■MayBeSheWill
■I Was Here For A Moment, Then I Was Gone/MayBeSheWill
![]() | I Was Here For a Moment, Then I Was Gone (2011/06/06) Maybeshewill 商品詳細を見る |
轟音の向こう側から美しい叙情感と旋律を鳴らし、胸を締め付ける音を奏でているMBSWの11年発表の作品。65daysofstatic、mogwaiの系譜から登場し、それらのバンドと比較される事が多かった彼らだけど、その青臭く美しい旋律を武器にここまで来たこいつらはその自らの最大の武器を今作で更に磨きをかけてきたのだ。音楽的なアプローチこそ1stから一貫して変わってはいないけれども、その楽曲と旋律が持つ力を着実に進化させ、それをより美しい感情の洪水とメランコリーな旋律が咲き乱れる音の世界へと導いていくのだ。
ギターのメロウな轟音とストリングスの調べとピアノの流暢でいて優しい音が三位一体になって感情の核をこれでもかと刺激しにきている音はやはりMBSWの持ち味。バンドサウンドなアンサンブルは今までに比べ轟音の成分よりも旋律と音の響きに重きをおいた印象だけれども、それがよりMBSWが自らにしか出せない音へと接近したからだ。デジタルの感触は残ってはいるけど、よりバンドとしての音の力はダイレクトに伝わる様にはなっているし、それはバンドがよりドラマティックな感情の海を描ける様になったからこその変化と進化だ。それは楽曲レベルだけでなく作品全体で大きなドラマ性とキラキラとした音が自由に飛び交い、より一層MBSWの胸をキュッとさせる青い轟音と旋律が確固たる物として存在しているのだ。特に終盤の2曲は本当に作品のクライマックスを締めくくるに相応しい出来。性急なビートと轟音の旋律とピアノの音がその感情を剥き出しにして咲き乱れ、その疾走する激情をより鮮明かつダイレクトに伝えてくるのだ。持ち前のヘビィネスも解禁し、重厚なアンサンブルによる超感情的轟音胸キュンサウンドは涙と感傷をこれでもかと叩き付けてくるのだ。
65dosと比較される事が多かったMBSWだがその流れから完全に自らのセンチメンタル具合を高めた事によってその先を鳴らすバンドへと完全に進化したと今作で実感した。音楽性こそ一貫はしているけど、自らの楽曲の力を純度の高いまま鍛えた事によって確かな実力と個性を確かな物にした。このセンチメンタルな激情は真似出来る様で出来ないMBSWの物だ。更なる成長にも期待出来る作品。胸を焦がされる事は必至の感情の洪水がここにはある。
■Not For Want Of Trying/MayBeSheWill
![]() | ノット・フォー・ウォント・オブ・トライング (2008/05/03) メイビーシーウィル(maybeshewill) 商品詳細を見る |
00年代に入り様々な音楽がボーダーレスに結び付き始めたが、イギリスの4人組轟音系ポストロック集団MayBeSheWill(以下MBSW)もその流れから登場したバンドである。今作はそんなMBSWの1stアルバムだ。轟音とブレイクビーツの融合は65daysofstaticの流れから来ている様に感じるし、その音楽性をAphex TwinミーツMogwaiとか言われたりするが、彼等は先人の影響を感じさせながらも決して単なるフォロワーでは終わらない。
例えばISISやJesuはヘビィロック側からラップトップやポストロックへとアプローチをしたが、MBSWはポストロック側からヘビィロックへとアプローチを仕掛けたバンドの様に見える。第2曲「Seraphim&Cherubim」ではブレイクビーツとシンセライザーの織り成す轟音から自然な形でヘビィな刻みのリフに移行する展開を見せているし、その雑多な要素をあくまでも自然な形で結び付けているのだ。
それにMBSWは性急で胸を締め付ける様な甘い旋律を楽曲の中で見せてくれている。そのメロディセンスもMBSWがただのフォロワーで終わらない要因の一つであると思うし、インストゥメンタルだからこそ鳴らせる情景豊かな音からセンチメンタルな感情を受け取る事が出来る。
第9曲「Not For Want Of Trying」はそんなMBSWの魅力が一番色濃く残る名曲だ。ヘビィな轟音はシリアスさと性急さを加速させ、一つのメッセージとして楽曲が呼吸している。MBSWの音は情景豊かであると同時に血の通った人間の躍動や感情をブレ無く発信しているのだ。
今作ではまだまだ未整合な部分などは確かにあるが、胸を締め付けるセンチメンタルな旋律が生み出す感情的で感動的な音はヘビィネスとブレイクビーツ・ドラムンベースなビートとシンクロし、MBSWを65dosの二番煎じでは無い、その先にあるシリアスな感情を鳴らすバンドに押し上げていると僕は思う。その美しく青臭い旋律は多くの人を虜にするに違い無いし、日本国内でももっと多くの人に聴いて欲しいと思う。
MBSWの音は21世紀に拡散したボーダーレスな轟音ポストロックであるが、軸にあるのは人の心に突き刺さる美しくも激情的旋律だ。その旋律はMBSWにしか鳴らせない音だと僕は思う。