこまでもクリアで天へと羽ばたいて行く、幾多の音色が全ての命を救済するかの様な至上の世界へと導くエンディングへと雪崩れ込み、一大轟音劇場は終わりを迎える。そして最終曲「Strung Like Lights At Thee Printemps Erable」の静謐なドローンの余韻が今作のエピローグとして静かに響き幕を閉じる。
これは単なる轟音系ポストロックのオリジネイターの再結成作なんかでは絶対に終わらない作品だ。10年の歳月を経て作られた今作でGY!BEは見事に新境地を見せ付けただけでなく、世界で最も過激なバンドの一つであり、どこまでもシリアスな音を鳴らす彼等が更に極まっている事の証明だ。今作でも相変わらずジャケットやアートワークでの強烈なメッセージ性は健在だし、インストバンドでありながらどこまでもポリティカルであり続け、そのアートワークと轟音にシリアスなメッセージを込め、言葉や歌を用いらず、音のみで聴き手にメッセージを伝える屈指の表現力が大所帯で鳴らされる一大轟音オーケストラとして君臨しているのだ。今までの作品で一番分かりやすい形を見せてはいるけれども、だからこそ彼等のシリアスな轟音がよりダイレクトに伝わってくるし、より不気味でおざましくなりながらも、そのダークさとヘビィさから新たな希望を生み出す彼等は本当に無敵の存在だと僕は思っている。本当に数多くのバンドに影響を与えまくったGY!BEではあるが、何故誰もGY!BEに追いつけなかったかは今作を聴けば嫌でも理解できると思う。世界を変貌させる破滅と創造が織り成す混沌の一大巨編、世界を震撼させた轟音オーケストラがここにある!!
■Slow Riot For New Zero Kanada/Godspeed You! Black Emperor
![]() | Slow Riot for New Zero Kanada (1999/03/30) Godspeed You Black Emperor 商品詳細を見る |
最早ポストロック云々の枠や議論すら粉砕するかの様な神々しい音を鳴らすカナダの轟音オーケストラ集団GY!BEの99年発表の2曲入りのEP。収録曲こそ僅か2曲であるがそこはGY!BE、たった2曲で30分近くにも及ぶ壮大な楽曲を展開している。そしてEP作品でありながら今作に収録されている2曲はとんでもない名曲であり、GY!BEが他のバンドには到底追いつけないとんでもない次元の音を鳴らしている事を証明している。
まず第1曲「Moya」はGY!BEの中ではかなり短い曲ではあるが(それでも約10分)、序盤のストリングスの音色の美しさと畏怖の年すら感じさせるおぞましさが同居した感覚がいきなり聴き手を別の次元へと誘ってゆく。少しずつ入ってくるギターの音色は緊張感に満ちていて、物語の語り部的な役割を果たし、そこからマーチングの様なタイトさと力強さを持つドラムが入った瞬間に熱量は高まってゆき、気が付いた瞬間には全ての音が悲痛な叫びを上げるかの様な緻密でありながらもとんでもない爆発力を持つ轟音にその姿を変え、一気に暴発していく、悲しみと怒りに満ちたシリアスな音はGY!BEだからこそ鳴らせる物であり、このバンドは言葉なんか無くても、その音で全てを伝えることが出来る事を改めて証明していると言える。そして第2曲「Blaise Bailey Finnegan III」がGY!BE屈指の名曲と言っても過言では無い位に凄まじい高みまで上り詰めているのだ。冒頭の語りのパートから異様な緊張感が続き、そこから静謐なアンサンブルで吹雪が吹き荒れる真冬の町並みの様な風景を想起させ、郷愁に満ちた轟音が吹き荒れてゆく。しかしこの曲はとんでもなくドラマティックな楽曲であり、モノクロの風景を想起させる様な色合いを感じさせてくれる楽曲ではあるが、その淡く悲しい色彩の中で描かれる風景はとんでもない数だし、そのアンサンブルは決して揺らぐことの無い美しさと強さを持っている。何より終盤のアンサンブルは本当に涙が止まらなくなりそうだ。力強く鳴らされるドラム、全てを無に還す様な純白のギターの轟音、ストリングスの音は天からの祝福の様でもあるし、人間に対する自然界の怒りでもあるかの様な、黒と白が混ざり合うその様はジャケットにヘブライ語で描かれている「カオス」その物であるが、ここにあるのはそんな陳腐な単語じゃとてもじゃないけど言い尽くせない人類なんかじゃ抗えない様な見えないけれど圧倒的な力だ!!
今作はGY!BEにしては短めの尺の曲2曲で構成されているので、GY!BEに取っ付き難さを感じている人はまず今作から入ることをお勧めしたい。しかしそれだからこそ濃縮されたGY!BEのサウンドスケープはとんでもなく濃密だし、そのドラマティックでシリアスでエモーショナルな世界は絶対に揺らぐことが無いのだ。本当にこのバンドが描く世界は人間が作り出しているとは思えない位に美しいし、どこまでも僕の心に突き刺さる。本当に恐ろしいバンドだ。
■Yanqui U.X.O./Godspeed You! Black Emperor
![]() | Yanqui Uxo (2002/11/19) Godspeed You Black Emperor 商品詳細を見る |
先日のI'LL BE YOUR MIRRORでも圧倒的としか言えない壮絶なアクトを見せ付けたGodspeed You! Black Emperor(以下GY!BE)の02年発表の3rdアルバム。そしてプロデューサーはスティーブ・アルビニと、この組み合わせによって作られた今作はとんでもないミラクルを起こしてしまった。実質全3曲でありながら70分超えの収録時間と何処までも圧倒的なスケールを持つ楽曲はどこまでもシリアスな緊張感を以って鳴らされている。大所帯バンドならではの重厚なアンサンブル。インストゥルメンタルだからこそ各楽器の音は聴き手に緊張感を与える。
長尺でありながらも退屈なループは全く無く、一つの物語として音が起承転結をしっかり刻み込んでいく。静謐なパートでは管楽器のアンサンブルがオーガニックな感触と共に物語の語り部的な役目を果たし、燃え上がる様な壮絶な轟音パートになると、幾つものギターの轟音が怒りと悲しみを表現し、逃避する隙など微塵も与えないシリアスさで鳴らされている。シンプルでありながらもタイトなドラムは圧倒的なヘビィさを孕んでおり、楽曲に大きな緊張感を与える。オーケストラの様な緻密さを、ポストロックの軸で鳴らすだけではこんな音にならない、それ以上に大きな精神性がGY!BEに於いて大きな要因になっているのではないか。ポリティカルなメッセージを歌に頼らずどこまでも壮大なアンサンブルだけで勝負し、聴き手の想像力を喚起させていく。そこにあるのは美しい轟音バーストだけでなく、シリアスな悲しみと怒り、自然的な風景、聴き手によって様々な物を感じるのではないだろうか。特に組曲になっている第4曲と第5曲の「Motherfucker=Redeemer」は30分に及ぶとんでもない大作であり、とてつもない数の色彩が目まぐるしく点滅しているかの様なプリズムの世界が目の前に浮かんでくる作品だ。それぞれの楽器がそれぞれの色と音を奏でていて、それが一つになった瞬間にとんでもない轟音と共にこの穢れきった世界を浄化していくかの様な感覚さえ覚えてしまいそうになる。静謐でシリアスな中盤から熱量を上げてゆき、最後にビッグバンが起きたかの様な大爆発を想像させる終盤の轟音バーストは正に宇宙レベルの終わりと始まりを同時上映してしまっているかの様だ!
mogwaiと共にポストロックのオリジネイターとして圧倒的な存在感を放っているGY!BEだが、時間だとか風景だとか、そういった四次元的感覚と、聴覚だとか視覚だとかいった五感をここまで刺激するバンドはいない。インストゥルメンタルとして出来る限りの事をやり尽くした果てにあったのは、ミクロとマクロの両方を支配する陳腐な感情や感覚を無効にする音の塊だった。インストゥルメンタルの究極体といっても過言では無い大名盤!!