■Silencer
■Death - Pierce Me/Silencer
![]() | DEATH - PIERCE ME(直輸入盤・帯・ライナー付き) (2009/08/22) SILENCER(サイレンサー) 商品詳細を見る |
SHININGのギタリストも参加したスウェーデン産の自殺系ブラックメタルバンドであるSilencerが唯一残した音源。ブラックメタルの中でも更に人を選ぶジャンルである自殺系ブラックであるが、その自殺系ブラックの中でも更にイカレてパラノった感情が存在している。
例えばジャンルは違うがWorshipは終わり無き悲しみや苦痛を美しさを以て遺書の様に鳴らしたバンドであるが、このSilencerには儀式めいた厳格さや美しさは無い。剥き出しの苦痛をただ本能のままに撒き散らしているのだ。
音楽的には吹雪の様なギターリフと重厚な音圧を持つドラムがブラストビートで爆走しながらも、静謐なギターフレーズやアンビエントなピアノの音なども入っており、粗暴でありながらも深遠な美しさを持っている。音楽的な部分だけ見ればブラックの中では聴きやすい部類に入るし、音質もかなり良い方なのである程度ブラックメタルに耐性があればすんなり聴ける位だ。
しかしそんな緻密さと粗暴さを以て完成された音に乗るのは全てが破綻した本物の精神疾患患者によるボーカルだ。
金切り声で喚き散らし、自分の中の精神的苦痛に耐え切れ無くなった末に泣き叫ぶかの様な声。更には咳き込む音や唾を吐く様な音まで入っていて人によってはギャグにすら聞こえてしまうのではないかって勢いだ。しかしアンビエントな美しさと爆走する狂気を体現した音に乗る事によって、洒落にならないごく個人的苦痛が猛毒になって密室的空間に充満し、計り知れない恐怖として聴き手に取り憑いてくるのだ。最早ボーカルじゃなく、閉鎖病棟の発狂した患者の音声に音を付けたといっても過言では無い。
今作は自殺系ブラックメタルを代表するアルバムとしてマニアの中でもかなり高い人気を持っている。同じ自殺系ブラックでもXasthurはその悲しみと苦痛を半ば宗教的かつ儀式的に鳴らしたが、Silencerにはその様な要素は無い。ただ苦しみ喚き呻き吐き出しのた打ち回るのだ。あまりにも無様だし、とてもじゃないが美しさなど無い。だからこそ痛みと悲しみが聴き手に嫌と言う程伝わってくるし、まとわりついてくる。自殺系ブラックメタルの金字塔であるのは間違い無いが、安易な気持ちで聴くのはお勧めしない。だってこの音に触れる事は全てが破綻した嘔吐物まみれの狂人のいる密室に足を踏み入れるのと同じであるから。